自然災害と車両保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1300(2025.10.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。なんと、1300号なのですね!2000年8月が1号なので、26年めということでしょうか。おめでとうございます。
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地下駐車場での冠水

先月、三重県四日市市の地下駐車場が大雨で浸水し、200台以上の車が冠水するという事故がありました。本件では防水設備の不備により施設管理者の責任が問われるかもしれませんが、原則としては駐車場で冠水した車の修理は車の所有者が行うことになっています。
このようなときに役に立つのが車両保険です。しかし、損害保険料率算出機構によると、23年度末の車両保険の加入率は約47%と、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険(いずれも約75%)に比べると低い水準です。
もっとも、約47%というのはややミスリードで、自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、軽四輪乗用車だけでみれば、加入率は約55%です。これに自動車共済を加えると、加入率は約6割とみられます。

保険料の負担

とはいえ、自家用の3車種でも約4割が車両保険に加入していないということになります。もちろん、なかには古い車に乗っていて、十分な保険金額を設定できないというケースもありそうですが、車両保険に加入すると毎年の保険料がかなり高くなってしまうというのが、加入を見送る最大の理由ではないかと考えています。あくまでイメージですが、車両保険を付けなければ年間保険料が3万円、車両保険を付けると6万円、といったレベルでの違いがありますよね。
車両保険の保険料が大きくなりがちなのは、自動車保険のなかでも支払保険金の総額が大きいからです。同じく料率算出機構のデータによると、23年度の支払保険金のうち車両保険が全体の4割以上を占め、最大種目となっています。対人賠償責任保険は1件当たりの支払保険金が約95万円と大きい(車両保険は約40万円)のですが、支払件数が少ないので、支払保険金の総額は全体の3割強にとどまります。

自動車ユーザーにとって、毎年の保険料は大きな関心事項です。例えば、ソニー損害保険が8月に公表した全国カーライフ実態調査(2025年)によると、車の諸経費で負担に感じるものとして、「ガソリン代・燃料代」「自動車税」「車検・点検費」に次いで「自動車保険料」が高い割合で挙がっていました。
また、チューリッヒ保険が23年に公表した「自動車保険の見直しに関する実態調査」でも、ダイレクト型で自動車保険に加入したという回答者の割合がやや高い(35%)ことを踏まえても、現在加入している自動車保険で重視したポイントとして「保険料の安さ」が「事故対応」とともに上位に挙がっていて、保険料への関心の強さがわかります。

風水災害への備えとしての車両保険

ただし、車両保険が大雨による冠水など、地震などを除いた自然災害でも使えるという情報は自動車ユーザーにどの程度浸透しているのでしょうか。ネットで話題になったように、「自賠責保険は補償の対象外」という報道がなされるなど、自賠責保険と任意の自動車保険のちがいも常識ではなさそうなので、車両保険が交通事故だけではなく、一般的には風水災害による損害でも補償対象となると知っているユーザーは意外に少ないのではないでしょうか(あくまで個人の印象ですが)。
9月17日の日本損害保険協会によるニュースリリースによると、8月上旬の低気圧・前線による大雨での保険金支払額は約323億円で、このうち130億円が自動車保険(車両保険)だったそうです。風水災害への対応というとまずは火災保険ですが、車両保険も役に立っているということを保険業界はもっとアピールしてもいいのかもしれません。
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※懐かしのブルートレイン!門司港にて。

 

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日銀短観のグラフ

日本銀行の全国企業短期経済観測調査、いわゆる日銀短観の業況判断DIは、日本の景気動向をつかむうえで最も注目されている指標の1つです。調査は四半期ごとに行われ、10月1日に直近(2025年9月)の調査結果が公表されています。
ニュースでも大きく取り上げられるのですが、たまたま目にしたNHK夜7時のニュースでは、このようなグラフを使って説明していました。

このグラフを見ると、先行きの悪化が心配になりますよね(特に非製造業)。景気後退が近いのではないかと思ってしまいます。
しかし、グラフをよくよく見ると、非製造業の縦軸は25~35ポイントなので、下がるといっても製造業をはるかに上回る水準です。製造業のものを含め、こういうグラフは作ってはいけない典型的な例ではないでしょうか。

参考までに、日刊工業新聞の日銀短観の記事では、次のようなグラフを掲載していました。多少スケールを修正しているとはいえ、これならミスリードはないでしょう。
企業は先行きを警戒しているものの、景気の基調は底堅いと読むのが妥当と言えそうです。

「こういうグラフは作ってはいけない」という事例は残念ながらメディアで時々見かけます。
作り手に何らかの意図があるのかどうかはわかりませんが、私たちはだまされないように気をつけなければなりませんね。

※この週末は横浜・大倉山のお祭りでした。

 

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書評『中華料理と日本人』

週刊金融財政事情(2025年9月23日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『中華料理と日本人--帝国主義から懐かしの味への100年史』を取り上げました。
振り返ってみると、前回(2025年5月)は『日本庭園のひみつ』、前々回(2025年1月)が『日本の歴史的建造物』、2024年9月が『Z世代化する社会』、2024年6月が『「モノ言う株主」の株式市場原論』、2024年2月が『財閥のマネジメント史』でした。このところ経済・金融以外が目立ちますが、評者の個性ということでご容赦ください。

以下、引用となります。

日本の中華料理の意外な歴史をたどる

先日イスタンブールに滞在し、トルコ料理を味わう機会があった。トルコ料理はフランス料理、中華料理とともに世界三大料理の一つに挙げられることが多い。日本でも知られるケバブはもともと中央アジアの肉の串焼きで、垂直な串に肉を重ねて焼くドネルケバブの他にもさまざまな種類がある。ギリシャ料理のような、茄子やトマト、ピーマンにオリーブオイルを使った料理も多く、ヨーグルトを多用し、ピラフなど米料理もよく食べられている。
これらの料理には、現在のトルコを中心にアジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる広大な領土を支配した、かつてのオスマン帝国の存在が関係していると考えるのが妥当であろう。

同じようなことが日本における中華料理にも言えるというのが本書の主題である。私たちがイメージしやすい中華料理はたいてい日本式のものであり、餃子やシュウマイ、ラーメンなどは、もはや実質的に日本料理となっている。
例えば、餃子は満州在住の日本人に親しまれ、第二次世界大戦後に満州からの引揚者が主に焼き餃子を提供することで、日本で本格的に普及した。また、北海道の郷土料理とされるジンギスカン料理も、もともと日本の中華料理の一つだった。日本が大陸で勢力を広げていた時期の北京で生まれ、1932年に建国された満州国の名物料理とされ、やがて日本でも広まった。

日本と中国の交流には長い歴史があり、江戸時代の長崎では中国料理をベースにした卓袱(しっぽく)料理が誕生している。ところが、日本の大都市で中華料理が身近な食べ物になったのは意外にも新しく、1920年頃からとのこと。関東大震災後の東京では、中華料理がおいしくて栄養のある料理として受け入れられ、中華料理店や中華料理を兼業する洋食店が増えたという。その後、料理ごとにさまざまな経緯があって、中華料理が日本食の一部へと変わっていったそうだ。

植民地として支配した地域の料理が本国に伝わり、帝国主義の影響下で普及していくという、世界史的な考察は非常に興味深い。たしかに20年頃の日本は台湾、朝鮮半島を支配し、さらには中国東北地方にも進出する植民地帝国だった。英国やフランス、オランダなど当時の欧州列強と同じ現象が日本でも見られたということになる。
ちなみに「カレー」という言葉はイギリス人がインド料理の総称として用いたもので、イギリスからのカレー粉を通じて日本でも広まったとされる。

※写真は肥前浜(佐賀県)の酒蔵通りです。

 

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メディアの利用時間と信頼度

9月10日からPIVOTというビジネス映像メディアで「いま知っておきたい生命保険・損害保険」「保険ビジネスの未来」という動画が同社のアプリまたはYouTubeで配信されています。
自分ではSNSに流れてくる動画などを観る習慣がなく、拙著『保険ビジネス』のプロモーションとして、果たしてこの動画がどれくらい広がっているの見当もつきません。ただ、複数の同僚の先生に声をかけていただいたので、もしかしたら意外に観られているのかもしれませんね。

以前のブログで紹介したように、総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査によると、2020年には平日のネット利用時間がテレビ(リアルタイム)視聴時間を初めて上回り、40代までは「テレビ」<「ネット」となりました。その後、2022年調査では休日もネットがテレビを上回り、直近の2024年調査では50代も平日は「テレビ」<「ネット」となっています。
しかも、2020年まではテレビの視聴時間は平日、休日ともに概ね横ばいだったのですが、それ以降は視聴時間が年々減っているようです。

他方で、各メディアの信頼度は直近調査で新聞が59.9%、テレビが58.2%、ネットが27.0%となっていて、30代と70代はテレビがトップ、それ以外は新聞がトップです。10代から30代の新聞閲読時間はゼロに近いのですが、そこそこ信頼されてはいると。ただし、2020年調査では新聞が66.0%、テレビが61.6%だったので、信頼度は徐々に下がっています。
もっとも、新聞やテレビの信頼度が下がったからといって、ネットの信頼度が上がったわけではありません(2020年は29.9%でした)。人々は信頼できないかもしれないと思いつつ、ネットへの依存を高めていることになりますね。

※福岡・百道(ももち)浜のビーチです。

 

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保険会社の名前

報道によると、2027年4月に合併する三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の新会社の名前は「三井住友海上あいおい損害保険」となるそうですね。さらに、グループを統括する持株会社MS&ADインシュアランスグループホールディングスの名前も「三井住友海上グループ」に変更するとのこと。報道が正しければ、確かに持株会社のほうは2010年に「MS&AD」としたときには「ん?」という印象でしたが、それでも15年たつので、よく決断したと思います。
ちなみに会社は9月12日付けで「現時点で決定している事実はありません」としています。

拙著『保険ビジネス』のコラムで取り上げたとおり、保険業法の規定により、生命保険会社の名前には「生命保険」、損害保険会社の名前には「火災保険」「海上保険」「傷害保険」「自動車保険」「再保険」「損害保険」のどれかが必ず入っていなければなりません(外国保険業者を除く)。保険会社が合併すると、この条件を守ったうえで、新たな名前を考えることになります。
これまでの合併事例を見ると、いずれか片方の名前がそのまま使われたケースは吸収合併の時くらいしかなく、両社の名前が何らかの形で残っているケースが多いようです。かつては「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」のように、非常に長い名前となってしまった会社もありました。

もっとも、同社は現在「SOMPOひまわり生命保険」ですし、グループの中核損保は「損害保険ジャパン」、持株会社の名前も「SOMPOホールディングス」なので、「安田」「日産」「大成」「日本」「興亜」「NK」などは入っていません。ただし、グループのブランドとしては「SOMPO」と「損保ジャパン」の両方ということになるのでしょうか。
その意味では、東京海上ホールディングスは当初の「ミレアホールディングス」を2008年に改め、ブランドとしては「東京海上」に絞っていますし、(報道のとおりであれば)持株会社の社名を「三井住友海上」にするというのもグループのブランド戦略としては理解できます。

上場する保険持株会社で中核会社の社名がそのまま使われていない事例としては「T&Dホールディングス」もあります。中核生保である太陽生命の「T」と大同生命の「D」ではなく、「Try」と「Discover」の頭文字をとったものです。「T&D」を使うようになってから早くも四半世紀が過ぎましたが、太陽生命と大同生命の社名はそのままなので、資本市場ではともかく、消費者へのブランド浸透という点ではなかなか難しかったのではないでしょうか。

※イスタンブールは猫の町でした!

 

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著者が語る『保険ビジネス』

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1296(2025.9.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回は拙著『保険ビジネス』の裏話?を書かせていただきました。
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本誌でもご紹介していただきましたように、このたび『保険ビジネス』を刊行しました(クロスメディア・パブリッシングの「業界ビジネス」シリーズの1つです)。副題に「契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養」とあるように、身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
せっかくの機会ですので、今回は本書の裏話のようなことを書かせていただきます。

責任準備金を理解してほしい

第1章では「素朴な疑問」をテーマにしました。いろいろ検討した結果、最終的には「生命保険と損害保険の違い」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」など6つを取り上げました。
もっとも、他の章でも「素朴な疑問」にいくつも答えています。例えば、金融担当の記者さんからも時々質問されるのが、「高齢化が進むと保険金の支払いが増えるので、生命保険会社の経営が厳しくなるのではないか?」というものです。世間では、自分の支払った保険料がそのまま誰かの保険金支払いのために使われていると考えがちなのですね。ですから「責任準備金」の存在を示し、生命保険は積立方式で運営されていることをできるだけ丁寧に説明しました。

歴史の一コマとなる前に

執筆して改めて感じたのは、自分にとって身近だった出来事も、どんどん過去の話となり、歴史の一コマとなっていくということです。
例えば第2章の「消えてしまった人気商品」では、80年代後半のバブル期に人気を集めた一時払養老保険のほか、00年代に銀行が積極的に販売した、元本保証のある変額個人年金保険を紹介しました。消えてしまった理由は、日本ではリーマンショックと呼ばれることの多い、グローバル金融危機の発生によって元本保証が難しくなったためです。第5章で取り上げた保険会社の不適切な保険金不払いや特約などの支払漏れ、保険料の取り過ぎが社会問題となったのも00年代半ばからです。いずれも約20年が過ぎ、当時を知らない業界人が多くを占めるようになりました。おそらく新型コロナ感染症の経験も、さらには近年の「保険金不正請求事件」「保険料カルテル問題」もあっという間に過去のものとなっていくはずです。
しかし、現在の保険ビジネスは、こうした過去の出来事を踏まえ、様々な制度改正などの試行錯誤を経て、構築されてきました。つまり、若い人が現在を理解するには過去を学ばなければなりませんし、過去を知っている人は歴史の一コマとして忘れられる前に、当時起きたことを若い人に積極的に伝える必要があるのだと思います。

判断するための軸を提供

実のところ本書には秘かな裏テーマがあります。それは、極論をはじめ、一見わかりやすい情報に振り回されず、自分自身で判断するにはどうしたらいいかというものです。
保険に限らず、物事を自分で判断するには、自分で考えろと言われても困ってしまうだけで、「判断するための軸」が必要です。保険の場合、自分の抱えているリスクを知り、自分にとってそれがどの程度重要なのかを考えるというのが「判断するための軸」になります。保険そのものの知識があっても、軸がずれていたら正しい判断はできません。本書では、第1章の「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」や、第3章の「保険と貯蓄の考え方」「民間の医療保険とは何か」など、いろいろなところで具体的にお示ししたつもりです。
自立が必要なのは、いびつな取引慣行にどっぷり漬かってきた保険ビジネス関係者だけではありません。保険の利用者は一方的に保護される存在というのでは、市場はいつまでたっても成熟しないでしょう。
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※写真はトルコの古都ブルサ郊外の村、ジュマルクズクです。

 

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イスタンブールに滞在

金融庁の組織再編や行政方針についてコメントすべきところですが、実は海外遠征でトルコ・イスタンブールに来ています。
こちらも最高気温は30度くらいありますが、東京や福岡に比べればかなり過ごしやすいです。

西洋史学科出身の私にとって、イスタンブールは特別なところです。ローマ帝国の新たな首都となった4世紀から、20世紀になって第一次世界大戦で敗北し、ケマル・パシャの活躍でトルコ共和国となり、首都をアンカラに譲るまでの間、2つの世界帝国(ローマ帝国・ビザンティン帝国とオスマン帝国)の都として栄えた歴史を持っています。このため、アヤソフィアのような有名な建築物だけでなく、どこを歩いても歴史的なエピソードに事欠きません。

世界帝国の都には様々な民族が住んでいて、その名残が残っています。
例えばこの写真の寺院は一見するとキリスト教会ですが、アラップ・ジャーミィ(アラブ人のモスク)です。丸いドームではなく尖塔のあるモスクは珍しく、もともとカトリック教会だったものを、15世紀にオスマン帝国になってからモスクに転用したそうです。なぜアラブ人かというと、レコンキスタの時代にイベリア半島を追われたアラブ人がこのあたりに住むようになったからとのことで、スケールの大きい話です。

ロンドンに次いで世界で2番目に古い地下鉄ができたのも、国際都市ならではの背景がありました。地下鉄といってもケーブルカーで、1875年に開業しました。歴史的建造物が数多く残る旧市街から橋を渡って新市街に行くと、建物のなかに乗り場があります。
イスタンブールの海沿いは平地が少なく、丘を登った尾根のうえに町が広がっています。この時代にはヨーロッパの列強が進出し、イスタンブールにも多くのヨーロッパ人が来るようになったのですが、港から高台に上がるのは大変です。そこで、フランス人技術者が地下鉄を発案し、イギリスの資金と技術協力で実現させました。つまり、このケーブルカーは地元住民のためではなく、海外から訪れる旅行客のために作られたものなのですね。21世紀の旅行者である私もありがたく利用させてもらいました。

ということで、今回はイスタンブールからでした。

 

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『保険ビジネス』を出しました

昨年10月に続き、新刊のご案内です。本日(8月22日)クロスメディア・パブリッシングから『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』を刊行しました。

副題のとおり「楽しく読める保険の教養」ということで、保険と保険ビジネスに少しでも関心のある全てのかたに向けた書籍です。身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
例えば、第1章の「『素朴な疑問』から学ぶ保険の世界」では、「ビッグモーター事件の本当の被害者は誰か」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」などを取り上げ、最後の第9章では「最新テクノロジーから学ぶ未来の保険の世界」ということで、保険会社や保険販売の世界がどう変わるのか述べています。
各章はいずれもトピック6つとコラム1つという構成で、トピックは全て4ページで統一したので、どの章から読んでいただいてもテンポよく楽しく読めるのではないかと思います。

本書執筆のお話をいただいた時には、実のところお受けすべきかどうか若干迷いました。おそらく研究者としての業績にはなりませんし、昨年10月に出した『経済価値ベースのソルベンシー規制』に続き、関連するアウトプットをいくつか抱えていたという事情もありました。
とはいえ、保険業界と外部のギャップを埋めるのは(さらに言えば、保険会社の本社と保険販売の現場との距離を縮めるのも)私の役割だと考えていますし、産・官・学と立場は途中で何度か変わりましたが、約30年にわたり日本の保険ビジネスを外部からウォッチしてきた人間はおそらく数少ないと思います。そこで、大学の春休み期間を中心に、時には京都で籠ったりして、楽しく(?)書き上げました。

大学の教科書として使っている『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』と比べてもすいすい読めますし、かつ、保険ビジネスに携わっている皆さんにも楽しく読んでいただけるよう、工夫したつもりです(反論はあるかもしれませんが…)。
本書がネットに出回る「保険不要論」をはじめ、極端な情報に惑わされず、保険や保険ビジネスについてご自身で判断するための道しるべになることを願っています。

※ワーケーション in 京都の成果物です!

 

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保険代理店への行政処分

バタバタしていて1週間あいてしまいました。今週から来週にかけては東京・横浜で過ごしています。

さて、8月6日に金融庁(東海財務局・関東財務局)が、中古車販売大手の大型兼業代理店であるネクステージと、「マネードクター」を展開する保険専業代理店であるFPパートナーにそれぞれ行政処分を行いました(いずれも業務改善命令)。
ネクステージへの行政処分
FPパートナーへの行政処分

ネクステージへの行政処分

同社は2023年に旧ビッグモーター事件を受けて自主調査を行い、不正請求事案は確認されなかったと公表しています。その後、主要取引銀行の要請で外部弁護士による調査を行い、やはり不正請求事案は確認されなかったと報告しています。
しかし、今回の立入検査で、「調査担当の従業員は各々の主観に基づいて関係資料を確認し、問題がないとの判断を裏づける証拠も残していない」「関係資料が揃っていないなど不正請求の蓋然性がより高いと考えられる案件を調査対象外にしている」「調査対象期間外に発生した不正請求事案を把握していても、全容解明に向けた伏在調査を行っていない」「損害保険会社の調査で不正請求疑義事案を把握していても、事実確認のための調査の指示を行っていない」などが明らかになり、東海財務局は「現在でも不正請求事案が多数内在している蓋然性が高い」と判断しました。

問題の根底には、同社の経営陣が保険事業の重要性を認識しておらず、保険業法等の知見も欠如しているため、保険事業に関するガバナンスが機能不全となっていることがあると指摘しています。
1月に行政処分を受けたトヨタモビリティ、グッドスピードと同様に、この会社(あるいはこの業界)がこのまま保険代理店を続けていいのか疑問に感じる内容です。

日本損害保険業界は代理店業務品質評価制度を導入し、全ての代理店が自己点検チェックを行ったうえで、第三者機関が必要と判断した代理店を対象に第三者評価を行う方針です。しかし、問題が発生していてもまともな調査をしない(あるいはできない)ような会社に対し、関係者には申しわけありませんが、ある意味で性善説に基づいたこの評価制度の枠組みが果たして機能するのでしょうか。

FPパートナーへの行政処分

リリースによると、同社は訪問型の保険代理店としては業界最大手で、複数の保険会社の商品を比較推奨するビジネスモデルをとっています。同社は2024年6月に関連する開示を行い、①商品の優位性 ②商品提案の難度 ③保険会社の顧客サポート体制を総合的に判断し、各商品への社内評価を設定しているとしています。
しかし、実際には「保険会社からの便宜供与の実績に重点を置いて推奨商品の選定を行っている」「(医療保障を希望している顧客に対し)合理的な理由なく特定の保険会社を偏重して推奨していることが強く疑われる」など、保険会社からの便宜供与の実績を重視した保険募集管理態勢を構築していると関東財務局は判断しました。

ちなみにFPパートナーは、生命保険協会が2022年に導入した代理店業務品質評価において、2024年に評価基準の基本項目を全て達成した代理店として認定されています(2025年2月に評価結果を停止)。
業界団体による評価がダメで、当局の検査が絶対正しいと言うつもりはありませんが、書類審査とヒアリングを中心とした評価では、評価を受ける側は当然ながら自分に都合の悪いことは言わないので、なかなか難しいものがあるのでしょう。

※写真は福井です。

 

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日本保険学会の全国大会

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1292(2025.8.4)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。日本保険学会の全国大会について書きました。
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非会員でも参加できる

約3か月後の10月25日(土)、26日(日)に近畿大学の東大阪キャンパスで日本保険学会の全国大会が開催されます(対面開催です)。
日本保険学会は、保険に関する研究者と実務家からなる学会で、前身の「保険学会」設立から130年もの歴史があります。学会メンバーとなるには会員2名(うち1名は役員その他の評議員)の紹介が必要ですが、年1回開催される全国大会と、各部会(関東・関西・九州)による例会は、参加費を支払えば会員以外でも参加できます。

この10月の全国大会では、25日午後に「シンポジウム:D&O保険の現状・課題・展望」、26日午後に「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」という2つの報告・パネルディスカッションがあります。26日午前の自由論題(研究報告)には、例えば「保険会社の多国籍化に関する考察」「保険訴訟における専門的知見の取扱い―医療診断に焦点を当てて―」など、経済・商学系と法律系でそれぞれ3つの研究報告がエントリーされています。
保険ビジネスに関わる皆さんも、日本保険学会の全国大会、あるいは、お近くの部会例会に参加してみてはいかがでしょうか。普段とは違った視点で保険を見つめるいい機会になると思いますし、実際に九州部会の例会には、主に福岡を拠点とする保険代理店の皆さんが毎回参加しています。
なお、全国大会の申し込みは9月26日締め切りです。詳しくは学会サイトでご確認ください。

新たな規制導入の本質

ところで、26日午後の「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」では、私が司会および報告者を務め、他2名の研究者(静岡県立大学の上野雄史先生、専修大学の湯山智教先生)に加えて、金融庁の保険モニタリング室で新規制を統括する伊藤仁美さん(保険モニタリング管理官)にご登壇いただくことになっています。
7月27日の個人ブログでもご紹介したとおり、金融庁は23日に新たなソルベンシー規制に関する法令等(告示、監督指針など)を公表し、これによって2026年3月末からの規制適用が確定しました。
新たな規制は「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれるように、保険会社の資産と負債を経済価値ベース(≒時価ベース)で評価することで現行の保険会計の弱点を克服しようというものです。ただし、それだけではありません。ソルベンシーマージン比率のような狭義のソルベンシー規制にとどまらず、金融庁は保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策を取り入れることで、「契約者保護」「保険会社のリスク管理の高度化」「消費者・市場関係者等への情報提供」を図ろうとしています。

保険会社は単に規制が求める資本(ソルベンシー)を確保すればいいというのではなく、いわゆる損保問題で表面化した、トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化からの脱却を求められます。
そこで、当日の報告では、演題にした「新規制は保険会社の経営危機を回避できるのか」だけではなく、より広い視点からお話しするつもりです。
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※ゼミ旅行で阿蘇にきています。

 

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