12. セミナー等の感想

東日本大震災発生から1年

 

あれから1年といっても、過去を振り返るというよりは、
まだまだ現在進行形という感じがします。

さて、1周年ということで、日本保険学会関東部会は10日、
特別シンポジウム「東日本大震災と保険」を開催しました。

第1部は「実務家からの報告」ということで、日本損害保険協会、
生命保険協会、JA共済連からのスピーチ。
第2部は4人の保険研究者からの報告。
最後に登壇者全員によるパネルディスカッションという構成でした。

パネルディスカッションの時間が短かったのは残念ですが、
それでも研究者と業界のやり取りは、私自身がいろいろと考える
きっかけとなり、ありがたかったです。

例えば、早稲田大学の大塚英明先生は次のように主張します。
・政府は地震保険ではなく、被災者生活再建支援制度の枠組みで
 関与すべき(=政府は地震保険からは手を引く)
・JA共済ができることを損保はなぜできないのか

これに対し、損保協会の栗山泰史さんは反論します。
・日本の地震リスクの出再先は政府以外にない
・損保の責任額は大きく、かつ、共済のような閉じた世界ではない 

他にも「支払いトリガー」や「セットとして別売り」への疑問など、
栗山さん、お疲れさまでした、といったところでしょうか^^

死亡や失業などヒトのリスクに対しては各種の公的保障があります。
しかし、住まいについては被災者生活再建支援制度(最大300万円)
くらいしかありません。
そこで、この制度を住宅再建支援に広げるという議論はありそうです。
ただ、それがどの程度現実的な話なのか、私にはよくわかりません。

他方、現在の地震保険制度は政府が関与しているとはいえ、
加入者の保険料ですべてを賄う仕組みとなっています。
長い期間で考えれば、政府は引受リスクを負っているのではなく、
タイミングリスクを受けていると考えるべきなのでしょう。

栗山さんの肩を持つというわけではありませんが、
「(民間の枠組みで)JA共済ができるのだから、損保もできるはず」
というのは、現状の国際再保険市場をみるとなかなか厳しそうです。

家計地震のリスクを再保険市場に出していない現状でさえも、
日本の自然災害リスクに対する再保険カバーの安定的な確保は
損保にとって死活問題になっています。

言い換えれば、日本の損保は国際再保険市場への依存度が
非常に高いという事業構造になっているのです。

また、今回の地震保険支払金額は1.2兆円に上ったとはいえ、
都市部が少なかったため、この金額で済みました。
首都直下型では3兆円、関東地震では5.5兆円となるそうです。

他方、JA共済が今回8400億円もの支払いとなったのは、
もちろん建物更生共済で地震リスクを引き受けているからですが、
顧客基盤が都市部ではないという面も大きそうです。

日本の損保が自然災害リスクの引受能力をさらに高める余地は、
私にはあると思います。自社のリスク許容度を踏まえたうえで、
ビジネスとしてどのリスクをどの程度選好するのかという話です。

しかし、被災者支援を安定的に提供できるほどのキャパシティーを
政府ではなく、国際再保険市場に求めるというのは、
あまり現実的な話ではないように思えます。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※横浜の伊勢山皇大神宮です(1月)。
 皆さん何をお祈りしたのでしょうね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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ア会の年次大会

 

日本アクチュアリー会の年次大会がありました(8&9日)。

プログラムを見ると、「ERM」や「経済価値ベース」に関する
テーマが例年以上に多かったように思います。
ただ、今年は直前に想定外の仕事が入ってしまったため、
実のところほとんど顔を出すことができず、残念でした。

唯一きちんと聞けたのが、最後の時間帯に行われた
「ECを計算すればERMとして充分か?」でして、
これが非常に興味深い講演でした。

講演者の住谷貢さんはアクサ生命のCFOです。
実際にERMを行っている立場からのスピーチということもあり、
説明が具体的、かつ、説得力がありましたね。

話を伺うと、保険会社のリスク管理には保険数理よりも
むしろファイナンスの知識が必要なように思えました。
リスク管理のツールとしてデリバティブの知識は必須とのことです。

「リスク・ポリシー」の話も納得でした。
「取るリスクと取らないリスクを選別」を突き進めると、
結局のところ「コアビジネスは何か」という話になります。
ERMが経営そのものであることがよくわかりますね。

※写真のトンネルは東横線の横浜と反町の間にあったもの。
 右の写真はかつて反町駅があった場所です。
 

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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保険をめぐる二つの世界

 

昨日(5日)明治大学で、日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
研究発表大会がありました。

保険や年金に関する様々な研究発表がありましたが、
最も刺激的だったのは、一橋大学・米山高生教授の
特別講演ではなかったでしょうか。

タイトルとなっている「保険をめぐる二つの世界」とは、
「伝統的な保険論」と「リスクマネジメント&保険」です。

「伝統的な保険論」は供給者の視点に立っており、
収支相等の原則からはじまる保険論です。
予定調和的な世界を前提にしており、
価格は保険数理による決定論的な世界で決まります。

これに対し、「リスクマネジメント&保険」は需要側から
マーケット(=自由競争)を前提に考えるものです。
予定調和ではなく不確実な世界であり、
価格は確率論的な世界で決まります。

そして、
「伝統的な保険論では解決できない問題や苦手とするテーマも
 需要側からマーケットを前提に考えると解決できる」

「今後の保険教育は伝統的な保険論(保険数理を含む)に加え
 リスクマネジメント&保険、金融工学、コーポレートファイナンス
 の4領域が主軸になる」

というのが先生の結論だったようです。

保険数理の専門家がリスクの専門家になれるかどうか。
アクチュアリー会でも話していただいたらいいかもしれませんね。

※写真は第三京浜の高架橋なのですが、格付けに見えてしまいます^^

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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JARIPフォーラム

開催中に大震災に見舞われ、やむなく中断した
日本保険・年金リスク学会(JARIP)主催のフォーラム
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」ですが、
2カ月たって再度開催することができました(23日)。

今回私はパネリストのほか、恥ずかしながら基調講演を務めました。

パネリストの顔ぶれは、明治大学の松山直樹さんを除けば
週刊金融財政事情の誌上座談会と同じです。
もともとはリアルな座談会の後、誌上座談会に突入する予定でしたが、
これは仕方がありません。

モデレータの森本祐司さんが挙げた論点を再度ご紹介しましょう。

1.ソルベンシーⅡ、特に経済価値ベースの評価を基準にした
  自己資本比率規制が、保険会社のERMにどのような影響を
  与えると考えるか。

2.経済価値ベースの規制の導入=保険会社ERMの進展と
  なるのか?懸念点はないか?

3.ERMのサクセスファクター/望ましいERMの実現に向けて
  優先的に実施すべきは?

私以外のパネリストの皆さんは、実際に保険会社のなかで
ERMを実践している、あるいは実践してきたかたなので、
体験に基づいた話は大変参考になります。

水を飲む気のない馬に、水を飲ませることはできません。
飲む気にさせるにはどうしたらいいか。
いろいろな方法を考えていく必要がありそうです。

ご参考までに、本日(24日)こちらが公表となりましたので、
リンクしておきます。 → 金融庁のHPへ

※あくまで個人的なコメントということでお願いします。

 

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大震災発生のとき

今回の大震災で被災されたかたには、心よりお見舞い申し上げます。

地震発生のとき、私は日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」フォーラムに参加するため、
東京・丸の内の日本工業倶楽部3階大ホールにいました
(パネリストとして登場する予定でした)。

開催を告知してからわずか3日間で締め切りという人気で、
会場には大勢の参加者がぎっしり座っていました。

3人目のスピーカーとして東京海上のTさんが登場してから
10分くらいでしょうか。実のところ、それほど大きい揺れとは
感じなかったのですが、ゆっくりした揺れだなあとは思いました。
スピーカーのTさんも異変に気づき、話を中断。

しばらくしてから、どなたか(たぶんホールの係の人)から
「シャンデリアの下にいる人は離れて下さい」という声。
この会館は経済界のクラシックな社交場という雰囲気で、
大ホールの高い天井には見事なシャンデリアがあるのです。

皆さんがあわてて席を離れた直後のことです。
大きく揺れていたシャンデリアの1つが壊れ、一部が落下しました。
もし誰も声をかけず、そのまま下に人がいたらと思うとぞっとします。

実のところ私は「まさかこの程度の揺れで落ちることはないだろう」
と考えていたので、本当にびっくりしました。

結局、フォーラムは中止となり、私はパネリストから帰宅難民へと
立場が大きく変わってしまったのですが、いざ事が起きてしまうと、
状況を正確に判断し、的確な対応をすることがいかに難しいかを
思い知りました。

 

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最終講義

 

博士課程で大変お世話になった早稲田大学・西村吉正先生
(「住専問題」の時の大蔵省銀行局長ですね)の
最終講義がありました(5日)。

タイトルは「世界史における日本の位置づけと金融の将来」。
西洋史学科出身の私には興味津津です。

「経済力(GDP)」=「人数(人口)」×「単価(1人当たりGDP)」とすると、
経済力の拡大は「人数増加」「単価上昇」のいずれかでとなります。

過去2000年間(!)の歴史を振り返ってみると、
経済力は「人数」で決まっていた時代が長く続いていましたが、
19世紀半ばあたりから、欧米が単価を高めることで先進国となり、
現在に至っています。

しかし、単価を高めることができるのは欧米だけではなく、
日本も戦後に高度成長を実現し、今は中国がそうです。
この結果、世界は再び「人口」が経済力を左右する時代に
回帰しているというわけです。

そのようななかで、日本はどうするか。
人口が減るなかでは単価アップで勝負するしかありません。

現在の「高付加価値のモノづくり」からさらに単価を上げるには、
「金融立国」、すなわち、「ヒトの上前をハネる力」を
持てるかどうかが鍵となります。

それには、つまるところ日本人の競争力を高めることが
必要というわけです。

これだけ大局的な話を具体的なデータをもとに、
かつ、冷静に分析してみせるところに、
西村先生のすごさを感じました(お世辞抜きで^^)。

会場の大教室にはシニア世代から現役の院生まで
大勢が集まりました。金融関係者もたくさんいた模様です。

※今回は珍しく写真と内容が合ってますね(苦笑)

 

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女性アクチュアリー

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17(水)、18(木)は日本アクチュアリー会の年次大会でした。
18日は自分の関係するERM委員会主催のプレゼンのほか、
解約返戻金のパネルディスカッションなどにも参加して、
頭が疲れてへとへとになりました^^

数々の発表やパネルのなかで異色だったのは、
「アクチュアリー・キャリアの考察」というパネルでしょう。
(「女性アクチュアリーの視点から」という副題付き)。

あいにくERM委員会主催の発表と重なってしまい
参加はできなかったのですが、発表資料を見たところ、
「女性アクチュアリーに関する現状」に衝撃的なデータがありました
(アクサ生命の谷川香さんによるもの)。

日本アクチュアリー会の会員数(正会員、準会員、研究会員)は
2010年9月末時点で4466人。このうち女性はわずか228人です
(構成比は5.1%)。
正会員はもっと少なく、1255人のうち21人しかいません(同1.7%)。

他の資格の状況を見ると、医師は17.7%、SEは11.5%、
裁判官・検察官・弁護士は10.6%、会計士・税理士は11.1%、
教員は48.4%とのこと。
いずれも5年前のデータなので、今はもっと高いかもしれません。

確かに男ばかりだなあとは思っていましたが、
ここまで女性が少ないとは。

女性の話に限らず、日本の保険会社や信託銀行の経営者は
「多様性」の重要さについて、もっと真面目に考えたほうがいいと思います。

※写真は豊川稲荷のキツネさんたちです。

 

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保険学会70周年記念大会

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日本保険学会の70周年記念大会が
23(土)、24(日)に早稲田大学で開催されました。

初日の午後は例年通りシンポジウムで、
今年のテーマは「保険販売の今後を考える」。

早稲田大学の大塚英明先生、日本生命の樫原英男さん、
保険代理店トータスウィンズの亀甲美智博社長、
ライフネット生命の出口治明社長、
三井ダイレクト損保の北尾敏明さんの5人が
それぞれの持論を語り、意見を交わしました。

このテーマでこの顔ぶれですと、予想通りではありますが、
「情報開示」や「比較情報」の話になります。

日本生命の樫原さんは、
「シンプルでわかりやすく、かつ、充実した保障の提供が必要」
「ただ、特に生前給付型の商品では、充実した保障を提供しようとすると
 商品が複雑になりがち(=商品比較には慎重姿勢)」。

これに対し、亀甲さんや出口さんは、
「枝を捨て幹で比べれば、大きな選択ミスはしない」
「ただし、それには捨てる技術が必要」
という主張でした。

ポイントは「条件をどこまでそろえることができるか」なのでしょう。

出口さんのプレゼンには、これからの大きな課題である
「ベストアドバイス義務をどう担保するか」の一例として、
ニューヨーク州が販売コミッションの開示に踏み切った
(2011年から施行)という紹介がありました。

ニューヨーク州では、購入者が求めた場合には、
保険募集人は得られる報酬の種類、金額、源泉と、
募集人が提示した他の保険契約を販売した場合に
受け取る報酬について開示しなければなりません。

「ベストアドバイス義務」と「それをどう担保するか」は
確かに今後の保険販売を考えるうえで重要なテーマでしょう。

「保険販売」というテーマが学会の年次大会で
ふさわしいのかどうかは、私にはよくわかりませんが、
興味深いシンポジウムでした。

 

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差額ベッド料

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名著「医療保険は入ってはいけない」で有名なFP
内藤眞弓さんのセミナーに出席しました。

テーマは「今さら聞けない健康保険と民間医療保険の話」。
彼女が代表を務める「日本の医療を守る市民の会」
としてのスピーチだったので、会場には医療関係者なども
たくさん出席していたようです。
日本の医療を守る市民の会HPへ

スピーチのなかで「差額ベッド(特別療養環境室)料は
希望しないとかからない」という話がありました。

患者に同意書による確認を行っていない、あるいは
治療上や病棟管理の必要がある場合には、
病院は差額ベッド料を請求してはいけないのだそうです。

すると、質疑応答の時間に、ある医療関係者のかたから
ショッキングなコメントがありました。

救急車で急患を搬送していると、救急病院はしばしば
「差額ベッドでよければ受け入れる」と言い、
患者がOKと言わないと入院させてくれないのだそうです。

しかし、実際には普通のベッドも空いていることが多く、
かなりひどい病院もあるとのこと
(そのかたは具体名を複数挙げていました)。

この話がどの程度一般的なのか、ごく一部の例なのかは
私にはわかりません。

ただ、病院の経営環境がかつてに比べて厳しくなっているなかで、
儲かる患者を優先的に受け入れたいというインセンティブはあるはず。
厚生労働省が単に注意を促すだけではなく、
病院経営の実態をチェックしているのか、気になるところです。

差額ベッド料に限らず、医療の最新事情について
もっと勉強しなければいけませんね。

※写真は丸ノ内オアゾにあるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の
 情報センターです。JAXAのOBが丁寧に解説してくれました。
 事業仕分けの影響でもうすぐ閉鎖されてしまうそうです。残念。

 

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木を見て森も見る

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7/28に損保総研でIAIS(保険監督者国際機構)
河合美宏事務局長のスピーチを聞く機会がありました。
テーマは「国際保険規制の最近の進展2010」です。

金融危機以降の国際的な金融・保険規制の動向
(基本的に銀行を念頭に置いて議論が進んでいるとのこと)や、
IAISの主な活動(コムフレームなど)についての紹介がありました。

そのなかで出てきたのが「木を見て森も見る」という話です。

規制当局はこれまで個々の保険会社を監督してきましたが、
それだけでは十分でないことが金融危機で明らかになり、
保険業界全体に目配りする必要があるといった趣旨の話です。

確かに、ある保険会社が経営危機に陥った際には、
別の保険会社にも影響が及ぶおそれがありますよね。
あるいは、もし保険会社が一斉に株を大量に売りだしたら、
株価が急落し、場合によっては金融システムの動揺を招いてしまいます。

こうしたことも視野に入れて監督すべきということなのですが、
いざ取り組むとなると、どうしたらいいか考えてしまいます。

※いつものようにコメントは個人的なものです。

 

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