2020年 5月 の投稿一覧

大手損保グループ経営の現状

先週は大手損保グループ各社のIRミーティングがあり、いろいろと気付きがありました
(いずれも対面形式ではなかったので、福岡にいてもアクセスできました)。

まず、損保事業への新型コロナの影響は、国内と海外(欧米)でだいぶ異なっているようです。
東京海上やMS&ADでは、海外事業で数百億円規模の保険金支払いが発生する見込みです。主にイベント中止や事業中断などの保険ではないかと思います(取引信用保険も考えられますね)。
他方で国内では、2期連続で風水災による多額の保険金支払いが発生したものの、新型コロナ絡みの支払いは今のところ目立ちません。いわゆる新種保険の普及は国内ではまだまだということなのでしょう。

再保険市場のハード化もはっきりしました。長い間、保険料率の低下基調が続いていたものが、少し前から上昇基調に転じたようです。
このところ世界的に自然災害が多発し、国内でも1兆円を超える自然災害に伴う保険金支払いが2期連続で発生したうえ、新型コロナ関連の支払いや金融市場の不安定さも加わり、再保険市場はハードマーケットに転じた模様です。
確かに損保各社の出再保険料(火災保険)をみると、各社ともかなりのペースで増えていることがわかります。

もっとも、各社とも政策株式保有を減らしてきているとはいえ、引き続き株価下落がグループにとっての最大リスクか、それに近いということも確認できました(金利リスクも大きいですね)。

※ラタトゥユとカルパッチョを作りました。
 すいかは今季初です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保決算の概要

例年とちがい、生保決算はまだ出そろっていませんが、国内系生保に関しては大まかな傾向は見えたのではないかと思います。

まず、資産価格変動の影響です。
一時は株価が大きく値下がりしたものの、結果的に日経平均株価は前年度末から10%程度の下げにとどまりました。それでも株式保有の多い会社では、株価下落で支払余力が圧迫を受けています。
他方で、米国をはじめ海外金利が大きく下がり、こちらは外国公社債の時価を押し上げています(ただし、為替はやや円高なので、影響が相殺されているところもあります)。
これらは損益計算書には部分的にしか出てきませんが、公表されているEV(エンベディッド・バリュー)を見ると、会社価値への影響としては最も大きい要因だったようです。

保険関係では、会社によっては経営者保険の販売停止などにより、新契約価値が影響を受けています。第三分野の新契約年換算保険料が軒並み前年割れとなっているのもちょっと気になります。ただし、新型コロナの影響は、この段階ではほとんど見られません。
なお、大手生保が相次いで投入した健康増進型保険も大ヒットとまではいかなかった模様です。

こうしたことは、保険料等収入と基礎利益だけ追いかけていては、全く見えてきません。
メディアは今回のかんぽ生命(=営業を自粛していた)や大同生命(=経営者保険の販売を停止していた)の基礎利益が増えたのを見て、この指標に何も疑問を感じなかったとしたら、さすがにおかしいと思います。

国内系生保の経営が総じて保険ではなく、資産運用に左右されやすいのは、リスクの取り方がそうなっているからです。
このことについて、第一生命ホールディングスは決算説明会資料(PDF)のなかで、日本の大手生保グループとして初めてグループ統合リスク量の内訳を開示し、金利・株式を中心とした市場関連リスクが全体の7割を占めることを明らかにしました。
同社は金利リスクと株式リスクの削減に取り組み、市場の変動に左右されにくいリスクプロファイルにしていくとのことです。

※自宅からビーチまで歩いて行けました!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

日産生命破綻処理に関する覚書き

保険会社の2019年度決算発表が始まりました。
まずは上場生命保険会社グループということで、15日に第一生命ホールディングス、T&Dホールディングス、日本郵政・かんぽ生命の決算発表がありまして、今週は損保決算、(非上場の)生保決算と続きます。

政府の緊急事態宣言が出たのは4月上旬なので、今回の決算発表では対面販売自粛の影響は営業数値にほとんど出てこないのではないかと思います。
他方で、非対面での保険販売を主力とするライフネット生命は4月の業績速報(PDF)で、新契約業績が過去最高を更新したことを明らかにしました。アドバンスクリエイトも4月の業績概要(PDF)で、保険代理店事業において、対面販売が落ち込む一方、通信販売が急増したことを示しています。

予定利率の引下げ

さて、タイトルは「日産生命破綻処理に関する覚書き」でしたね。
生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」最新号(第88巻第3号)に、明治安田生命保険の佐藤元彦さんによる同名の論文が掲載されました。

1997年4月に破綻した日産生命の破綻処理は、その後も相次いだ生保破綻の処理に大きな影響を与えました。
なかでも、「既契約の予定利率引下げ」と「早期解約控除の設定」は、次の東邦生命(1999年破綻)をはじめ、全ての破綻処理で採用されています。

論文によると、保護基金の発動、イコール契約条件の変更ということではなかったそうです。しかし、「収支上の必要性から予定利率引下げは余儀ないものだった」(論文より引用)。論文の注記には、「資金援助上限額2000億円だけで処理が可能だったとしたら、予定利率は引下げなかったであろう」とありましたが、資金不足が大きく、そうもいかなかったようです。

数年後にアクサが日本団体生命を買収し、破綻後ではないので、当然ながら高利率の契約もそのまま引き受けています。当時のアクサがどう判断したのかはわかりませんが、もし将来収支がマイナスでも、顧客基盤や新契約獲得能力など(いわゆる「のれん」ですね)に大きな価値があると判断すれば、条件変更なしでの破綻処理もありえたのかもしれません。
もっとも、破綻により日産生命の事業基盤はダメージを受けており、のれんを高く見積もることもできず、予定利率の引下げはやむを得なかったということなのでしょう。

新日産生命構想

「新日産生命構想」は本当にあったのですね。
破綻した日産生命の既契約の受け皿会社を、日立・日産グループ各社の共同出資で新設するというもので、既契約の維持管理だけでなく、新契約の獲得も行う保険会社を新たに立ち上げる構想でした。日産生命の欠損額が大きく、保護基金の資金援助2000億円では賄いきれないので、「残りの欠損額については、新日産生命の営業力と予定利率引下げ後の既契約の収益力を評価し、営業権として資産計上することで補う」(論文より引用)というスキームです。

残念ながら日立・日産グループからの出資を得られず、新日産生命構想は頓挫しました。論文には早期解約控除についての言及がなく、日立・日産グループの信用が拠りどころということで、出資者としては再破綻の可能性を意識したのかもしれません。

早期解約控除

最終的に日産生命の破綻処理は、生命保険協会の100%出資により、既契約の維持管理のみを行う受け皿会社(あおば生命)を新設し、そこに日産生命の契約を移転するスキームとなりました。既契約に対しては予定利率引下げなど基礎率の変更を行い、さらに、ここで「早期解約控除」が出てきます。

早期解約控除とは、業務再開後の数年間は、通常の解約控除に加え、一定額の解約控除を上乗せするというものです。
初年度の控除率を15%としたのは、「(保護基金からの)資金援助がなされない場合、およそ15%程度の積立金毀損が発生する」との見解を佐藤さんは示しています。この15%が妥当だったのかどうかはわかりませんが、あおば生命の経営を安定させるのに寄与したのは間違いないでしょう。後に生保協会があおば生命を売却できたのも、「既契約の予定利率引下げ」「早期解約控除の設定」をセットで実施したからだと思います。

会員以外のかたが論文を読めるようになるのは2022年1月になってからですが、破綻処理策の原案作成者による覚書きは貴重だと思いまして、ブログで紹介しました。

※緑が濃くなりましたね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生命保険会社の会社数の推移

inswatch Vol.1032(2020.5.11)に寄稿した記事のご紹介です。

【5月14日訂正】生命保険会社の会社数は42社でした(チューリッヒ生命のカウント漏れ)。大変失礼いたしました。

------------------
テレビのニュースもネットの見出しも新型コロナ関連の話ばかりなので(私も先月のinswatchで取り上げました)、今回は全く違うテーマを取り上げてみましょう。

日本に生命保険会社は何社あるか

正解は41社です(2020年5月1日現在)。日本では保険業は免許制(少額短期保険業は届出制)なので、金融庁から免許を取得している生命保険会社が41社あるということになります。

意外に多いと感じるかもしれませんし、「生保は大手銀行や損保に比べると再編が進んでいない」と言われることもあります。確かに大手生保(4社または5社が大手とされる)の市場シェアは圧倒的というほど高くはありません。
ただ、日本の生命保険市場が世界第2、3位の規模という巨大なマーケットであることを踏まえれば、会社数が多すぎるという指摘は当たらないようにも思います。

ご参考までに、損害保険会社は53社(同)あります。3メガ損保グループが収入保険料の8割超を占める超寡占市場なのに、どうして会社数が多いのかというと、3グループともに機能・役割の異なる保険会社を複数持っているうえ、規模が小さく、特定の分野に特化した会社が数多く存在するからです。
また、このなかには再保険会社も含まれていて、生命再保険を主力とする会社でも、損害保険会社の免許を取得することになります。

「増加」から「横ばい」へ

次に会社数の推移を見てみましょう。
生命保険協会が「生命保険の動向」という資料の中で、「生命保険協会加盟会社数の推移」というグラフを掲載しています。生命保険協会には全ての生命保険会社が加盟していますので、これが会社数の推移を示したものです
(損害保険会社には日本損害保険協会の会員ではない会社があります)。

グラフをご覧いただくと、過去50年間のトレンドは概ね右肩上がりに見えます。もっとも、2000年代以降だけで見れば、横ばいと言うべきかもしれません。
50年前の20社から外資や異業種からの参入により会社数が徐々に増え、1996年度には損保による生保子会社の設立で会社数が一気に増えました。その後、2000年の49社をピークに減少に転じ、一時は40社を割り込んだものの、新規参入もあり、現在に至っています。

生保は人口減少や高齢化の進展などから衰退産業と揶揄されることもありますが、再編による会社数の減少もあるなかでの41社ですから、新規参入者には依然として魅力ある市場に映っているのでしょう。

外資系生保の存在感

外資の存在感が高いことも、日本の生保市場の特徴と言えるでしょう。
規制緩和が進み、日本の金融・保険市場が閉鎖的と言われることはほとんどなくなりました。それでも日本の市場が外資系に席巻されることはなく、特に個人分野では圧倒的に国内系が顧客基盤を確保しています。銀行もそうですし、証券も損害保険もそうです。

ところが生命保険だけは、外資系が市場を席巻するとまではいかないにしても、一定の存在感を確保していると言えるでしょう。2000年前後に起きた中堅生保(いずれも国内系)の相次ぐ経営破綻のほか、国内系とは異なるビジネスモデルを採用してきたことが結果として顧客の支持につながり、現在の地位を築いていると考えられます。
------------------

※大分県に行ったのではなく、近所に「別府」という地名・駅があるのですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

大学生の生活変化

大学生協共済の知人から、全国大学生協連が行った緊急アンケート結果のご案内をいただき、興味深く拝見しました。
大学生協連のサイトへ

自由記入欄には経済的な不安や、リアルなつながりがないなかでの不安や不満、そして将来や進路に対する不安が増したという声が数多く寄せられています
(調査期間は4/20-30で、回答の半数弱が1年生)。

web授業

母集団に偏りがあるかもしれないので、あくまで参考として集計結果を見ると、まず、web授業で同時双方向型(学生と教員が顔を合わせるスタイル)が意外に支持されていないのが目につきました(項目26)。理由はわかりませんが、動画教材を活用したオンデマンド型のほうが「よりよく学べる」と回答した学生が多かったようです。
もっとも、「授業の特性によって異なるため1つには選べない」という回答が一番多く、これはそうだろうなあと思います。

web授業の通信状態は「ストレスなく受信できている」「時々途切れることがある」が4分の3を占める一方、通信環境以外で困っていることとしては、「目が疲れる」「集中力が続かない」が上位に挙がっていました(項目25、29)。確かに私も、時間が長くなると、対面よりも疲れる感じがします。

生活への影響

外出自粛は食生活にもに影響を及ぼしているようです。新型コロナで食事環境がどのように変わったのかという質問に対し、「自炊の機会が増えた」「外食の機会が減った」のほか、「間食が増えた」「食事をする時間帯が変わった(不規則になった)」という回答も多く挙がっています(項目41)。食生活での不安としては、「栄養バランスが悪いと感じる」「体重が増えた」が上位となりました(項目46)。
参考までに、回答者の半数弱が一人暮らしです。

そして、最近の体調について多かった回答が、「やる気が起きない」「ストレスを感じる」「目の疲れ」でした
(「特に問題なし」という回答も多いです)(項目47)。
調査期間にはまだ授業が始まっていなかった学生が半分弱いて、かつ、一日のうち「SNS」「テレビ・映画・Youtubeを見る」に多くの時間を使っている調査結果(項目20)を踏まえると、そのような回答が多いのも理解できます。
逆に言えば、授業を含めた生活のリズムをうまく作るのが大切だということなのでしょう。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

諮問委員会のメンバー

大学の授業がようやく始まり、遠隔授業(オンライン授業や課題学習など)を試行錯誤しながら行っています。
オンライン授業は発信者(=私)のネット環境によるところが大きく、初回の授業では早々に課題学習に切り替えざるをえなくなり、あとからレジュメに音声をつけたものを作成し、学生の皆さんに提供しました(実は音声付きファイルをアップするのも大変でした)。緊急事態宣言がひと月ほど延長されるようなので、こうした格闘がしばらく続きそうです。

※福岡大学商学部2年生の皆さんは、5日、6日とゼミ相談をやりますので、お気軽に連絡(メール)してくださいね。

その緊急事態宣言ですが、けさの日経新聞にあるとおり、宣言の内容を変更するには「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の分析結果を踏まえて政府が方針案を策定し、これを「基本的対処方針等諮問委員会(新型インフルエンザ等対策有識者会議の下部組織)」に諮ったうえで、国会報告を経て、最終決定するという流れになっています。

かつての同僚である増島弁護士のつぶやきを見て、諮問委員会のメンバー(PDF)を改めて確認すると、16人のうち12人は専門家会議のメンバー(PDF)で、16人のうち14人が感染症の専門家(あとの2人は弁護士)となっていました。専門家会議も諮問委員会も(おそらく厚生労働省が選んだ)感染症の専門家と少数の法律の専門家で構成されていて、しかも、現状分析と政府方針の妥当性判断をほぼ同じメンバーが行っているのですね。

海外諸国と同じく、日本でも徐々に出口を探っていく局面となるでしょうし、今後はかつてないほどの悪い経済指標が次々に出てくるなかで、経済をどうやって立て直すかを考える必要性が高まります。その際に、政府方針の妥当性判断を行う諮問委員会に経済の専門家が1人もいないというのは確かにちょっと心配です。

今後、再度の感染拡大を心配する感染症の専門家と、経済活動の自粛緩和を求める世論とがぶつかりあうこともありうるでしょう。ただ、いまの立て付けだと、政府は感染症の専門家の意見にしたがうか、あるいは、世論に押し切られ、何となく「政治判断」してしまうか、いずれかになるのでしょうか。

※男の手料理。ジャーマンポテトを作りました♪

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。