ある筋からのご依頼により、この記事を取り上げました。
生命保険大手がM&Aに走る理由?
まず、念のため記事の要旨をお示しします。
①生保の海外M&Aは「かんぽ」上場が引き金。パイを「かんぽ」
に奪われるとの危機感が、大手各社をM&Aに駆り立てる。
②保険収支(=保険料等収入-保険金等支払金)が3.7兆円、
運用収支(=資産運用収益-資産運用費用)が11兆円と
2014年度は運用収支が圧倒的に多い。つまり、経常利益でも
運用益が大きな比重を占めることになる。
生保大手がM&Aに走るのは、今後、高齢化と人口減少で
保険料収入が減る一方、支払保険金が急増し、保険収支の
悪化が加速するのが目に見えているから。
③独自のニッチ路線を行く会社もあるが、42社は多過ぎる。
再編が進まない理由は、大半の生保がとる「相互会社」
という企業形態にある。
今後、海外に活路を見いだすことが難しい多くの中小生保の
経営が行き詰まるのは目に見えている。破綻が続けば
社会不安を起こしかねない。
相互会社再編の道さえ開ければ、大手生損保主導による
国内生保業界の健全化が見えてくる。
M&Aの背景に「かんぽ」上場があるかどうかはともかく、
②と③には事実とかなり異なる記述がありますので、
この点をコメントいたしましょう。
まず、②の「経常利益に運用益が大きな比重を占める」
ですが、「保険収支」について誤解があるようです。
ここで言う「保険収支」とは、その期の保険料等収入と
保険金等支払金を比べただけなので、損益とは無関係です。
おそらく筆者のかたは「責任準備金」の存在をご存じない
のだと思います。
生保は自転車操業(=その期の収入でその期の支出を賄う)
をしているのではありません。その期の保険料等収入のうち
翌期以降に支払いが見込まれるものは責任準備金に繰り入れ、
その期に支払う保険金や給付金、返戻金は責任準備金から
支払います。
確かに長期にわたり保険収支のマイナスが続くのは、
持続的成長を目指す観点からは好ましくないかもしれませんが、
その期の保険収支を見ても、会社が儲かっているかどうかは
判断できません。
運用収支と経常利益の関係にも誤解があるようです。
生保は平たく言えば契約者に一定の利率(予定利率ですね)
を保証しており、これを運用益で賄っています。
利率保証にかかる毎期のコストは責任準備金繰入額に
含まれているのでわかりにくいのかもしれませんが、
毎期数兆円のコスト負担があるので、運用収支11兆円が
そのまま利益とはなりません。
もし運用収支がそのまま利益となるのであれば、
「逆ざや」など発生しようがありませんよね。
長くなったので、③についてはごく簡単にコメント。
「再編が進まない理由は、大半の生保がとる『相互会社』
という企業形態にある」
とのことですが、相互会社は今や5社しかありませんし、
中小生保は全て株式会社形態です
(総資産5兆円超の会社を「中小」とは言わないでしょう)。
以上から、筆者のかたは一見して生保経営について
ご存じではないことがわかるにもかかわらず、
・海外に活路を見いだせない多くの中小生保は経営が
行き詰まる。破綻が続けば社会不安を起こしかねない
・相互会社再編の道さえ開ければ、大手生損保主導による
国内生保業界の健全化が見えてくる
という刺激的(?)なご主張をしているわけです。
少なくとも保険関係者のかたであれば、これをそのまま
情報提供してしまうのは、私には疑問に感じましたので、
失礼ながら今回このようなコメントをした次第です。
※久しぶりに横浜スタジアムを見ました!