簡易保険加入者協会の委託研究として2022年度から関わってきた「ESR規制と生命保険会社の運用に関する研究会」の報告書が同協会サイトで公表されました。
この研究会は経済価値ベースのソルベンシー規制と生命保険会社の資産運用について、若手を含めた研究者で議論を行うというもので、私が座長を務めました。報告書は前半(第1部)が議論の主な内容、後半(第2部)は議論を踏まえた若手研究者の報告要旨となっています。
座長としてこだわったのは、規制以前の話として、そもそも生命保険会社は顧客に何を提供していて、それにはどのような資産運用が必要となるのかをメンバーで確認することでした。「そこから話をするのか!」と心配する向きもあったそうですが、実際の保険会社の姿を議論の出発点にしてしまうと、どうしてもバイアスがかかると考えたためです。
毎回メンバーどうしの議論が活発に行われ、議論の主な内容は「第6章:本研究会での主な議論・論点」としてまとめていますので、ご覧いただければと思います。
保険会計に関しては、もっと時間があれば「業績とは何か」「会計情報で誰が何を見たいのか」という議論をしたいところでしたが、時間切れで両論併記のようになっています。
他方でメンバーの意見が一致したのが、研究者から見ても「現状の情報開示は不十分」という話で、第5章の最後に以下のコメントを示しています。
・この研究会でわかったのは、データがあまりにも出てきていないということ。開示の底上げが必要で、特定の一部の会社のみが開示しているという状態では研究を進めようがない。
・新たな規制の第3の柱については外部関係者が声をあげないと、どうしても金融庁と業界の検討が中心になってしまい、業界からは積極的に開示したいという声は出にくいので、結果として妥協案的なものにまとまってしまう可能性がある。
・なぜ開示が重要かということを訴えていかなければならない(エージェンシー理論)。単に我々が知りたいというだけではなく、生命保険会社というインフラを機能させるためには開示がないといけない。
・「これだけリターンがありました、でも、これを作り出すためにこれだけのリスクがありました」というように、リスクとリターンを両方開示するといい。
・金融庁の報告書に掲載されている、「各リスクにおける更なる内訳の開示について、会社の戦略的ポジションが明らかとなる情報が含まれる場合、競争上の不都合が生じるおそれがある」という保険会社からの意見について、「競争上の不都合」とは何に対して言っているのか理解できない。
このような厳しい声が研究者からあがっていることを、生命保険業界や金融庁はわかってほしいです。
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