新型インフルエンザの現状認識

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保険業界紙「インシュアランス(損保版)」8月号第1集に載っていた
東京海上リスクコンサルティング・指田朝久BCM事業部長のインタビュー記事。
このところ新型インフルエンザが話題になることはほとんどなくなりましたが、
よくまとまっていて勉強になりました。

まず、マスメディアを中心に混乱が目立つとのこと。

・弱毒性が強毒性に変異 → このような変異はしないそうです
・弱毒性だから安心 → 弱毒性でも致死率が2%になりえます
・新型ウイルスは変異する → 新型だけが変異するのではなく、
                    季節性インフルエンザも変化しています

日本では今冬に5000万人が感染するとの予測があります。
少なくとも何千万人単位で感染者が出ると見るべきだそうです。
しかも、WHOでは感染被害が3年間続くと見ています。

今の致死率が低い新型インフルエンザで可能性が高い危機は、

「最初の集団感染企業となり、大きく報道されること(=風評被害)」
「突発的な集団感染で特定の職場の機能が突然マヒすること」

など。強毒性インフルエンザや地震被害のリスクとはかなり違いますね。

※写真はみなとみらいです。

 

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保険会社のディスクロージャー誌

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2009年版の生損保ディスクロージャー誌が公表されています。
多くは「○○生命の現状」というタイトルの冊子です。

決算発表時には公表されないデータもいくつかありますし、
沿革や経営陣、経営方針といった会社情報をつかむのに
ディスクロ誌は役立ちます。

かつてはディスクロ誌を入手するのが結構大変でした。
保険業法で一般の縦覧が義務付けられているにもかかわらず、
頼んでももらえなかったり、いちいち目的を聞かれたりしました。
今は各社のHPからダウンロードすることができます。

ディスクロ誌にしか載っていないデータとしては、

 ・契約年度別の責任準備金残高(生保)
 ・契約者配当準備金明細表(生保)
 ・利息及び配当金等の分析(生保)
 ・受再保険料・出再保険料の推移(損保)
 ・出再保険料の格付けごとの割合(損保)
 ・事故発生からの期間経過に伴う最終損害見積額の推移(損保)

などなど。

このほか上場損保では、決算短信が連結中心となったため、
ディスクロ誌にしか掲載されない個別決算データもあります
(有価証券の時価情報など)。

昨年5月に開業したライフネット生命のディスクロ誌を見たところ、
三利源やソルベンシー・マージン比率(SMR)の考え方の図解、
保険料の構成についての解説、第三分野のストレステストおよび
負債十分性テストの説明などが載っていて、参考になります。

ちなみに同社のSMRは41117%(2009年3月末)でしたが、
開業初年度ですし、SMRにはビジネスリスクが反映されないため、
これは指標の限界なのでしょう。

※写真は伊豆急「リゾート21」です。

 

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損保労連「げんき」

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損害保険労働組合連合会(損保労連)の機関誌「GENKI(げんき)」には、
労連が開催したセミナーの講演録が載っています。
80号には、日本損害保険協会の竹井直樹さん(業務企画部長)、
金融庁監督局の長谷川靖保険課長の講演録などがありました。

以下では、私の目に留まったところをご紹介しましょう。

竹井さんの講演(3/18)は「保険自由化10年と損害保険業界」。
冒頭に損保協会の紹介があり、250名の職員のうち、
95%以上がプロパー職員ということ。
ロビー活動よりも、苦情・相談対応や業界インフラ関連業務の
ウエートが多いそうです。

竹井さんは保険自由化がもたらしたものとして、

・消費者や保険契約者の利便性の向上
・商品の複雑化
・消費者視点の欠如

を指摘したうえで、

「殺伐とした消耗戦を回避するためにも、新たな業界秩序の構築が必要」

と話し、具体策(標準約款のオーソライズと公表)を示しています。
私もよく考えてみたいと思います。

金融庁の長谷川さんは「保険監督行政の現状と課題」。
4/1の開催です。

・連結ベース(またはグループベース)で監督していくことの重要性を
 AIGの件で感じている
・大和生命から引き出せる教訓は、「ビジネスモデルの持続可能性」
 「SMRの見直しを」
・ストレステストを含めた統合的なリスク管理が非常に大事

などが財務に関する課題が話の中心だったようですが、
コンプライアンスに関して、

「若干懸念しているのは、(中略)何か保険金の支払い額は
 少ないほうがいいとする評価システム・体制がありはしないか」
「損害率に対して目標値を設定している会社がありはしないか」

というコメントもありました。

※写真は伊東温泉です。

 

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NKSJホールディングス

昨日(7/29)、損保ジャパンと日本興亜損保が「経営統合に向けての契約書」
を締結し、経営統合計画の概要を発表しました。

この件で、30日の日経に私のコメントが載っています。

「損保ジャパンの株主から統合を評価されるには、新会社が
 どう将来利益を生み出していくかの明確な事業計画が必要」

というものです。

コメントの内容はおかしくないと思うのですが、そもそも、
株主でも株式アナリストでもない私がコメントするのは変な話です。
ただ、大株主はこのタイミングでコメントするわけにはいかないでしょうし、
株式アナリストはレポートを出す前に見解を話せないのでしょう。
そのような背景があるということでご理解下さい。

7/27号の日経ビジネス「統合比率は1対0.9 !?」という記事にも
コメントが出ています。同じような事情があるのだと思います。

ちなみにコメントは、

「サブプライムローン関連の証券化商品を含む金融商品の保証をする
 金融保証保険で2009年3月期に1479億円もの損失を出した」

というものです。ただ、そのあとに
「このため、統合比率は日本興亜側に有利になる可能性もある」
と続いています。私自身は統合比率についてコメントしていません。
このあたりは対応がなかなか難しいところです。

発表当日は記者会見のほか、機関投資家・アナリスト向けカンファレンス
(≒電話&ネット会議)が開催されました。
私は投資家向けカンファレンスにアクセスしましたが、統合比率に関しては、

「確かに1株当たり純資産のような指標で見ると差があるかもしれないが、
 統合によるシナジーが見込めるので、損保ジャパンの株主にも
 十分メリットがあるはず」

というコメント(質問に対する回答)がありました。
株主の理解を得られるかどうか、年末の臨時株主総会に注目です。

機関投資家・アナリスト向けネットカンファレンスへ

他方、記者会見では「統合効果は消費者にも還元されるのか」といった
カンファレンスとはかなり違うやり取りがなされたようです。

MSN産経ニュース・社長会見ライブへ

※いつものことですが、写真と本文は関係ありません。念のため。

 

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アリコの顧客情報流出問題

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昨日(7/27)の記者会見によると、流出件数は最大13万件、
不正利用の照会は現時点で2200件に上ったとのこと。
日本では過去最大規模のカード情報流出だそうです。

それにしても、カードの名義と会員番号、有効期限があれば、
ネットでは他人のお金で簡単に買い物ができてしまうのですね。

ただ、もしカード情報を変える(=カードを再発行する)となると、
今度は手続きにかなりの手間がかかってしまいます。
私も保険料の支払いはカード決済ですし、公共料金もそうです。
もちろん、銀行にも連絡しなければなりません。
気が遠くなりそうです。

「利便性(と貯まるポイント)」を求めた結果、いつのまにか
身動きがとりにくい状態になっているわけですが、
今回のような情報流出は本当に困ります。

話をアリコに戻しましょう。
米国政府の管理下にあるAIGにとって、傘下保険会社の価値低下を
何とかして維持・拡大すべきところ、反対に価値を下げてしまいました。
IPO(または売却)計画に影響が出るかもしれず、これは大きな誤算でしょう。

他方、本日(28日)の日経「直販損保に影」という指摘はどうなのでしょうか。
「何となく保険通販は心配」という消費者は増えるかもしれませんが、
今回の件は通販の問題というよりは、カード決済とその情報管理の問題なので、
通販損保だけではなく、カード決済を導入している保険業界全般
(=つまり大半の会社)が該当します。
各社は情報管理態勢を速やかに再確認し、業界全体の信頼低下を
何とかして食い止めなければなりません。

それとも、通販損保はセキュリティー面で弱点がある、という根拠が
あるのでしょうか。

 

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納得してもらうのは難しい

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「年金制度は詐欺だ」という居酒屋のママさんとの会話。

ママ「何年間かは払っているのに期間が足りないからもらえないなんて。
   私が払った保険料はどこいっちゃったのよ(怒)」

私 「民間の個人年金と違って、国の年金は今働いている人が
   今のお年寄りを支える仕組みになっているんですよ。つまり、
   自分が払ったお金を自分の老後のために積み立てるのではなく、
   基本的にはその時その時で回しているだけなんですよ」

ママ「そんなの成り立つわけないじゃない。少子高齢化になるのは
   何十年も前からわかってた話でしょ」

私 「ここまで少子高齢化が進むとは予想できなかったと思いますよ。
   それに、自分のために積み立てる制度だと、何十年間もの資産運用が
   必要なので、それはそれで大変なんですよ。生保が何社も潰れてますよね」

ママ「だけど、そんな成り立たないものに保険料を払わなきゃならないなんて、
   おかしいじゃない。誰が決めたのよ」

私 「成り立たないって、そりゃ保険料が上がったり、給付が遅くなったりしてるけど、
   成り立ってるじゃないですか。今の高齢者は年金もらってるんだから。
   ママさんも年金制度があったほうがいいって思うでしょ」

ママ「そうだけど、使い込みや不正なんかで私の保険料が使われてるし。
   そうやって使っちゃったから年金が成り立たないんでしょ」

私 「確かにずさんな運営は問題だけど、少子高齢化でバランスが崩れ、
   年金の財源が足りるかどうかとは全く別の話ですよ。
   金額のレベルも全然違うし」

ママ「でも、足りなくなったうちの一部分は不正に使った分でしょう。同じことよ。
   私が何年間も払ったのは確かなのよ。ちょっと年数が足りないから
   年金は出ませんだなんて。そんなの詐欺じゃない」

私 「気持ちはわかるけど、一定の期間を払った人がもらえるといった
   ルールにしないと、それこそ年金制度が成り立たないじゃないですか」

ママ「いいえ、これは詐欺だわ」

---
そんな感じでママさんは理解も納得もしてくれませんでした。
私は普段、わかりにくい保険の話をかみ砕いて説明する機会が多いのですが、
今回はあえなく撃沈してしまいました。

もしかしたら「年金」という言葉を使わずに、「たすけあい」と説明したほうが
よかったのかもしれません。「昔助けた人が今助けてもらう仕組みなんですよ」と。

とはいえ、かんぽの宿問題でもそうでしたが、世の中、理屈よりも感情に
支配されることがかなり多いように感じます。難しい問題ですね。

※写真はその居酒屋で食べた初サンマです。

 

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地震動の予測地図

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政府の地震調査委員会は21日、「全国地震動予測地図」を作成し、
公表しました。

地震調査研究推進本部のHPへ

地震調査委員会ではこれまでも「全国を概観した地震動予測地図」を
公表してきましたが、今回の予測地図ではメッシュサイズの細分化
(1km四方→250m四方に変えることで、きめ細かく表現)や、
地震カテゴリーごとの確率論的地震動予測地図の作成
(備えるべき地震がどのようなカテゴリーのものかわかりやすくなった)
などの改良が行われています。

今回の予測地図によると、横浜(市役所付近)で今後30年以内に
震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(平均ケース)は66.7%、
千葉(同)は64.0%、大阪(同)は59.5%と、前回よりも大幅に上昇しています。
これは、低地における揺れの増幅率が大きく評価されるようになったため
(市役所はたいてい低地にあります)だそうです。

「今後30年以内に震度6以上の揺れに見舞われる確率が60%」
と言われても普通の人はピンときませんよね。
合わせて公表された解説のなかに、地震など自然災害の発生確率と、
事故や犯罪等の発生確率を比べた表がありました。

事故死や病死の可能性とは違い、地震の発生確率は、
あくまで地震そのものが発生する確率であり、地震による損害が
どの程度の確率で発生するかを示したものではありません。

それでも、「100年に1度の危機」とか言われるなかで、
それよりもはるかに高い確率であることが理解できます。

※写真は台湾の衛兵交代です。

 

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都市部の生保営業

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「大手生保、都市部で営業部門増強」(7/20日経)
「生保レディー 土曜も訪問 日生、選択出勤で営業強化」(7/15産経)
「明治安田生命が『保険難民』開拓 サイトと営業職員連動」(7/14 FujiSankei)

かつて生保レディーといえば、昼休みなどに職場に入り、
その会社の社員と親しくなって保険を売るのが当たり前の姿でした。
私が昔勤めていた職場にも、大手生保の営業職員が出入りし、
同僚たちと仲良く雑談していました(私には不思議でしたが)。

そんな光景も今は昔。今でも大企業で出入りが認められている職場は
どのくらい残っているのでしょうか。
バブル崩壊後の生保の販売不振は可処分所得の低迷や
少子化、晩婚化といった需要サイドの問題だけではなく、
職域営業が壊滅的な状態に陥ったことも大きいと見ています。

上記の記事のように、固定給職員による説明会を通じた販売や
土曜出勤の許可、比較サイトと営業職員の連携など、
大手生保は訪問営業が難しくなっている都市部での営業を
何とか立て直そうと試みているようです。

ただ、大勢の見込み客を抱えることのできた職域セールスと違い、
「説明会」や「土曜出勤」で見込み客を確保できるのでしょうか
(「比較サイトとの連携」は興味深いです)。

※写真はこの週末のイベントです(親バカですみません)。

 

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芸能人の年金制度廃止

 

出張で大阪にいるからというわけではありませんが、
今回は芸能人の年金制度廃止について。

芸団協が運営してきた年金共済制度がこの6月に廃止になった
というニュースが各紙(朝日、毎日、読売)に載っていました。
「法改正や景気悪化で運営が難しくなったため」(朝日)とのことです。
ここで言う「法改正」とは、無認可共済への規制を入れた保険業法の改正と、
公益性の認定を厳しくした公益法人改革です。

共済事業を運営している公益法人は現在1000近くあるそうですが、
一般法人に移行すると、事業は自動的に無認可共済になります。
ただ、保険会社となるにはハードルが高いため、今回のように
共済制度を廃止するところが大半と見られています。

朝日の記事には、
「掛け金を随時減らせるなど柔軟性の高い商品設計を
 そのまま引き継ぐのは無理、と保険会社に言われた」
とありました。

確かにそのような商品設計は難しそうですが、
互助会的な共済事業にも規制の網をかぶせた以上、
それに代わるような手段を保険会社に提供してもらわなければ
困りますよね。保険会社の商品開発に期待したいものです。

この「芸団協」には95000人の芸能人が所属しているそうですが、
年金制度の加入者は2859人、受給者は2158人とのこと。
所属数と制度利用者のギャップが大きいのがちょっと気になりました。

「全体の56%が年収400万円を下回っている」というデータには
なんとなく妙な納得感がありました。

※写真は大阪・淀屋橋です。

 

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金融商品会計の見直し案

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7/14(火)に国際会計基準の金融商品会計(IAS39)の
見直し案が発表されました。
G20から「わかりやすく見直しを」と求められていたものです。

日本は現在、国際会計基準(IFRS)を採用しているわけではありません。
ただ、ここ数年、IFRSに沿った会計の見直しを進めてきました。
さらに、2012年にはIFRS採用の是非を決断することになっています。

現在の基準では、価格変動の影響が次のように示されます。
 「満期保有」→ 取得原価で評価。B/S、P/Lは基本的に動かない
 「売買可能」→ 時価評価。B/Sに資本直入(P/Lは減損のみ反映)
 「トレーディング」→ 時価評価。P/Lが変動

日本の財務会計は、おおむねIFRSと同じです。
「売買可能」は日本では「その他有価証券」区分です
(もっとも、保険会社だけが使える「責任準備金対応債券」という
 日本独自の区分もありますね…)。

見直し案では区分を2つに集約するようです。
 「取得原価」= 債券は基本的にこちら。B/S、P/Lは基本的に動かない
 「時価評価」= 株式は基本的にこちら。P/Lが変動
          (正確にはP/Lまたは「包括利益」に計上)

これまで株式は「売買可能(=P/Lは減損のみ)」が認められていました。
しかし、見直し案ではそもそもこの区分がなくなります。
戦略株式のための区分も別途設けられるようですが、こちらでは
時価変動だけではなく、配当も売買損益も反映しないそうです。

新聞や雑誌には「持ち合い株式を抱える日本企業に大きな影響」
「株式売却で利益を捻出できなくなる」などとありますが、
保険会社の経営にどの程度の影響があるのかはよくわかりません。
ただ、株式含み益に依存した経営が一段と難しくなるのは確実ですし、
株式を持ちにくくなるような感じもします。

重要なのは、日本をはじめ従来の会計が「繰延アプローチ」
つまり期間損益を重視しているのに対し、
IFRSは「資産・負債アプローチ」を採用している点です。

 資産の増減 - 負債の増減 = サープラスの増減 = 期間損益

という考え方で、B/Sの変化が期間損益、というものです。
株価の変動はそのまま期間損益につながりますし、
減損や益出しといった発想はありません。

従来の会計基準とIFRSでは、そもそもの考え方が根本的に違うということと、
日本も無関係ではないということだけでも押さえておいたほうがいいと思います。

ご参考までに、今週の週刊ダイヤモンドはIFRS特集です。
まだ読んでないので中身はわかりません…m(_ _)m

※写真は台湾の市場です。

 

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