2020年 6月 の投稿一覧

有識者会議の報告書

経済価値ベースのソルベンシー規制の導入などについて検討を行ってきた有識者会議の報告書が公表されました。
「ソルベンシー規制の今後あるべき姿として、経済価値ベースで保険会社のソルベンシーを評価する方法を目指すべきである(5ページ)」と提言した2007年4月の報告書(PDF)の公表から10年以上がたち、「保険会社の内部管理において経済価値ベースの考え方を取り入れる動きが進む一方、保険監督者国際機構(IAIS)における国際資本基準(ICS)をはじめとする国際的な動向の進展もみられた」(報告書1ページより)なかで出されたものです。

個人的な注目点をいくつか取り上げてみましょう。

検討タイムラインの設定

2007年の報告書にも「平成22年(2010年)を見据えて不断の作業を進める」とありましたが、今回の報告書では2025年の導入を前提に、より具体的なタイムラインが示されました。

・2022年頃 制度の基本的な内容を暫定的に決定
・2024年春頃 基準の最終化
・2025年4月より施行

まずは2022年をターゲットに、金融庁が来月からの2事業年度で制度の基本的な内容を詰めていくことになります。

第1の柱と第2の柱の関係

報告書では「保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策」を念頭に、新たな健全性政策の内容を「3つの柱」の考え方に即して整理しています。

・第1の柱(ソルベンシー規制)
・第2の柱(内部管理と監督上の検証)
・第3の柱(情報開示)

第1の柱と第2の柱のバランスは結構難しくて、第1の柱のあり方によって、報告書でも懸念する意見があるように、保険会社のリスク管理の高度化が停滞する可能性があります。さりとて「第2の柱で見ればいい」となってしまうと、監督介入が遅れたり、恣意的なものとなったりしてしまいます。

「経済価値ベースの第1の柱は2025 年に導入することを前提として検討を進めていくべきである。一方、それまでに保険会社の内部管理態勢及び金融庁の監督態勢の双方を高度化し、経済価値ベースの制度への円滑な移行を促す観点からは、第2の柱に関する取組みは、第1の柱の導入を待たずに早期に開始することが適当である」(33ページ)

「リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)上では、割引率につき標準モデル上の手法(終局金利(UFR)に基づく補外等)以外の手法も用いて評価を行うことや、自社の保険契約・運用資産のポートフォリオの特性を反映した粒度の高いデータに基づく、より精緻なリスク計測手法を用いること等も視野に入りうる」(35ページ)

報告書のこうした記述を見るかぎりでは、第1の柱はあくまで「最大公約数」であり、リスク管理の高度化を促すフェーズでは、第2の柱が重要という整理のようです。

「厳格化」には触れず

2007年4月の報告書(PDF)では、ソルベンシー・マージン比率の信頼性を向上させて行く努力が必要として、次の記載がありました。

「段階的な取組みの一歩として、例えば95%程度を信頼水準引上げの目標とするのであれば、保険会社に対する財務上の影響や、健全性評価に対する信頼性の向上の両面からみて適当ではないかと考えられる。(中略)そして、経済価値ベースのリスク評価への移行を前提とした上で、国際的な動向も見据え、更に信頼水準を引き上げていくことが適切である」

所要資本(リスク量)の計算を90%から95%へ引き上げるのはあくまで段階的な取り組みの一歩であり、経済価値ベースの規制に移るとともに、さらにハードルを上げることが提案されていました。

今回の報告書には、第1の柱における信頼水準について記載がありません。
ただ、「国内規制における標準モデルについては、ICSと基本的な構造は共通にしつつ検討を進めていくことが適当である」(14ページ)とあり、これまでの国内フィールドテストでもICSを参照してきたことから、普通に考えればICSの「99.5%」がそのまま採用されるのでしょう。
20年に1回から200年に1回の水準に上がるので、前回の変化よりも大きそうですね。

※宮崎県産の完熟マンゴーと福岡県産のブルーベリーです♪

 

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保険代理店との対話

金融庁(および財務局)は6月が年度末なので、連日いろいろな公表物が出ています。
保険関係では19日(金)に関東財務局が保険代理店に対するヒアリングの実施結果を公表しています。タイトルは「保険代理店との対話を通じて『見て、聞いて、感じた』こと。」です。

改正保険業法の施行から3年以上が経過したので、保険代理店に対してアンケート調査とヒアリングを実施し、新たな保険募集ルールの定着状況を確認したとのこと。「行政の現場は事務室や会議室だけではない。保険募集の現場を知らずに監督ができるのか?」と考え、対話を実施したそうです(本当にそう書いてあります)。

具体的な記述のなかには、代理店経営に参考になるものもありそうです。

読後感として、あえて辛口のコメントをするとしたら、次の2点でしょうか。
1つは対話を終えて、当局として現状をどう評価し、今後どうしたいのかが、必ずしも明らかになっていない点です。
「多くの気付きや強い感銘を与えてもらえるものであった」とは書いてあるのですが、それでは「保険募集の現場は変わったのか(=新ルールが定着し、意図していた効果を発揮しているか)」という当局の疑問は果たして解消したのでしょうか。

もう1つは、ヒアリングを実施したのは2019年10月から2020年2月というコロナ流行前であっても、その後のコロナ禍で保険代理店の経営環境が大きく変わっているのに、それについては全く触れていない点です。
例えば、「電話募集がメインであったところ、『顧客に顔もみせない営業方針なのか』と苦情を承り、全ての契約者と面談を実施することにした。結果、的確な意向把握等といった業務改善に至っている」という事例をいま紹介されても…とつい思ってしまいます。

3月以降のコロナ禍での新たな知見はなかったのでしょうか。現場ではいろいろなことが起きていると思うのですよね。
オンライン営業を求める代理店と、解禁を渋る保険会社との攻防が各所であったとも聞きますし。

もちろん、保険代理店に対する監督当局の理解が深まるのは非常にいいことなので、この知見を関東財務局(の今の担当者)だけに留めてしまってはもったいないです。金融庁とも連携し、継続して取り組んでいただければと思います。

※写真は福岡市赤煉瓦文化館。日本生命の九州支店だった建物だそうです。

 

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2020年度上期ヒット商品番付

日経MJ(日経流通新聞)では半年ごとに「ヒット商品番付」を発表しています。
「消費動向や世相を踏まえ、売れ行き、開発の着眼点、産業構造や生活者心理に与えた影響などを総合的に判断して作成した」とのことで、日経流通新聞が創刊された1971年から発表されている人気の企画です。

先週発表された2020年上期のヒット商品番付は次のとおりでした(上位のみ)。

<東>
横綱:オンライン生活ツール
大関:応援消費
関脇:無観客ライブ
小結:手渡しなし宅配

<西>
横綱:任天堂「あつまれどうぶつの森」
大関:おうちごはん
関脇:テークアウト
小結:湖池屋「プライドポテト」

一見してコロナ関連が並んでいますね。
個人的には「zoom飲み会」を挙げたいです。福岡にいても東京にいる皆さんと飲み会ができるというのは画期的でした。

ところで、昨年12月に発表された2019年の番付上位は次のとおりでした。

<東>
横綱:ラグビーW杯
大関:令和
関脇:天気の子
小結:ウーバーイーツ

<西>
横綱:キャッシュレス
大関:タピオカ
関脇:サントリー「こだわり酒場のレモンサワー」
小結:任天堂「ニンテンドースイッチライト」

遠い昔のように感じると思いきや、「ウーバーイーツ」「キャッシュレス」「ニンテンドースイッチ」ですか。
コロナ禍で生活様式が変わる前からこれらはヒットしていたのですね。

 

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コロナ禍での生保販売動向

inswatch Vol.1036(2020.6.8)に寄稿した記事のご紹介です。
3社の決算は本日(6月10日)もまだ発表されていません。

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2019年度決算はまだ出そろっていません(6月5日時点でアクサ生命、エヌエヌ生命、メットライフ生命などが未公表)が、公表された会社のデータを使い、新型コロナの影響が出始めた1-3月期の各社販売動向を確認してみました。

保険料収入は既契約の影響が大きい

メディアでは生保決算について「保険料等収入」「基礎利益」の動きを説明するものが多く、私は毎度のように「保険料等収入は売上高には当たらない」「基礎利益は本業の儲けを示していない」と指摘しています。決算データから何を知りたいのかという視点が抜け落ちていて、定例の作業となってしまっているのでしょう。
その点、今回の日経新聞の生保決算報道は、保険料等収入とともに新契約年換算保険料を載せ(6月3日付)、基礎利益だけでなく最終利益の推移を示す(5月29日付)など、定型パターンではなくてよかったと思います。

例えば1-3月期のデータを見ると、営業自粛が続くかんぽ生命の保険料収入は前年同期比で25%の減少と、それほど落ち込んでいるようには見えません。しかし、新契約年換算保険料は前年同期の1%以下の水準です。かんぽ生命の販売の現状を示しているのはどちらでしょうか。
第一フロンティア生命のように、一時払いの貯蓄性商品を主力としている会社では、保険料収入と新契約年換算保険料が同じような動きをします。逆に言えば、保険料収入は貯蓄性商品(特に一時払い)の販売動向に大きく左右されるということで、これを事業会社の売上高になぞらえるのは無理があります。

コロナ禍の影響は

政府による緊急事態宣言の発令は4月になってからですが、思い起こせばすでに3月には活動自粛モードが強まっていました。私は2月下旬からテレワークを本格的に始めています。保険の対面販売活動にもかなりの影響があったと考えられます。
とはいえ、1-3月の業績動向を確認しても、新契約がここで大きく落ち込んだという会社はほとんど見られませんでした。前年同期比で年換算保険料や販売件数が2桁のマイナスという会社はいくつも見られます。しかし、多くの場合、1-3月だけでなく、昨年4月からその傾向が続いています。これは経営者保険の販売停止・見直しをはじめ、新型コロナとは別の要因が強く影響していると見るべきでしょう(コロナ禍対応で海外金利が下がり、外貨建て保険が売れなくなったということはありそうです)。

4-6月は対面販売の自粛や停止により、新契約の落ち込みが予想されます。ただ、もしかしたら保険ショップや一般代理店を主力チャネルとする会社に比べ、営業職員を主力とする会社(特に伝統的な国内系生保)の業績はそれほど落ち込まないかもしれません。
というのも、彼らは新契約の大半を既契約市場で獲得しているので、顧客を訪問できない時期が続いても、ベテラン営業職員であればそう簡単に顧客との繋がりがなくなったりはせず、常に見込み客を確保できる状況にあるからです。1-3月の契約動向にもこうしたチャネル特性が反映されているのでしょう。
もちろん、採用活動の難しさなどから、会社全体としては先細りとなる恐れはあります。でも、伝統チャネルの底力を軽視はできないでしょう。

極論すれば、今後はオンラインをフル活用した、新たな時代のビジネスモデルを築いた販売組織か、あるいは、すでに揺るぎのない顧客基盤を築いている募集人でなければ、生き残るのが難しい時代となるのかもしれません。今後の業績データに注目したいと思います。
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※大学近くのラーメン店なので「初心者」が多いのかもしれません

 

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生保決算(1-3月データ)から

2019年度決算では、新型コロナ禍に伴う金融市場の乱高下の影響で、多額の有価証券評価損を計上した国内系生保がいくつかありました。評価損の内訳は「株式等」「外国証券」が大半を占めています。
例によって四半期ごとに分けて見てみると、評価損の計上に合わせるかのように、有価証券売却益が1-3月期になって急増している会社がみられます。

好意的に見れば、価格が下がる前に利益を確定したのかもしれません。しかし、この時期だけ突出して売却益が多く、かつ、比較的動きが小さかった国内債券もそこそこ含まれているとなると、通常の資産運用というよりは、3月決算を意識した利益計上を行ったのではないかと考えてしまいます。
資産運用で積極的にリスクをとるという経営判断は理解できるとしても、決算を作りに行くような行動は、どう理解したらいいのでしょうか。

新型コロナ対応といえば、3月以降、大手生保の契約者貸付が急増しているというニュースがありました(5/24のNHKなど)。
そこで、各社の契約者貸付(保険約款貸付)を確認してみると、大手生保(日本、第一、住友、明治安田)の貸付残高は3か月前と比べてむしろ減っていました。
本格的に増えたのは4月以降なのかもしれませんが、中小企業を顧客基盤とする大同生命では貸付残高が急増していますし、顧客に中小企業のオーナーが多そうなソニー生命やプルデンシャル生命でも、通常よりも増えていますので、顧客基盤のちがいが大きいようです。NHKは取材する相手を間違えたのでは…

1-3月になって解約返戻金が急に増えた会社もありました。第一フロンティア生命とMSプライマリー生命が顕著に増えていて、明治安田生命や住友生命でも増えているので、おそらく銀行で一時払いの貯蓄性保険に加入した人が、何らかの理由で保険を解約したのでしょう。

※アクロス山の登頂に成功しました(笑)

 

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対面販売の自粛を活かす

インシュアランス生保版(2020年5月号第4集)に執筆したコラムです。
東日本大震災の時も感じましたが、非常時には元々抱えていた経営課題も浮き彫りになります。
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非対面販売の活用

新型コロナ対応で保険営業の対面販売の自粛が続くなか、営業職員による訪問販売を主力とする大手生保が、既契約者とその家族に限り、一部の商品について非対面での加入解禁に踏み切るとのこと。代理店に対しても、限定的にではあるが、非対面による加入を認める動きが徐々に広がりつつあるようだ。
対面での営業活動を、オンライン営業を含めた非対面に置き換えるのはそう簡単ではない。zoomなどを使ったオンライン営業であれば、対面とほぼ同じことができるとはいえ、相手のネット環境にも左右されるうえ、長時間になるとリアルな打ち合わせよりも集中力がなくなってしまいがちだ。

しかし、特効薬が登場するまで、ウイルスとの共存を余儀なくされるのであれば、対面販売を再現するという発想ではなく、非対面ならではの販売モデル確立に向けて、いち早く動くべきではないかと考える。
オンライン営業を含めた非対面販売には、移動時間がかからない、証拠を残しやすい、同じ場所に集まらなくても打ち合わせができる、などの特徴がある。消費者としては、これまでは家庭や職場で営業パーソンから一対一で話を聞いていたものが、オンラインであれば他の家族にも打ち合わせに加わってもらいやすくなるし、保険に詳しい知人に同席してもらうのもハードルが低くなる。個人的な感覚かもしれないが、セールスを受けているという圧迫感もオンラインのほうが弱い。

職人芸からの脱却を図る

何よりも、これまで営業パーソンの「職人芸」に頼っていた営業活動を共有化することで、組織としてのマーケティング活動ができることが大きい。とりわけ伝統的な生保の営業職員チャネルでは、そもそも新型コロナ以前からビジネスモデルの賞味期限が取りざたされていた。かつてに比べればやや改善したとはいえ、大量採用・大量脱落の構造は今も残り、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっている。
今回の対面販売の自粛がなくても、こうしたモデルの限界は意識されていたことだろう。この機会に、例えばデータサイエンスを全面的に用いるなどして、新しい時代に合った販売モデルを模索すべきである。

保険販売、特に生命保険は訪問販売でなければ売れないという声も根強い。確かに、ニーズが顕在化している自動車保険などに比べると、生命保険(死亡保険)は自らが保険金を受け取ることはなく、遺族保障の必要性を想像してもらわなければならない。各種の保障を組み合わせた商品も多く、業界以外の人は説明を受けても理解するのが難しい(業界人は、例えば携帯電話の説明を受けたときのことを思い出してほしい)。
ただ、せっかく新型コロナ禍で家族のきずなが強まり、保障に対する人々の意識も変化していると思われるのに、一歩踏み出さなければ、みすみすその機会を逃すことになりかねない。もはや危機対応の段階から、新たなビジネスモデルを模索する段階にきているのではないか。
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※写真は福大オリジナルクッキーです

 

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