1月31日(金)の夜、NHK大阪「かんさい熱視線」という報道番組に、ファイナンシャルプランナーの清水香さんとともに生出演してきました。関西地区限定の放送ですが、NHKプラスであれば2月7日まで視聴可能です。
テーマは「火災保険の値上げへの対応」で、私は保険会社経営の視点からコメントしました。ご覧になったかたのなかには、「いやいや、火災保険は赤字が続いているかもしれないけれど、大手損保は過去最高益を更新しているのだから、保険会社寄りのコメントをしやがって」と思ったかもしれません。
しかし、火災保険の赤字を生保や海外など他の事業(資産運用収益を含む)で補うという収支構造は、保険会社として健全ではありません。リスクに応じた保険料を集めるのが保険が成り立つ大前提です。それに、もし皆さんが加入している生命保険が大幅な黒字で、保険会社から「これで火災保険の穴埋めをさせてもらいます」と言われたら、納得できるでしょうか。
さて、週刊金融財政事情(2025年1月21日号)に載った書評「一人一冊」をこちらでもご紹介します。今回は光井渉さんによる『日本の歴史的建造物 社寺・城郭・近代建築の保存と活用』を取り上げました。以下、引用となります。
歴史的建造物の「正しい」在り方とは
一昨年の夏、長崎を訪れた際に出島に立ち寄った。説明するまでもなく、出島は鎖国下の江戸時代に、西洋と直接交易を行っていた唯一の場所である。明治になって役目を終えた出島は、周囲の埋め立てで姿を消した。しかし、1950年代から長崎市による復元事業が始まり、今ではオランダ商館長の事務所・住居をはじめ、鎖国期の建物がいくつも復元され、長崎らしい人気の観光スポットとなっている。
見学を終えて、歩き疲れた私は出島内にあるクラシックな洋館(長崎内外倶楽部)のレストランに入り、長崎名物ミルクセーキを味わったのだが、そこでふと気が付いた。この洋館が建てられたのは明治36年とのことなので、当然ながら鎖国時代の出島には存在しなかった建造物である。それなのに、どうして復元した出島に存在しているのだろうか。
本書の第四章によると、当初の整備構想では、史跡的な価値を重視して出島内の洋館群を取り壊し、江戸時代のオランダ商館
を再現することが検討された。だが、他方で長崎市は山手地区などに残る洋館群を町並みとして保存する施策を進めており、洋館の取り壊しはその方針に反する。そこで、出島の範囲を三つに分け、それぞれ異なる時代設定で保存ないしは再現することにした。
商館の再現に当たっては歴史に対する最大限の配慮がされたとはいえ、結果として、かつて一度も存在しなかった景観が出現してしまったのである。
ここまで分かりやすい事例は少ないかもしれないが、歴史的建造物の再現とは、再現時において意識的に選び出した、いわば「理想としての過去」だと気付かされた。
社寺や城郭、あるいは出島のような史跡ではなく、文化的な価値が認められる民家や近代建築(特に都市部)の保存となると、さらなる壁があるという。現代的な活用が提案できないと保存が実現しない一方で、現代的な活用には「リノベーション」が必要で、それによって何らかの文化的な価値を失うことが避けられない。
日本建築史を専門にする著者は、これに対する確たる回答は見出されていないとした上で、部分的な変更や更新を許容しつつ全体としての特質や価値を保持しようとする「インテグリティ」という概念が重視されるようになっていると指摘する。
観光で社寺や城郭を訪れたり、重要伝統的建造物保存地区に選ばれた町並みを散策したりした際には、これらの文化的な価値だけではなく、保存の在り方についても考えてみてはいかがだろうか。