29日に日本アクチュアリー会が、長期収支分析に関する
「生命保険会社の保険計理人の実務基準」改正案を公表しました。
日本アクチュアリー会のサイトへ
保険計理人は法令で、責任準備金が将来にわたって
不足が生じないよう、健全な保険数理に基づいて適切に
積み立てられているかどうかを確認することとなっています。
この確認に関する将来収支分析(1号収支分析)において、
現行の「将来10年間の分析」に加え、すべての保険契約が
消滅等するまでの期間(=全期間)にわたる分析を、
新たに導入するというのが今回の改正案です。
アクチュアリー会のサイトには導入の背景等の説明はなく、
いまどうして長期収支分析の導入なのかわかりませんが、
おそらく関連する話として、FSAP JAPANをご紹介しましょう。
IMFは2011~2012年に日本の保険セクターの評価を行い、
その結果を2012年に公表しています。
IMFのウェブサイトへ
これを見ると、26の評価項目のうち、大半が「Observed(O)」か
「Largely Observed(LO)」という高い評価だったものの、
いくつかの項目は「Partly Observed(PO)」という低い評価でした。
POとなった項目の1つが「Valuation」です。
日本の責任準備金はいわゆる経済価値評価ではないし、
償却原価+キャッシュフローテストという手法としても、
10年間のテストしかしていない、という趣旨のコメントがあり、
IMFは「全期間の将来キャッシュフローを考慮すべき」
「評価方法を見直すべき」という指摘をしています。
生保の責任準備金は全期間のキャッシュフローを反映して
計算されているのですが、1号収支分析で「不足」と判断する時点は
5年後なので、これを「短い」と言われると反論は難しいでしょう。
今回のアクチュアリー会の動きがIMFの要請を受けたものなのか、
今のところ明らかにされていません。
ただ、今回の改正案は、全期間の分析を行うというだけで、
アクションを伴うものではなさそうですし、IMFが求める
「全期間の将来キャッシュフローを考慮した」となるのでしょうか
(ちなみにオープンモデルでもOKと読めますね)。
他方で金融庁は、経済価値ベースのソルベンシー規制の
導入に向けた準備を進めているので、こちらを進めれば
IMFの基準をクリアできるはず。
米国保険会社とは違い、日本の上場保険会社の大半が
ESR(経済価値ベースの資本十分性)を公表するなかで、
経済価値ベースも償却原価も、というのはどうなんでしょうか。
※銀座の中央通りに不思議な路地を見つけました。