このところ気になっている生保営業職員チャネルの保障性商品の販売低調について、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1220(2024.2.12)に寄稿しました。当ブログでもご紹介します。
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決算発表の注目点
今週は主な保険会社の決算発表(2023年度第3四半期)が予定されています。損害保険会社では特に、国内の自動車保険、火災保険の収支動向に注目したいと思います。
他方、生命保険会社で気になるのは、営業職員チャネルによる保障性商品の新契約動向です。例えば日本生命グループでは、23年度上半期に営業職員チャネルの新契約年換算保険料(個人保険・個人年金)が増加したものの、IR資料によると、日本生命単体の個人向け保障性商品の販売は大幅に減った模様です。第一生命グループでも、営業職員チャネルによる新契約年換算保険料(同)は大きく伸びている一方、第一生命の商品に限れば前年同期比でマイナスが続いています。
死亡保障の販売は難しい
日本生命の営業職員チャネルの増収は、昨年1月に予定利率を引き上げた一時払い終身保険の販売拡大が大きいとみられます。第一生命では、兄弟会社である第一フロンティア生命の米ドル建て商品などの販売が増収に寄与しました。両社ともに、顧客ニーズの強い貯蓄性商品の販売にチャネルがやや傾斜してしまい、死亡保障などの保障性商品の提供が不振に陥っている構図が見てとれます。
生命保険の販売に携わっている皆さんにとって、「生命保険(個人向けの死亡保障)」「医療保険」「貯蓄性商品」のうち、最も売るのが難しいのはどれでしょうか。顧客基盤によって異なる答えとなることもありえますが、一般的には生命保険の提供が最も難しいと思います。生命保険の本来のニーズは遺族保障であり、保険金を受け取るのは加入者自身ではありません(医療保険や貯蓄性商品は自分が受け取れます)。貯蓄性商品には「お金が増える」といった楽しみもありますが、生命保険が役に立つ場面を想像するのは楽しいことではありません。だからこそ、営業職員をはじめ、対面チャネルによってニーズを掘り起こし、加入の決断を促すという販売手法がとられ、保障性商品の普及が進みました。
過去の事例
一時払いの貯蓄性商品への傾斜に伴い、保障性商品の販売力が弱まった例として、2000年に経営破綻した協栄生命のケースをご紹介しましょう。
協栄生命は特定の企業グループに属していなかったこともあり、教職員団体や各種の同業組合などと提携し、その団体の共済制度として主に保障性商品を提供していました。ところが、他社を後追いする形で1987年から一時払い養老保険の販売に踏み切り、しかも、他社が販売を抑えるようになってからもしばらく売り続けました。これには顧客基盤である提携団体からの強い販売要請に加え、「営業職員が保障性商品を売る力が落ちており、1万人体制を達成するために一時払い養老保険に走った」(当時の本社スタッフの証言)など、貯蓄性商品に傾斜した影響で営業現場の販売力が衰退していたという事情もあったそうです。
チャネルのあり方として、顧客ニーズの強いものを提供すべきというのが正論かもしれません。ただし、ドアノックツールとしての貯蓄性商品の販売にとどまらず、主力商品として新人層からベテラン層までが、比較的売りやすい貯蓄性商品に走り、保障性商品の販売力が落ちてしまうと、時間がたつほど復活が難しくなるということをこの事例は示しています。
*参考文献:植村信保『経営なき破綻 平成生保危機の真実』
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※写真は太宰府天満宮です。