大手生保の新契約

金融庁が主要生損保の令和5年3月期決算の概要を公表していますね。生命保険会社については相変わらず「保険料等収入」「当期純利益(純剰余)」「ソルベンシー・マージン比率」の動きを説明しています。

「保険料等収入は、海外金利の上昇により、一時払外貨建て保険の販売が増加したことなどから、前年に比べ増収」

先日のブログで書いたように、昨年度の保険料等収入は外貨建て一時払い商品の販売が増えたということしかわかりません。
しかも、保険料収入が4.7兆円増えた一方で、解約返戻金も3.4兆円増えました。現場ではどのような販売活動が行われているのか知りたいところです。

では、大手生保が主力としてきた営業職員チャネルによる平準払いの保障性商品はどのくらい売れたのでしょうか。
これが公表資料だけではなかなかつかみにくいのですが、個人保険の新契約年換算保険料(ANP)を軸に、各社の説明資料を参考にしながら動向を探ってみました。
結論を先に言えば、新契約はコロナ前の水準に総じて戻っておらず、生産性の向上が課題となっているようです。

【日本生命】
日本生命は決算説明資料などでチャネル別の新契約ANPを公表しています(国内4社合計、個人保険・個人年金保険)。これによると、はなさく生命が好調な代理店チャネルはコロナ前の2019年度を大きく上回っているものの、営業職員チャネルは2019年度を16%下回りました。
円建ての一時払い貯蓄性商品の販売減少のほか、IR資料によると、営業職員の生産性向上と職員数の維持拡大が課題となっているそうで、おそらくコロナで訪問活動や採用活動が制約されている影響が出ているのではないかと思います。

【第一生命】
投資家・アナリスト向け情報開示が進んでいるうえ、営業職員チャネルは第一生命、銀行窓販は第一フロンティア生命、代理店チャネルはネオファースト生命なので、4社のなかで最も状況を把握しやすいです。
営業職員チャネルは苦戦が続いています。個人保険の新契約ANPはコロナ前の2019年度に比べて半減しており、第三分野だけをみても半減しています。EVの新契約価値も低調です。
IR資料によると、「既契約のお客さまを中心とした営業活動による新たなお客様づくりの遅れ」「生涯設計デザイナー(営業職員)チャネル体制改革を企図した運営変更」等が背景にあるとのことです。

【住友生命】
4社のなかで最も情報が少ないので推測を含みますが、銀行窓販の収入保険料を期間20年で年換算すると、昨年度の営業職員チャネルはほぼ横ばい、2019年度の8割前後の新契約ANPの水準ではないかと思います。
主力商品「Vitality」の新契約件数は、Vitalityスマート(保険契約なしの商品)も含んだ数値ではありますが、2019年度を大きく上回っています。これが新契約ANPにどう影響しているのかは、残念ながら全くわかりません。
代理店チャネルのメディケア生命の新契約ANPは第三分野を中心に200億円をやや下回る水準で推移しており、堅調と言えそうです。

【明治安田生命】
決算説明資料でチャネル別の情報を提供しています。これによると、営業職員チャネルは前期比40%増となりました。ただし、このなかには外貨建て一時払い保険も含まれています(保険料収入で約4100億円の増収)。
そこで「保障性商品新契約ANP」という数値を見ると、こちらは約10%の増収でした。コロナ前の2019年度と比べても2.4%の増収です。
もっとも、明治安田生命はこの間、営業職員の数を約10%増やしている(日本生命と第一生命は減少、住友生命は4%増)ので、その影響もあるかもしれません。

以上になります。ご参考まで。

※前々回のブラタモリは大阪・梅田でしたね(季節外れの写真ですみません)。

 

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大手損保の国内事業戦略

最初にご案内です。6月28日の夜(18:00-19:00)に損保総研の特別講座で講師を務めます。演題は「保険会社経営の今後を探る ~最近の環境変化を踏まえて~」でして、ここ数年、定点観測的にお話をしているものです。
今回も対面ではなく、オンラインによるライブ配信ですので、ご関心のあるかたはぜひお申し込みくださいね。

さて、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1188(2023.6.12)に寄稿したコラムをご紹介します(IR資料へのリンクを加筆しました)。
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3メガ損保グループはそれぞれ四半期ごとに投資家・アナリスト向けに決算説明会(電話会議を含む)を開催しているほか、半期ごとにグループ戦略を説明するIRミーティングを行っています。
直近のIRミーティングが5月下旬にありましたので、今回は各グループによる国内損害保険事業の取り組み方針の概要を紹介します(詳細な情報は各社のIRサイトで確認できます)。

東京海上(5月24日開催)

東京海上グループは「国内損保事業でNo.1の成長とマーケット対比優位な収益性を実現している」とアピールしたうえで、着実な保険引受利益の成長のために次の5点にフォーカスすると説明しています(資料はこちらです)。

・自動車保険の収益維持
・火災保険の収益改善
・新種保険の拡大
・事業効率の向上
・新たなビジネスモデル

事業効率の向上に関して、現在の中期経営計画(2021~23年度)では約400億円のデジタル投資を行い、社内事務を徹底的に削減することでコンバインドレシオの改善を図るとしています。今回のIRでも、事務量削減の進捗状況と、それによって生まれた資源の再配分について定量的な説明がありました。

MS&AD(5月25日開催)

MS&ADグループは企業価値向上への取り組みとして、国内損保事業の主要戦略として次の4点を掲げています(資料はこちらです)。

・自動車保険の利益維持
・火災保険の利益改善
・新種保険の利益拡大
・事業費の削減

事業費の削減については、2022年度からのグループ中期経営計画で打ち出した1プラットフォーム戦略(ミドル・バック部門の共通化・共同化・一体化)の進捗状況を示しました。例えば、一部SCでの同居やコンタクトセンターの拠点同居(関西)が順次始まっていくそうです。

SOMPO(5月26日)

SOMPOグループからは「事業環境の悪化を踏まえ、収益回復に向けた新たなアクションを開始する」という説明がありました(資料はこちらです)。事業環境の悪化とは、インフレによる保険金増加や激甚自然災害の頻発化などのことです。収益回復に向けた新たなアクションとしては、以下を示しています。

・踏み込んだ収益改善策(火災保険・自動車保険・新種保険)
・更なる生産性向上策

更なる生産性向上策としては、商品の統廃合・簡素化による物件費の削減と組織体制の最適化によって、5年後の事業費率を31%台に下げる方針を打ち出しています(直近は33.9%)。

チャネル戦略への言及なし

こうして見ると、自動車保険の収支悪化にどうやって歯止めをかけるか、火災保険を赤字体質からどうやって脱却させるか、事業費のうち社費(人件費と物件費)をどうやって削減するか、というのが国内損保事業についての共通した関心事項だとわかります。
他方で国内損保事業のビジネスモデルの根幹をなす、代理店を軸としたチャネル戦略に関する記述は各グループともにほぼ見当たりませんでした。各社は中計で、「代理店システムの刷新等により、代理店の顧客接点および営業力を高度化」「オンライン商談等を活用した新たな募集モデルの構築」(いずれも東京海上グループ)、「代理店の高品質化・自立化を中心とした販売網構造改革に注力」(SOMPOグループ)などを掲げ、各社の代理店あたり収入保険料も着実に増加しているのですが、全く言及がないというのは不思議な気がします。
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週刊ダイヤモンドに寄稿

6月5日発売の週刊ダイヤモンドに「台湾・損保のコロナ保険危機 リスク管理上の二つの教訓」という論文を寄稿しました。紙媒体のほか、有料会員はダイヤモンドオンラインでも読むことができます。

ダイヤモンドオンライン(有料会員限定)
前編
後編

以前このブログでもご紹介したとおり、コロナ保険を大々的に提供していた台湾の損害保険会社が、政府の政策変更によって相次いで資本不足に陥るという「事件」が発生しました。2022年のコロナ保険の収入保険料が業界全体で約250億円(円換算)だったのに対し、支払保険金はなんと約1兆円(同)に達しました。東京海上グループが2022年度決算で台湾コロナ保険に伴う損失を約1000億円計上したのもこの事件によるものです。

この事件を表面的にとらえると、政府のゼロコロナ政策がずっと続くと過信した台湾損保業界が目先の販売拡大に走り、突然はしごを外されてひどい目にあったという話です。とはいえ、この失敗から学ぶべきことも多いと思います。
論文では、「リスクマネジャーは政策変更リスクを常に意識し、リスクへの感度を高めなければならない」「業界全体が一つの方向に向かっているときに、自社だけが別の行動をとるにはどうしたらいいか」という2つの教訓を示しました。詳細はぜひ週刊ダイヤモンドまたはダイヤモンドオンラインをご覧ください。

なお、論文では行政の対応について、「当局がコロナ保険の販売を促したかどうかについては証言が分かれたが、業界をうまく指導できなかったとはいえるだろう」と書きました。日本もそう言われていますが、台湾の保険当局もコロナ禍における保険業界としての積極的な取り組みを求めたようです。「(ゼロコロナ政策が続いているなかで)コロナ保険の提供をやめようとした会社がいくつかあったが、当局がいい顔をしなかった」という証言もありました。参考までに記しておきます。

 

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保険料等収入は売上高ではない

このブログでは何度も指摘していますが、生命保険会社の保険料等収入は売上高ではありません。しかし、今回も主要紙は、保険料等収入を生保の売上高として生保決算を報じました。

日経「生保の売上高指標の一つである保険料等収入は主要16社で約37兆6000億円と2割近く増えた」

朝日「外貨建て商品の売れ行きが好調で、扱いの多い第一生命は売上高にあたる保険料等収入で日本生命を抜き、8年ぶりに首位に立った」

読売「生命保険大手4社の2023年3月期連結決算が24日出そろい、売上高にあたる保険料等収入で、第一生命保険が日本生命保険を上回った」

毎日「米国など海外金利の上昇に伴い、外貨建て保険の販売が増えたことから、売上高に当たる保険料等収入は4グループとも増収だった」

(いずれも5月25日の朝刊より引用)

保険料等収入を売上高として決算結果を語るのがなぜダメなのか。

例えば、第一生命(単体)の前期の保険料等収入は約2.2兆円、第一フロンティア生命も約2.2兆円でした。
しかし、第一生命は保険料を月々受け取る契約が大半なので、おそらく2.2兆円のうち2兆円は前期に販売したものではなく、それ以前に獲得した契約からの保険料収入です。
他方、第一フロンティア生命は保険料を契約時に一括して受け取る商品を主に提供する会社なので、2.2兆円はほぼ前期に販売した契約からの保険料収入です。
両者を合計した数値に「売上高」としての意味があるでしょうか。

別の例を示しましょう。
例えば前期に保険金額1000万円の終身保険を一時払いで販売した場合、一時払い保険料が950万円だとしたら、前期の保険料収入は950万円です。
同じく前期の3月に保険金額1000万円の終身保険を月払いで販売した場合、毎月の保険料が15,000円だとしたら、前期の保険料等収入は15,000円です。
つまり、全く同じ保障の生命保険を販売しているのに、一括払いだと保険料収入は950万円、3月に販売した月払いだと15,000円ということになります。これらを合計して何が語れるというのでしょうか。

参考までに私が2022年に保険学雑誌に投稿した論文「保険会社の情報開示とメディアの役割」が公表されましたので、こちらもご覧ください。保険料等収入に関しては148ページ以降で触れています。

保険料等収入に注目するのであれば、前期は保険料等収入を伸ばした会社(おそらく一時払いによる)では、解約返戻金も増えている傾向があるので、その背景を報じてほしいです。おそらく外貨建ての保険に関する動きだと思うのですが、公表資料からははっきりしたことがわからないので、メディアの出番ではないかと思います。

※写真は鹿児島の仙厳園(磯庭園)です

 

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大手生保の米CRE関連投資

最初にご案内です。アドバイザーを務めているRINGの会がオープンセミナーを7月15日(土)に横浜で開催します。
今回は対面開催なのですが、650人限定となっています(コロナ前は1500人規模でした)。おそらくそう遠くないうちに定員に達してしまいそうなので、保険会社目線ではない保険流通の世界を知りたい方は、すぐに申し込んだほうがよさそうですよ。
申し込みはこちらです。

さて、主要生保の2022年度決算が出そろいました。
ヘッジコストの上昇や米国の銀行破綻など、米FRBの金融引き締めと金利上昇によって、低金利時代のひずみが出てきている感があります。日本の生命保険会社はどう対応しているのでしょうか。

大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の決算資料によると、ヘッジ付き外債の残高を減らしたという点では共通している模様です(ただし明治安田生命は1-3月に限れば増加?)。
第一生命は年度を通じて残高を大幅に縮小。住友生命は特に下期に残高を大きく減らした模様です。

他方、米国の相次ぐ銀行破綻を受けて、米国のCRE(商業用不動産)のリスクに注目が集まっています。
FRBは5月8日に公表した報告書のなかで、CREローンについて触れ、生命保険会社の資産のうちCREローンを含む流動性の低い資産の割合が増えていると指摘しました。

日本の大手生保は近年、海外クレジット投資を進めるとコメントしていた(報道ベース)ほか、4社のうち3社は米国に中堅規模の生保子会社を持っているので、CRE市場の今後とその影響が気になるところです。
ところが、これまでのところ、そもそも各社のCRE関連エクスポージャーの現状を知る手掛かりを示しているのは第一生命だけでした。第一生命HDはIR資料のなかで第一生命の外貨建債券と米国子会社の運用資産の内訳をそれぞれ示し、さらに米国子会社については第一四半期決算の開示後に詳細を説明するとしています。

保険会社の「重要なリスク」に関心があるのは上場会社の株主だけではありません。相互会社の社員(契約者)も、意識がそこに向かわないだけで、本来は必要な情報です。どうしてこんなことになっているのでしょうか。

※写真は等々力渓谷(東京)です。

 

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ソニーが金融事業を分離

ソニーグループは18日、完全子会社であるソニーフィナンシャルグループを2、3年後に分離独立させるという構想を発表しました。
Bloombergの記事
NHKの記事

18日の経営方針説明会で、十時COO兼CFOは次のようにコメントしています。

「金融事業には成長投資とともに、財務の健全性も強く求められ、多くの資本を必要とします。ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションという観点では、拡大していくエンタテインメント、イメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではありません」

「(パーシャル・スピンオフにより)金融各社の社名、ブランド、グループ内での位置付けなどを変えることなく、金融事業を上場し、独自の資金調達能力を備えて、中長期でのさらなる成長を指向することができると考えています」

ソニー生命の手掛ける生命保険事業が多くの資本を必要とするのは、2020年に約4000億円かけて完全子会社とした際にもわかっていたことだと思います。財務の健全性が強く求められるというのもそうです。

そう考えると、あくまで推測ですが、グループとして株主が期待する高い資本効率を達成するにはソニー生命の資本対比リターンをより高める必要があるものの、それにはソニー生命のビジネスモデルを見直さなければならず、それは困難だと判断したのではないでしょうか。
過去には「(金融事業が)リーマンショック以降のソニーが最も苦しかった時期にグループを支えた」(吉田CEOのコメント)ということはあったにせよ、それはあくまで経営陣の目線であって、株主からするとそのような「保険」はいらないということなのかもしれません。

ところで、私は本件で読売新聞の電話取材を受けまして、19日の朝刊に次のコメントが載りました。

「福岡大の植村信保教授(保険論)は『上場にあたっては経営の透明性が一段と求められる。遠藤氏(元金融庁長官の遠藤俊英氏)を起用する理由をステークホルダー(利害関係者)に、より丁寧に説明する必要がある』と指摘している」

スピンオフを中心にいろいろとコメントしているのですが、使われたのはこの部分でした。
とはいえ、スピンオフの結果、遠藤さんが上場会社のCEOとして株主と対峙し、自社の成長戦略や資本効率について説明することになるかもしれないのですね。
保険アナリストとしては、上場生保グループが増え、かつ、IFRSで決算を行うというところにも注目したいです。

※今年もきれいに咲きました!

 

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感染症リスク引き受けの難しさ

週末は一橋大学で対面開催された日本金融学会の春季大会に参加していた(つまり東京にいた)ので、ブログはInswatchに寄稿したコラムのご紹介です。
今週のInswatch Vol.1184(2023.5.15)に掲載されました。
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「みなし入院」への支払いが終了

ご承知のとおり、5月8日から新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが5類感染症となったことを受けて、各保険会社はいわゆる「みなし入院」でも入院給付金を支払う特例措置を終了しました。
社会的要請に応える形で2020年4月に導入したこの特例措置ですが、感染力の強いオミクロン株の登場によって感染者数が急激に増えてしまい、例えば生命保険業界だけで約1兆円という多額の給付金を支払う結果となりました。生保業界全体の保険金等支払金は年間30兆円前後、21年度末の純資産は約27兆円なので、健全性が揺らぐような支払いではないにせよ、22年度決算を圧迫したのは間違いありません。

感染症リスクの特徴

支払いがここまで増えた理由の1つは、変異株の出現による感染者数の増加を事前に予想できなかったことが挙げられます。ウイルスが変異するということは知られていても、それがどのタイミングでどの程度感染者数を増やすのかを事前につかむのは、現在のところ不可能だと思います。
保険会社にとって感染症は、保険として引き受けるのが非常に難しいリスクです。保険を提供するには、保険金や給付金を支払うべき出来事の発生率をある程度把握したうえで、契約者から集める保険料を決める必要があります。新型コロナは文字通り「新型」なので、参考となる過去の観測データはありませんでしたし、過去に生じた他の感染症の事例を参考にしたとは思いますが、限界があります。
加えて、保険会社は通常、発生率の不確かさを補うため、様々な工夫をしています。例えば生命保険や自動車保険では、大数の法則を活用するため、リスクを広く大規模に引き受けることで、発生率の安定を図っています。ところが感染症の場合、いくらリスクを広く大規模に引き受けても、感染が広がってしまえば感染者が一気に増えてしまい、大数の法則が働きません。グローバル展開をしていても、世界的な流行ともなれば、リスク分散の効果も得られません。

1兆円をどう見るか

保険会社は「みなし入院」への支払いを検討するに際し、頭を抱えたのではないでしょうか。新たにコロナ保険を販売するのではなく、既存の医療保険の保障対象を広げるという話なので、リスク管理に失敗した場合の影響は甚大なものとなりえます。
おそらく各社はストレステストを実施したのではないかと想像します。ただし、どこまで深刻なストレスシナリオを設定できたでしょうか。感染者数が1日数百人という時点で、1日2万人以上が新たに感染するという事態を織り込むことができたかどうか。できたとしても、自社だけが特例措置を行わないという経営行動に踏み切れたかどうか。
そう考えると、やや遅れたとはいえ昨年9月に「みなし入院」への支払い対象を絞ることに成功し、結果として約1兆円の支払いにとどまったのは、もちろん関係者の努力があったにせよ、不幸中の幸いだったと言えるのかもしれません。
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※前回に続きソウルの写真です。

 

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韓国のカフェ

海外渡航の再開第2弾は韓国でした。出入国時にコロナ関連の手続きが不要となったので、ほぼコロナ前の状態に戻りました。
ただし、再入国の税関手続きにはがっかりしました。紙ではなく電子手続きを選んだところ、羽田空港の端末でスマホのQRコードとパスポートの両方を同時にスキャンしなければならず、さらに顔認証もあります。直前に同じこと(パスポートのスキャンと顔認証)をするので、重複感が強いです。紙なら渡すだけだったのに、かえって面倒になりました。

韓国は2020年1月以来の訪問です。いまさらですが韓国にはカフェが多いですね。スターバックスに代表されるチェーン店は町のあちこちにあります。調べてみると、スタバの数は日本よりも多いそうです(出典はこちら)。参考までに韓国の人口は約5100万人です。
テイクアウト専門の店も町のあちこちで見かけます。おしゃれな(=SNS映えする)カフェもソウルにはたくさんあって、おそらく若い人でにぎわっているのでしょう。かつてはインスタントコーヒーが出てくる喫茶店が普通にありましたが、時代は変わりました。

せっかくなので、今回私が訪問したソウルのカフェ(喫茶店)を2つご紹介します。

THE ROYAL FOOD & DRINK

近年人気エリアとなった解放村(ヘバンチョン)にある絶景カフェです。幸運なことに眺望のいい席を確保できました。
解放村は朝鮮戦争の時に北から避難してきた人々などが山の斜面に住み着いたところで、近くには米軍基地があり、独特な雰囲気を感じました。歴史をさかのぼると米軍基地の場所には日本軍の施設があり、周囲には日本人が多く住んでいたそうです。
カフェからの景色だけではなく、周囲の散策もおすすめです。

伝統茶院(耕仁美術館)

仁寺洞(インサドン)という、やはり人気のエリアにある韓屋カフェ(茶店)で、こちらでは韓国の伝統茶を楽しむことができます。美術館と併設ですが、入場料などはかかりません。
下の写真はなつめ茶(テチュチャ)で、甘くて飲みやすかったです。他にもお馴染みの柚子茶(ユジャチャ)や、赤くてきれいな五味子茶(オミジャチャ)なども飲めたのではないかと思います(ハングル表記だけだったので未確認です)。

 

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FRBの「失敗」報告書

前回のゼミでは「失敗を生かす」というテーマで、まずはゼミ生に(他人に語れるような)失敗談を披露してもらいました。
入浴中にスマホを水没させてしまったとか、家のなかで骨折してしまったとか、肉じゃがを作ったつもりが煮詰めすぎて照り焼きになってしまったとか、皆さんいろいろな失敗をしているのですね。
私も「お湯張りをして風呂に入ろうとしたらお湯が入っていなかった(栓がずれていて、お湯がたまっていなかった)」という失敗談を披露しました(笑)

個人はともかく、組織において失敗は隠すべきものではなく、次に大きな失敗を起こさないための重要な手掛かりとなりうるものです。また、不幸にも大きな失敗をしてしまったときには、表面的な責任追及ではなく、真の原因にどこまで迫れるか、どうやって迫ればいいか。このような話をしてみました。

米FRBが、3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)の検証結果を公表したというニュース(例えばこちら)を見ると、失敗してしまったのは問題だけど、それを生かそうという国としてのガバナンスはしっかりしていることがうかがえます。
もちろん大きな失敗をすると被害が大きくなるので、その前に対応すべきではありますが…

ちなみに原文はこちらです。ご関心のある方はぜひご覧ください。

※JR九州のクイーンビートル号です。

 

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正常性バイアス

以前このブログで『人はなぜ逃げ遅れるのか』という書籍をご紹介したことがあります。15日に起きた岸田首相襲撃事件の映像を観ていて、この本に書かれていた「正常性バイアス」を思いだしました。正常性バイアスとは「これくらいなら大丈夫だろう」とリスクを過小評価してしまいがちであるという、心理学の用語です。

岸田首相に向かって何かが投げられたときの、警護をしていた和歌山県警のかたの反応は見事なものでした。緊張感をもって任務を遂行していただけではなく、おそらく日ごろから訓練などもしているのでしょう。
他方で、冷静に考えれば、首相にとって危険と考えられる何かは、そこに集まっていた聴衆にとっても危険なものである可能性が高いので、首相と同じようにその場からできるだけ速やかに逃げるのがベストな行動だと思います。
しかし、爆発物が爆発した直後の映像を観ると、何かが投げ込まれてから爆発まで1分近くあったにもかかわらず、多くの人がその場に残っていました(写メを撮っている姿もあったような…)。犯人の取り押さえに人々の注意が向かってしまったのかもしれませんが、もし爆発物の威力が大きければ、人的な被害が出ていたでしょう。
現場にいて危険を速やかに察知し、行動に移すことの難しさを改めて感じました。

私自身も2011年の東日本大震災で似たような経験をしています。これも以前のブログで紹介していますが、学会主催のイベントに参加した際に地震に遭遇し、しばらくしてから会場のシャンデリアが落下したということがありました。
地震発生でTさんのスピーチが止まったあと、私も含めて会場にいた数百人の参加者はそのまま座っていました。私は天井のシャンデリアが揺れているのには気がついていた(自分の頭上ではなかった)ものの、「この程度の揺れで落ちることはないだろう」と思っていました。まさに正常性バイアスが働いたというべきでしょう。学会メンバーのKさんが「シャンデリアの下にいる人は席を離れてください」と叫ばなければ、おそらく怪我人が出ていたはずです。

正常性バイアスから逃れることはできないにせよ、まずは事件や事故、災害などの際にはこのような心理が働くということを知っておきたいものです。

※写真は武蔵小杉のタワーマンションです。

 

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