保険代理店への行政処分

バタバタしていて1週間あいてしまいました。今週から来週にかけては東京・横浜で過ごしています。

さて、8月6日に金融庁(東海財務局・関東財務局)が、中古車販売大手の大型兼業代理店であるネクステージと、「マネードクター」を展開する保険専業代理店であるFPパートナーにそれぞれ行政処分を行いました(いずれも業務改善命令)。
ネクステージへの行政処分
FPパートナーへの行政処分

ネクステージへの行政処分

同社は2023年に旧ビッグモーター事件を受けて自主調査を行い、不正請求事案は確認されなかったと公表しています。その後、主要取引銀行の要請で外部弁護士による調査を行い、やはり不正請求事案は確認されなかったと報告しています。
しかし、今回の立入検査で、「調査担当の従業員は各々の主観に基づいて関係資料を確認し、問題がないとの判断を裏づける証拠も残していない」「関係資料が揃っていないなど不正請求の蓋然性がより高いと考えられる案件を調査対象外にしている」「調査対象期間外に発生した不正請求事案を把握していても、全容解明に向けた伏在調査を行っていない」「損害保険会社の調査で不正請求疑義事案を把握していても、事実確認のための調査の指示を行っていない」などが明らかになり、東海財務局は「現在でも不正請求事案が多数内在している蓋然性が高い」と判断しました。

問題の根底には、同社の経営陣が保険事業の重要性を認識しておらず、保険業法等の知見も欠如しているため、保険事業に関するガバナンスが機能不全となっていることがあると指摘しています。
1月に行政処分を受けたトヨタモビリティ、グッドスピードと同様に、この会社(あるいはこの業界)がこのまま保険代理店を続けていいのか疑問に感じる内容です。

日本損害保険業界は代理店業務品質評価制度を導入し、全ての代理店が自己点検チェックを行ったうえで、第三者機関が必要と判断した代理店を対象に第三者評価を行う方針です。しかし、問題が発生していてもまともな調査をしない(あるいはできない)ような会社に対し、関係者には申しわけありませんが、ある意味で性善説に基づいたこの評価制度の枠組みが果たして機能するのでしょうか。

FPパートナーへの行政処分

リリースによると、同社は訪問型の保険代理店としては業界最大手で、複数の保険会社の商品を比較推奨するビジネスモデルをとっています。同社は2024年6月に関連する開示を行い、①商品の優位性 ②商品提案の難度 ③保険会社の顧客サポート体制を総合的に判断し、各商品への社内評価を設定しているとしています。
しかし、実際には「保険会社からの便宜供与の実績に重点を置いて推奨商品の選定を行っている」「(医療保障を希望している顧客に対し)合理的な理由なく特定の保険会社を偏重して推奨していることが強く疑われる」など、保険会社からの便宜供与の実績を重視した保険募集管理態勢を構築していると関東財務局は判断しました。

ちなみにFPパートナーは、生命保険協会が2022年に導入した代理店業務品質評価において、2024年に評価基準の基本項目を全て達成した代理店として認定されています(2025年2月に評価結果を停止)。
業界団体による評価がダメで、当局の検査が絶対正しいと言うつもりはありませんが、書類審査とヒアリングを中心とした評価では、評価を受ける側は当然ながら自分に都合の悪いことは言わないので、なかなか難しいものがあるのでしょう。

※写真は福井です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

日本保険学会の全国大会

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1292(2025.8.4)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。日本保険学会の全国大会について書きました。
————————————

非会員でも参加できる

約3か月後の10月25日(土)、26日(日)に近畿大学の東大阪キャンパスで日本保険学会の全国大会が開催されます(対面開催です)。
日本保険学会は、保険に関する研究者と実務家からなる学会で、前身の「保険学会」設立から130年もの歴史があります。学会メンバーとなるには会員2名(うち1名は役員その他の評議員)の紹介が必要ですが、年1回開催される全国大会と、各部会(関東・関西・九州)による例会は、参加費を支払えば会員以外でも参加できます。

この10月の全国大会では、25日午後に「シンポジウム:D&O保険の現状・課題・展望」、26日午後に「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」という2つの報告・パネルディスカッションがあります。26日午前の自由論題(研究報告)には、例えば「保険会社の多国籍化に関する考察」「保険訴訟における専門的知見の取扱い―医療診断に焦点を当てて―」など、経済・商学系と法律系でそれぞれ3つの研究報告がエントリーされています。
保険ビジネスに関わる皆さんも、日本保険学会の全国大会、あるいは、お近くの部会例会に参加してみてはいかがでしょうか。普段とは違った視点で保険を見つめるいい機会になると思いますし、実際に九州部会の例会には、主に福岡を拠点とする保険代理店の皆さんが毎回参加しています。
なお、全国大会の申し込みは9月26日締め切りです。詳しくは学会サイトでご確認ください。

新たな規制導入の本質

ところで、26日午後の「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」では、私が司会および報告者を務め、他2名の研究者(静岡県立大学の上野雄史先生、専修大学の湯山智教先生)に加えて、金融庁の保険モニタリング室で新規制を統括する伊藤仁美さん(保険モニタリング管理官)にご登壇いただくことになっています。
7月27日の個人ブログでもご紹介したとおり、金融庁は23日に新たなソルベンシー規制に関する法令等(告示、監督指針など)を公表し、これによって2026年3月末からの規制適用が確定しました。
新たな規制は「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれるように、保険会社の資産と負債を経済価値ベース(≒時価ベース)で評価することで現行の保険会計の弱点を克服しようというものです。ただし、それだけではありません。ソルベンシーマージン比率のような狭義のソルベンシー規制にとどまらず、金融庁は保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策を取り入れることで、「契約者保護」「保険会社のリスク管理の高度化」「消費者・市場関係者等への情報提供」を図ろうとしています。

保険会社は単に規制が求める資本(ソルベンシー)を確保すればいいというのではなく、いわゆる損保問題で表面化した、トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化からの脱却を求められます。
そこで、当日の報告では、演題にした「新規制は保険会社の経営危機を回避できるのか」だけではなく、より広い視点からお話しするつもりです。
————————————
※ゼミ旅行で阿蘇にきています。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

経済価値ベースのソルベンシー規制

金融庁は7月23日、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正(案)」等に対するパブリック・コメントの結果等の公表についてを示し、2026年3月末からの規制適用が確定しました。昨年10月に出した拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』でも述べたように、20年近い検討期間を経て、ようやく新たな規制が導入されることとなります。
なお、新たな規制の概要や主な法令等、第1の柱のQ&A、これまでの検討経緯を金融庁がこちらのサイトにまとめていて、助かります。

ところで、パブリックコメントの結果(PDF)ですが、私は昨年、第3の柱(3柱告示案(PDF))を中心にいくつかコメントを出していました。利用者目線からすると、告示案のままでは生命保険会社の金利リスクの現状やALMの考え方が把握できないという危機感を持ったためです。
同じように改善を求めたかたが複数いたこともあって、私がお願いしたとおりではないにせよ、開示の充実が図られることとなりました(別紙様式第7号の開示が当初案よりも充実しました)。
先ほどご紹介した金融庁サイトを引用すると、第3の柱(情報開示)は、保険会社と外部のステークホルダーとの間の適切な対話を促し、ひいては保険会社に対して適正な規律を働かせるためのもの。実際の開示を見てみないとわからない部分はあるにせよ、第1の柱を補完し、第2の柱をサポートするような開示情報の活用を考えてみたいと思います。

さて、ここから先は、規制を受ける保険会社の対応準備とともに、メディアをはじめ、保険会社のステークホルダーに新規制を理解してもらうための取り組みも必要になってきますね。

※念願の観光列車に乗りました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

『ミニ保険をつくった7人の侍たち』

五十嵐正明さんによる近著『保険業界のゲームチェンジャー ミニ保険をつくった7人の侍たち』を楽しく拝読しました。

社会問題となりつつあった「根拠法のない共済」問題への対応として、2006年に誕生した少額短期保険(ミニ保険)。その新しい事業に飛び込み、業界の発展に尽くした7名のかたへの対談を中心にした書籍です。本当は著者の五十嵐さんを入れて「8人の侍」なのでしょうね。
やや仲間うちの話もあるとはいえ、1から業界を立ち上げるのは本当に大変だったということが実感できました。

少額で短期間の保険なので通常の保険会社よりも参入規制が緩く(保険会社は免許制、少短会社は登録制)、商品面も保険会社のような商品認可制度ではなく、事前届出制です。
ところが実際には、アイアル少短の孤独死保険が財務局の承認を得るまでに400日くらいかかったという話が出てきて驚きました。正式な届出の前に事前ドラフト審査があるようです。

協会の専務理事を務めた小泉さんの冷静な分析も印象的でした。「現行法規制は我々に『少短業者である限り事業規模規制から財務体質が不十分な状況になる可能性があるが、それであってもお客様に信頼される安心安全な業界になれ』と企業努力だけでは根本解決困難な課題を突きつけている」「現行法規制が『当初の移行目的と移行時の条件の死守』から全く脱しない現状は、彼ら(=新たに保険業に参入した事業者)にとって夢を持って参入し自由な発想に基づく新たな保険作りをする上での阻害要因そのものにしか映らない」。
確かに、制度創設の目的は「根拠法のない共済」対応でしたが、新規参入組が業界の過半を占めるなかで、そろそろミニ保険のあり方を見直す時期にきているように思えます。

少額短期保険を理解するうえで本書の一読をおすすめしたいです。

※今週末は東京出張でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

リスクマネジャーの育成

7月7日の日経電子版に、日本損害保険協会が企業のリスクマネジャーの育成に向けた資格制度を導入するという記事がありました。同じ趣旨の記事はBloombergニュースにも出ています。

企業のリスクマネジメントは保険に加入することではなく、保険はあくまでリスクマネジメントの1手段(リスクの移転)です。したがって、仮に保険加入を促すような資格制度となってしまうようであれば、リスクマネジャーの育成にはつながらないでしょう。
また、企業のリスクマネジメントは企業価値の向上を目指すものなので、リスクマネジャーは損失の軽減や移転だけではなく、適切にリスクをとる枠組みを構築しなければなりません。リスクをとらなければリターンは得られませんし、リスクマネジメントはリスクマネジャーが行うのではなく、経営者をはじめ、すべての事業部門が行うものです。

とはいえ、私は今回の損保協会の取り組みを前向きにとらえています。というのも、企業向け損害保険市場(特に大企業向け)は本来、プロどうしの取引であるにもかかわらず、一連の「損保問題」を受けた金融庁の制度改革は基本的に保険業界を対象にしていて、顧客企業に直接何かを求めるような改革は見送られているからです。
いくら損害保険会社が、過度な便宜供与など不適切とされた取引慣行を見直し、リスクに応じた引き受けに移行しようとしても、もし顧客企業のリスク意識が低く、相変わらず保険料を最小にすべきコストとしてしか見ないのであれば、保険会社は取引をやめるしかありません(そうした企業は料率引き上げに応じないでしょうから)。

しかし、世の中に「リスクマネジャー」なる存在が増えていけば、横並び意識の強い日本では、意外に早くリスクマネジャーが浸透するかもしれませんし、もしリスクマネジャーを置いているにもかかわらず何か不祥事が起きたとすると、株主やメディアから「リスクマネジメントの形骸化」を指摘され、かえっていい方向に向かうきっかけとなるかもしれません。損保各社はERM経営を標榜しているのですから、自らの体験に基づいたアドバイスも可能でしょう。
ちょっと楽観的な観測かもしれませんが、保険業界として資格制度を含め、様々なやり方で企業の意識改革を図ることで、「保険本来の価値提供で選ばれる世界の実現」(東京海上グループの中期経営計画から引用)に近づいていくことを期待しています。

※福岡(博多)はお祭りモードです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ドライブレコーダーの普及

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1288(2025.7.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
————————————

自動車事故の映像記録

先日、私の担当するゼミ(少人数クラス)にて、九州で保険代理店を営む皆さんに、自動車等の運転に関わるリスクをテーマにした出張授業を行っていただきました。
若者のクルマ離れと言われるようになって久しいですが、大都市圏とは違い、福岡のような地方都市では、通学時の自動車利用は自粛を求められているとはいえ、依然として若年層にも自動車が身近な存在です。
授業のなかでドライブレコーダー(ドラレコ)が記録した事故映像を観る機会があり、学生にはもちろん、近年はすっかりペーパードライバーとなっている私にも大変参考になりました。「どうしてここで曲がるの?」「どうして正面に人が歩いているのが見えないの?」といった映像もあって、人間の注意力には限界があるというか、状況によって信じられないほど注意力が散漫になり得ることがよくわかりました。

ドラレコ普及は頭打ちに

こうしたことがわかるのは、ドラレコが普及したおかげです。ソニー損害保険が毎年行っている「全国カーライフ実態調査」によると、2024年のドラレコ搭載率は51.9%で、あおり運転の社会問題化などもあって、この10年間で普及が一気に進みました(2014年の搭載率は8.1%)。別の調査でも、個人向けドラレコの普及率は概ね5、6割といったところのようです。
なんといっても、事故映像があれば責任関係が明らかになりやすく、過失割合の判断もしやすいという大きなメリットがあります。自動車事故の際、当事者双方の主張が食い違うことは多々ある(というか通常は食い違う)そうですが、事故映像があれば無理な主張は通りません。

ただし、同じソニー損保の調査で「ドラレコを選ぶ際に重視した点」として挙がったもののうち、断トツの1位は「価格」でした(複数回答形式)。低価格のドラレコでは前方1カメラのものもあり、事故映像として役に立たない場合も多いはずですが、ドラレコのもう一段の普及には価格が制約になっていることがうかがえます。
実のところ、ドラレコの国内出荷台数は21年度をピークに減少傾向となっています。意識の高いユーザーへの普及が一巡し、ここから先は何かインセンティブ(強制を含む)が必要なのでしょう。代理店の皆さんとしても、しっかりしたドラレコの付いていない自動車の保険は受け付けないというのが、経営のあるべき姿なのかもしれませんね。
————————————

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

メソポタミア文明の保険類似制度

まずはセミナーのご案内です。
今年も損保総研でセミナー講師を務めます。演題は「保険会社経営の今後を探る~新たな健全性規制の導入を見据えて~」で、7月9日(水)18時から。Zoomライブ配信です。
損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていて、決算データを踏まえた保険会社の経営内容や健全性規制の動向など「定点観測」をお伝えする機会となっています。うっかりしていて、締切直前のご案内となってしまいました。7月2日(水)締切とのことですので、ご関心のあるかたはどうぞお越しください。

この週末(6月28日)は福岡大学で日本保険学会・九州部会の例会がありました。
私が司会を務めたのは、西南学院大学・小川浩昭先生の「カタストロフィ・ボンドの起源」という報告で、なんとメソポタミア文明の保険類似制度に関するものでした。
小川先生は近年、保険史の考察に没頭しているとのことで、メソポタミア文明が栄えた紀元前のこの地域に、条件付き債務免除という保険類似制度が登場し、それが古代ギリシャの冒険貸借制度につながったとのこと。「目には目を、歯には歯を」の復讐法で有名なハンムラビ法典には、「嵐や洪水で作物が流されたり、水不足で大麦が実らなかった場合、債権者に大麦を返済しなくてよい。また、その年の利息を支払わなくてよい」という条文があるそうです(48条)。
もちろん、法典としての効果がどの程度あったのかという話もあるのですが、紀元前18世紀のことですので、驚きました。

もう1つの報告「メタバース向け生命保険の法的可能性」(住友生命保険の泉裕章氏による)も興味深い内容でした。

※写真は美々津(宮崎県)の町並みです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

オープンセミナー2025

昨年に続き、RINGの会オープンセミナーに参加し、今回はパネリストを務めました。
登壇は午前中の第1部で、損保問題を議論した金融審WGメンバーの柳瀬典由・慶應義塾大学教授、緻密な取材活動に定評のある朝日新聞の柴田秀並記者とともに、プロ代理店の経営者(ファシリテーターはRINGの会・矢島護会長)の質問に答える形でセッションを行いました。

今回も柳瀬先生と柴田記者に登壇いただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれませんが、当日は限られた時間のなかで、保険業界ウォッチャーとして、できるだけ本質的なことをスパッとお話しようと努めたつもりです。
例えば・・・

・(規模は考慮されるにしても)保険代理店も「金融機関」である
・自立していない保険代理店の手数料は下がる
・保険会社はコモディティ化した商品に高い手数料を出せない(はず)

有識者会議報告書でもWG報告書でも、保険金不正請求事案への対応として「顧客本位の業務運営の徹底」、保険料調整行為事案への対応として「健全な競争環境の実現」という整理がなされています。しかし、考えてみれば、不適切な便宜供与が横行したり、チャネル属性だけで優遇したりする不健全な市場で顧客本位の業務運営が徹底できるはずはなく、両者は表裏一体の関係にあります。
一連の問題発覚をきっかけに、いびつな業界慣行がなくなり、リスクと保険のプロフェッショナルが報われる世界に少しでも近づくことを期待しています。

なお、柳瀬先生がおっしゃっていた、規制の目線を「成績の悪い子」に合わせるのか、それとも成績に応じて目線を変えるのかというのは極めて重要な論点で、真の契約者保護とは何かという話だと思います。
全体として消費者のリテラシーを高める方向で進めていかないと、つまるところ消費者が負担する規制コストが膨大なものとなってしまいます。こうした議論は時間切れであまりできませんでしたが、代理店の経営にも関わる話だと思いました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

資産・負債キャッシュフロー構造の開示

日本の上場生保グループでは、資産と負債のキャッシュフロー構造を開示するのが一般的になりつつあります。
例えば2025年3月期決算を受けた説明のなかで、次のような開示がありました。

第一生命(PDF) ※13ページ
太陽生命・大同生命(PDF) ※18ページ
ソニーグループ(PDF) ※39ページなど

この開示があると、保険会社が保険負債の金利リスクをどのようにコントロールしようとしているのかを外部からうかがうことができます。逆に言えば、こうした開示がなければ、ESRの金利感応度だけでは保険負債の構造やリスクテイクの状況はよくわかりません。
上場生保だけではなく、できればスタンダードの開示になってほしいです。

なお、生保の2025年3月期決算といえば、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の契約動向を確認すると、第一生命がやや持ち直したとはいえ、営業職員チャネルによる保障性商品の販売低調が続いているようです。
新型コロナ感染症の影響(顧客接点が持ちにくくなった)というだけではなく、円金利復活に伴い、チャネルが貯蓄性商品の提供に軸足を移している(あるいは経営の意図に反して移ってしまった)ということもあるのかもしれません。

出張中につき、今回はここまで。

※校務で宮崎に来ました(もうすぐ帰ります)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
————————————

国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
————————————
※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。