「金融機関のガバナンス」

金融庁出身で、現在は東京大学公共政策大学院の
客員教授を務めている天谷知子さんの近著です。

欧米の金融機関に関する各種の調査報告書や
金融庁の検査事例集等から失敗事例を紹介しつつ、
金融機関のガバナンスについて語った本です。

私の著書「経営なき破綻 平成生保危機の真実」に
通じるところもあって、興味深く拝読しました。

本書ではベアリングズの破綻やサブプライム問題
(ワシントン・ミューチュアルやRBS、UBSの失敗)、
JPモルガン「ロンドンの鯨」事件などを題材に、
金融機関のガバナンス問題について考察しています。

キーワードとして登場するのが「コンプライアンス化」
「数値の自己目的化」「性弱説」「集団的思考」などです。
関係者には思い当たることばかりではないでしょうか。

ところで、2年半とはいえ私も行政経験があるためか、
本書で最も印象に残ったのは、天谷さんが本文ではなく、
「おわりに」で触れている「規制・監督とガバナンス」でした。

「金融機関のガバナンスが機能していなければ
 規制・監督はザルと化し、一方、規制・監督によって
 ガバナンスを機能させようとしても、本当に問題を
 抱えている部分にはなかなか届かないという現実」

自己規律や市場規律には頼れない、さりとて、
自分で自分をコントロールできない金融機関に対しては、
いくら厳しい規制があっても意味をなさないわけです。

となると、あとは規制・監督が金融機関のガバナンスを
向上させる必要があるのですが、果たしてそれが可能かどうか。

チェックリストを守らせることはできるでしょう。
しかし、実際にガバナンスが機能しているかどうかは別の話です。
それ以前に、そもそも機能しているかどうかを見極めるのは
そう簡単ではありません。

この点については、私もいろいろと考えさせられたので、
そうだよなあと思いつつ、なかなか回答を見出せないでいます。

確かに、「踏切事故をなくすには踏切をなくせばいい」
のはわかるのですが、本書にもあるとおり、そもそも金融機関は
リスクを扱うことを商売としています。保険会社も同じです。

ボルカ―・ルールのように、踏切をなくしてしまうのが
金融機関のガバナンス問題を解決するうえで妥当なのか、
このあたりは私もさらに考えてみたいです。

もっとも、日本の場合、「専門人材の育成と活用」
「官民交流の一層の充実」などが、まずは取り組むべき課題かも。
本質的には「いたちごっこ」なのは承知のうえで。

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※写真はどこかの中央官庁みたいですが、
 実は築地市場の事務所です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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