最近、私よりちょうど20歳若い記者さん(柴田秀並さん)が「生命保険の不都合な真実」という新書を出しました。
2018年から保険業界を担当するようになり(今は金融庁担当とのこと)、取材活動を進めるなかで、生命保険業界が本当に顧客のためになっているのかという疑問を感じたことが、柴田さんが本書を執筆する動機になったようです。
確かに昨年から今年にかけての生命保険業界の話題といえば、外貨建て保険の問題や節税保険をめぐる騒動、乗合代理店へのインセンティブ、そして、かんぽ生命(郵便局)の不正販売と、顧客本位とはかけ離れたことばかりでした。
柴田さんはこう書いています。
「保険の議論をするのは非常にハードルが高い。率直に言って、難しいからだ。一介の新聞記者に対して、業界に精通した人からは『キミが不勉強なだけでみんな知っているよ』とか、『そんなこといまさら書いてどうするの?』といった反応が取材の過程でしばしば返ってきた」
そういう対応もありそうだなあと気の毒に思いつつ、あえて言えば、大手新聞社の記者さんの担当期間が短かすぎるのですね。新聞社のローテーション人事について柴田さんに文句をいっても仕方がないのですが、経済誌のようにある程度じっくり取材活動ができれば、少なくとも決算報道で保険料収入と基礎利益の説明をしておしまいということはなくなるのではないでしょうか。
これから経済価値ベースの規制が入ろうというときに、大手メディアの役割は決して小さくないと思いますので、機会を見つけてインプットを続けていくしかないのかもしれません。
とはいえ、本書は現場でのしっかりした取材をもとに近年の問題を掘り下げているので、生保業界に関心のあるかたには大変参考になると思います
(もし続編があれば、営業職員チャネルについても深掘りしていただきたいです!)。
ちなみに第1章に次のような記述があります。
「ある大手生保の財務企画(資産運用部門の企画部門)にかかわる幹部は、『基礎利益は、会社の成績を見るうえで、いまや弊害のほうが大きいかもしれない』と認めた。だが、それでも業界は表向き、基礎利益の多寡を誇る。『マイナス金利時代には、会社の順位をはかるのは基礎利益ですよ』ある生保企業の広報担当者にこう説得されたことがある。(中略)いま思うと、その人は『確信犯』だったのかもしれない」
確信犯だったらまだいいのですが、本気でそう考えていたら困ってしまいます。
※写真は香港から深圳に入ったところです
(出国・入国審査があります)