生命保険会社の2023年度決算が出そろいました。
ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)関連の開示を増やすなど、経済価値ベースのソルベンシー規制導入を2025年度に控えていることを意識した開示が見られる一方で、ちょっと気になる開示もありました。
主要生保各社は定型の決算資料とともに、補足として説明会・IR資料を公表しています。そこで気になったのが「EV等の金利感応度」です。
例えば、住友生命はIR資料の7ページ「EEVの状況」で、住友生命グループのEEVの推移と増減要因に加え、参考として過去5期分の感応度の推移を棒グラフで示しています。これを見ると、リスク・フリー・レートが50bp低下した場合のEEVの減少額が年々縮小し、2024年3月末時点にはついに小幅増加に転じたことがわかります。つまり、直近時点では、金利が下がってもEEVがほとんど動かないということになります。
それでは住友生命の金利リスクがほぼなくなったのかというと、そうではなさそうです。同じ資料の19ページを見ると、資産と負債のデュレーションギャップが縮小したとはいえ、なくなってはいませんし、20ページには「負債コストを上回る金利水準で、超長期国債等への投資を検討」とあります。
これは、EEVの金利感応度として国内金利だけではなく、海外金利も同時に同じ方向に変化する数字を出していて、たまたま2024年3月末時点では、国内金利の低下によるEEVの減少額と、海外金利の低下によるEEVの増加額がほぼ同じだったということではないかと思います。
同社はこれまでも類似のグラフを出しているとはいえ、公表前にこのグラフを見た関係者は何も思わなかったのでしょうか。国内・海外の内訳がないと、ミスリードを招くとわかりそうなものですが…
参考までに、T&Dホールディングスと明治安田生命、かんぽ生命はEV等の金利感応度を国内・海外の内訳を付けて開示していて、第一生命はIR説明会の資料で国内金利リスクの情報を開示すると思いますが、EEVの金利感応度は住友生命と同じでした。日本生命はそもそもEV等を開示してません。
T&D(太陽生命、大同生命)の決算電話会議資料の19ページを見ると、同じ金利低下でも国内金利だとEVが減少、海外金利だとEVが増加するので、両者を合わせると感応度が相殺されていることがわかります(特に太陽生命)。
外債保有などによって海外金利リスクをある程度抱えているのであれば、内訳の開示は必須です。何のために開示をしているのかという話になります。ESR開示の際には、せめてこの程度の情報は出るものと期待しています。
長くなったので、もう1点だけ短めに。
T&Dホールディングスは先ほど紹介した決算電話会議資料の24ページで、傘下2生保の政策保有株式について「2031年3月末までに業務提携先・協業先を除き残高ゼロを目指す」と示しています。
ただし、同じページの「政策保有株式 縮減実績」を見ると、太陽生命の縮減額の大半は純投資への振替です。25ページの説明によると、「投資効率を最大化するために国内株式を一定程度組み入れる」「資産運用方針や個別銘柄の株価見通し等に基づき資産運用部門で投資行動を判断する」とのこと。振替後の売却実績は簿価ベースで振替額累計の28%だそうです。
これはどういうことなのでしょうか。仮に投資効率の最大化には国内株式を保有するのが正しいとしても、どの程度保有するのがいいと考えているのかを示さなければ、この説明では誰も納得できません。もし、太陽生命が以前から政策保有株式を含めて投資効率の最大化を目指していた、つまり、今の状態が同社にとって投資効率の最大化に近い資産構成なのであれば、純投資に振り替えた後も売却などほとんどできないはずです。そうだとすると、T&Dホールディングスの示す政策保有株式の「残高ゼロ」とは今の状態だということになってしまいます。とはいえ、T&Dホールディングスは(売却率100%を目指すのではないが)株式リスクを削減していくとしています。
「政策保有株式をゼロにする」と「投資効率の最大化には国内株式が必要」を両立するには、政策保有株式をいったん全て売却したうえで、市場で株式を買えばいいのではないでしょうか。純投資を行う投資家にとって、投資効率の議論に含み損益は関係ないはずですから。
いずれにしても、資料と質疑応答ではよくわからなかったので、27日のIRイベントに期待しましょう。
※写真は福岡大学のバラ園です。