10. 出張報告

深圳(しんせん)の旅

9月のバンコクに続き、こんどは中国・深圳を視察する機会がありました。
ナビゲーターは中国ツアーが専門のhoppin滝沢さん。おかげで、デジタル都市の今を目の当たりにすることができました。

わずか40年で世界の大都市に成長

深圳は1980年に経済特区が置かれて以降、急速な発展を遂げた新しい都市です。しばらくは外資の生産拠点、すなわち「世界の工場」として成長し、その後、電子機器などの製造拠点として発展しました。
今の深圳が注目されているのは、「世界のイノベーションの拠点」として経済を引っ張る姿です。深圳では政府が大企業を誘致し支援するという方向ではなく、コワーキングスペースを整備し、優秀な起業家を呼び込みました。この「ボトムアップのイノベーション(by滝沢さん)」こそが深圳の特徴です。

もっとも、ボトムアップだから政府が全く関与しないというわけではなく、各種の優遇措置を設ける一方、下記の写真が象徴するように、にらみもきかせています。

スタートアップの成功組

ツアーでは、今や中国を代表する大企業となったテンセント(1998年設立、時価総額は40兆円超!)のほか、折りたたみ式スマホで話題となったROYOLE(2012年設立)、ドローンの市場の世界シェア7割を押さえるDJI(2006年設立)などを訪問し、意見交換を行いました。

深圳の勢いを示す指標の一つが特許出願数かもしれません。2018年の中国による国際特許出願件数は5.3万件と、米国の5.6万件に並ぶ水準でしたが、このうち52%が深圳市の企業によるものだったそうです
(ちなみに日本は4.9万件でした)。

デジタル化が生活に浸透

わずかな滞在期間でしたが、人々の生活にも着実にデジタル化が浸透しているようすがうかがえました。
例えば「深圳では現金が使えない」などと言われますが、使えない店はほとんどなかったようです。ただ、昼どきの某フードコートで観察したところ、現金を使った人は全くいませんでした。電気街にある庶民的なところです。
町のあちこちにシェア自転車が並び、各種の自動販売機も増えているようです。アプリ経由でしか買えないコーヒーチェーン(Luckin Coffee)もあって、人気を集めていました。

他方で、「深圳の秋葉原」(実際には秋葉原の何十倍もの規模です)と言われる「華強北」という有名な電気街は、意外に閑散としていました(下の写真)。深圳では変化のスピードは非常に早く、もしかしたら華強北の役割が下がってきているのかもしれません。

 

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バンコク視察旅行

保険代理店の皆さんとバンコクに行ってきました。
RINGの会の行事ということで、プログラムの詳細をご紹介することはできませんが、現地の日本人経営者の苦労話や大手保険会社のマーケティング戦略など、まさに百聞は一見に如かずという感じでした。

富裕層と低所得層の格差

バンコクには巨大なショッピングモールがいくつもあり、どこも大勢の人でにぎわっていました。
バンコクを代表する巨大商業施設である「サイアムパラゴン」、中核テナントとして伊勢丹が入る「セントラルワールド」、日本人が多く住む地区に近い「エンポリアム」「エムクォーティエ」は、いずれも日本の一般的なショッピングモールよりも高級路線で、国際的なファッションブランドが揃い、銀行のプライベートバンキング専門店や高級外車の売り場もありました。食料品売り場も充実していて、成城石井のような雰囲気でした。

その一方で、バンコクには庶民的な町並みもいたるところにあり、路上には昔ながらの屋台が並び、10バーツ(約35円)で乗れるエアコンなしの古いバスが走ります(ドアを開けたまま走っていました)。日本人街からそう遠くない(南に3kmほど)ところにはバンコク最大のスラム街もあるそうです。

タイは王室を頂点とした階級社会、経済格差の大きい社会で、相続税などによる所得の再配分機能が弱く、格差が固定される傾向が強いようです。

バンコクの日本人街

タイに住む日本人は少なくとも7万人を超えていて、このうちバンコクの日本人学校に近いエリアに多くの人が集まって暮らしています。
このエリアは日本語の看板があふれていて、タイ語も英語も使わず、日本語だけで生活できてしまうところです。日本人向けのスーパー(UFMフジスーパーなど)があり、日本の食材は何でも手に入りますし、日本人向けの飲食店も数多くあります。医療サービスも充実しているそうです。
今回私たちがお世話になったグローバルサポート社(タイランド)の本業は、日本人駐在員向けの資産形成コンサルティングとのこと。確かにニーズはあるでしょうね。

タイ政府はロングステイも奨励しているようです。50歳以上の人は、銀行口座に80万バーツ(約280万円)以上の預金があれば1年更新のロングステイビザを取得できるので、移住するシニアの日本人が徐々に増えているとか。

デジタル化の進展

デジタル化の進展は日本以上かもしれません。
タイ政府が「タイランド4.0」というデジタル化戦略を進めていることに加え、今やバンコクであればスマホを持っていない人がほとんどいないほど急激に普及しました
(スマホを持っているのは富裕層だけではないということです)。

ある調査によると、タイ人の平均的なネット利用時間は日本の平均値よりもはるかに多く、FacebookやYoutube、LINEなどが好んで使われているようです。
キャッシュレス決済も急速に普及しつつあります。写真のナイトマーケットでもQRコードを見かけました。もともとのインフラが日本よりも脆弱なので、デジタル化で便利かつ安心できるサービスが登場すると、そちらにシフトしやすいのかもしれません。

 

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保険の対象となるリスク

7月20日に日本保険学会・九州部会の25周年記念大会が福岡大学で開かれました。
10月の全国大会で登壇することもあり、大雨の九州に杖を持って出かけてきました。

当日は石田重森先生の記念講演、シンポジウム2つという構成で、シンポジウムのテーマは「保険・保険業の過去・現在・未来を考える」。
たまたま重なったとのことでしたが、石田先生と福岡大学の伊藤豪先生のお二人が、公的医療保険における高額な医療・医薬品の問題を取り上げていました。

石田先生によると、「本来、保険の対象となるリスクは、同種・同質性のリスクで、大数の法則が機能し、リスクの分散、リスクの平均化の図れるもの」「高度医療・高額薬のようなごく少数で高価格のリスクは保険システムとして不適当である」と説明したうえで、どこまで保険適用にするのか、その基準をどこで誰が決定するのかという問題を指摘していました。

他方、伊藤先生はケースごとに検討を行い、(価格が下がる前に)利用が進めば、医療費の拡大や保険料負担の増加につながるとしつつも、医療技術や情報技術の革新は医療費を減らす効果が期待されるものもあることを示しました。

確かに、技術革新によって高額な医療・医薬品が出現し、それが保険適用となって利用が増えると、医療保険財政を圧迫することになりえます。
とはいえ、過去の事例を見るかぎりでは、技術革新は価格引き下げにもつながると考えられますし、伊藤先生が指摘するように、技術革新は高額な医療・医薬品を生み出すだけでなく、無駄な医療を排除したり、効率化を進めたりもします
(部外者から見た医療の世界は不透明な部分が多いと感じるので、後者の技術革新には大いに期待したいです)。

保険の加入者にとっては、処方箋があったほうが湿布を安く入手できるといったことよりも、万一の際に高額な医療・医薬品を使えるほうが重要です。
自動車保険でも、かつては想定されていなかった億円単位の損害賠償に対応すべく、対人無制限の補償が一般的になっています。それに、高価格といってもほとんど発生しないのであれば、リスク量としては限られるはずです。

ただし、医療技術の革新がこれまでの延長線上ではなく実現し、低頻度高価格のものが、急に高頻度高価格になったりすると、収支バランスが崩れ、保険システムの限界という状況になるのかもしれません
(だからこその公的保険なのかもしれませんが)。

他にもいろいろと刺激を受けた記念大会で、福岡まで遠征した甲斐がありました。

※写真は軍艦島です。

 

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契約者保護機構の国際会議

台北で保険契約者保護機構の国際会議に参加し、日本のソルベンシー規制についてスピーチをしてきました。

保険契約者のためのセーフティネットは国によって組織形態も保護スキームも異なりますが、2013年に国際組織(IFIGS)が結成され、毎年どこかで情報交流が行われています。
メンバーはご覧のとおりで、日本は今のところ加入していません。
IFIGSでは台湾の保険安定基金(TIGF)が積極的な役割を果たしているようで、今回の2019 IFIGS Asian Conferenceも数年前に続き、台北で開かれました。

今回のテーマは「平時の保護機構」ということで、保険会社の再建・破綻処理計画(RRP)と、破綻を防ぐための取り組みの2点について各国のスピーカーが発表し、議論が行われました。

私の役割は専ら後者で、日本のORSAについて、「形式的な対応に陥りがち」という声が出ていることを紹介したところ、「ドイツではソルベンシーIIの情報開示負担が重くて困っている」というコメントがあったほか、懇親会などでも「ORSAはコンプライアンスとして受け止めている」という声を耳にしました。

特にアジアの保険会社では、経営陣は「リスク管理は重要」と言うのだけれど、それが当局主導で進めるERMやORSAとは必ずしも結びついておらず、コンプライアンスと化してしまい、リスク管理部門はその対応に追われるという実態があるようです。
「上層部の意識を変えるにはどうしたらいいか」という声も耳にしました。

あと、破綻を防ぐための取り組みとして、カナダの損保保護機構(PACICC)から、「過去の破綻事例を研究し、そのレポートを公表している」という紹介がありました。
カナダ損保の事例だけでなく、昨年は規模の大きい事例としてオーストラリアのHIH社の事例を研究したそうです。後日読んでみようと思います。

カナダの場合、外資系保険会社が多いので、経営危機に陥る要因として「親会社の破綻による影響」が重要なのだとか。確かに日本でも、損保は規模の小さい外国損害保険会社(支店形態)がそこそこありますね。

※最後の写真はお昼のお弁当です。

 

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気仙沼を訪問

仙台で開かれた保険代理店の勉強会の翌日、三陸の気仙沼まで足をのばしました。

気仙沼は震災前の2007年に息子と2人で旅行をした思い出の地です。もちろん、津波で大きな被害を受けたことは知っていましたが、実際に行ってみて、港町の景色があまりに異なっていて、言葉を失いました。


※上が2018年、下が2007年です

震災から7年半がたちましたが、かつて宿泊した魚町地区の建物はまだ少なく、あちこちで工事が行われていました。
それでも、国の文化財となっていた米店の建物が復元されていたり、あさひ鮨(当時こちらで息子が漫画をもらいました)が仮店舗から抜け出し、新装オープンしていたりと、うれしい話もありました。


※あさひ鮨考案のフカヒレ寿司

5年に1度の国勢調査によると、気仙沼市の人口は2010年時点の73,489人から2015年には64,988人(▲11.5%)となり、その後も減少が続いています。
震災の影響で減っただけではなく、そもそも毎年800~900人ペースで減少が続いているのです。

しかも内訳をみると、65歳以上の人口は横ばいでして、高齢化が急速に進んでいます。市長の施政方針のなかにも、「とりわけ子どもの減少が数値だけでなく、日々の生活の中でも感じられます」とあるほどです。

そこには、震災からの復興とともに地方創生にも取り組まなければならないという厳しい現実がありました。

 

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金利リスク対応の違い



前回のブログ
ではソウルの写真だけでしたが、ソウルで開かれた韓国金融学会で、日本金融学会からの派遣者として報告をしてきました。

韓国での発表なので、世界的な超低金利のなかで、日本、台湾、ドイツ、そして韓国の大手生命保険会社の経営行動を探るというケーススタディにしました。
発表内容はどこかでお伝えする機会があると思いますが、なぜこの4か国かというと、いずれも生保市場の規模が大きいうえ、長期にわたり利率を保証する商品が生保市場の中心だったため、保険会社が資産と負債のミスマッチを抱えやすいという点で共通しているためです。

日本の大手生保が提供する主力商品は、かつてに比べると終身部分が非常に小さく、総じて期間10年程度の保障性商品の組み合わせとなっています。ただし、過去に獲得した契約による影響が依然として大きいので、金利リスクを抱えた状態が続いているのですね。
他方、今の金利上昇が長続きしないとなると、他の3か国はより深刻な状況に見えます。ドイツでは会計上も追加責任準備金の負担が年々膨らみますし、台湾では外資系生保の撤退や中小生保の経営破綻が相次いでいます。韓国は2000年代以降、利率変動型商品にシフトしてきたのですが、これらには最低保証があり、過去の高利率契約とともに生保の負担となっているようです。

こうして国際比較をしてみると、限られたディスクロージャーからでも経営行動の違いが見えてきて、興味深いです。

※写真は全州の韓屋村です。路地に入ると静かな世界が広がっていました。

 

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台湾での国際保険セミナー

連休後半は台湾の保険安定基金(TIGF)が主催する国際保険セミナーでスピーチをしてきました。TIGFは日本の保険契約者保護機構に相当する組織で、破綻時の支援などセーフティネットの役割を果たしています。

コンファレンスのテーマは「保険業の持続的成長と発展」という広範なもので、アジア共通の急激な高齢化やコーポレートガバナンスの問題、世界的な規制動向のほか、何といっても多かったのはフィンテック(インシュアテック、レッグテック=デジタル技術を活用した金融規制)に関するスピーチやディスカッションでした。
なかでもシンガポールの保険スタートアップとして知られるポリシーパル(PolicyPal)の創業者である葉(Yap)CEOによるサンドボックス制度(*)の活用や次のステップの話は興味深かったです。

*サンドボックス制度(Regulatory Sandbox)とは、参加者や期間を限定して、新技術やサービスを試行錯誤する機会を設けることで、イノベーションを促す取り組み。

それにしても感じるのは、この分野での日本勢の存在感の低さです。台湾という日本に近く、かつ、日本に親近感をもってくれているところでの開催にもかかわらず、現地スピーカーによる日本関連の言及は皆無でした(他国からの参加者もほぼ同じです)。
確かに日本勢による事例として語れる内容はそれほど多くないのかもしれませんが、ここまで注目されていないとは、ちょっとしたショックでした。

※私はマイナス金利政策下における日本の保険会社の対応状況について話をしました。

 

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沖縄の経験に学ぶ

5年ぶりに沖縄に行ってきました。
今回はスピーチが目的とはいえ、多少自由時間があったので、世界遺産の勝連(かつれん)城跡や、「沖縄県民かく戦えり」で有名な旧海軍司令部壕、さらには普天間基地が見える丘などを訪ねることができました。

交通ルールの変更

ところで、沖縄の皆さんはこんな経験もしているのですね。

本土への復帰から6年後の1978年7月30日に、「730(ナナ・サン・マル)」と呼ばれる出来事がありました。これは復帰後も続いていた米国と同じ「人は左、車は右」という交通ルールが、この日の朝から本土と同じ「人は右、車は左」に変わったのです。
車に乗る人はもちろん運転に慣れるのまで大変だったと思いますが、乗らない人も、沖縄の主要な交通手段はバスなので、戸惑ったことでしょう。しばらくは行きたい方向と反対に向かうバスに乗ってしまう人が続出したとか。

ちなみに当時の交通統計情報を見るかぎり、結果として「730」による事故件数の増加は軽微だった模様です。でも、損害保険会社はヒヤヒヤしたでしょうね。

今も残る民間金融

街なかの文具屋では、「もあい帳」なるものを見つけました。

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もあい(模合)とは沖縄で盛んな民間金融です。メンバーが定期的にお金を出し合い、そのお金を順番に受け取っていくという相互扶助の仕組みで、無尽や講にあたります。
飲み会目的の模合から、事業者どうしの高額な模合まで、沖縄ではこの仕組みが広く普及しているそうなので、文具屋で「もあい帳」を普通に売っているのでしょう。

ただし、模合があるから消費者ローンが普及していないかというと、むしろその反対のようです。
2016年の金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」によると、消費者ローンを利用している人の割合は全国平均の2倍(沖縄県7.7%、全国3.9%)、お金を借り過ぎていると感じている人の割合は全国平均11.4%に対し、沖縄県は17.2%にのぼります。

こんな話を知っておくと、また違った景色が見えてくるかもしれませんね。

 

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九州でスピーチ

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先週の土曜日(7/29)のことになりますが、
福岡大学で開催された日本保険学会の
九州部会で発表する機会がありました。

テーマは「近年の日本の保険行政における
健全性規制の動向とその考察」ということで、
2000年前後に発生した生損保の経営破綻を
結果として防げなかった日本の保険行政が、
その後、健全性規制の見直しをどのように
進めてきたのか(進めようとしているのか)を、
私なりに整理して伝えました。

学会発表なので質疑の時間が30分もあって
(ちなみに発表そのものは1時間でした)、
会場の皆さんから多くの質問やコメントを
いただきました。

予想通りとはいえ、行政当局によるERM活用
に関しては、

・「自己規律の活用」とは矛盾した概念では?
・行政が「自己規律」を活用する背景は何か
・国際的な規制を受け入れたのか

といったやり取りになりました。

私からは、「過去の経験もあって、健全性を
確保するには資本要件だけを定めても不十分
と今の行政は考えている」といった説明をして
いるのですが、「保険会社にルールを守らせる」
「違反を取り締まる」といった従来型の行政とは
一線を画した手法に対しては、もしかしたら
心理的な抵抗が強いのかもしれません。

なお、行政による一連の保険ERMの活用は、

「ベスト・プラクティスの追求に向けた対話」
「持続的な健全性を確保するための動的な監督」
「形式・過去・部分から実質・未来・全体へ」

という、今の金融庁が進めようとする方向性を
ある意味先取りした取り組みとして見ることも
できそうです
(当日はそのような話もしました)。

 

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韓国学会でのスピーチ

 

韓国リスクマネジメント学会の国際セミナーで
日本の生保破綻とその後の対応等について
スピーチをしてきました。

今どうしてこのテーマなのか不思議でしたが、
現地で話を聞いてみると、前々回ご紹介した
ムーディーズのレポートで書かれているよりも、
韓国の保険業界がはるかに深刻な状況にある
とわかり、妙に納得しました。

日本の生保で経営の重荷となっている契約は
20年以上前に獲得したものが中心です。
加えて、主力商品が保障性商品中心となって
かなりの時間がたっています。

他方、韓国では比較的最近まで金利水準が
高かったため、今から見れば予定利率の高い
超長期の貯蓄性商品を近年まで売っていました。
予定利率が3%超の契約が全体の約7割を占め、
かつ、全体の2/3が残存20年超とのことでした
(通訳が正しければ)。

ちなみに、韓国の10年国債利回り(今は約2%)は、
2010年頃まで5%程度で推移していました。

韓国では2000年代半ばから金利連動型商品
(=金利変動リスクを顧客が負う)が普及しており、
最近では新契約の約8割、保有契約の半分強が
金利連動型となっているそうです。
ただし、金利連動型商品には最低保証があり、
2000年代には3%以上の保証利率だったとか。

もう一つ日本と違うのは、韓国では国際会計基準
(IFRS)をすでに強制適用していることです。

保険契約に関するIFRSが完成し、これをもとに
ソルベンシー規制を行うと、業界全体で数兆円の
資本不足に陥るという報道もあるそうです
(行政当局からのリーク情報と言われています)。

確かに上記のような負債構成を考えた際、
経済価値ベースの評価をすると、非常に厳しい
経営実態が見えるのかもしれません。

「会計・規制への対応という話と、経営者として
 現状を見てどう対応するかという話は別物」

質問への回答として、こんな話もしたのですが、
個社の対応とは別に、保険行政としての対応が
求められる状況のようにも感じました。

※左の写真は朴大統領の退陣を求める人たち、
 右は大統領を支持する人たちです。

 

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