12. セミナー等の感想

最終講義

 

博士課程で大変お世話になった早稲田大学・西村吉正先生
(「住専問題」の時の大蔵省銀行局長ですね)の
最終講義がありました(5日)。

タイトルは「世界史における日本の位置づけと金融の将来」。
西洋史学科出身の私には興味津津です。

「経済力(GDP)」=「人数(人口)」×「単価(1人当たりGDP)」とすると、
経済力の拡大は「人数増加」「単価上昇」のいずれかでとなります。

過去2000年間(!)の歴史を振り返ってみると、
経済力は「人数」で決まっていた時代が長く続いていましたが、
19世紀半ばあたりから、欧米が単価を高めることで先進国となり、
現在に至っています。

しかし、単価を高めることができるのは欧米だけではなく、
日本も戦後に高度成長を実現し、今は中国がそうです。
この結果、世界は再び「人口」が経済力を左右する時代に
回帰しているというわけです。

そのようななかで、日本はどうするか。
人口が減るなかでは単価アップで勝負するしかありません。

現在の「高付加価値のモノづくり」からさらに単価を上げるには、
「金融立国」、すなわち、「ヒトの上前をハネる力」を
持てるかどうかが鍵となります。

それには、つまるところ日本人の競争力を高めることが
必要というわけです。

これだけ大局的な話を具体的なデータをもとに、
かつ、冷静に分析してみせるところに、
西村先生のすごさを感じました(お世辞抜きで^^)。

会場の大教室にはシニア世代から現役の院生まで
大勢が集まりました。金融関係者もたくさんいた模様です。

※今回は珍しく写真と内容が合ってますね(苦笑)

 

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女性アクチュアリー

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17(水)、18(木)は日本アクチュアリー会の年次大会でした。
18日は自分の関係するERM委員会主催のプレゼンのほか、
解約返戻金のパネルディスカッションなどにも参加して、
頭が疲れてへとへとになりました^^

数々の発表やパネルのなかで異色だったのは、
「アクチュアリー・キャリアの考察」というパネルでしょう。
(「女性アクチュアリーの視点から」という副題付き)。

あいにくERM委員会主催の発表と重なってしまい
参加はできなかったのですが、発表資料を見たところ、
「女性アクチュアリーに関する現状」に衝撃的なデータがありました
(アクサ生命の谷川香さんによるもの)。

日本アクチュアリー会の会員数(正会員、準会員、研究会員)は
2010年9月末時点で4466人。このうち女性はわずか228人です
(構成比は5.1%)。
正会員はもっと少なく、1255人のうち21人しかいません(同1.7%)。

他の資格の状況を見ると、医師は17.7%、SEは11.5%、
裁判官・検察官・弁護士は10.6%、会計士・税理士は11.1%、
教員は48.4%とのこと。
いずれも5年前のデータなので、今はもっと高いかもしれません。

確かに男ばかりだなあとは思っていましたが、
ここまで女性が少ないとは。

女性の話に限らず、日本の保険会社や信託銀行の経営者は
「多様性」の重要さについて、もっと真面目に考えたほうがいいと思います。

※写真は豊川稲荷のキツネさんたちです。

 

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保険学会70周年記念大会

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日本保険学会の70周年記念大会が
23(土)、24(日)に早稲田大学で開催されました。

初日の午後は例年通りシンポジウムで、
今年のテーマは「保険販売の今後を考える」。

早稲田大学の大塚英明先生、日本生命の樫原英男さん、
保険代理店トータスウィンズの亀甲美智博社長、
ライフネット生命の出口治明社長、
三井ダイレクト損保の北尾敏明さんの5人が
それぞれの持論を語り、意見を交わしました。

このテーマでこの顔ぶれですと、予想通りではありますが、
「情報開示」や「比較情報」の話になります。

日本生命の樫原さんは、
「シンプルでわかりやすく、かつ、充実した保障の提供が必要」
「ただ、特に生前給付型の商品では、充実した保障を提供しようとすると
 商品が複雑になりがち(=商品比較には慎重姿勢)」。

これに対し、亀甲さんや出口さんは、
「枝を捨て幹で比べれば、大きな選択ミスはしない」
「ただし、それには捨てる技術が必要」
という主張でした。

ポイントは「条件をどこまでそろえることができるか」なのでしょう。

出口さんのプレゼンには、これからの大きな課題である
「ベストアドバイス義務をどう担保するか」の一例として、
ニューヨーク州が販売コミッションの開示に踏み切った
(2011年から施行)という紹介がありました。

ニューヨーク州では、購入者が求めた場合には、
保険募集人は得られる報酬の種類、金額、源泉と、
募集人が提示した他の保険契約を販売した場合に
受け取る報酬について開示しなければなりません。

「ベストアドバイス義務」と「それをどう担保するか」は
確かに今後の保険販売を考えるうえで重要なテーマでしょう。

「保険販売」というテーマが学会の年次大会で
ふさわしいのかどうかは、私にはよくわかりませんが、
興味深いシンポジウムでした。

 

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差額ベッド料

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名著「医療保険は入ってはいけない」で有名なFP
内藤眞弓さんのセミナーに出席しました。

テーマは「今さら聞けない健康保険と民間医療保険の話」。
彼女が代表を務める「日本の医療を守る市民の会」
としてのスピーチだったので、会場には医療関係者なども
たくさん出席していたようです。
日本の医療を守る市民の会HPへ

スピーチのなかで「差額ベッド(特別療養環境室)料は
希望しないとかからない」という話がありました。

患者に同意書による確認を行っていない、あるいは
治療上や病棟管理の必要がある場合には、
病院は差額ベッド料を請求してはいけないのだそうです。

すると、質疑応答の時間に、ある医療関係者のかたから
ショッキングなコメントがありました。

救急車で急患を搬送していると、救急病院はしばしば
「差額ベッドでよければ受け入れる」と言い、
患者がOKと言わないと入院させてくれないのだそうです。

しかし、実際には普通のベッドも空いていることが多く、
かなりひどい病院もあるとのこと
(そのかたは具体名を複数挙げていました)。

この話がどの程度一般的なのか、ごく一部の例なのかは
私にはわかりません。

ただ、病院の経営環境がかつてに比べて厳しくなっているなかで、
儲かる患者を優先的に受け入れたいというインセンティブはあるはず。
厚生労働省が単に注意を促すだけではなく、
病院経営の実態をチェックしているのか、気になるところです。

差額ベッド料に限らず、医療の最新事情について
もっと勉強しなければいけませんね。

※写真は丸ノ内オアゾにあるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の
 情報センターです。JAXAのOBが丁寧に解説してくれました。
 事業仕分けの影響でもうすぐ閉鎖されてしまうそうです。残念。

 

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木を見て森も見る

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7/28に損保総研でIAIS(保険監督者国際機構)
河合美宏事務局長のスピーチを聞く機会がありました。
テーマは「国際保険規制の最近の進展2010」です。

金融危機以降の国際的な金融・保険規制の動向
(基本的に銀行を念頭に置いて議論が進んでいるとのこと)や、
IAISの主な活動(コムフレームなど)についての紹介がありました。

そのなかで出てきたのが「木を見て森も見る」という話です。

規制当局はこれまで個々の保険会社を監督してきましたが、
それだけでは十分でないことが金融危機で明らかになり、
保険業界全体に目配りする必要があるといった趣旨の話です。

確かに、ある保険会社が経営危機に陥った際には、
別の保険会社にも影響が及ぶおそれがありますよね。
あるいは、もし保険会社が一斉に株を大量に売りだしたら、
株価が急落し、場合によっては金融システムの動揺を招いてしまいます。

こうしたことも視野に入れて監督すべきということなのですが、
いざ取り組むとなると、どうしたらいいか考えてしまいます。

※いつものようにコメントは個人的なものです。

 

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RINGオープンセミナー

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毎年恒例になっている「保険代理店の文化祭」、
RINGの会オープンセミナーが26日に横浜で開催されました。

このセミナーは今回が12回目。
毎年1000人弱が集まる一大イベントになっています。
全てRINGの会メンバー(主に代理店経営者)によるボランティア運営です。
運営に当たった皆さん、お疲れさまでした。

今回は転職直後ということもあり、私は企画やパネリスト依頼のみで、
当日は朝から晩までじっくりとセミナーを拝聴しました。

「プロ代理店は死滅の道を辿るのか?」というテーマは
ちょっと刺激的だったかもしれません
(ちなみに原案は「プロ代理店は死んだのか?」でした)。

この会に参加して下さる代理店や保険会社の皆さんは
ここでしか得られない刺激や気づきを求めているのでしょう。

結果的に今回は第1部~第3部とも、いずれも突き詰めれば
「専業代理店の存在意義」を考えさせられるような話になりました
(第1部の米山先生は光ってましたね...)ので、
このような刺激的なテーマを掲げてよかったのではないかと思います。

特に第2部と第3部は、いずれも「プロ代理店」を掲げたパネルでしたが、
コーディネーターの違い(あるいは個性)が、うまく作用したように感じました。

ただ、わかっていたことですが、このような刺激的なテーマを掲げてしまうと
次回が大変なんですよね。
とはいえ、来年も開催するのであれば、無い知恵を絞り、
参加者に刺激を与えられるような文化祭にしたいですね。

 

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ガバナンス研究

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先週末(22-23日)に日本ファイナンス学会の年次大会があり、
コーポレートガバナンスに関する2つの研究発表を聞きました。
いずれも実証分析です。

1つは「日本企業が独立取締役に何を期待しているか?」
という早稲田大学商学部の広田真一先生の発表です。

日本の独立(≒社外)取締役は特定のステークホルダー
(株主など)の代表というより、ステークホルダー全体の
代表であるという分析結果が示されました。

さらに、日本で独立取締役の導入が進まない理由は、
マスメディア等の通説である「経営者の保身」ではなく、
従業員をも含めた企業内部者の抵抗、という分析もありました。

ステークホルダーにはもちろん従業員も含まれますが、
日本企業の場合、外部ステークホルダーと内部ステークホルダーに
分けて考えるというのも確かに一つのアイディアだと思います。

もう1つは「日本企業の取締役会構成の決定要因」という、
京都産業大学・齋藤卓爾先生の発表です。

日本企業で取締役がどのように選ばれるかに注目したうえで、
社外取締役と企業属性(規模、R&D比率など)の関係を分析し、

「社外からのアドバイスは好むが、モニタリングは好まない」

という日本企業の選好が取締役会構成に反映されているという
興味深い結論を示されていました。

日本でも社外取締役が増えたとはいえ、海外に比べれば圧倒的に少なく、
しかも経営者が選定に強くかかわっていることが多いようです。
委員会設置会社についても、社外取締役が中心の指名委員会を
導入した会社はごく一部です。

お二人の発表から感じたのは、海外に比べ、日本企業の
ガバナンス構造がかなり特殊な状態にあるということです。
うまくいっている時代はよかったのかもしれませんが、
今は明らかに問題のほうが大きいように思います。

ただ、日本企業のガバナンスに問題があるのがわかっても、
アメリカなど海外の仕組みをそのまま導入しただけでは
あまり役に立たないのかもしれません。
どのような制度設計がいいのか、難しい問題です。

 

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RIS2009全国大会

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RIS(全国保険学ゼミナール)2009の全国大会が
日本大学商学部でありました。
全国の大学でリスクと保険について学んでいる
大学生が日大に集まり、研究成果を発表するという
いわば大学生の学会です。

RISのHPへ

2日間にわたる大会のうち、私は都合により2つの発表しか
参加できなかったのですが、予稿集のタイトルや発表要旨をみると
興味深そうなものがたくさんありました。

例えば、「CDSの問題点と今後の対応(大分大学)」
「かんぽ生命の未来(早稲田大学)」といった時事的なテーマや、
「国民年金の財源問題について(近畿大学)」
「失業者と雇用保険~世界経済不況の影響~(日本大学)」
「大学における資産運用のリスクマネジメント(一橋大学)」
といったテーマもあり、大学生の関心分野が伺えます。

私が参加した発表のうち、
「損害保険会社の海外進出の評価(東京経済大学)」は
非常にレベルが高かったです。

まず海外進出の現状を整理したうえで、
仮説を立て、株価データなどを使って実証分析を行い、
さらに大手損保3社へのインタビューも実施したうえで、
「(海外進出に対する)株主と会社の考え方に違いがある」
というまとめをしていました。

サンプル数が少ないことや分析結果の解釈など
荒削りな部分も多いとはいえ、これだけしっかりした分析と
発表ができる学生さんたちがいるんだなあと、
久しぶりにうれしくなりました。

今の大学生は3年になったら就職のことを考えなければならず、
専門性を磨く余裕がますますなくなっているようです。
そのような厳しい環境のなかでも、頑張って勉強している
RISの皆さんにエールを送りたいと思います。

 

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パネルディスカッション(続き)

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前回に続き、日本アクチュアリー会年次大会の
パネルディスカッションのお話。

4人のパネリストのうち、鳥居さん(ニューメディカルテクノロジーズ)の
プレゼンが最もインパクトが強かったのではないでしょうか。
公開されているスライドを見れば、おわかりいただけると思います。

ニューメリカルテクノロジーズのHPへ

例えば「情報の非対称性」のところでは、
「先んじて情報に接する個人」(=JPモルガンやゴールドマンといった、
並外れたカリスマ型トップを戴くワンマン経営に近い組織)だけが危機を回避し、
「遅れて情報に接する組織」は避けられなかったとのこと。

大半の「遅れて情報に接する組織」ができることはいったい何でしょうか。

もっとも、最後に会場から「アングラ的な裏情報に接していたから?」
という質問があり、鳥居さんからそれに近い回答があったわけですが、
これはちょっと話が違うように思いました。

というのも、プレゼンではJPモルガンのCEOが、
「CDSとCDOの市場動向から異常を察知し、ポジション縮小を判断した」
という話だったので、トップの判断力・行動力には脱帽ですが、
「裏情報に接することができたから危機を回避した」わけではないと思います。

ゴールドマンについても、他社が見落とすような市場の動きから
今回の危機を最小限にとどめたというエピソードを聞いたことがあります。
いずれも裏情報云々ではなく、情報をトップがどう使ったか、なのでしょう。

ストレステストの話もありました。
いま世間では、「VaRでは役に立たないから、ストレステスト、
特に仮想シナリオ方式のストレステストが重要」という流れになっています。

しかし、大半の人が「そりゃあり得ない」「本当に起こるの?」
と言われそうなシナリオ(=AAA債券が暴落する)判断がなければ
JPモルガンは今回の危機を避けられなかったわけです。

鳥居さんは思考実験として
「日本国債のクラウディングアウト」を取り上げていますが、
「行き着くところ経済ホラー小説との区別がつかない」
とコメントしています。

こういったことを頭の片隅に置いたうえで、それでも何らかのツールを使って
リスク管理をしていかなければならない、というのが結論なのでしょう。
皆さんの受け止め方はいろいろだと思いますが、すごいプレゼンでした。

※会場は経団連会館のホールでした。
 新しくなってから初めて行きましたが、きれいになりましたね。

 

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日経センターの金融研究報告

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日本経済研究センター・金融研究班の報告書について
深尾光洋理事長(慶応大学教授)の話を聞きました。

日経センター・金融研究のHPへ

報告書の概要は10/28(水)の日経「経済教室」にも掲載されています。

今回は「世界不況下の銀行・生保経営」というテーマで

・落ち込む経済と金融市場動向
・再び悪化する銀行経営
・変わる時代と生命保険経営

の3つの論文が発表されました。
例えば生保の論文では、健全性指標の修正版のほか、
相互会社の株式会社化や、生保・共済の経営分析などがあり、
短期間かつ少人数でよくまとめたなあと感心しました。

それにしても、「大手行の自己資本状況」という表を見ると、
みずほFGのコアTierⅠ資本の少なさが際立っていることが
改めて確認できます。

日本のメガバンクは前回の危機からのリハビリ中だったこともあり、
今回の危機では欧州の金融機関ほど経営が揺らいでいません。
それにもかかわらず、国際的な自己資本規制強化の流れのなかで、
「大幅な普通株増資を迫られる可能性がある」(報告書P69より引用)
というのはなかなか辛いものがあります。

深尾先生のスピーチのなかには、米国出張の報告もありました。
当初は金融規制改革のなかでFRBの権限を強化し、
業態ごとバラバラな規制の一元化を図る案だったはずですが、
現在の政治状況ではそれが難しくなっているとのこと。

BIS規制の見直しも、G20の枠組みのなかでは合意が難しく、
「あと2年ではできっこない」という関係者のコメントを紹介していました。

 

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