生命保険会社の2024年4-6月期決算では、長期金利の上昇によって保有する国内公社債の時価が下がり、各社の「含み損」が拡大。その点に着目した報道がいくつかありました。
生保の国内債含み損、08年以降で最大に(日経・有料記事)
大手生保4社、国内金利上昇で債券評価損が拡大(Bloomberg)
国内債の含み損拡大は、リスクをとった結果、期待に反して損失が発生した、つまり資産運用で失敗したというのではありません。会社全体としては金利リスクを小さくしているにもかかわらず、保険会社が資産サイドの時価情報しか公表していないため、あたかも損失が膨らんだかのように見えてしまうという話です。「満期保有目的の債券」や「責任準備金対応債券」だから時価評価しなくてすむ(したがってソルベンシーマージン比率はほとんど下がらないですよ、Bloombergさん)、というのは本質的な論点ではなく、経営状態を示すうえでの情報開示や説明が足りないということではないかと思います。経済価値ベースのバランスシートが公表されていれば、こうした誤解は起きにくいかもしれません。
とはいえ、現行の保険会計は経済価値ベースのソルベンシー規制導入後もそのままなので、さらに金利が上がり、国内債の含み損が拡大すると、監査人から減損処理を求められるのではないかという懸念はあります。時価下落の原因が信用リスクの増大ではなく、市場金利の上昇だけであれば、オーバーパーの債券でないかぎり「回復見込みがある」と言えそうなものです。どうなのでしょうか。
ただし、解約の可能性をどの程度考えておくべきかという難しい問題はあります。解約返戻金を支払うために、含み損を抱えた国内債の売却を迫られることになるかどうかです。このところ一部で注目されている「ESRの大量解約リスク問題」にも通じるところがあるのですが、経営不安に伴う解約増加の過去データはあっても、金利が上がるとどの程度解約が増えるかという日本の過去データは見当たりません。それに、銀行が預金代替として販売した一時払いの貯蓄性商品と、遺族保障ニーズに応じた平準払いの長期保障性商品では、金利感応度はかなり異なるでしょう。一律に線を引くというのは無理があるように思います。
いずれにしても、メディアの不勉強を責めるのは簡単ですが、金融市場や規制などの経営環境が変わる場面では、とりわけ丁寧な情報開示が必要ではないでしょうか。
※訳あって広島に来ています。