15日に金融庁が公表した2つのレポートについて
ごく簡単にコメントします。
1.平成27事務年度 金融レポート
金融庁が1年前に公表した「金融行政方針」の
進捗状況や実績等の評価をまとめたものです。
金融レポート(金融庁サイト)
報道では地域金融機関のビジネスモデルのあり方
(6割以上の地銀が赤字となる試算結果を掲載)が
目立ちましたが、家計における金融資産の動きを
分析した「貯蓄から資産形成へ」も充実した記載です。
保険会社の主なモニタリング結果は、
「M&Aにおけるガバナンスの発揮状況等」「ERM評価」
「保険金等支払管理態勢」だけで、やや寂しいかと
(このうち「ERM評価」は後述のレポートを別途公表)。
生保の資産運用高度化に関する記述(p.74~)も
非常にあっさりしています。
ただし、「貯蓄から資産形成へ」のところに、
銀行等による貯蓄性保険商品の提供・販売について
検証結果が載っていて、
「このパッケージ商品を構成する外国債券と投資信託、
(掛け捨ての)死亡保険を別々に購入・契約することでも、
このパッケージ商品と同等の経済効果を得ることができる。
(中略)今回の検証においては、金融機関代理店の中で、
このような代替策を提案しているところは見られなかった」
「(販売手数料の上乗せキャンペーンや販売員向けの
インセンティブ供与について)付与競争の様相を呈しており、
最終的に、顧客が支払う保険料を上昇させる要因の一つ
となっている」
といった問題提起がなされています(p.65~)。
全部で100ページ以上ありますが、金融行政の方向性を
知るうえで参考になりますので、連休中にでもぜひ。
2.ERM評価の結果概要について
「保険会社におけるリスクとソルベンシーの自己評価に
関する報告書(ORSAレポート)及び統合的リスク管理
(ERM)態勢ヒアリングに基づくERM評価の結果概要
について」
というのがレポートの正式名称です。
保険会社のERM評価(金融庁サイト)
事実関係を整理すると...
・2015年度から保険会社がORSAレポートを作成し、
金融庁に提出することになった。
・金融庁はORSAレポートをもとにERMヒアリングを
行い、保険会社56社のERM評価を実施した。
・ERM評価は5段階(プラス/マイナスは不明)あり、
多くの保険会社がレベル2か3だった(5が最高)。
格付アナリスト経験者からすると、何はともあれ、
評価目線の概要公表は素晴らしいと思います。
保険会社が高評価を取得するのが目的ではなく、
評価を通じて保険会社のERMが実質的によくなる
方向に促すためのツールなので、この「目線」は
おそらく継続的に見直していくのでしょう。
一つ気になったのは、4つの評価項目のうち
「リスクコントロールと資本の十分性」の内容です。
この項目では態勢だけでなく、健全性の充足状況
そのものも評価対象であるように読めます。
ここでいう「健全性の充足状況」が何を示すのか、
保険会社自身の判断でいいのか、あるいは、
金融庁として何らかの目線があるのでしょうか。
今月締切のORSAレポートは日銀によるマイナス金利
政策後の新たな金融環境を反映したものでしょうから、
次のERM評価では、このあたりがより明らかになると
いいですね。
※写真はいずれも新庄で見つけたものです。
「戦友共済生命保険」は実在した会社でして、
設立してわずか14年後の1932年に第一徴兵保険
(1999年に破綻した東邦生命の前身)に吸収され、
消滅しています。