生保の下半期運用方針

1週間ほど前に、主要生保がメディア向けに下半期の運用方針説明会を開いたようで、それによると、「ヘッジ外債の投資妙味が薄れている」(ロイター記事より)ことからヘッジ付外債の残高を減らす一方、超長期債(円建て)への投資を増やすとのことでした。

ただし、コメントをよく見ると、超長期債の購入にあたり「負債コスト」(おそらく平均予定利率)を強く意識している会社がいくつかあるようで、どこか違和感を感じました。「個人保険も団体年金も同じどんぶり勘定?」ということではないでしょうけど、「平均予定利率を上回るから金利リスクの削減ができる」という考えが、私にはしっくりこないのですね。
というのも、円金利の上昇によって経済価値ベースのソルベンシーは増加しているはず。リスクへの耐久力が高まってからリスク削減を加速するというのはどうしてなのでしょうか。決算発表の際にはぜひご説明いただきたいです。

他方で、上半期の注目ポイントの1つは為替ヘッジコストの急上昇による影響です。ヘッジ付外債は円債の代替ではなく、海外の長短金利差などをリターンの源泉とした投資です。金融市場の動向次第でうまくいくときもあれば、失敗するときもあります。この上半期はヘッジコストが急上昇(ざっくり1%⇒4%)したため、同じ年限の円債よりも利回りが相当悪化したものとみられます。
もちろん、外部環境の変化を受けて、機動的な対応ができた会社もあったかもしれません。とはいえ、日銀の金融システムレポートによると、大手9社のヘッジ付外債は10年前から倍増し、2021年度末には30兆円を超えています。上半期に損失覚悟で売却を進めたとしても、全体として厳しい結果となった可能性があります。運用方針説明会で記者さんはそうした質問をしなかったのでしょうか?

※この週末は日本保険学会の年次大会でした。

 

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2022年版の生保・損保特集号

週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』2022年版が出ました。
例年どおりの社長インタビューに加え、生保・損保ともに金融庁レポートの解説があり、もう少し中村記者の面白い(鋭い)記事が読みたかったというのが全体としての感想です。この媒体では難しいのかもしれませんが…

そのなかで、ややマニアックではありますが、今回のイチ押しは、トムソンネットの板倉さんによる「世界市場で進む標準化 再保険ビジネスの展望」でした。この20年間で世界の再保険ビジネスがどのように変化し、日本の損害保険会社(元受会社)が現在どのような状況に置かれているかということを、なんと8ページにわたって述べています。
例えばこんな記述もありました。

「(再保険市場で生じた詐欺事件に関連して)再保険のように保険のプロ同士が相手にリスクを転嫁することで自社の財務保全を図るシステムは、もともと逆選択リスクを取引するババ抜きゲームであることを肝に銘じるべきだ」(85ページ)

「日本の損保市場の縮小が続く中、再保険市場から見れば、十分な保険料を得ることができない割には、大規模自然災害で巨額の再保険金を払わされる市場という印象を持たれても仕方がない状況ともいえる」(89ページ)

「アジアにおける再保険を含む外国系損保会社の出先機関のハブは、ほとんどの場合、東京ではない。(中略)東京は、アジアの保険市場のハブとはなりえないということを見せつけられている現象である」(同)

他の記事では、生保の乗合代理店の評価制度を取り上げた「代理店業界の注目集める業務品質評価制度の行方」が、部外者(=私)にも読みやすい記事でした(44ページ~)。
そもそも「業務品質」を評価できるのかという疑問はさておき(業界の自主規制のようなものと考えればいいのでしょうか?)、評価基準を作るうえで契約継続率について保険会社と代理店で意見が分かれ、結果として「(継続率を)定期的に把握・分析し、解約理由・経緯等を踏まえ、必要に応じて改善策を実施している」という評価基準に落ち着いたとのこと。
代理店側の主張は「毎年数多くの新商品が発売される環境で、継続率を気にするあまり、保障内容が見劣りする商品の契約を放置しておくのは、顧客本位に反する」というものだそうですが、顧客からするとやや違和感があります。

例えば定額の保険料を支払い続ける終身医療保険の場合、若いうちはリスクが小さいので、いわば割高な保険料を支払っている状態が続き、保険期間全体でバランスがとれるようになっています。ですから途中で解約してしまうと、確実に損をすることになるはずです(特に解約返戻金がない場合)。顧客本位ということであれば、解約・新規ではなく、既存の商品に新たな保障を追加するのが本来あるべき姿だと思うのですね。
まずは商品を提供するメーカー(保険会社)の問題ではありますが、代理店がそこまで踏まえたうえで主張しているのか、議論のなかでそのような話はなかったのか、知りたいところです。

※キリンコスモスフェスタに行ってきました(先週の写真です)。

 

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金融リテラシー調査

日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会では、個人の金融リテラシー(お金の知識・判断力)の現状を把握するため、3年に1度のペースで金融リテラシー調査を行っています。
最新の調査結果(2022年版)は7月に公表されており、論文指導の関係でデータを確認する機会がありました(私のゼミでは金融教育に関心を持つ学生が多いのです)。改めて感じたのは、同じ若年層だからといって、大学生と若年社会人を一くくりにしてはいけないということです。

金融リテラシーの正誤問題は、年齢層が高いほど正答率が高くなる傾向がきれいに出ています。本調査での若年社会人は18~29歳、学生は18~24歳で、正誤問題の正答率はそれぞれ42.4%、40.8%でした(若年社会人 > 大学生)。
どこで差がついたのか内訳を確認すると、生活設計を問う質問と、金融知識を問う質問のうち「保険」「ローン・クレジット」「資産形成」の正答率に差があるとわかりました。当たり前といえば当たり前ですが、社会に出ているかどうかの違いがこの結果に表れているのでしょう。

他方でこんなデータもありました。正誤問題の正答率と金融知識についての自己評価をそれぞれ指数化して、「金融リテラシー・ギャップ」(客観的評価と自己評価を比較)として示したものを見ると、若年社会人が▲23.7、学生が▲13.0と、若年社会人の「自信過剰」が際立っていました。金融トラブルを経験したことのある割合も、若年社会人の9.0%に対し、学生は2.5%にとどまっています。
なかでも衝撃的だったのは、金融教育を受けた経験があると答えた若年社会人の金融リテラシー・ギャップが▲41.9と大きく(学生は▲5.2)、金融トラブル経験者の割合も大きい(17.4%)という結果です。自己評価だけが高まってしまうと、かえってトラブルを招いてしまいやすいのでしょうか。この調査だけで判断するのはやや乱暴ですが、形だけの中途半端な金融教育はむしろ害になりかねないことを示唆しているように思えます。

※二条城に行ってきました。歴史を感じますね。

 

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金融庁の「保険モニタリングレポート」

今週のInswatch Vol.1156(2022.10.17)への寄稿は先月に続いて金融庁ネタでした。ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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保険行政に特化したレポート

先月の寄稿では2022事務年度の金融行政方針を取り上げ、保険に関する記述が少ないと悪態をついてしまいました。これに対し、9月30日に金融庁が公表した本レポートは、以下の目的を達成するために策定・公表したもので、全64ページすべてが保険に特化したレポートです。

・保険行政の透明性を高める
・保険会社との対話・モニタリングにより保険行政の高度化を図る
・保険業界が将来にわたり社会的役割を果たすための取り組みを促す

金融庁が考える保険会社の諸課題

レポートで金融庁は、保険会社にとって重要と考えられる課題について、昨年度(事務年度。以下同じ)に行政として何を行い、今年度はどのような方針で取り組むかを示しています。今回のレポートで挙がっている課題は以下の通りです。

【持続可能なビジネスモデル】
・ビジネスモデル対話
 ※中長期的な視点に立ったビジネスモデルの構築:植村注
・デジタル化へ向けた取り組み

【財務・リスク管理】
・グループガバナンスの高度化
・自然災害の多発・激甚化への対応
・財務の健全性の確保
 ※財務上の実態把握と対話、財務上の指標や規制のあり方の見直し
・マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策

【顧客本位の業務運営】
・営業職員管理態勢の高度化
・公的保険を踏まえた保険募集
・節税保険への対応
・外貨建保険の募集管理等の高度化
・保障内容の見直しに関する顧客視点に立った商品設計
・保険代理店管理態勢の高度化

【少額短期保険業者】
・財務の健全性及び業務の適切性の確保
・経過措置適用業者への対応

業界関係者には必読のレポート

金融行政方針の「実績と作業計画」に比べると、課題として挙がっているテーマ数はかなり多くなっていますし、昨年度に金融庁が何を行ったのかをより詳細に知ることができます。保険代理店に関する記述も多いので、関係のありそうなところだけでもご覧いただくことをおすすめします。

もっとも、昨年度版でも感じたことですが、本レポートは基本的には金融庁の活動報告であって、保険会社や保険代理店との対話やモニタリングを通じ、保険行政として現状をどう評価し、今後どうしていきたいのかという記述は控えめです。
例えばレポートによると、金融庁は自然災害リスク管理に関するモニタリングを一昨年度、昨年度と続けて実施していることがわかります。ところが今年度の方針でも「今後の大規模自然災害発生に備え、損害保険会社において、経営レベルでの論議も含め、自然災害リスク管理をどのように行っているか、引き続きモニタリングしていく」とあり、なぜ引き続きモニタリングしていく必要があるのか、これだけでは金融庁の意図がよくわかりません。保険会社には自然災害リスク管理を継続してモニタリングする理由を十分伝えているのかもしれませんが、行政の透明性という目的を踏まえると、今後はもう少し踏み込んだ記述を期待したいです。

なお、巻末のコラムでは「遺伝情報の取扱いについて」「新型コロナウイルス感染症による『みなし入院』に係る入院給付金等について」など、トピック的な行政対応が載っています。ただし、「生命保険会社の健全性と契約者配当について」だけは他のコラムと違い、金融庁が何かを実施したという記述がない「謎コラム」となっていて、秘かに注目しているところです。
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※キャンパスには秋のバラが咲いています。

 

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新型保険の加入率

お仕事の関係で、テレマティクス自動車保険と健康増進型保険がどの程度売れているのか調べてみたところ、次の資料を見つけました。備忘録代わりにこちらに記しておきましょう。

テレマティクス自動車保険

矢野経済研究所が「国内テレマティクス保険市場に関する調査」を実施していて、2021年度の個人向けテレマティクス保険の市場規模は2260億円。自動車保険料全体に占める割合は5.3%と推計したそうです。まだまだ普及率は低い状況のようですね。

気になる記述も見つけました。

「現在、テレマティクス保険の提供方法としては、大手損害保険会社を中心にドライブレコーダーを提供する形の商品が主流となっている。しかし、将来的にはコネクテッドカーの普及に伴い、OEM(自動車メーカー)側がコネクテッドカーに搭載したカメラや各種センサーを通じて直接データを取得する仕組みが整うことが想定される。そうした状況から、事故対応に必要なデータを損害保険会社側で直接収集できなくなる可能性がある」(プレスリリースより引用)

健康増進型保険

生命保険文化センターが3年ごとに行っている「生命保険に関する全国実態調査」のなかで、2021年度から健康増進型保険・健康増進型特約の加入率が公表されています。世帯加入率は4.2%です。医療保険・医療特約の世帯加入率が93.6%ですから、こちらも普及が進んでいるとはまだまだ言えない状況です。
世帯主年齢別の加入率を見ると、29歳以下の加入率がダントツで高くなっています。興味深い結果ではありますが、今回が初めての調査なので、次の実態調査を待ったほうがいいかもしれません。

※写真は東寺(教王護国寺)です。中には入れませんでした。

 

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健全性と契約者配当

9月30日に金融庁が2021事務年度のモニタリングの結果等について、2022年 保険モニタリングレポートを公表しました。すでに公表した「金融行政方針」を補足する資料という位置付けで、昨年から作成・公表しています。

詳細はレポートをご覧いただくとして、私が気になったのは巻末のコラムのうち、コラム④「生命保険会社の健全性と契約者配当について」です。コラムは全部で5つあり、他の4つはいずれも金融庁の取り組みを紹介しているのに対し、このコラムだけはそうした記述がありません。
あえて金融庁の意図を読むとするならば、「生命保険会社の健全性は十分な水準に近づきつつあると言える」「生命保険会社が適切に契約者配当を行っていくことが、より重要となっていく」という記述があることから、本事務年度の方針には挙がっていないとはいえ、有配当契約のあり方に強い関心を持っていることがうかがえます
(あるいは、すでに何らかのやり取りを業界と行っているのかもしれません)。

コラムでは各準備金の残高が年々増え続ける一方、毎期の配当準備金繰入額が概ね横ばいで推移している図表が載っています。ストックとフローの数字を同時に示されても困ってしまうと思いつつ、配当準備金繰入額の約8割は団体保険と団体年金の配当なので、個人契約者への還元はさらに低水準なのですから、金融庁の言いたいことは理解できます。
あとは、現行会計等の制約があるなかで、経済価値ベースの評価を踏まえた還元方針をどうしていくかでしょうね。

※宇治の平等院鳳凰堂です。

 

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金閣寺のファイアマーク

金閣寺に行く機会があり、ようやく入口(総門)にある東京火災保険会社の鳶口(とびぐち)マークを確認することができました。
これはいわゆる「ファイアマーク」と呼ばれるもので、火災保険に加入していることを示す証として、明治から大正にかけて建物の目立つところに掲げられていたものです。ご存じのかたも多いと思いますが、ルーツはロンドンの火災保険会社にあります。19世紀半ばまでロンドンの消火活動は専ら火災保険会社の消防隊が担っていて、ファイアマークが消火活動の目印になっていたのです。
1888年に日本初の火災保険会社として創業した東京火災保険会社も自前の消防団「東京火災消防組」を持っていたそうですが、その後(1894年?)こうした私設の消防組は府県知事の傘下に入ったようで、東京火災消防組が保険会社の消防組織としていつまで活動を続けていたのかは定かではありません。

鳶口マークといえば安田火災でして、東京火災は現在の損保ジャパンの前身となった会社です。
安田火災がなくなってからすでに20年がたち、このマークを知らない保険会社社員や代理店のかたも増えているのでしょうね。

 東京火災
  ↓
(1944年に帝国海上などと合併)
  ↓
 安田火災
  ↓
(2002年に日産火災と合併)
  ↓
 損保ジャパン
  ↓
(2010年に日本興亜損保と経営統合)
(2014年に日本興亜損保と合併)
  ↓
 損保ジャパン日本興亜
(2020年に商号変更)
  ↓
 損保ジャパン

※絵葉書のような写真が撮れました。

 

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あんしん!ジャイアン保険

知人のSNS投稿によると、9月24日のテレビ朝日『ドラえもん』は「あんしん!ジャイアン保険」だったそうです。気になったのでアニメを観たところ、こんなストーリーでした。

未来の保険「なんでも保険」は、自分の考えた保障(補償)を保険屋さんロボットに相談すると、プランを提案してくれるというものです(保険屋さんロボットの名前が「なんでも保険」なのかもしれません)。のび太は「なんでも保険」に相談し、ジャイアンから殴られたり、蹴られたりしたら保険金を受け取れる保険に入りました。保険料は1日10円です。
加入後すぐにジャイアンに殴られたのび太は保険金を受け取り、そのお金で読みたかったマンガを買うことができました。

これに味をしめたのび太は保険料を2倍にして、お金をたくさん受け取ろうと画策します。しかし、わざわざジャイアンにからみにいっても暴力を振るわれない日々が続きます。保険料の負担でおこづかいが底をついたのび太は、ジャイアンが落書きしたしずかちゃんの本や、保険に入る前にジャイアンに壊されたラジコンカーなどで保険金を請求するのですが、保険屋さんロボットに支払いを拒否されてしまいます(ロボットは過去の出来事を確認できるのです)。最後は不正まがいの手段に出るのび太でしたが、これも失敗。契約を破棄した直後にジャイアンにボコボコにされるというオチでした。

アニメ『ドラえもん』の主な視聴者は小学生ですよね。よくできた話だと思いました。「もしもの時の強い味方」というキャッチフレーズから始まり、ドラえもんがのび太に「(毎日の保険料は)結構な出費だよ」とクギを刺すシーンもありました。長い間使っているうちに壊れたものや、保険に入る前の事故は補償の対象外だというのも保険の基本的な話ですよね。「保険はもしもの時の味方であって、保険で儲けようとするのはダメなんだよ」というメッセージになっています。
アニメにはありませんでしたが、もしのび太の画策が成功し、ジャイアンにわざと殴られた場合には、保険屋さんロボットはどう対応したのでしょうね。

ところで「なんでも保険」はどうやってジャイアン保険を引き受けているのでしょうか。暴行シーンを過去にさかのぼって確認できるので、不正な保険金請求を防ぐことはできます。ただし、のび太がリスクの高い行動をとることを防ぐシーンはありませんでしたので、モラルハザードの発生は避けられません。加入後ののび太の行動はモラルハザードそのものでしたよね。
プライシングは難しそうですが、ジャイアン個人の行動履歴を分析するというのではなく、全国のいじめっ子の詳細な暴行データ、あるいは詳細な被害データが入手可能な世界になっているのかもしれません(事件にはならないレベルまでの詳細な情報を第三者が入手できる社会で暮らしたいかどうかはともかく)。
もっとも、ドラえもんはもう何十年も放映されているので、ジャイアンとのび太が登場するシーンを分析すれば、保険料を決められるような気もしますね。

※日曜日は稲刈りの日、でした。福岡市内にて。

 

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『生活に活かす共済と保険』

米山高生先生(東京経済大学教授)の最新刊『生活に活かす共済と保険』を読みました。「共済と保険はどこが同じで、何が違うのか?」をテーマにした著作で、共済のみならず、保険や保険会社について考えるための材料もたくさんありました。

保険会社のビジネスモデルに関する本書の記述は明快です。

「消費者からみれば、保険は現在のキャッシュと将来のキャッシュを交換する『金融商品』である。これを保険会社からみれば、約束した将来のキャッシュを確実に支払うという義務を負うものといえる」(50ページ)。

「他の金融商品と比べて保険商品の特別なことが二つある。第一に、将来のキャッシュ支払いが確率論的に決定されること、そして第二に、消費者のリスクを保険者が引き受けることである。保険会社のビジネスモデルの特徴を形成しているのは、この二つの要素であるといっても過言ではない」(同)

保険会社は約束した将来のキャッシュを確実に支払うという義務を負っているのだから、経営者が最優先すべきはその義務を確実に履行するための経営ということになります。

米山先生はこうも語っています。

「保険には、他の金融商品とはどこか違った『何か』がある。(中略)困った人のためにみんながおカネを拠出し、困った人を助けようという仕組みによって運営されているという面がある」(76ページ)。

「しかし自助の手段として保険・共済という『金融商品』を消費者として合理的に選択しているのなら、『たすけあい』もいいが、契約者保護をより確実なものとしてほしいというのが(消費者の)本音だと思う」(79ページ)。

この「たすけあい」についても深い考察がなされています。
本書では「たすけあい」のうち、リスクプーリングによって結果として生じるものを「たすけあいI」、団体内での内部補助によるものを「たすけあいII」として区別しました。そして前者は保険と共済が共有する機能で、後者は共済においてのみ存在しうると整理しています。

共済に「たすけあいII」が組み込まれやすいのはどうしてなのか。私自身はまだきちんと理解できていないところがあるとはいえ、人間が利他的な行動に対して価値を置くことを踏まえると、団体内での内部補助を(それを構成員が理解したうえで)許容する場があるのは不思議ではないのかもしれません。

※写真のC-3PO ANA JETに乗りました。

 

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金融庁の金融行政方針

今週のInswatch Vol.1152(2022.9.12)では金融庁の行政方針を取り上げましたので、ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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金融行政の重点課題と取組方針を公表

金融庁は8月31日に2022事務年度の金融行政方針を公表しました(金融庁の事務年度は7月から翌年6月です)。「直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」という副題が付き、「概要」「本文」「コラム」「実績と作業計画」を合わせると190ページにもなる大作です。
そのなかで保険に関する記述が少なく、かつ、モニタリング方針に挙がっている項目に前年度から変化がなかったのは、保険会社や代理店に問題がないというのではなく、金融庁の問題意識が今のところ必ずしも高くないというだけだと私は考えています。

以下では「実績と作業計画」に掲載された業種別モニタリング方針から、保険会社に関する作業計画をご紹介します。

保険業界における顧客本位の業務運営

節税(租税回避)手法を活用した保険募集の問題や営業職員による不適切事案の発覚などを受けて、前年度の作業計画に比べると記述がかなり増えました。とりわけ、「財務局との連携を一層強化しつつ、保険代理店の監督を行っていく」「(乗合)代理店の業務品質評価に係る取組みが各生命保険会社に広がるよう促していく」と、保険代理店に関する内容が増えたという印象です(営業職員管理のモニタリングに関する記述もあります)。

なお、外貨建保険の販売に関するフォローアップや、障がい者等への対応については、業態横断的なモニタリング方針のなかで触れています。

ビジネスモデル

引き続き保険会社とのビジネスモデル対話を行うというなかで、「トップラインだけでなくボトムライン(火災保険の収益改善等)の適正化に向けた取組み等をテーマとした対話を検討する」とあり、後述する「自然災害」と合わせ、金融庁が火災保険の収支動向に強い関心を持っていることがうかがえます。

グループガバナンス

大手保険グループの経営管理(海外事業を含む)に関するもので、前年度のフォローアップとみられます。

自然災害

大規模な自然災害に関する保険会社のリスク管理態勢を引き続きモニタリングするというものですが、「災害に便乗した悪質商法等の排除」「水災リスクに応じた火災保険料率の細分化」に関する記述もあります。

経済価値ベースのソルベンシー規制等

金融庁はこの6月に主要論点の暫定決定内容を公表しているので、これに基づいて準備を進めていくとのことです。
個人的には「監督会計のあり方について検討を行う」「IFRS任意適用に関する必要な法令の整備」にも注目しています。

金融行政方針は単に金融庁が作業計画を世に示したというだけではなく、行政として自らを律することになる重要なものです。読者の皆さんもこの機会に金融庁のサイトを確認してみてはいかがでしょうか。
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※鉄道150周年を迎える横浜・桜木町駅です。

 

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