遺伝子検査と保険

 

元同僚だった弁護士の吉田和央さんとお会いした際、
「生命保険論集に寄稿したのですよ」と教えていただいたので、
論集を探して読んでみました。

「遺伝子検査と保険の緊張関係に係る一考察」という論文で、
「米国及びドイツの法制を踏まえて」という副題付き。

「生命保険論集」は生命保険文化センターの論文集です。
今だと2015年6月以降の論文はまだネット閲覧できない
(吉田さんの論文は2015年12月号)なので、年間購読するか、
損保総研図書館などで閲覧が可能です。
生命保険文化センターのサイトへ

さて、本稿は遺伝子検査と保険の関係について、
遺伝子検査の現状や米国・ドイツの法制を参考に
議論を再整理したものです。

単に私の認識不足という話なのですが、
すでに日本でも遺伝子検査が普及しつつあるのですね。

検査の質をどう考えるかという問題はさておき、
確かにアマゾンでも検査キットがいくつも見つかりますし、
驚くほど高価なわけでもありません。

しかし、この「究極の個人情報」と保険の関係について、
本稿によると、2000年代前半に活発な議論が行われたものの、
具体的な法制化や指針等の作成には至らなかったようです。

様々な論点があることがわかります。

例えば、保険会社による危険選択の際、遺伝子情報を
活用できるかどうか。

現在の保険加入時に保険会社が活用している医療情報と
遺伝子検査による遺伝子情報を区別して考えられるか、
ということになります。

保険業法には、保険契約の内容や保険料に関して、
特定の者に対し「不当な差別的取扱い」を禁止しています
(保険業法第5条)。

とはいえ、現行実務では、病歴などの医療情報に基づき
危険選択を行っていて、保険数理上の合理性があれば
「不当な差別的取扱い」には当たらないとされています。

遺伝子情報による危険選択の場合はどうでしょうか。
保険業法の規定では、保険数理上の合理性があると
評価されれば認められることになりますが・・・

もっとも、遺伝子と疾病の関係は、単一遺伝子の変異で
発病を予測できるものと、多因子疾患(複数の遺伝子や
環境要因が関与)があるのだそうです。

後者の場合、特定の遺伝子が疾病リスクを高めるとはいえ、
合理的な危険選択と評価されるにはハードルが高いと
感じました。

保険会社が顧客に遺伝子検査を求めることができるか
という論点もあります。

現行法(保険業法・保険法)に禁止規定はないとのこと。
でも、自分の遺伝子情報を知りたくないという権利は
どうなるのか。

もちろん、逆選択のおそれもありえます。

遺伝子検査が普及すると、例えばアルツハイマー病になる
リスクを高める遺伝子の保因者ばかりが介護保険に入り、
そのことを知らなかった保険会社の健全性が悪化する、
といった事態です。

吉田さんは、遺伝子検査が保険業に与える影響分析が
不可欠であるものの、分析には時間がかかるため、

「本論点の検討は継続的に行う必要があるとしても、
 拙速な議論は避けるべきであると考えられる」

と結んでいます。

ということで(?)、今回はこれ以上私見をはさむのは
遠慮しておきましょう。

※朝ドラに「大隈夫妻」が登場しているようですね。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。