政府のワクチン確保

新型コロナウイルスのワクチン接種が当初の見込みよりも遅れることがわかりました。
日経のニュース(有料会員限定)

M&Aや業務提携などで基本合意に達しても、そこから本格的な交渉が始まるのであって、最終的に契約締結に至らず、破談になることもあります。基本合意とはそのようなものです。
過去には保険業界でも、三井海上、日本火災、興亜火災のケース(1999年10月に統合を発表し、2000年2月に破談)など、大型M&Aが最終合意に達しなかった事例がいくつかありました。
合意するかどうかの判断は、株主をはじめとするステークホルダーに対し、それが企業価値を高めると説明できるかどうかです。

ですから、基本合意しても破談となったり、当初の合意と最終的な契約が異なることは理解できるのですが、これが新型コロナのワクチンで悪いほうに生じてしまうとは、ステークホルダーたる国民としてはガッカリです。

念のため厚生労働省の発表文を確認しましょう。
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2020年7月31日の厚生労働省リリース「新型コロナウイルスワクチンの供給に係る米国ファイザー社との基本合意について(PDF)」

本日、厚生労働省は、米国ファイザー社が新型コロナウイルスのワクチン開発に成功した場合、来年6月末までに6000万人分のワクチンの供給を受けることについて、ファイザー社と基本合意に至りましたので、お知らせします。
今回の基本合意は、ファイザー社との間で供給量等の基本的な事項に関して合意を得たものであり、今後、最終契約に向けて速やかに協議を進めてまいります。(後略)

2021年1月20日の厚生労働省リリース「新型コロナウイルスワクチンの供給に係るファイザー株式会社との契約締結について(PDF)」

本日、厚生労働省は、米国ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンについて、日本での薬事承認等を前提に、年内に約1億4,400万回分の供給を受けることについて、ファイザー株式会社と契約等を締結しましたので、お知らせします。
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基本合意では「6月末までに6000万人分の供給」だったものが、最終的な契約等(「等」が気になります…)では「年内に約1億4400万回分(1人に2回必要なので約7200人分)」と、供給が半年ずれてしまいました。

活動自粛により感染拡大を抑えこんでも、活動を再開すると再び感染が拡大する(まさに今の状況)ので、多くの国民はワクチンが普及するまでと不自由な生活を忍んできました。ですからワクチンの確保はどう考えても優先順位の高い政策です。供給が半年ずれるということは、ステークホルダーにさらなる不自由を求め、国の価値(GDPなど)を大きく傷つけることになります。某マスクの比ではありません。

日経報道が正しければ、政府は年末まで米国のファイザー本社と直接交渉していなかったそうで、世界的なワクチン争奪戦のなかで、優先順位の高い政策において、これが正しい戦い方だったとは思えません。

もちろん、交渉決裂によりファイザーからの供給がなくなってしまうよりはマシですし、英国アストラゼネカとは開発成功後に1500万人分の供給を第1四半期中(1-3月と推測)に受ける、米国モデルナ&武田とは上半期(1-6月)に2000万人分の供給を受ける契約をそれぞれ締結しているようなので、6月までワクチンが全くないという状況ではないかもしれません。
ただ、厚生労働省が少なくとも昨年12月の時点で想定していたスケジュールが遅れるのはほぼ確実なので、これが企業経営者であれば、ステークホルダーから責任を問われる事態だと思います。リスクマネジメントやガバナンスを学生に教える立場からしても、今後の展開に注目しましょう。

※写真は福岡・マリノアシティからの眺め。アウトレットがあります。

 

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プライム市場と流通株式

本題の前にいくつかご案内です。

損保総研のセミナー

1月26日(火)の夜に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「新たな健全性規制下における保険経営のあり方 ~アカデミズムの視点も含めて~」で、今回はweb配信のみとなっています。19:00から1時間お話しして、その後質疑応答とのこと。ご関心のあるかたは(有料ですが)ぜひご参加ください。1月19日締め切りだそうです。

保険毎日新聞のインタビュー記事

業界紙・保険毎日新聞に2020年4-9月期決算についてのインタビュー記事が載りました。14日が主要生保、15日が3メガ損保グループです。
それぞれ見出しだけご紹介すると、主要生保では「金融市場の回復が追い風に」「価格変動リスクを抑える動きも」「コロナ禍で各社の強み問われる状況に」、3メガ損保では、「海外事業を国内事業がカバー」「コロナ禍の活動制限がプラスに作用」「余剰人員の活用が今後の課題に」となっています。

さてさて、本題はこちらです。
昨年末に東京証券取引所から、取引所の市場区分を見直し、現在の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)の5区分を改め、「スタンダード市場」「プライム市場」「グロース市場」の3区分に再編するという案の発表がありました。
詳しくはこちら(市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項))をご覧ください。

市場区分の見直しとともに、東証は市場における流動性(=売買実績)を確保するために「流通株式」の定義を見直し、銀行や保険会社、事業法人等が持つ株式を、保有割合に関わらず流通株式から除くことにしました(現在は上場株式数の10%以上を所有する場合に除くルール)。
プライム市場の上場基準となる流通株式比率は35%以上(スタンダードとグロースは同25%以上)なので、銀行や保険会社、事業法人が安定株主となっている銘柄はプライム市場に上場しにくく、この基準によって政策株式の売却を加速させる狙いがあるのかもしれません。

ただし、所有目的が「純投資」であれば、銀行や保険会社が保有していても流通株式として取り扱うそうです。
3メガ損保グループが保有する株式は大半が政策保有株式なので流通株式から除く一方、大手生保の保有する株式は多くが「純投資」とされているため、流通株式として扱われます。結果として、生保の株式保有が増えるなんてことにならないかどうか、注目していく必要がありますね。

※この週末の福岡は好天で何よりでした。

 

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ベテラン営業職員の不祥事

今週のInswatch Vol.1067(2021.1.11)に寄稿したものです。
今後の展開を注視したいと思います。
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第一生命が報告書を公表

昨年12月22日に第一生命保険が「元社員(特別調査役)による金銭の不正取得」に関する調査報告書(PDF)を公表し、同じ日に稲垣社長が記者会見を行いました。報告書は同社サイトにアップされています。
元社員が、複数の顧客に対して架空の金融取引を持ち掛け、金銭を不正に取得していたというこの事件、会社自らによる調査に加え、「第三者の立場からの客観的な評価を受けることよって、より実効的な検討・対応を進める必要がある」との認識から、社外(法律事務所)にも分析・調査を依頼し、発生原因を探りました。

企業風土・体質にも言及

報告書では、単に元社員に問題があり、かつ、組織として監督が十分に行き届かなかったというだけではなく、企業風土・体質にも言及しています。例えば、

「西日本マーケット統括部においては、元社員に関する事項について、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識がありました。そのような意識が生じた背景には、元社員が『特別調査役』として特別な地位にあり、しばしば当社の役員等との親密さを吹聴していた元社員への遠慮が存在していたと考えております」

「(お客さまを第一に考える思考が不十分であった)背景には、お客さまの信頼がなければ多くのお客さまから新契約をお預かりすることができないとの思考に重点を置き、新契約実績には表れないお客さまを第一に考える行動に対する評価が不十分であったと考えております」

などです。新たに発覚した和歌山県、福岡県、神奈川県の事案についても、「お客さまを第一に考える思考が不十分であったことに起因している」と分析しています。

「お客さま第一」で解決するか

2005年の保険金不払い問題以降、営業職員チャネルを主力とする生命保険会社では、新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切ったはずでした。その結果、営業職員の大量採用、大量脱落構造はかなり緩和し、15年前には4割前後だった在籍数に占める年間退職者の割合は、足元で2割を下回っています。
他方で現場には営業目標があり、営業拠点の運営はベテラン営業職員による契約獲得に依存し、ベテランの報酬が結果として歩合給中心という基本的な構造は変わっていません。厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査によると、経験年数15年以上の保険外交員(女性)の「年間賞与その他特別給与額(≒歩合給)」は「所定内給与額(≒固定給)」の2.5倍で、全体(1.8倍)を大きく上回っています。

販売勧誘ルールの見直しで保険募集人に新たな規制が導入されたとはいえ、一社専属の営業職員チャネルの業務は乗合代理店に比べれば大きな変化はありませんでした。しかも、金融庁はかつてのような3、4年ごとの立入検査を実施しなくなり、ヒアリング主体の水平的レビューとなっています。
こうしたなかで発覚したベテラン職員による不祥事です。個社に特有の問題とは考えにくく、営業職員チャネルを主力とする会社は実態調査を行うだけではなく、報酬体系を含めたチャネルのあり方を真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。
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※3連休の外出は初詣だけにしました。十日恵比須神社です。

 

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保険経営の報道は難しいのか?

今週の日経新聞による保険会社に関する報道です。

グループ内再保険

再保険で損益変動抑制 第一生命HDが新会社 ※有料会員限定」(1月7日)

第一生命グループがバミューダに再保険会社を設立するという記事です。「金利の上下に伴う損益変動リスクの抑制に乗り出す」「グループ内で、保険に対して保険をかける『再保険』の引き受けを近く始める。再保険の仕組みを使って損益への影響を和らげる」という説明があるのですが、グループ内でリスクをやり取りしても、実質的な損益変動の抑制にはならないのではないかと疑問に思いますよね。

グループ内に再保険会社を設立するという話は、実のところ昨年11月の機関投資家・アナリスト向け決算・経営説明会で示されていて、質疑応答(PDF)のなかで、グループ内に再保険会社を設立するメリットの説明がありました。
ですから、記事のような不思議な説明にはならないはずなのですが、記者さん自身の問題なのか、あるいは取材に応じた広報部門がうまく伝えなかったということなのでしょうか。

火災保険の損益

火災保険 赤字2000億円超 ※有料会員限定」(1月8日)

大手損保4社の2021年3月期の火災保険の損益が、自然災害の被害が比較的少なかったにもかかわらず、2000億円を超える赤字となる見通しで、収益性の改善が急務となっているという記事です。

火災保険の収支が厳しいというのはその通りです。記事が示すように再保険料の上昇は大きく、4-9月期の出再保険料(火災)は4社合計で前年同期よりも400億円以上増えています。各社とも元受保険料に再保険の上昇分をどれだけ反映できるかが課題となっています。

ただ、火災保険の損益として保険引受利益をそのまま使って説明するというのは、さすがにミスリードではないでしょうか。保険引受利益は「保険料収入から保険金の支払額とかかった事業費を差し引いた」(記事より引用)ものではなく、保険引受収益から保険引受費用と保険引受に係る営業費および一般管理費などを差し引いたもので、保険料と保険金&事業費を比べた指標(コンバインドレシオなど)ではありません。
特に大きな違いは、保険引受利益は異常危険準備金の増減と、長期火災保険や地震保険などの責任準備金の増減によって大きく左右されるということです。

記事には過去の保険引受利益の推移が図表で示され、「火災保険の損益は11年連続赤字」とあります。しかし、この図表を見て、いくら再保険料が増えたとはいえ、今年度の赤字が、過去最大の保険金を支払った2018年度に匹敵する赤字になるというのを不思議に思わなかったのでしょうか。これは、2018年度には多額の異常危険準備金の取り崩しがあったため、保険引受利益がかさ上げされているのに対し、今年度は異常危険準備金が積み増し(=保険引受利益のマイナス要因)となるからです。
念のため過去の火災保険のコンバインドレシオを確認すると、赤字の年度が多いのは同じですが、2015年度は1社を除き黒字(コンバインドレシオが100%未満)でした。同じ年度の保険引受利益が1000億円を超える赤字となったのは、異常危険準備金の積み増しと、期間短縮前のかけ込みで長期火災保険の責任準備金が急増したことが主な要因とみられます。
保険引受利益を使ったのは記者さんの判断なのか、あるいは、どこかの保険会社の広報部門があえてこの数値を提供したのでしょうか。

マスメディアの役割は大きい

私はマスメディア(特に日経)を目の敵にしているのではなく、むしろその逆で、保険マーケットにとってマスメディアの役割は非常に重要だと考えています。
保険会社が提供する商品・サービスは保険会社の経営内容にも左右されるため、保険会社は事業会社とは違い、投資家だけでなく、契約者(消費者)に対しても経営情報を伝える必要があります。他方で契約者(消費者)が保険会社の経営情報を普段から積極的に集めるというのは現実的ではなく、結局のところマスメディアに頼ることが多いはず。ですから、経営情報の仲介者であるマスメディアの役割がより高まる方向に持っていきたいのですが、どうしたらいいのでしょうね。

 

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飫肥の旅

杵築(大分県)、秋月(福岡県)に続き、年末に古い町並みが残る飫肥(おび。宮崎県)を訪ねました。
同じ九州でも福岡から宮崎は意外に遠くて、陸路では最短でも3時間強かかります。飫肥は宮崎からさらにローカル線に揺られること1時間余りのところにあります。

飫肥は伊東氏が代々治めた城下町です。伊東氏のルーツは曽我兄弟の仇討ちで有名な工藤祐経(すけつね)で、祐経の子が工藤を伊東に改めたそうです。戦国時代には島津氏と争って敗れたものの、豊臣秀吉に仕えて軍功を挙げ、飫肥にカムバック。関ヶ原の戦いでは徳川方につき、小藩ながら伊東氏の統治は幕末まで続きました。伊東氏が江戸時代を生き延びたのは、島津氏を監視する役割を担っていたのかもしれません。
なお、天正遣欧少年使節の伊東マンショも伊東氏の一族で、島津に敗れて豊後に逃れた際、キリスト教に出会ったそうです。歴史は面白いものですね。

城下町というと城跡や武家屋敷を見学するのが定石ですが、たまたま建物が気になって立ち寄ったところが「服部植物研究所」という、世界で唯一のコケ専門研究所でした(上と下の写真)。飫肥出身の植物学者である服部新佐(しんすけ)博士が終戦直後の1946年に研究所を設立し、ここを拠点にコケの研究を行っていたそうです。スタッフのかたに内部を案内していただき、顕微鏡をのぞいたり、標本や資料を拝見したりと、思いがけず楽しい時間となりました。

博士は家業の林業で稼いだお金をコケの研究につぎ込んでいたとか。今も十数名の研究員が所属し、研究活動を行っているそうですが、こうした研究所が大都市ではなく、小さな城下町で存続していることに感銘を受けました。

 

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2020年を振り返る

あけましておめでとうございます。
年末は早めに横浜に戻り、原稿チェックなどをしていました。例年ですと元日は実家(徒歩5分のところです)で会食をするのですが、今年は残念ながら中止して、代わりにみんなで近所の小さな神社へお参りしてきました。来年はいつものように実家で食事ができるといいですね。

それにしても、あっという間の1年間でした。備忘録として簡単に振り返ってみます。

<1月>
学会発表で年始から釜山へ。結果として2020年唯一の海外出張となりました。1月はマニラでの講演も予定されていたのですが、火山の噴火で延期となり、そのままになっています。

<2月>
福岡生活の準備で忙しくしていました。新型コロナ感染症の影響で、下旬から週に何回かテレワークを始めました。

<3月>
各種の催し物が相次ぎ中止となり、私もベトナムの旅を断念。代わりに娘と福岡から鹿児島に足を伸ばし、名物しろくまを味わってきました^^v。

<4月>
福岡生活スタート。緊急事態宣言が出ていましたので外食には頼れず、何とか自炊生活を軌道に乗せようと悪戦苦闘していました。授業開始は28日で、初回は事前準備にもかかわらず大混乱でした(涙)

<5月>
オンライン授業が本格的に始まり、準備とフォローに追われる日々でした。授業の中身よりも、ネット環境の整備や各種アプリの確認、動画アップなどに時間をとられ、厳しい日々でしたね。大学に来ていた先生がたとの情報交換が非常にありがたかったです。

<6月>
zoomやwebexなどのビデオ会議システムで説明会に参加したり、取材を受けたりするのが普通になりました。5月に続き、zoom飲み会も毎週のようにやっていました。

<7月>
4月以降、初めてキャピタスの築地オフィスに出社しました。前期の授業は無事(?)終了です。

<8月>
2週間ほど横浜の自宅で過ごしましたが、保険の書籍のため、どこにいても執筆の日々でした。

<9月>
後期の授業が始まり、ゼミで初めてリアルに学生に会えました(講義は引き続きオンラインです)。

<10月>
京都でスピーチがあり、初めて新幹線で横浜に戻りました。福岡の県立高校で話をしたのもこの月です。

<11月>
推薦入試の面接官を初めて担当しました。講義もゼミも比較的順調で、ネット関連に悩まされることも少なくなりました。月末には息子が福岡に初登場。

<12月>
福岡は太平洋側ではないので、天気の違いに驚きました(寒いです)。

こうしてみると仕事ばかりしていたようですが、過去のブログの写真をご覧いただくと、福岡市内を歩き回ったり、後半は唐津や別府、霧島など、九州の他県にも足を伸ばしています。
何よりほとんど体調を崩さず、健康でいられたのが幸いでした。マスクや手洗いの効果があったのかもしれませんね。

それでは今年も引き続きよろしくお願いいたします。

※港の見える丘公園から見たガンダムです。

 

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「半沢頭取」報道に思う

三菱UFJ銀行の頭取に半沢淳一常務が昇格するという人事(24日発表)を先取りする報道が22日にありました(日経、朝日、NHKなど多数)。

「計13人いる副頭取と専務を抜き、同行で初めて常務から頭取になる」(日経)
「テレビドラマ『半沢直樹』の原作者で、1988年に当時の三菱銀行に入行した池井戸潤さんとは同期だったということです」(NHK)

つまるところこの2点だったのですが、何だかなあという感じでしたね。

まず、持株会社の「指名・ガバナンス委員会」ではまだ決定していなかったのに、名前が出てしまったこと。関係者(必ずしもMUFG関係者とは限りません)がリークしたのでしょうけど、もし私が指名・ガバナンス委員会の委員だったらこうした報道は嫌ですよね。委員会とは別のところで人事が決まっているように思われてしまいますので。
トップ人事を発表前に出すのが重要なのは報道業界内部の価値観であって、情報の受け手にとって価値があるとは思えませんし、むしろ迷惑なことが多いと思います。

それから「若返り」「13人抜き」ですが、確かに金融界で55歳は若いです。ただ、「若返り」「13人抜き」という報道は、そもそも新卒生え抜きが経営幹部となることを前提にしたものです。外部人材だったら「〇人抜き」なんて記事にはなりませんよね。
「半沢さん」に話題性があるのはわかります。しかし、グローバル化を進める金融グループの幹部人事を、いつまで「社長が次の社長を決める」「日本人・中高年男性・新卒生え抜き」を前提に語るのでしょうか。

ちょうど数日前に「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」から「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」という提言が出ていますし、このような資料(取締役会の機能発揮と多様性確保(PDF))も参考になりますので、22日の人事報道に疑問を持たなかったかたはじっくりお読みいただければと思います。

※全くの個人的興味で恐縮ですが、ようやく訪問できました。

 

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団体年金保険の予定利率

コロナ禍で休退学、5千人超」というニュースが話題になりましたが、よく見ると、コロナ禍でも大学を休学したり退学したりする人は今のところ増えていないというニュースなのですね。
調査によると、前年同期に比べて退学者が減り、休学者は海外留学要因を除けばほぼ横ばいでしたので、コロナがなければこの「5千人超」が休退学しなかったかどうかは微妙です。ただし、コロナの影響が長期化するほど経済的に困難な学生が増えるでしょうから、文科省が大学等に対し、引き続き学びの支援を求めるのはよくわかります。

団体年金の予定利率で対応分かれる

NHKや読売新聞の報道によると、第一生命が団体年金保険(一般勘定)の予定利率を来年10月に1.25%から0.25%に引き下げる一方、日本生命、住友生命、明治安田生命の3社は顧客企業への影響を考慮し、来年度も利率を維持するとのことです。
NHKのサイトへ

第一生命がなぜこのタイミングで引き下げを決めたのかはわかりません(むしろ決断が遅かったようにも思えます)。ただ、個人向け保険の標準利率がすでに0.25%以下となっている時に、他社はどうして予定利率1.25%(解約控除がなければ0.75%)の団体年金保険を続けることができるのでしょうか。

なぜ利率を維持できるのか

1.25%/0.75%の予定利率を確保するには、それなりの資産運用リスクを抱える必要があります。例えば、団体年金区分(一般勘定)の資産構成を公表している第一生命は、2020年9月末時点で国内株式(全体の7.4%)や外貨建資産(同35.2%)などで資産運用リスクをとっていました(他社も一般向けに公表してほしいのですが…)。
他方、個人向け保険(特に保障性の強い商品)であれば、危険差益や費差益といった保険関係の利益の獲得が期待できます。しかし、団体年金保険はこれらが非常に小さく、しかも資産運用がうまくいけば顧客に配当として多くを還元するので、個人向け保険よりも収益性が高いとは言えません。

以上から、個人向け商品に比べ、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険はリスクに見合うリターンが得られる商品とは考えにくいのですが、さらに問題があります。それは、負債の評価(特に契約期間の見込み)が難しいという点です。
顧客にとっては運用商品(もっと言えば、金利の高い現預金のようなもの)なので、金利水準が上がれば解約が増えるでしょうし、おそらく今の低金利が続けば、予定利率が1.25%/0.75%の商品はそのまま継続となりそうなので、保険会社にとってALMが非常に難しいと想像できます。

リスクに見合ったリターンが得られにくく、ALMも難しいとなると、各社は相互会社の社員に対し、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険を続ける説明が必要だと思います。少なくとも「顧客に影響があるから」という理由では納得できないでしょう。

<12月21日追記>
明治安田生命が2024年度以降に引き下げる方向という日経報道がありました。(報道が正しいとして)2024年度とはだいぶ先ですが、何を基準にして決めようとしているのか興味深いです。

※神社の境内でマルシェをやっていました。

 

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3メガ損保グループのIR説明会から

今週のInswatch Vol.1063(2020.12.14)に寄稿したものです。
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今回は生命保険会社ではなく、3メガ損保グループが先月下旬に開催した投資家・アナリスト向け説明会を取り上げます。
各社とも5月と11月の決算発表後にIR説明会を行っています。以下ではそのごく一部を紹介しますが、投資家やアナリストではなくても、各社のサイトに行けば、説明会の様子を動画で観たり、説明資料や質疑応答を確認したりできます。

時間をかけて各業務を説明:東京海上

東京海上グループはいつもと違い、3時間半におよぶミーティングを実施しました。最初にグループ戦略の全体像をホールディングスの小宮社長が説明し、続いて国内事業戦略、海外事業戦略、資産運用戦略について、それぞれの責任者が説明するというものでした。
国内事業戦略では、東京海上日動の広瀬社長、あんしん生命の中里社長ともに強調していたのが、デジタルを高度に活用し、ビジネスモデルを進化(深化)させるというもの。生保ではデジタル募集の取り組みを加速し、損保ではさらなる事業効率の向上を図るとしています。

CSV×DXで成長を:MS&AD

MS&ADグループの説明会ではホールディングスの原社長が、同社が中期経営計画で掲げている、CSC(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)をデジタル・トランスフォーメーション(DX)による既存ビジネスの変革で進めていくことを改めて強調していました。とりわけ商品・サービス面では、請求を受けて支払うだけの保険から、DX等により事故の発生を未然に防ぎ、発生してしまった場合の影響も小さくする保険へと、保険の役割を変えるという説明がありました。
国内損害保険事業では、これまで進めてきたビジネススタイル改革による事業費削減を、オンラインシステムの刷新やリモートワークによって確実なものにするとのことでした。

リアルデータの活用:SOMPO

SOMPOホールディングスの櫻田社長からは、安心・安全・健康のテーマパークの構築は不変としたうえで、基本3戦略の1つに「新たな顧客価値の創造~テーマパークの具現化~」を掲げ、リアルデータの獲得とデータ解析により新たなソリューションを生み出す「リアルデータプラットフォーム構想」に取り組むという話がありました。その具体例として、グループの介護事業が持つリアルデータを組み合わせ、解析することで、新たな介護ビジネスモデルの実現を目指しているそうです。
国内損保事業に関しては、次期中期経営計画でも料率適正化と事業費削減を柱とする収益構造改革を一段と進めます。

問われる営業支援体制

新型コロナ禍が日本企業のデジタル化を加速させるというのは、3メガ損保グループにも当てはまるようですが、気になったのは、国内事業でデジタル化が進んだ結果、販売チャネルはどうなるのかという点です。
保険会社は新しい技術を駆使した営業支援をどんどん開発していくので、デジタル社会に適用しようと考えている代理店にはいい時代になりそうです。他方で、これまで代理店の営業支援を行っていた保険会社の社員はどうなっていくのでしょうか。
今回のパンデミックによって、顧客との接点を何らかのかたちで確保できるのであれば、保険会社による接触型営業支援がなくても現場には大きな問題がないことが明らかになりました。二重構造問題は長年の課題であり、保険会社が語る「付加価値の高い業務への挑戦」「デジタル人財の育成」がそう簡単に成果をあげられるとは考えられません。浮いた人材をどうするかは保険会社にとって大きな課題となっています。
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※写真は晴れていますが、福岡でも雪が舞いました。

 

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MYミューチュアル配当

12月1日に明治安田生命から新たな社員配当「MYミューチュアル配当(PDF)」を創設するという発表がありました。内部留保への貢献度に応じた配当還元の仕組みは、生保業界初とのことで、興味深い取り組みだと思います。

公表資料によると、明治安田生命は2021年10月以降、これまで内部留保の積み立てに貢献してきた(かつ、今後も貢献が想定される)商品の契約者に対し、従来の社員配当に加えて、内部留保の一部を新たな配当として支払います。
2001年発売の「ライフアカウントL.A.」など、過去20年間くらいに発売した保障性商品が対象で、加入後20年目に最初の配当の支払いがあり、その後は10年ごととなります。

ただし、内部留保の一部を支払うといっても、蓄積してきた内部留保を取り崩すのではなく、その期に内部留保の積み立てにあてる金額の一部を新配当に回すしくみです。例えば、明治安田生命はここ数年、毎年1000億円を上回る内部留保を行ってきましたが、このうち100億円程度を配当するというイメージです。
内部留保を取り崩すのではなく、積み立てのペースを落とす(しかも控えめに)ということなので、経営陣は現状では内部留保の増強がまだ必要だと判断していることがうかがえます。相互会社の契約者としては、どの程度必要と考えているのかを知りたいところでしょう。

なお、明治安田生命が2019年度に支払った個人向け商品の配当(従来のもの)は約300億円だったそうです。決算発表の際に、団体保険や団体年金を含めた「配当準備金繰入額」しか公表していない相互会社もあり、この点に限らず、上場株式会社や一部の大手共済事業者に比べると、会社のオーナー(=社員たる契約者)に向けた情報開示には改善の余地が大きいと思います。

※博多駅です。夜はきれいなのでしょうね。

 

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