スイス中銀が為替介入発表

 

スイスの中央銀行(スイス国立銀行、左の写真)は6日、
「過大評価」されているスイスフランを安くするため、
対ユーロで1.2フランの下限を設け、これ以上の相場上昇を
抑えるために無制限に介入すると発表しました。

フィリップ・ヒルデブランド総裁は声明文のなかで、
「通貨の過大評価は景気後退とデフレを招く」
「高いコストを覚悟しなければならないが、何もしないと
経済に長期にわたり悪影響を及ぼす」
とコメントしています。

「無制限に介入する」とはものすごい決意表明です。

スイスフランの売り介入なので、中央銀行がお金を刷れば
確かに無制限に介入できます。

「高いコストを覚悟」とあるので、おそらく不胎化しない
(=資金を吸収しない)のでしょう。
将来のインフレ懸念よりも、足元の経済への影響を
見過ごせなくなったということなのかもしれません。

それにしても、連日のように大きなニュースがあるので、
欧米の動向から目が離せません。

 

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生保銀行窓販の展開と課題

 

生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」に
「生保銀行窓販の展開と課題」という論文が掲載されています
(第79巻第5号 平成23年9月)。
筆者は第一生命経済研究所の村上隆晃さんです。

銀行を通じた生保販売は今や約30兆円(累計販売額)に達し、
銀行の個人部門収益を下支えする存在になっています。
これだけ大きくなった銀行窓販市場の全体像を知るうえで
本論文は貴重な存在です。

まず目を引くのが、商品ごとの販売動向のグラフです。
このグラフを作るのは、大変だったのではないかと思います。
銀行窓販の公表データは意外に少ないのです。

グラフを見れば、一時払商品では変額年金・外貨建定額年金から
終身・養老保険や円建定額年金にシフトしていること、
平準払い商品では医療、終身、こども保険が中心であることが
一目でわかります。

もっとも、平準払いといっても、実際には全期前納が多く、
銀行窓販の主力は依然として一時払の貯蓄商品のようです。

「業態別・一時払商品の販売動向」も興味深いです。
都銀と信託が全体の半分以上というイメージでしたが、
足元では地銀だけで全体の5割を占めています。

さらに、商品と経済変数の関係についての分析もあります。

例えば変額年金では、

・日経平均株価が1円上昇すると、販売額が1.3億円増加する
・2009年度下期以降は株価以外の供給要因がマイナス影響

という考察が行われています。

あいにく「生命保険経営」の本文は、発表して2年たたないと
閲覧できないようです。

ただ、今回だけでなく、興味深い論文が時々載っていますので、
個人会員になるのも一案かもしれませんね(私は個人会員です)。

※写真は「のだめカンタービレ」のロケ地です。
 わかる人にしかわからないネタですみません。

 

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リスク許容度と保険の調査

 

スイス再保険の調査によると、日本の20代~40代は
アジア太平洋地域で最もリスク許容度が高いという
結果だったそうです。
スイス再保険のHPへ

2011年4、5月に11カ国でアンケート調査を行い、
「健康」「金融」「キャリア」「ライフスタイル」
それぞれに対するリスク態度を集約し、総合評価を行ったところ、
日本が総合で1位となりました(2位は香港、3位はオーストラリア)。

どうして日本のリスク許容度が最も高いのか不思議ですよね。
いつから日本人はリスクを好んでとるようになったのかと。

調査結果をよく見ると、ここで言う「リスク許容度が高い」とは、
一般にリスク管理の分野で使われるような
能動的にリスクテイクするといったものではありませんでした。

「リスクを過小評価したり、見て見ぬふりをしている状態」
あるいは「無意識のうちにリスクを抱えてしまっている状態」
のことを示していました。

例えば、日本の回答者の55%が将来の経済状態について
不安を感じながら、明確な生活設計を立てているのは
わずか16%だったそうです。

また、日本人は寿命を過小評価しがちであり、
退職後の生活設計が不十分となるリスクが大きい
という調査結果も出ています。

今回の調査は2009年に続き2回目だそうです。
ちなみに前回の調査では、

・「楽しみのために危険なスポーツに挑戦しない」という
 回答がアジアで最も多い47%

・「高い利益を得るために資本を失うリスクをとる」という
 中小企業リーダーの回答がわずか18%(他の国は50%前後)

といった、一般的な意味での「リスク許容度の低さ」を
示すような結果がでています。
2009年の調査結果

※山門に電光掲示板というのは、日本の感覚では違和感がありますね。

 

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保井俊之さんの著書

 

慶大先導研究センター特任教授の保井俊之さんの著書
「保険金不払い問題と日本の保険行政」を読みました。

保井さんは保険金不払い問題のまさにその時期に、
金融庁監督局の保険課長として最前線にいたかたです。

本書は保険金不払い問題そのものというよりは、
問題に対して行政処分を発動した金融庁の対応をもとに、
保険行政のあり方について論じています。

私がキーワードを勝手に挙げるとすれば、
「システムズ・アプローチ」でしょうか。

不払い問題への当時の保険行政の対応について、
問題をシステムの機能不全と捉え、勘と経験ではなく、
システムズ・アプローチにより解決した先行例であると
保井さんは述べています
(意図してこの手法を用いたわけではなさそうですが)。

また、本書では金融行政を次の4つに整理しています。
 ①コントロール(統制)指向
 ②コンプライアンス(法令遵守)指向
 ③コンバージェンス(目標集束)指向
 ④コンティンジェンシー(危機管理)指向

日本の保険行政は2008年にコンプライアンス指向から
コンバージェンス指向、つまり多様なステークホルダーの
選好に応えた規制設定と執行を行うものに転換したものの、

「金融危機への対応に追われ、その転換の歩みは
 遅々として進まないように見える」

「作られるルールをいたずらに厳しいものにすることは、
 (中略)結果として執行のなし崩し的な取りやめで
 規制の形骸化が図られ、規制の有効性そのものが
 毀損される場合が多い」

といった記述もありました。

たまたま昨日(26日)金融庁が監督方針・検査基本方針を
発表しています。これらはどのような評価になるのでしょうか?
金融庁HPへ

学術書なのでスラスラ読める本ではありませんでしたが、
日本の金融・保険行政についてここまで体系的に分析し、
さらに、分析結果に基づいて政策提言を行っている本書は、
非常に貴重な存在だと思います。

※写真は相変わらず本文とは全く関係ありません。
 先日の台湾旅行の時期がちょうど中元節だったので、
 町のあちこちで普通の人たちがお供えをしたり、
 「お金」を燃やしたりしていました。

 

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金輸出が過去最高水準

 

金価格の高騰が続くなかで、日本の金輸出量が
過去最高水準で推移しているそうです。

欧米経済の先行き不透明感を背景に、
安全資産とされる金への資金流入が続く一方で、
日本ではむしろ金を現金化する動きが目立つとか。

新聞(23日の日経夕刊)によると、
「田中貴金属工業では、『東京・銀座の店舗で
売却客を中心に朝から列ができている』」
というのですから驚きです。

同じ新聞によると、「金は歴史的に国力のある国に動く」
とのことですが、本当でしょうか。

新興国が競って金を買うような状況のときに
賢い日本の投資家は高値で売却に動いている、
という言い方もできますね^^

※台湾の細長いスイカは甘い部分が多くてお得ですね。

 

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自然災害の保険カバー率

 

ミュンヘン再保険によると、東日本大震災による
経済損失は2100億ドル(約16兆円)に達するのに対し、
保険による支払額は約300億ドル、カバー率は14%だそうです
(17日の日経など)。

確かに、米国ハリケーン・カトリーナ(2005年)の約5割、
同じく米国のノースリッジ地震(1994年)の35%、
今年発生したニュージーランド地震の約5割に比べると、
日本の保険カバー率は低いと言えそうです
(ちなみに阪神大震災のカバー率は約3%です)。

もっとも、なぜか再保険会社からの言及がないのですが、
同じ自然災害でも台風による風水害のカバー率は
日本がそれほど低いわけではなさそうです。

例えば東京海上研究所の資料によると、
1991年台風19号のカバー率は5割以上、
2004年台風18号でも4割以上となっています。
東京海上研究所HPへ

かつては火災しか担保しなかった火災保険が
段階的に風水害を担保するようになり、
今や実質的に「風水害保険」となっているためでしょう。

つまり、保険カバー率が低いのは地震災害なのですね。

地震リスクのうち家計向け地震保険については
阪神大震災後に徐々に普及が進み、現在では、
火災保険加入者の約半数が地震保険に入っています。

しかし、統計がないので詳細はわかりませんが、
家計向け地震保険の金額に制限があることに加えて、
おそらく企業向けの地震保険があまり普及していないため、
地震災害の保険カバー率が海外に比べて低水準なのでしょう。

この背景には企業のリスクマネジメント意識が低かったことと、
損害保険会社が地震リスクの引き受けに慎重だったことが
あると思います。

地震リスクは低頻度・高損害かつ集積リスクなので、
保険会社がそう簡単に引き受けを増やせないのは理解できます。

ただ、保険会社の存在意義を考えると、今のリスクプロファイル
(大手損保の最大リスクは国内株式ですよね)でいいとは
とても考えられないのですが、いかがでしょうか。

 

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台北の旅(その2)

 

プライベートの旅でしたが、せっかくですので
保険アナリストらしい話もしましょう。

2008年の金融危機以降、台湾では外資系生保の
撤退が相次いでいます。

発表順にING、英プルデンシャル、エイゴンと続き、
今年に入ってからもAIG(南山)、メットライフが
撤退を発表しています。
AIGは2009年の売却計画が台湾当局から却下され、
売却先を変えて交渉中です。

AIGやINGのように、グループの経営危機により
撤退を余儀なくされたところもありますが、
メットライフまでが撤退するところを見ると、
外資系にとって難しいマーケットなのでしょう。

日本に比べ、危険差益を上げにくいのかもしれません。
2009年に台湾を訪れた際、台湾の大手生保から
「日本ではなぜ高水準の危険差益を得られるのか」
と驚かれたのを覚えています。

台湾の大手生保でも、過去の高利率契約が
低金利のなかで経営の重荷となっています。

もし経済価値ベースで負債を評価すると、
危険差益が薄いためか、多額の責任準備金を
積み増す必要が生じるとの懸念が業界大手から
出ている模様です。

 

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台北の旅

 

2年ぶりに台湾(台北)に行きました。
前回は仕事でしたが、今回は家族旅行です。

前回も感じましたが、台北では日本の存在感が
非常に大きいように思います。

町には日本のコンビニ(セブンやファミマ)があちこちにあり、
そこでは日本のお菓子や雑貨が売られていました。
デパートやファストフードだけでなく、100円ショップ
(こちらでは39元ショップでした)まで進出しています。

圧巻は書店です。
英会話コーナーを凌駕する勢いで
日本語学習の教材が棚にずらっと並んでいます。
ベストセラーの一角には「もしドラ」が入っていました。

これほど親日的な国はなかなか見当たらないでしょうね。

※羽田便が就航したので便利になりましたね。
  週末旅行にもお勧めです。

 

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コメ先物市場の復活

米(コメ)の先物取引が72年ぶりに復活しました(8日)。

早稲田大学の森平爽一郎教授によると、
江戸時代には大阪堂島に世界最初の組織化された
先物市場があり、ここで決まった米の値段が
旗振り通信等により、ただちにに全国に伝えられたそうです。

しかし、日本の米先物取引は戦時統制が進むなかで
1939年に廃止されてしまいます。
今回の東京穀物商品取引所関西商品取引所での
試験上場はそれ以来のことです。

米先物取引の復活で最も期待されるのは
透明な価格形成だと思います。

1995年まで続いた「食糧管理制度」では
米価はかなり政治的に決まっていたようです。
その後、米の流通自由化が進んだとはいえ、
JAグループが国内流通の5割を占めていることもあり、
どうも米価の決まり方は不透明です。

唯一の公的市場だったコメ価格センター
(全国米穀取引・価格形成センター)は
この3月に廃止されてしまいました。

今回の試験上場にJAグループは反対しています。
「コメが投機の対象になる」ので取引に参加しないとのこと。

しかし、食糧管理制度の時代ならまだしも、
米の流通自由化が進み、政府の支援も価格維持から
所得補償にシフトしているなかでは、需給を反映した
価格形成の透明性はますます重要となります。
それとも透明になると困る人が出てくるのでしょうか。

私がたまたまテレビで観た生産者や卸売業者、小売業者の
コメントはどれも前向きなものばかりでした。

ふと思ったのですが、この話、

「経済価値がわからなければ収益・リスクの管理はできない」
「経済価値のように振れる指標では適切な経営ができない」

といった保険会社の経済価値評価をめぐる議論とも
共通するものがありますね。

 

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ライフネット生命の情報開示

S&Pが米国債の格付けをAAAから1段階引き下げました。
米国債は日本国債と違い、自国外の保有者がたくさんいます。
ただ、日本における日本国債のように、グローバル経済のなかで
米国債に代わるものはありません。
それほどの混乱はないと思うのですが、どうでしょうか。

さて、7月30日に続き、ディスクロージャー誌の話です。

ある会合でいただいた「ライフネット生命の現状2011」を
アナリスト目線で(?)見てみました。
ライフネット生命のHP

2008年11月に開始した「付加保険料の全面開示」は、
ディスクロ誌にも掲載されています
(詳細はHPとなっています)。

任意開示の三利源損益(危険差益、費差益、利差益)は
利源分析の解説付きで推移が示されていますし、
ソルベンシー・マージン比率の説明もわかりやすく
工夫されています。

驚いたことにエンベディッド・バリュー(EV)の開示もありました。
しかもEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)です。
開業後3年ということを踏まえ、事業費の前提を工夫した
「均衡事業費ベース」での開示もありました。
新しい会社なので発生率や事業費の前提が安定していない
のではないかと思いますが、意欲的な取り組みだと思います。

あえてコメントするとすれば、開業後3年という新しい会社で、
かつ、急成長している(=コスト負担がかさむ)ところなので、
資金繰りの説明があるとありがたいですね。

例えば、2010年度の保険料収入18.2億円に対し、
事業費は27.2億円です。
新設会社は保険金等の支払いは少ないものの、
一般にコスト負担がかさみます。

韓国では1990年代後半に中小生保が相次いで破綻しましたが、
大半は歴史の浅い会社で、市場シェアを確保するため
コストをかけすぎたのが破綻の遠因になった模様です。

ライフネット生命のキャッシュ・フロー計算書を見れば、
有価証券の売却によるキャッシュインフローが
ネットで11.7億円あるので、概ねわかるのですが、
何かコメントがあるとよかったかもしれませんね。

※月島で「もんじゃの会」がありました。
  写真は「まぐろもんじゃ」です。

 

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