2020年 7月 の投稿一覧

2020年の生保総代会

今回のALS患者嘱託殺人はいろいろと考えさせることが多い事件だとは思います。さらに、医師免許の不正取得なんて話も飛び出しました。
ただ、この事件に限らず、捜査関係者から情報がポロっ、ポロっと出てくるのは、何だかすっきりしません。かんぽ生命の入検情報を漏らすのはダメで(絶対ダメだと思いますが)、同じく公務員である捜査関係者がメディアに情報を漏らすのはOKとされているのは、どうしてなのでしょうか。

委任状による出席が大半

さて、国内系生保のうち6社は相互会社で、いずれも7月2日に総代会を開いています。
相互会社には株主が存在せず、株主総会にあたるのが、社員(契約者)のなかから選ばれた総代が構成する総代会です。総代会では剰余金の処分、定款の変更、取締役の選任などを決議します。

6社の議事録や質疑応答の要旨が公表されたので、確認してみました。
まず例年と大きく異なるのは、リアルな主席者の数です。

日本生命 出席198名(うち委任状141名)
住友生命 出席175名(うち委任状121名)
明治安田生命 出席218名(うち委任状213名)
朝日生命 出席148名(うち委任状138名)
富国生命 出席115名(うち委任状86名)

これを見ると、明治安田生命ではリアルな出席者は5名だったということですね。
日本生命の場合、「委任状による出席者のうち、117名については、支社または東京本部(丸の内ビル)等にて、社内衛星放送を通じ総代会の審議等の状況を確認し、質問等もできる環境で参加していた」とのこと。他社にはそのような記述がないので、前向きな対応ととらえるべきなのかもしれません。ただ、ガバナンスという点では、委任状を出した後での質問にどのような意味があるのかとも思ってしまいます。

質問内容はどうか

質疑応答の要旨を見ると、どの会社でも、新型コロナウイルス感染症に関するものが非常に多かったようです。
特に6社はいずれも営業職員組織による対面販売を主力としているので、「今後の顧客対応をどう考えているか」「対面営業が難しいなか、今後の対応の方向性を説明してほしい」といった質問が相次いだ模様です。

他方で、毎回感じるのですが、社員たる契約者の関心事項であろう経営の健全性や、社員還元に関する質問は必ずしも多くはありません(なぜか商品に関する質問が多いです)。どの質問も広い意味では経営に関することなのですが、実際の数字を踏まえた損益・財務に関する質問は少ないですし、上場生保の大株主のような、経営者の姿勢を問うような厳しい質問もほとんど見かけません。

ちなみに、次のような質問や意見はありました。

「わが国では着実に高齢化が進む中で、海外で社員や契約を増やしたり、あるいは利益を得て国内に還元する戦略や取組みは極めて重要と考えます。今後もそのことを重視した経営をお願い致します」【住友生命】

「損益状況の推移について。保険料等収入が減少しているものの、保険金等支払金も減っているため、経常利益が増えていると理解しています。この収益構造に問題点や課題はないのでしょうか」【朝日生命】

詳しくは各社のサイトをご覧ください。
日本生命
住友生命
明治安田生命
朝日生命
富国生命

※海からの風で松が何となく傾いています。

 

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小笠原長行

週末に佐賀県の唐津に行きました。
福岡市営地下鉄がJR筑肥線に乗り入れていて、約1時間で到着します。

唐津城では、幕末に活躍した小笠原長行(ながみち)という人物に関心を持ちました。

 1822年(文政5年)唐津藩主の長男として生まれる
 ・翌年父が亡くなるが、幼少のため藩主になれず
 ・江戸に出て、学問に励む

 1857年(安政5年)土佐藩主・山内容堂らの推挙により世継ぎとなる
 1862年(文久2年)幕閣に入り、若年寄を経て老中格となる
 ・生麦事件の処理にあたる(賠償金支払い問題)

 1865年(慶応元年)老中となる
 ・長州処分の全権を委任される
 ・第二次長州征討で小倉口総督となるが、敗北

 1868年(慶応4年)大政奉還
 ・戊辰戦争で会津、箱館(函館)まで従軍
 ・その後、東京で隠遁生活を送る

 (唐津城の展示および唐津市サイトより作成)

藩主の長男として生まれたにもかかわらず、お国の事情から世継ぎになれなかった人物が、40歳くらいになって頭角を現し、短期間で異例の昇進を遂げ、老中となっています。しかも、何度も失脚しては、そのたびにカムバックしているのです。
逆に言うと、勝海舟もそうですが、この時代の幕府は必要とあれば柔軟な人事政策をとっていたのですね。

恥ずかしながら私は小笠原長行の存在を全く知りませんでしたが、幕府が滅亡にいたるなかでの重要人物であることは間違いなさそうです。

 

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有価証券報告書の新たな開示

inswatch Vol.1041(2020.7.13)に寄稿した記事のご紹介です。
定性的な開示は定量的な開示と合わせて見ることで理解が深まりますね。

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上場会社の有価証券報告書に「事業等のリスク」という項目があります。従来の記載は、いわば「考えられるリスクの羅列」となっていて、あまり参考にならなかったのですが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として次年度から開示の充実が求められるようになり、前倒しで記載内容を見直す動きがあります。
主な上場保険グループの「事業等のリスク」を確認してみましょう。

東京海上ホールディングス

従来とは異なり、最初にグループ経営におけるリスク管理の考え方(リスクベース経営)を説明したうえで、定性的リスク管理と定量的リスク管理に分け、それぞれ図表を使って具体的な取り組みを紹介しています。
なかでも定性的リスク管理では、これまでのリスクの羅列ではなく、経営レベルで論議し、特定した11の「重要なリスク」と、それぞれにおける主な想定シナリオを示しています。

MS&ADインシュアランスグループホールディングス

前半でリスク管理方針とその体制、ERMをベースにしたグループ経営について説明し、後半でグループの主要なリスクを紹介しています。
定量的な記載が少ないという感もありますが、後半の主要なリスクでは、経営が管理すべきリスクとしてとらえている「グループ重要リスク」に加え、経営が認識すべき「グループエマージングリスク」についての言及もありました。

SOMPOホールディングス

従来のリスクの羅列から記載内容が一変しました。最初にリスク管理の全体像(戦略的リスク経営)を示し、次に、具体的にどのようなリスクコントロールを行っているかを説明しています。自己資本管理についてはコントロール手法だけでなく、実際の管理状況も数値で示しています(決算説明資料でも開示)。
主要なリスクの記載も充実しました。「重大リスク」を示すだけでなく、ヒートマップ(発生可能性・影響度)を使ったリスクの評価を行ったうえで、対応状況の説明があり、さらに新型コロナ関連の記載も別途見られます。

第一生命ホールディングス

経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクとして選定した「重要なリスク」とその選定プロセスの説明が加わりましたが、従来の記載内容と大きく変わってはいません。
他方で第一生命ホールディングスは、決算説明会で定量的なリスクプロファイルや今後のリスクテイク方針の詳細な説明を行っており(説明資料は同社サイトで公表)、次年度は有価証券報告書の記載内容もさらに充実するのではないでしょうか。

T&Dホールディングス

もともと他社よりも記載内容が充実しており、中核生保子会社の事業基盤や収支構造、規制内容に関する具体的な説明までありました。
今回はリスク管理体制に関する説明を加え、あとは従来のものをやや簡素化したという内容です。おそらく次年度にはより充実した記載内容となることが期待されます。

ソニーフィナンシャルホールディングス

記載の形式は従来どおり、リスクを羅列していくものでした。ただし、新型コロナ関連に加え、ソニーによる完全子会社化が計画されているため、記載内容にはかなりの変化が見られました。

かんぽ生命保険

今回から主なリスクを「最も重要なリスク」「重要なリスク」「上記以外のリスク」に分けて開示するようになりました。
記載内容には一定の役職以上の執行役に対するアンケート結果や、リスク管理委員会・経営会議での協議結果などが反映されているとのことで、全部で21ページにも及びます。

いかがでしたでしょうか。せっかく上場会社がコストをかけて開示を充実しても、利用されなければ意味がありません。保険会社のステークホルダーは投資家だけでなく、保険販売にかかわる皆さんも、保険会社の従業員も含まれますので、これらの情報を保険会社(特に経営者)との対話に使ってみてはいかがでしょうか。
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※大学の周辺には池がいくつもあります。

 

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新しい保険商品のアイディア

全国学生保険ゼミナール(Risk and Insurance Seminar, RIS)とは、リスクと保険を学ぶ学生のインターカレッジの集まりで、年に1回、合同で研究発表会を行っています。来年は私のゼミも参加する予定です。
新型コロナの関係でリアルな会合が難しいなか、RISに参加する複数の大学で新しい保険商品の提案発表会を行いました。これがなかなか興味深かったので、自分の担当する講義(保険論入門)でも学生の皆さんに取り組んでもらいました。

ごく限られた時間のなかでのアイディア出しでしたが、「なるほど、そうきたか」というものもあり、こちらも勉強になりました。
主なアイディアは次のとおりです。

「学生の学び継続の保険」
・新型コロナ流行の影響で、経済的に大学に行けなくなった人を支援
 ⇒ 起きてしまったことを後から補償するのは民間の保険では難しいですが、ニーズとしては切実ですよね。

「自動車免許返納保険」
・免許返納後の交通費や生活費を支援することで、高齢者の免許返納を促し、事故をなくす
 ⇒ 高齢者の自動車事故に関する提案は数人からありました。身近な問題なのかもしれません。

「AIによる失業保険」
・AI(人工知能)により仕事を失ったら保険金を受け取ることができる
 ⇒ 私はこれを見て、この保険はAIの普及を促し、失業者を増やすかもしれないと思いました。提案した学生がそこまで考えたかどうかはわかりません。

「出産見守り保険」
・シングルマザーの妊娠中や産後にかかる費用を補償し、子育てを支援する
 ⇒ 出産に関する提案も複数ありました。子どもを産みやすい世の中にしたいという気持ちの表れでしょうか。

「介護保険(介護者支援の保険)」
・身内が要介護状態となり、介護のために仕事ができなくなった人のための就業保障
 ⇒ 身近にそのような事例を見ているのかもしれませんね。

「結婚損失保険」
・離婚した際の慰謝料や結婚詐欺にあった被害額を補償することで、結婚のハードルを下げる
 ⇒ 結婚に関する保険の提案もいくつかありました。この保険を結婚時にどう販売するかですが…

「クレーム保険」
・サービス業で理不尽なクレームを受けたら、代わりに対応してくれるサービス や、お金を受け取ることができる
 ⇒ 「代わりに対応してくれる」というのがいいですね。バイトで理不尽なクレームを目の当たりにしているのかも。

保険商品のアイディアを考えるというのは、私たちが生きている社会の課題を考えるということなのだと、改めて思いました。

 

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最近の執筆・取材対応など

備忘録をかねて、最近発表された論文や記事をまとめてご紹介します
(全文を公表するわけにはいかないので、要点のみ)。

生損保決算に関するもの

保険毎日新聞「生損保決算を読み解く」

7月1日に生保決算、3日に損保決算のインタビュー記事が出ました。
このうち生保ではトップラインの動向のほか、6月7日のブログにも書きましたが、決算対応の売却益計上について、「もしかしたら業界人には違和感がないのかもしれないが、機関投資家である本来の生命保険会社の投資行動としては疑問に感じる」などと述べています。
取材は6月18日にzoomで行われました。

週刊金融財政事情(2020.7.6)「大手損保グループの2020年3月期決算」

「再保険市場ハード化のなか、リスクベース経営の浸透がカギに」という副題が付いています。
後述するInswatch Professional Reportとの違いを出すため、こちらでは出再保険の回収状況や出再保険料の規模などを示しつつ、今後の収支動向に注目としています。記事には書きませんでしたが、データを見ると、東京海上日動と他の大手3社の出再戦略はかなり異なるようです。
なお、きんざいもオンライン版を始めたそうです
(私の記事は有料となります)。

Inswatch Professional Report「2019年度決算発表から-3メガ損保を中心に」

同じ損保決算でも、Inswatchでは新型コロナ関連支払い(見込み)の「内外格差」を多少深掘りしてみました。
おそらく、日本は経済規模の割に企業向け保険が普及していないということは言えるのでしょう。ただ、改めて数字を確認すると、この10年間で新種保険の収入保険料は市場全体を上回るペースで成長しており、企業のリスクマネジメント意識の高まりとともに、さらなる成長が期待できそうです。

論文発表

「保険市場の変化--過去10年と今後の展望」『保険学雑誌』 第649号(2000年6月)
(令和元年度日本保険学会大会シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」)

「低金利下における生命保険会社の金利リスク対応--日本・台湾・ドイツ・韓国の事例から考える」『生命保険論集』(2020年6月20日発行)

前者は昨年の日本保険学会大会で登壇者の1人として発表したもので、法律の専門家に混じり、保険法制定後の保険市場において象徴的と考えられる動きをいくつか紹介しました。
後者は1月に韓国・釜山で発表したものの日本語版です。次に韓国に行けるのは果たしていつになるのでしょうね。

※NHKに行ったのは出演のためではなく、みずほ銀行のATMを使わせてもらいました^^

 

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