2021年 10月 の投稿一覧

東洋経済の保険特集号

この週末(10月30日)、RIS(全国学生保険学ゼミナール)の中間報告にあたる「九州ブロックリスクマネジメントゼミ報告会」があり、九州にある3大学の学生(8グループ)が研究成果を報告しました。
中間段階ではありますが、研究の方向性が見えているグループもあれば、まだ着地点が見えないグループもあり、あと1か月でどこまでたどり着けるかですね。参加した学生にとって今回の報告会がいい刺激になればいいのですが。

「生保・損保特集」

先週発売の臨時増刊『生保・損保特集』を読みました。今年の特集は「保険会社のSDGs」ということで、大手生損保がSDGsにこのように向き合っていますというレポートと、保険会社のトップインタビュー(22社のうち10社は2ページ、12社は1ページ)が中心です。私のような業界人ではない一般読者には正直あまり面白くないのですが、トップが出ると雑誌が売れるのかもしれません。

それでも今回は読んで面白い記事があるほうだったと思います(個人の感想です)。

・「金融サービス仲介業」期待と不安の船出
・乱立する「就業不能保険」 難解な商品を徹底解剖
・自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化

いずれも外部の専門家によるもので、旬のテーマを取り扱っています。
私にとって読んで面白い記事とは、旬のテーマだから、読んで新しい知識が得られるからではありません。そのテーマに関する筆者の考察が示されていて、いわば筆者と対話ができるような記事です。「A社は○○を新設し、××を行った」「B社は○○を設定し、××に取り組んでいる」という紹介だけでは対話のしようがありません。

例えば「乱立する『就業不能保険』」では、開発ラッシュ状態にある就業不能保険の全体像を詳細に示した労作で、働けないリスクへの関心が高まっていることが伝わってくる一方、これだけバリエーションが多いと消費者は選びようがないという状態に陥っていることがよくわかりました。筆者の森田さんは「これほどまでに商品を複雑化することが、はたして『顧客本位』と言えるのだろうか」と疑問を呈していて、確かに何らかの環境整備が必要ではないかと思えます。

「自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化」では、自動運転が普及すると自動車保険市場が縮小するという通説に反し、筆者の八幡さん(東京海上日動)は、マーケットの縮小は緩やかなものとなるだろうし、新たな移動サービスに関する補償や自動運転に伴う新たなリスクへの対応など、これまでになかった役割もあると主張しています。新たな役割がビジネスとしてどの程度有望なのかによるとはいえ、保険会社が自動運転をはじめとした移動サービスに積極的に関わろうとしているのは確かで、将来に向けた経営の意思を感じます。

売れなければ特集号を出し続けることができないという事情を理解したうえで、来年以降も読んで面白い記事が多く掲載されることを期待したいです。

※大宰府を守る水城の跡にコスモス畑がありました。

 

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保険学会の全国大会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました。
オンライン開催なので、懇親会等での非公式な意見交換ができないのは残念なのですが、大会に参加しやすいというメリットはありますね。私も福岡にいながらにして報告を行うことができました。

情報開示とメディア

私は3月の九州部会に続き、全国大会でも保険会社の経営情報の伝達について報告しました。
過去20年間の決算報道を調査したところ、平時における報道内容が固定化していることを「発見」したので、その理由を探るため、主要保険会社の広報部門(およびメディア関係者)へのインタビューを行いました。その結果、報道固定化には「メディア自身によるニュースバリューの判断」「報道機関固有の事情」が影響していることが見えてきました。
報告の詳細は今後どこかでご覧いただけるかと思います。

地震リスク

今回の大会では土曜日のシンポジウム、日曜日の共通論題がいずれも地震リスクに関するものでした(金融庁の栗田監督局長による特別講演でも自然災害リスク関連の話がありました)。
シンポジウム「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」は個人の地震リスクと家計向け地震保険についての発表とディスカッション、共通論題「地震リスクに対する企業保険制度の課題」は企業の地震リスクとその対応状況についての発表とディスカッションという内容で、特に後者は知る人ぞ知るという内容だったかもしれません。

共通論題を聞いたうえでの私見ですが、企業の地震リスク対応が進んでいない根底には、日本企業に資本コストを意識した経営が浸透していないことや、そもそも大企業と言えども実質的に事業部門の集合体で、コーポレート部門の機能が弱いという問題があるのだと理解しました(共通論題ではそこまで突っ込んだ議論にはなりませんでしたが)。

なお、シンポジウムではお二人の先生が、地震保険の危険準備金取り崩しをもって「破綻の危機」「財政に懸念」とおっしゃっていて、この点はよくわかりませんでした。
民間準備金が取り崩されてから、官民負担スキーム修正(民間負担分を下げる)までのタイムラグの問題があるとはいえ、地震保険は超長期の収支均衡を意識したプライシングがなされ、政府が再保険というかたちでバックアップするしくみです。もし民間準備金が枯渇し、新たな準備金の蓄積まで政府負担が大半を占めるスキームになったとしても、それをもって「破綻」とみなすのは私には抵抗があります。この保険の存続可能性を問題視するのであれば、論点はリスクに応じたプライシングがなされているか、ではないでしょうか。

※ハロウィンまであと1週間ですね。

 

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もうすぐ総選挙

このところ、総選挙のたびに究極の消去法を迫られる思いです。
今回はシンプルに、発足したばかりの岸田政権に対する信任という点だけで考えればいいのかもしれませんが、アベノミクスの評価だとか、あるいは、まともに各党の公約を見てしまったりすると、どこにも投票できない気持ちになってきます。

「一律10万円の給付」などを掲げる党が、少なくとも与野党に3党あります。そりゃ現金が天から降ってくれば国民は嫌ではないでしょうけど、昨年政府が実施した一律10万円の多くは貯蓄に回ったのではなかったでしょうか。ミクロの政策として特定業種へ一時的に補助金を出すまでならまだわかるのですが。

野党は軒並み消費税の減税を公約にしています。政府の歳出(一般会計)の1/3を占める社会保障費用の財源をどうやって賄うのかを検討し、何年もかけて様々な措置も入れたうえで導入したのが現在の消費税10%です。それでもこうした公約が出てくるのは、わかりやすく(目先の)国民の負担を軽くする感があるからなのでしょう。確かに買い物をするたびに10%の税金を意識させられますからね。

でも、その代わりに「社会保険料の引き上げ」「所得税の引き上げ(特に高所得者)」「法人税の引き上げ」をしなければ国債を増発するほかありません。消費税が下がってうれしいのは、これらを負担しないシニア層だけということを承知のうえで、各党は消費税減税を公約にしているのでしょうか。

他方の自民党ですが、総裁選関連のニュースを見ていた印象では、岸田さんと高市さん(政調会長に就任)の政治思想、あるいは権力行使の姿勢と言ったらいいのでしょうか、私には両者は全然違うように思えます。「丁寧な対話」「人の話を聞く」という総裁と、「大変失礼」「これほどばかげた話はない」と異論を切り捨ててしまう政調会長が同居しているのですから。

ということで何とも悩ましいわけですが、棄権や白票は中立の行動ではなく、多数派に投票するのと同じような効果を持ちます。そこまで踏まえたうえで行動することを若い皆さんには伝えていきたいです。

※博多駅ビルの屋上に「鉄道神社」がありました。

 

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生保の乗合代理店

今週のInswatch Vol.1106(2021.10.11)に掲載されたものです。
生保代理店関連のデータがもう少し出てくるといいのですが(特に取り扱い保険料関連)。
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乗合代理店の業務品質評価

先週の本誌(10月4日号)で編集人の中崎さんが、生命保険協会が公表した乗合代理店の業務品質に関する検証について紹介していました。生命保険協会のサイトでスタディーグループの「業務品質評価運営(案)」(*第16回資料3)を確認すると、実態調査にかかるコスト(30万円超を想定)は評価を受ける代理店が負担し、年間150~200店を評価できるようにするそうです。

ただし、一般への公表は「評価付けを獲得した代理店」のみ行うとのことで、「評価付けなし」となった代理店名の公表はなく、「業務品質評価運営に同意いただいた●●●社を対象としており、そのうち、一定項目の充足が確認できた代理店は●社」という情報開示になる模様です。消費者には(あくまでこの基準において)評価が低い代理店と、そもそも評価を受けていない代理店の違いはわかりませんが、消費者が一定水準の評価となった代理店を選ぶことができるという仕組みです。

保険業界による自主的な取り組みとして、業界を挙げて乗合代理店の品質向上を図ること自体は高く評価できると思います。しかし、いざ始まってみたら、基準策定に関わった代理店ばかりが公表されていた、なんて結果になってしまうと、評価制度そのものの信頼性が揺らいでしまいます。評価が高い代理店をできるだけ早期に増やすとともに、マッチポンプと思われないような評価制度の運営体制を築く必要がありそうです。

大型乗合代理店への集中

ところで、同じ資料に「(ご参考)代理店数について」という記載があり、2020年12月時点の代理店数などが載っていました。

 生保の全代理店   82,165店
 うち乗合代理店   21,939店
 うち募集人50名以上  1,132店

上記の通り、生保の全代理店に占める乗合代理店の割合は27%と、損保代理店の23%(2020年度末)とそれほど大きな違いはありません。募集人数とあわせて見ると、損保では募集人のうち73%が乗合代理店に所属しているのに対し、生保代理店では募集人の90%が乗合代理店に属していることが示されています。専属の募集人の多くは営業職員として保険会社に採用されていると考えられます。

他方で、乗合代理店の募集人の約9割が、全部で1千店程度しか存在しない、募集人50名以上の代理店に所属していることもわかりました。金融機関のように、稼働率の低い募集人を多く擁する乗合代理店もあるでしょうから、募集人の数がそのまま契約に直結するわけではないにせよ、おそらく代理店チャネルにより獲得した生命保険契約のうち、これら大型の乗合代理店による割合はかなり大きいと考えるのが自然です。

市場シェアの大きい(と思われる)大規模な乗合代理店をターゲットに業務品質の向上を図り、対応できない中小規模の代理店には市場からの退出を促すのか。そうではなく、規模とは関係なく、代理店全体の業務品質の底上げを目指すのか。メーカーとしての生命保険会社はどちらを意図しているのでしょうか。
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※写真は福岡城址からの景色です。

 

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生命保険の年齢別・男女別統計表

代理店統計を確認しようとインシュアランス生命保険統計号を見ると、巻末に「年齢階層別・男女別統計表」が載っているのに気が付きました(2016年から載っていたようです ^^;)。元データは生命保険協会の統計みたいですね。
生命保険の加入者は、どちらかと言えば男性のほうが多いというイメージですが、過去5年の個人保険・新契約件数の男女比は概ね半々でした。

  年度  男性の割合
 2015年度  49.6%
 2016年度  49.8% 
 2017年度  49.9%
 2018年度  50.8%
 2019年度  51.9%

生命保険協会の統計を20年前までさかのぼると、2008年度までは新契約件数の53~56%を男性が占めていました。その後女性の割合が高まったのは、統計にかんぽ生命が加わったことのほか、銀行窓販の終身保険や、医療・がん保険の販売が影響していると考えられます。足元で男性の割合が高まっているのは、かんぽ生命の営業自粛が効いているのかもしれません。

統計表には新契約高(保険金額ベース)も載っていて、こちらは男性が67.2%を占めています(2019年度)。新契約高は死亡保障を中心とした指標なので、主に20代から40代の男性が遺族のために保障を買っているという構図は今でも続いているとうかがえます。

年齢階層別データを合わせて見ると、女性は60代以降の層が生命保険を最も購入しているようです(件数ベース)。先に挙げた「かんぽ生命」「銀行窓販の終身保険」「医療・がん保険」のいずれも、販売の中心は高齢女性となっているのでしょう。

※来週から賑やかなキャンパスが戻ってきます。

 

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IT関連2題

やや強引ですが、ITに関連した2つのテーマを取り上げます。

インシュアテックの未来

「わりかん保険」「コロナ助け合い保険」などで知られるジャストインケースの畑加寿也代表が9月29日に、インシュアテックのホワイトペーパーを公表しました。
ITを中心とした保険の発展の方向性を示したロードマップということで、今後10年間で保険市場がどう変わり、既存の事業者はどう対応したらいいかを述べています。

ペーパーでは、(日本の)保険会社は「他のディスラプトされてきつつある業界と比べると金銭的にも時間的にも猶予が残されている」としたうえで、「多くの保険会社は従来の運用モデルとレガシーシステムから離脱できず、新ビジネスの導入や規模の拡大が遅れたり、急速な市場の変化に追いつくことができないでいる」と指摘。今後ITインフラをどのように進化させるべきか、いくつかの選択肢を示しています。

「システムを作らせる技術」

先のペーパーによる、「IT予算の多くは既存のレガシーシステムの維持管理に使われている」「IT人材が不足するなか、レガシーシステムの維持・運用にIT人材が割かれている」「既存のレガシーシステムの全容を理解している人材がいない」といった指摘は保険会社の経営者にとって耳が痛いものだと思います。
しかし、システム変革の選択肢を示され、「パッケージソフトウェアの購入とクラウドベースとしたSaaS(Software as a Service)の利用のどちらにしますか」「サービスの接続方法はAPIですか、アダプターですか」などと言われても、困ってしまうのではないでしょうか(おまえと一緒にするなという声も聞こえてきそうですが…)。

たまたま最近手に取ったのが、白川克さん、濱本佳史さんによる「システムを作らせる技術~エンジニアではないあなたへ」です。著者のお2人はケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズというITに強みを持つコンサルティング会社のメンバーですが、コンサルの書いた薄っぺらいハウツー本ではありません(確かにページ数も多いのですが、そういう意味ではありません)。
あるようでなかった、システムを作ってもらう人が身につけるべき技術、知っておくべきことを学ぶための本で、極めて実用的に書かれているばかりでなく、その根拠も記されています。

コラムの1つに「ITベンダーは品質など気にしていない!」というものがあり、私にはストンと落ちました。「品質」と「精度」は別の概念なのですね。

※羽田空港で楽しい自販機を見つけました。

 

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