2020年 12月 の投稿一覧

「半沢頭取」報道に思う

三菱UFJ銀行の頭取に半沢淳一常務が昇格するという人事(24日発表)を先取りする報道が22日にありました(日経、朝日、NHKなど多数)。

「計13人いる副頭取と専務を抜き、同行で初めて常務から頭取になる」(日経)
「テレビドラマ『半沢直樹』の原作者で、1988年に当時の三菱銀行に入行した池井戸潤さんとは同期だったということです」(NHK)

つまるところこの2点だったのですが、何だかなあという感じでしたね。

まず、持株会社の「指名・ガバナンス委員会」ではまだ決定していなかったのに、名前が出てしまったこと。関係者(必ずしもMUFG関係者とは限りません)がリークしたのでしょうけど、もし私が指名・ガバナンス委員会の委員だったらこうした報道は嫌ですよね。委員会とは別のところで人事が決まっているように思われてしまいますので。
トップ人事を発表前に出すのが重要なのは報道業界内部の価値観であって、情報の受け手にとって価値があるとは思えませんし、むしろ迷惑なことが多いと思います。

それから「若返り」「13人抜き」ですが、確かに金融界で55歳は若いです。ただ、「若返り」「13人抜き」という報道は、そもそも新卒生え抜きが経営幹部となることを前提にしたものです。外部人材だったら「〇人抜き」なんて記事にはなりませんよね。
「半沢さん」に話題性があるのはわかります。しかし、グローバル化を進める金融グループの幹部人事を、いつまで「社長が次の社長を決める」「日本人・中高年男性・新卒生え抜き」を前提に語るのでしょうか。

ちょうど数日前に「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」から「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」という提言が出ていますし、このような資料(取締役会の機能発揮と多様性確保(PDF))も参考になりますので、22日の人事報道に疑問を持たなかったかたはじっくりお読みいただければと思います。

※全くの個人的興味で恐縮ですが、ようやく訪問できました。

 

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団体年金保険の予定利率

コロナ禍で休退学、5千人超」というニュースが話題になりましたが、よく見ると、コロナ禍でも大学を休学したり退学したりする人は今のところ増えていないというニュースなのですね。
調査によると、前年同期に比べて退学者が減り、休学者は海外留学要因を除けばほぼ横ばいでしたので、コロナがなければこの「5千人超」が休退学しなかったかどうかは微妙です。ただし、コロナの影響が長期化するほど経済的に困難な学生が増えるでしょうから、文科省が大学等に対し、引き続き学びの支援を求めるのはよくわかります。

団体年金の予定利率で対応分かれる

NHKや読売新聞の報道によると、第一生命が団体年金保険(一般勘定)の予定利率を来年10月に1.25%から0.25%に引き下げる一方、日本生命、住友生命、明治安田生命の3社は顧客企業への影響を考慮し、来年度も利率を維持するとのことです。
NHKのサイトへ

第一生命がなぜこのタイミングで引き下げを決めたのかはわかりません(むしろ決断が遅かったようにも思えます)。ただ、個人向け保険の標準利率がすでに0.25%以下となっている時に、他社はどうして予定利率1.25%(解約控除がなければ0.75%)の団体年金保険を続けることができるのでしょうか。

なぜ利率を維持できるのか

1.25%/0.75%の予定利率を確保するには、それなりの資産運用リスクを抱える必要があります。例えば、団体年金区分(一般勘定)の資産構成を公表している第一生命は、2020年9月末時点で国内株式(全体の7.4%)や外貨建資産(同35.2%)などで資産運用リスクをとっていました(他社も一般向けに公表してほしいのですが…)。
他方、個人向け保険(特に保障性の強い商品)であれば、危険差益や費差益といった保険関係の利益の獲得が期待できます。しかし、団体年金保険はこれらが非常に小さく、しかも資産運用がうまくいけば顧客に配当として多くを還元するので、個人向け保険よりも収益性が高いとは言えません。

以上から、個人向け商品に比べ、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険はリスクに見合うリターンが得られる商品とは考えにくいのですが、さらに問題があります。それは、負債の評価(特に契約期間の見込み)が難しいという点です。
顧客にとっては運用商品(もっと言えば、金利の高い現預金のようなもの)なので、金利水準が上がれば解約が増えるでしょうし、おそらく今の低金利が続けば、予定利率が1.25%/0.75%の商品はそのまま継続となりそうなので、保険会社にとってALMが非常に難しいと想像できます。

リスクに見合ったリターンが得られにくく、ALMも難しいとなると、各社は相互会社の社員に対し、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険を続ける説明が必要だと思います。少なくとも「顧客に影響があるから」という理由では納得できないでしょう。

<12月21日追記>
明治安田生命が2024年度以降に引き下げる方向という日経報道がありました。(報道が正しいとして)2024年度とはだいぶ先ですが、何を基準にして決めようとしているのか興味深いです。

※神社の境内でマルシェをやっていました。

 

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3メガ損保グループのIR説明会から

今週のInswatch Vol.1063(2020.12.14)に寄稿したものです。
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今回は生命保険会社ではなく、3メガ損保グループが先月下旬に開催した投資家・アナリスト向け説明会を取り上げます。
各社とも5月と11月の決算発表後にIR説明会を行っています。以下ではそのごく一部を紹介しますが、投資家やアナリストではなくても、各社のサイトに行けば、説明会の様子を動画で観たり、説明資料や質疑応答を確認したりできます。

時間をかけて各業務を説明:東京海上

東京海上グループはいつもと違い、3時間半におよぶミーティングを実施しました。最初にグループ戦略の全体像をホールディングスの小宮社長が説明し、続いて国内事業戦略、海外事業戦略、資産運用戦略について、それぞれの責任者が説明するというものでした。
国内事業戦略では、東京海上日動の広瀬社長、あんしん生命の中里社長ともに強調していたのが、デジタルを高度に活用し、ビジネスモデルを進化(深化)させるというもの。生保ではデジタル募集の取り組みを加速し、損保ではさらなる事業効率の向上を図るとしています。

CSV×DXで成長を:MS&AD

MS&ADグループの説明会ではホールディングスの原社長が、同社が中期経営計画で掲げている、CSC(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)をデジタル・トランスフォーメーション(DX)による既存ビジネスの変革で進めていくことを改めて強調していました。とりわけ商品・サービス面では、請求を受けて支払うだけの保険から、DX等により事故の発生を未然に防ぎ、発生してしまった場合の影響も小さくする保険へと、保険の役割を変えるという説明がありました。
国内損害保険事業では、これまで進めてきたビジネススタイル改革による事業費削減を、オンラインシステムの刷新やリモートワークによって確実なものにするとのことでした。

リアルデータの活用:SOMPO

SOMPOホールディングスの櫻田社長からは、安心・安全・健康のテーマパークの構築は不変としたうえで、基本3戦略の1つに「新たな顧客価値の創造~テーマパークの具現化~」を掲げ、リアルデータの獲得とデータ解析により新たなソリューションを生み出す「リアルデータプラットフォーム構想」に取り組むという話がありました。その具体例として、グループの介護事業が持つリアルデータを組み合わせ、解析することで、新たな介護ビジネスモデルの実現を目指しているそうです。
国内損保事業に関しては、次期中期経営計画でも料率適正化と事業費削減を柱とする収益構造改革を一段と進めます。

問われる営業支援体制

新型コロナ禍が日本企業のデジタル化を加速させるというのは、3メガ損保グループにも当てはまるようですが、気になったのは、国内事業でデジタル化が進んだ結果、販売チャネルはどうなるのかという点です。
保険会社は新しい技術を駆使した営業支援をどんどん開発していくので、デジタル社会に適用しようと考えている代理店にはいい時代になりそうです。他方で、これまで代理店の営業支援を行っていた保険会社の社員はどうなっていくのでしょうか。
今回のパンデミックによって、顧客との接点を何らかのかたちで確保できるのであれば、保険会社による接触型営業支援がなくても現場には大きな問題がないことが明らかになりました。二重構造問題は長年の課題であり、保険会社が語る「付加価値の高い業務への挑戦」「デジタル人財の育成」がそう簡単に成果をあげられるとは考えられません。浮いた人材をどうするかは保険会社にとって大きな課題となっています。
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※写真は晴れていますが、福岡でも雪が舞いました。

 

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MYミューチュアル配当

12月1日に明治安田生命から新たな社員配当「MYミューチュアル配当(PDF)」を創設するという発表がありました。内部留保への貢献度に応じた配当還元の仕組みは、生保業界初とのことで、興味深い取り組みだと思います。

公表資料によると、明治安田生命は2021年10月以降、これまで内部留保の積み立てに貢献してきた(かつ、今後も貢献が想定される)商品の契約者に対し、従来の社員配当に加えて、内部留保の一部を新たな配当として支払います。
2001年発売の「ライフアカウントL.A.」など、過去20年間くらいに発売した保障性商品が対象で、加入後20年目に最初の配当の支払いがあり、その後は10年ごととなります。

ただし、内部留保の一部を支払うといっても、蓄積してきた内部留保を取り崩すのではなく、その期に内部留保の積み立てにあてる金額の一部を新配当に回すしくみです。例えば、明治安田生命はここ数年、毎年1000億円を上回る内部留保を行ってきましたが、このうち100億円程度を配当するというイメージです。
内部留保を取り崩すのではなく、積み立てのペースを落とす(しかも控えめに)ということなので、経営陣は現状では内部留保の増強がまだ必要だと判断していることがうかがえます。相互会社の契約者としては、どの程度必要と考えているのかを知りたいところでしょう。

なお、明治安田生命が2019年度に支払った個人向け商品の配当(従来のもの)は約300億円だったそうです。決算発表の際に、団体保険や団体年金を含めた「配当準備金繰入額」しか公表していない相互会社もあり、この点に限らず、上場株式会社や一部の大手共済事業者に比べると、会社のオーナー(=社員たる契約者)に向けた情報開示には改善の余地が大きいと思います。

※博多駅です。夜はきれいなのでしょうね。

 

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RIS2020全国大会に参加して

この週末に全国学生保険学ゼミナール(RIS)の全国大会がありました。
RISは全国の大学における保険論関係のゼミナールを中心に、年1 回集まって合同で研究発表会を行うもので、今年は14大学18ゼミが集結し、実務家も交えて盛大に開催されました。

「盛大」と書きましたが、オンライン開催で懇親会もできなかったため、例年のような大学を超えたリアルな交流はできませんでした。とはいえ、自分が参加したかぎりでは、発表資料が総じて充実していたほか、討論者(他大学の学生)とのやり取りや参加者との質疑応答など、リアルな大会に負けないレベルで行われていたように思いました。

同時に4つの発表があるので、がんばっても全体の1/4しか参加できなかったのですが、私が参加したなかで最も印象に残ったのは「マスクの裏表問題」(長崎県立大学)でした。
使い捨てマスクに裏表があるのをご存じでしょうか。使い捨てマスクは裏と表で素材が違い、正しくつけないと着用の効果が減ってしまうにもかかわらず、裏表を間違えて着用している人は結構多いようです。コロナ禍でマスクの研究というのは身近でタイムリーですし、感染リスクに関わる重要な話でもあります。
発表者は入手できるマスク30製品超を確認し、アンケート調査を行い、さらにはメーカーへのヒアリングも実施しています。各メーカーの姿勢の違いも垣間見えたようで、いい勉強をしているなあと思いました。

来年は私のゼミ生も参加する予定なので、今回はオブザーブ参加させてもらいました(これはオンライン開催のいいところですね)。他大学の学生の様子を見る機会はなかなかないでしょうから、何らかの刺激にはなったのではないでしょうか。

なお、もしRISにご関心のある実務家等のかたがいらっしゃいましたら、私までご連絡いただければ幸いです。
実務家の投票によるMNP(実務家の視点から最も印象に残った発表)の表彰も行っていますし、意外な発見があるかもしれませんよ。

※写真は福岡・六本松のイルミネーションです。

 

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