新ソルベンシー規制の「残論点の方向性」

金融庁が5月29日に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性等について」を公表しました。あれ?「最終基準案」じゃないんだ?とは思いつつ、ようやくここまでたどり着いたということなのでしょう。お疲れさまでした。
ちなみに「概要」の最終ページ「新規制導入に向けたタイムライン案」には、赤字で「2024年5月 基準案公表」とありますが、この「基準案」とは今回公表した「残論点の方向性等について」を指すようです。

今回の「残論点の方向性等について」(つまり基準案)はこれまで挙がっていた論点に対する暫定案をまとめたもので、逆に言うと、論点として挙がっていなかったことについての記述はほとんどありません。ですので、例えば第1の柱の標準的手法について確認したければ、フィールドテストの仕様書など、他の資料にあたる必要があります。
2024年秋頃の「法令等パブコメ」までには最終基準案としてまとまった資料が出るのでしょうか?

金融庁は早期是正措置として、これまでのソルベンシーマージン比率(SMR)に代わり、ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)を発動基準として、その水準に応じて段階的に監督介入を行うことになります。例えばESRが100%を下回ったら介入を開始し、35%を下回ったら業務停止命令です。
MCR(最低資本要件)の水準を0%ではなく35%としたのは、早期是正措置は事業の継続を前提にした制度であり、MCRも破綻処理のトリガーではないので、「一般に債務不履行のおそれがあるとされるCCC格の一つ上のB格相当の格付における破産確率に概ね対応する水準と仮定した格付機関の公表データに基づく試算や、EUのソルベンシーⅡの事例も参考に」したとのこと。つまり、業務停止命令の発出イコール破綻と捉えるのは正しくないということですね(保険会社が法的破綻を申し出る重大な考慮要素ではあります)。このあたりはもう少し丁寧な説明が必要かもしれません。
なお、これまでSMRとともに早期是正措置の発動基準となっていた実質資産負債差額は、新たな枠組みでは外れることになりました。

注目している第3の柱では、法定開示項目として、これまで出ていた項目のほか、「有価証券に係る補足情報」「保険負債の商品別差異調整に係る情報」が加わりました。定性的な開示事項の「リスク管理情報」には、「ORSAの経営への活用を含む、ORSAに係る基本方針及び体制等」ともあります。
もっとも、具体的な開示内容がまだ私にはわからないので、どこまで有用性の高い情報が出てくるか、引き続き注目していきます。

参考までに、フィールドテスト(2023年)の結果概要では、ESRの感応度分析だけではなく分子、分母それぞれの感応度分析も出ていますし、「金利」ではなく「円金利」と「米ドル金利」の変動に対する感応度となっています(為替の感応度もあります)。

※写真は東京・銀座です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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