2016年 4月 の投稿一覧

標準利率の設定

 

国債利回りがマイナスになったことを受けて、
金融庁は標準利率の算出に関する係数や
ソルベンシーマージン比率のリスク相当額
(予定利率リスク)のリスク係数を整備するそうです。
金融庁のサイトへ

いずれも、これまで設定されていなかった
マイナスゾーンの係数を設けるというもので、
従来の枠組みを大きく変える案ではありません。

まあ、標準利率がマイナスになり得る点は
過去にない大きな変化なのかもしれません…

予定利率リスクのほうから取り上げると、
今回の案によれば、予定利率が0%以下の部分は
リスク係数が0なので、予定利率リスクが存在しない
ということになります。

とはいえ、経済価値ベースのソルベンシー規制を
検討しているなかで、このような対応となるのは
わからないでもありません。

他方、標準利率については、安全率の整備に
とどまらず、指標となる国債利回りについても
見直すという考えはなかったのでしょうか。

今のルールでは、指標となる国債利回りは
一部を除き、10年国債利回りです。

他方、大手生保の保有する公社債の7、8割は
10年超の超長期国債であって、10年国債を
ALMの中心に据えている会社はありません。

つまり、生保のALMと責任準備金のルールが
ズレてしまっているのですね。

こうなってくると、責任準備金が積み上がる商品を
今後も提供し続けるのかという話になってきます。

週刊ダイヤモンドでも書きましたが、
マイナス金利は生保の資産運用面だけではなく、
営業戦略への影響も大きいことがわかります。

※写真は台北郊外にある三峡の町並みです。
 「牛角」というクロワッサン風のパンが名物だとか。

 

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台北でスピーチ

 

先週は台北で開催された保険会社のセーフティネット
(日本では保険契約者保護機構)の国際組織が主催する
会議に出席し、スピーチを行いました。
IFIGSのサイトへ

会議の前半は保険会社の経営破綻がテーマでした。

私は、過去の日本の生保破綻の経験を伝えるとともに、
超低金利下における生保の経営戦略(資産運用と商品)
を説明しました。

他にもオーストラリア当局のかたが、2001年に破綻した
HIH社の話をしたり、地元台湾の保険安定基金からも
相次ぐ保険会社の経営破綻について紹介があったりと、
興味深い内容が多かったです。

特に台湾では、2009年に生損保2社、2014年に生保2社の
経営が行き詰まり、この1月にも生保が1社破綻しています。

台湾でも歴史的な低金利が続くなかで、ALMを重視せず、
高い利回りを求めてリスクの高い資産運用に走った結果、
うまくいかずに資本不足に陥るケースが多いようです。

そして、背景にはコーポレートガバナンスの問題が
存在するという指摘がありました。

台湾生保が低金利で苦しんでおり、外貨建資産へ傾斜
していると過去にブログで書いたことがあります。
外貨建資産が増加(台湾)

当時に比べ、外貨建負債の割合が増えている会社も
あるようですが、外貨建資産への傾斜は一段と進み、
株式や不動産の割合も日本より高いようです
(長期債市場が未発達という事情もあります)。

また、当局から過去に資本不足を指摘された会社が
その後もなかなか資本増強できていないという話も
聞きました。

ですので、台湾の皆さんから個人的に話を聞くと、
1月の生保破綻が最後とは誰も考えていないようで、
日本の1990年代後半を彷彿させます。

なお、会議の後半は保険会社の破綻処理と
セーフティネットの役割がテーマでした。

・破綻処理をいかにスムースに行うか
 (日本からもPGF生命の根立さんが登壇)

・破綻会社の契約者をどこまで保護すべきか
 (例えば台湾では契約者負担を求めていません)

・保険会社と銀行のセーフティネットの運営主体は
 共通のところがいいか、別々のほうがいいか

などが主な論点に上がっていて、こちらも興味深い
内容ばかりでした。

※休憩時間にはいつもお菓子や果物が並んでいました。

 

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金利低下と退職給付債務

 

熊本地震の被害が広がっており、心が痛みます。
日本は地震の巣なのだと改めて思い知らされました。

ところで、週刊ダイヤモンドの保険特集号が出たようです。
私もマイナス金利政策下での生保経営について
寄稿していますので、機会がありましたらご覧ください。

マイナス金利政策による生保経営への影響といえば、
「保険料の値上げや販売停止」もさることながら、
「超長期の保障提供が難しくなった」、言い換えれば、
「生保のバランスシートが実質的に毀損している」と、
いくつかの媒体でコメントしてきました。

同じような話が、企業の財務を圧迫する要因として
表面化しつつあります。
それは企業の年金・退職金に関するものです。

大和ハウス工業が退職給付債務の割引率変更に
伴う影響額を特別損失として計上する見込みとなり、
2016年3月期決算の業績予想を下方修正しました
13日公表)。

同社は金利市場の動向を受け、主な割引率を
前年の1.7%から0.8%に引き下げたそうです。
この結果、退職給付債務が849億円増えることと
なりました。

14日の日経によると、同社は期間20~30年程度の
超長期債券を基準に割引率を決めているとのこと。

11日にはLIXILグループも業績予想の修正を公表し、
そのなかで国内子会社の退職給付債務に関して
金利低下に伴い損失が発生すると示しています。

12日の日経によると、同社は20年国債利回りなどを
参考に割引率を決めており、前年の1.6%から下げた
ことで、約100億円の営業損失が発生した模様です。

この2社は、前年の割引率がやや高かったうえ、
債務の増加分(正確には「数理計算上の差異」)を
発生時に一括償却する会計処理を採用しているため、
決算への影響が大きくなっています。

数理計算上の差異を数年かけて処理する会社では
決算への影響はそこまで大きく出ないとは思いますが、
金利低下で退職給付債務が膨らむ点は同じなので、
あとは会計処理が異なるだけです。

生保の保険負債も、企業の退職給付債務も、
将来の支払いに備えた準備という点は共通なので、
会計への影響は区々とはいえ、金利水準が下がると、
現時点で認識すべき債務が増えてしまうことが
おわかりいただけるのではないかと思います。

※軽井沢の万平ホテルです。宿泊は初めてでした。

 

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なぜ情報が軽視されるのか

 

数年前からアドバイザーを務めているRINGの会が
今年も横浜でオープンセミナーを開催します。
RINGの会 オープンセミナー

最近、「撤退戦の研究」(半藤一利さんと江坂彰さんの対談)
という本を読んだのですが、そのなかで、
「日本軍は情報に対する重要性を認めていなかった」
というくだりがあります
(第2章 なぜ情報が軽視されるのか)。

例えば、太平洋戦争の開戦2年前のノモンハン事件で
日本軍(陸軍)はソ連軍と戦って大敗しました。

しかし、昭和史に詳しい半藤さんによると、当時の陸軍は、

「日本軍は日露戦争時代の旧式の銃を使っていた」
「ソ連軍は戦場に戦車や大砲を大量に持ち込んでいた」

などの敗因から学ぶべきことがあったにもかかわらず、
戦訓は「必勝の信念をますます強くせよ」という精神論に
なってしまったそうです。

江坂さんも、

「当時の陸軍の情報不足と情報収集の怠慢ははっきり
 している。そのことが装備のイノベーションを遅らせ、
 昭和16年の開戦に2年先立つノモンハンの戦いを
 残酷無残なものにした」

「ノモンハンとは近代戦を知るチャンスだった。しかし、
 近代戦を学ばず、”国軍伝統の精神主義”を再確認
 するだけに終わってしまった」

と応じています。

日本は昭和8年に国際連盟を脱退し、一種の鎖国状態と
なりました。そのなかで情報を自ら得ようともせず、
せっかくのチャンス(ノモンハンの大敗)からも学ぼうと
しないのであれば、結果は見えています。

ビジネスの世界も同じではないでしょうか。

保険流通が激しい変化に見舞われているなかで
情報収集を怠れば、たちまち当時の日本陸軍と
同じ状況に陥ってしまいます。

自分たちの明日を考えるための情報は、
誰かが与えてくれるものではありません。

さらに言えば、せっかく情報を集めても、
分析しなければ役に立ちません。

オープンセミナーに参加すれば、通常の業務では
得られない情報に接することができるでしょう。

ただし、情報に接して、それをどう活用するか。
当時の日本軍はこの点でも相当問題があったようです。

RINGの会は保険流通に関わる有志の皆さんによる
自主的な情報交流の場です。RINGの会のサイトへ

この会に参加すれば、通常ではつながらないメンバーと
横のつながりを作ることができます。
メンバーとの交流を通じて得られるものもあるでしょう。

ということで、今回は、セミナー参加だけではなく、
RINGの会にも入ってみたらいかが、というお誘いでした
(セミナー会場にRINGの会のブースがあると思います)。

※写真は中目黒駅から見た桜です(4/6撮影)

 

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創業家による経営支配

 

日経「私の履歴書」と王将フード「調査報告書」が
あまりに対照的だったので、今回はこの話を。

3/31まで「私の履歴書」に登場していたのは
アイリスオーヤマの大山健太郎社長です。
記事のなかで次のように語っています。

「私にとって大事なのは、事業内容よりも『創業の理念』
 がきちんと引き継がれることだ。そのためには血の
 つながった人間による『株式非公開の同族経営』が
 一番いいように思われる」 (3/29付)

「本来会社は従業員のためにある。利益はなるべく
 従業員と分け合いたいと考えた。」 (3/30付)

「経営学や経済論壇は米国型の資本主義を見習えと
 説く。しかし『社外取締役』など表面的な部分だけ
 米国式をまねても結局は機能せず、長続きもしない
 のではないか」 (3/31付)

なかなか刺激的なコメントばかりですが、
成功した創業者の考えがよく表れています。

他方、王将フードサービスの第三者委員会による
調査報告書(3/29に公表)をご覧になったでしょうか。

報告書によると、創業者の長男・次男が代表権を持つ
まさにその時期に、創業者の知人(A氏)やその関係会社と、
経済合理性の明らかでない貸付や不動産取引等が行われ、
会社から合計200億円超の資金が流出したそうです
(このうち約170億円が未回収とのこと)。

その原因は、当時の同社は大株主かつ創業者の子息である
両代表者への遠慮や、意見を言っても無駄という企業風土から、
次男による独断専行を取締役会が牽制する体制がとられて
いなかったことにありました。

その後も会社は他のステークホルダーとの信頼関係よりも
創業家への配慮を優先し、合理性の明らかでない役員人事、
法的責任追及の回避といった対応を繰り返しました。

報告書では、王将フードのガバナンス上の失敗は、
「独断専行ないし密室経営」「創業家との関係」
「A氏との関係」という3つのリスク要因が組み合わさり
引き起こされたもので、それは決して過去のものではない
と指摘しています。

創業の理念が引き継がれなかったと言えばそれまでですが、
同族経営の悪い面が表面化した事例とも言えそうです。

※右の桜は「オオシマザクラ」です。

 

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