「市場リスク 暴落は必然か」

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某生保の著名アクチュアリーの勧めで読んだ本です。
400ページ以上もあり、かつ、翻訳ならではの読みづらさもありましたが、
大変勉強になりました。

著者のリチャード・ブックステーバー氏は、ウォール街の投資銀行や
ヘッジファンドでリスクマネジャーとして活躍しています。
本書は彼の金融危機の根源に関する研究をまとめたもので、
ブラックマンデーやLTCM危機、シティグループ誕生など、
当事者ならではの生々しい記述がたくさん盛り込まれています。

詳細はご覧いただくとして、いくつかの記述を紹介しておきましょう。

・市場が危機に陥ると、資産間の相関の絶対値は1に近づく。

・チームの規模が大きくなればなるほど、すでに認識されているリスク要因が
 より詳細に分析されるようになり、新しい要因にはほとんど注意が払われなくなる
 傾向がある。(中略)真のリスクとは、目に見えないリスクである。

・組織が大きくなると、だれが意思決定を行っているのか判断がつきにくくなる
 きらいがある。そうなると、奔流をせき止めることができなくなって、破綻への
 坂道を転がり落ちていくことにもなりかねない。

・規制や組織的な監視の階層を追加して、リスクをコントロールしようとしても、
 われわれの制度設計が生み出した市場の複雑性や密結合がもたらす問題を
 解決できるとはかぎらない。(中略)何よりもまず複雑性を減らすのが望ましい。

・予期せぬ出来事が起きて絶滅する種は、ある環境の既知のリスクへの対処には
 適しているが、予見不可能な変化への対応には適していない機構を持っている。

今回の金融危機が起きる前(2007年)に出た本とは思えないような
タイムリーな本でした。おすすめです。

 

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正月のテレビ

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あけましておめでとうございます。
正月ですし、たまには保険以外の話を。

普段はテレビをあまり見ない私ですが、
年末年始は紅白やドラマを見ることになります。

しかし、紅白はともかく、今回は目玉となるドラマが
全くと言っていいほどなかったですよね。

例えばフジ。例年ならば、「古畑任三郎」「のだめヨーロッパ」など
大型ドラマ企画がありました。
でも、今年は映画「HERO」でお茶を濁しました。

しかも、一昨年にやった映画をテレビで初めて流すからと
朝から「HERO」の再放送を6時間以上もやりました。
正月特番のために再放送や番宣をするならまだわかりますが、
これはひどい。

新聞のテレビガイドを見ても、正月特番らしかったのは
テレ朝「相棒」、テレ東「おんな太閤記」くらい。
あとは連続ドラマの初回拡大版です
(NHKは連日頑張っていますね)。

「正月特番を作らなかったのは、不景気でスポンサーが集まらないから」
という声が聞こえてきそうですが、理由はそれだけなのでしょうか?
民放が番宣や番組内CMに傾斜し、番組そのものの質を下げてきたことが
私には大きいように思えます。

 

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「漂流するリスク管理」

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12/26の日経13面。「株価 金融技術の限界」という特集の後編で、
表題の見出しがついた記事が掲載されています。

記事では金融危機で投資家のリスク管理が根本から揺らいだと指摘。
森平先生のコメントとして、「(リスク管理の抜本的な見直しは)
数年以上かかる膨大な作業で、現状は『暗中模索』の段階だ」とあります。

今回の金融危機で経営危機に陥った金融機関は、リーマンをはじめ、
先進的なリスク管理を行っていたはずでした。

しかし、現実にはうまく機能しなかった。
過去のボラティリティを大幅に上回る変動が起こり、
分散効果は働かず、時価と実態が大きく乖離してしまいました。

では、どうすればいいのか。
これが来年の最も大きな課題になると思います。
外部から金融機関のリスク管理を評価するアナリストとしても
非常に大きな課題です。

そのようななかで、今年は破綻生保の研究を通じて
ガバナンスの重要性を再認識できました。
今後につなげることができればと考えています。

ということで、来年も時間を見つけていろいろ書いていきますので、
引き続きよろしくお願いいたします。

 

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「保険の比較情報」はどうなったのか?

本当は昨日書こうと思っていたのですが、「3社統合報道」で飛んでしまいました^^
少し長めですが、お付き合い下さい。

金融庁の「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」の提言を受け、
 ・最低限の情報提供として「契約概要」「注意喚起情報」
 ・顧客ニーズに合致しているかどうかを確認する「意向確認書面」
の二つは曲がりなりにも実現しました。

ところが、最後の「適切な比較情報の提供を促す環境整備」については
結果的に放置されたままです。

 検討チームの提言はこちら↓
 「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」提言

そして「比較情報の提供を促す環境整備を図るための協議会」の代わりに(?)
業界団体が主催する「みんなが主役、保険商品の比較に関する自由討論会」が
2007年7月から2008年5月にかけて4回にわたり開かれたものの、
単に意見や要望を並べただけの報告書が作成され、おしまい。
あとは報告書を参考にそれぞれの立場から検討しろとのことです。

 報告書はこちら↓
 
 「みんなが主役、保険商品の比較に関する自由討論会」報告書

これで「適切な比較情報の提供」が進むなら、何もしなくても進みます。
実際、報告書を受けてまともに対応しているように見えるのは
どうも損保協会だけのようです(協会長が就任時に言及しています)。

さて、以前ご紹介した出口さんの著書「生命保険はだれのものか」に、
「約款と(年齢別の)保険料表の開示を生保会社に義務づけるべき」
とありました。

私もまずはこれだと思います。第三者が比較情報を提供しようにも、
きちんとした元データが少なすぎるのです。
他方で、すぐに保険業法第300条の「誤解させるおそれ」が持ち出され、
「比較情報を提供する第三者を規制すべきだ」となってしまいます。
規制って、それほど万能なのでしょうか?

もちろん、各社の自主的な情報開示は大いに進めていただくとして、
行政は自らが商品の審査をするだけではなく、「約款と保険料表を開示させ、
第三者が保険の比較情報を提供できる仕組みを整備する」という出口案に
私も賛成です。
具体的な保険料表の開示内容は、それこそ「協議会」で議論したらいいでしょう。

この件もやはり、「自己規律」「規制・監督」に加え、「市場規律」の3点セットで
進めていく話だと思います。

 

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損保3社の経営統合

「三井住友海上、あいおい、ニッセイ同和が経営統合を検討」
というニュースが流れています(今のところNHKと毎日)。
「1月中にも結論」(毎日)とあるので、どうなるかわかりませんが。

あいおいの大株主はトヨタ、ニッセイ同和は日本生命です
(日本生命は三井住友海上GHにも出資)。
仮に報道の通り、3社の経営統合が実現すれば、
それぞれグループとしては損保を経営するのを止めるのか、
それとも、あくまで持ち株会社傘下の子会社に出資するのでしょうか。

現時点でいろいろ考えてもしょうがないので、これ以上はやめておきますが、
12/28にニュースが流れるなんて、勘弁してほしいです。

 

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増資の理由

25日の日経に小さな記事で「I生命が増資」という記事があり、
「法人向け保険や変額年金保険の販売が拡大していることから、
 財務基盤を強化する」とのこと。ちょっと首をかしげました。

 

というのも、今の状況で増資が必要なほど法人向け保険が
爆発的に売れている会社があるとは思えませんし、
変額年金も10月以降、銀行の消極姿勢が目立ちます。
しかも、I社は変額年金の最低保証リスクを再保険で移転しており、
日本法人にはこの影響もないはずです。

そこで中間決算を見ると、外国公社債が含み損となっており、
ソルベンシー・マージン比率や実質資産負債差額を
押し下げていることがわかりました。
外国公社債の平均残存期間が長そうなので、ALM目的なのでしょう。
おそらく10月以降の金融市場混乱で時価がさらに下がり、
今回の対応につながったのではないかと想像できます。

ちなみに会社の発表文は、次の通りです。

「今回の資金調達は、業容拡大に伴う今後の資金ニーズに対応するためにも、
 財務基盤を強化することにより経営健全性の維持向上を図ることを
 主たる目的としています」

難しい日本語ですが、よく見ると「業容拡大のため」とは書いてありませんでした
(業容拡大は今後の話なのですね)。

 

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「巨大保険会社 国際監督に穴」

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けさ(22日)の朝日新聞6面に興味深い記事がありました。
AIGの経営危機をきっかけに、国際的に活動する保険会社の
監督体制の不備が浮き彫りになったというものです。

例としてハートフォードの最低保証リスクの話が挙がっています
(記事にはそう書いてありませんが、最低保証リスクの話です)。
再保険を通じて、規制の厳しいところから緩いところへリスクが移るという、
古くて新しい問題です。

また、規制・監督は国ごとなので、グループ全体がどうなっているかは
当局が把握することはできません(格付け会社や市場は見ていますが)。
こちらは保険会社に限った話ではありませんが、
銀行には国際監督基準があり、一定の役割を果たしています。

記事にある、「(米国への出再は)単なる引き当ての節約が目的だろう」
という専門家の指摘はかなり乱暴だと思いますが
(日米まとめて管理したほうが効率的でしょう)、
リスクが見えにくくなっているのは確かです。

記事は「ソルベンシー規制の国際基準が必要」という趣旨ですが、
あわせて情報開示の国際基準も必要ですね。

 

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もう一つの共済問題

週刊東洋経済2008.11.29の共済特集「共済vs.生保」で
保険ジャーナリストの石井さんが取り上げていましたが、
12/1に公益法人制度改革法が施行となり、
公益法人が行う共済事業も保険業法の規制対象になりました。

http://www.fsa.go.jp/ordinary/ins_koueki/index.html

現行の公益法人は今後5年以内に新法人(一般または公益)に
移行する必要があります。しかし、共済事業をそのまま続けると、
無認可の保険事業者として保険業法違反になってしまいます。
新法人に移行するまでに、保険会社(少額短期事業者を含む)になるか、
共済事業を縮小・譲渡・廃止するか決めなければなりません。

石井さんによると、公益法人のうち共済を主目的に運営しているところが
990法人もあるそうです。おそらく規模の小さいところが多いのでしょうが、
「あんしん財団(旧KSD。会員事業所は24万件)」や
「日本フルハップ(関西ではCMで有名。加入者数は54万人)」
といった中小企業向けに広く共済事業を展開しているところもあり、
今後の動向が注目されます。

 

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米国生保への資本注入はどうなる?

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FRBがゼロ金利政策に突入しました。
ついにここまできたかという感じですが、信用収縮が起きているときに
金利を引き下げても効果はあまり期待できない、というのが
日本の経験からの教訓でしょうか。

ここ数日、米国生保の原稿を書いていて思うのですが、
米国政府の対応にはやっぱり頭を抱えてしまいます。

例えば11月以降、CMBS(商業用不動産担保証券)の価格が急落しました。
これには政府の方針変更が一役買っています。
米財務省の金融安定化策が、当初の不良資産買い取りから
資本注入プログラムに変わってしまったためです。

この資本注入プログラムは保険会社も対象になっていて、
ハートフォードやプルデンシャルといった大手保険会社も参加を表明しています。
ところが、本当に資本注入されるのか、されない会社があるのか...
といった宙ぶらりんの状態が続いており、市場の疑心暗鬼は晴れません。

新政権に多くを期待するのはどうかと思いますが、
少なくとも現政権のレームダック状態が終わる点はプラスでしょう。

 

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日経ヴェリタス「安易な会計ルール緩和に抗す」

本日(14日)の日経ヴェリタス、IASB理事である山田辰己さんの記事です。

・国際会計基準の緩和はEUからの強い政治的圧力を受けたもの。
 EUがルールを勝手に凍結し、情報開示が後退しないように決断した。

・「取引がほとんどない市場で金融商品の時価をどう決めるか」
 「時価評価の信頼度」「簿外の特別目的会社」などの課題には、
 情報開示を強化する方向で対応している。

・投資リスクを投資家に伝えるもので時価に代わるものはない。
 海外では時価会計をやめるべきだという極端な議論は出ていない。
 安易に会計ルールを変更すれば、市場の信頼を失うことを理解している。

IASBは国際会計基準の作成を担う組織で、理事は14人。
そのうち日本人は山田さんだけという、貴重な存在です。

昨今、金融機関の健全性を「自己規律」「行政による規制」「市場規律」
の3つで確保しようという流れから、金融危機が深刻化するなかで
「市場規律」を否定する動きがあるように思えてなりません。

危機対応の重要性を否定するつもりはありませんが、
さりとて「行政による規制」だけで実現可能なのでしょうか。
山田さんを応援したいと思います。

 

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