保険会社がパンデミックや感染症について予め想定していたのかどうか、上場保険グループの「事業等のリスク」を2018年度の有価証券報告書で確認してみました。
生損保で傾向にちがい
興味深いことに、生保を中心としたグループと損保を中心としたグループで傾向が異なっていました。
生保を中心としたグループでは、主に大規模災害に関するリスクとして、感染症の流行に伴う多額の保険金等の支払い発生をリスクとしてとらえています
(第一生命HDでは資産の流動性リスクについても触れています)。
生保にかぎらず、有価証券報告書の記載がグループのリスク管理とどこまで整合的なのかという疑問はありますが、日経新聞のインタビュー記事によると、第一生命では「感染症のストレステストとして、新型インフルエンザで入院患者200万人、死亡者数64万人の想定で、保険金の支払いに問題がないかをシミュレーションしている」そうです。
他方、損保を中心としたグループでは、主に事業中断に関するリスクとして、パンデミック発生時の事業中断をリスクとして取り上げています。
ただし、東京海上HDでは特定した11の重要なリスクの1つにパンデミックがあり、経済的損失額や発生頻度といった要素だけではなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加えて総合的に評価を行っているとのことです(MS&AD HDでは「新型(強毒性)インフルエンザ大流行」が2019年度のグループ重要リスクの1つとなっています)。
このシナリオを想定していたか
新型コロナウィルス流行が保険会社経営に与える影響は、パンデミック発生時のストレスシナリオとして各社が考えていたものよりも、はるかに複合的であり、かつ、継続的と言えるのではないでしょうか。
多額の事業中断リスク等を補償として引き受けていれば別ですが、生損保ともに保険金等の支払いで苦しむような事態はおそらくなさそうです(ただし、金融市場変動の影響により損失を被るおそれは多々あります)。
もっとも、ここまではいわば想定どおりですが、新型コロナの流行は世界的に広がっていて、事業を各地に分散していても逃げ場がありません。しかも、流行が収まるまで一定の時間がかかり、その間は役職員や保険代理店の行動が制約されるうえ、そもそも社会全体で行動が抑えられてしまいました。
今になって思えば、そこまで想定したストレスシナリオが必要だったということになりますね。リスク管理は奥が深いです。
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(許可を得て入構しています)