このタイトルの金融審議会・市場ワーキンググループ(WG)報告書が非難されています。
高齢社会において個々人は何を求められ、それに対して金融サービスの提供者はどうあるべきかという議論を取りまとめたものが、ご承知のとおり「老後に2000万円必要」という数字が一人歩きしてしまいました。
「2000万円」の根拠
メディアや野党が飛びついた「2000万円」を確認してみると、分析結果というよりは、「こうだったらこうなる」という単純な計算によるものでした。
厚生労働省が4月12日のWG会合で示した現在の高齢世帯の収支不足額(月5.5万年)をもとに、「毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する」「不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取崩しが必要になる」というのが、今回の「2000万円」です。
4月12日の議事録によると、厚労省の課長から「今後、実収入の社会保障給付は低下することから、取り崩す金額が多くなり、さらに余命も延びることで取り崩す期間も長くなるわけで、今からどう準備していくかが大事なことになります」という説明があった模様です。
しかし、現在の高齢世帯の収支はそれなりの金融資産を保有していることが前提です(平均純貯蓄額2484万円とあります)。貯蓄が少ない高齢世帯は、同じ収入であれば、もっと支出を抑えているはず。さすがにこの約5万円を使って「30年で約2000万円の取崩しが必要」と書いてしまうのは無理がありますね。
数字を出すにしても、「今の高齢世帯は平均して約2500万円の貯蓄があるので、月5万円の収支不足でも30年以上は大丈夫(だから若い世代も金融資産を形成しましょうね)」という話にすればよかったのだと思います。
民間保険の役割は?
保険アナリストからすると、報告書に民間保険の役割がほとんど出てこないのも気になりました(49ページの注記くらいでしょうか)。
資産形成が大事だとわかっていても、病気で働けなくなるリスクもあるでしょうし、反対に保険料負担が資産形成の妨げとなっているケースもありそうです。
何より不思議に感じたのは、社会保障の補完としての民間保険の役割について記述がないことです。
私の勝手な推測ですが、公助の部分をどうするかという議論はWGのテーマではないため、社会保障に関する議論は対象外、記述もできるだけ避けるということなのかと思いました。
もっとも、同じく4月12日の議事録には、次のような発言が見られます。
「(中長期的な年金給付の水準が減ることについて)はっきり言うべきことははっきり言わなきゃいけない【池尾委員】」
「(マクロ経済スライドと非消費支出の増加により)月々の赤字は5.5万円ではなくて、団塊ジュニアから先の世代は10万円ぐらいになってくるのではないか【駒村委員】」
「自助と公助がある中で、自助の割合を高めていくことの必要性を、強いメッセージとして出していく必要があると思っております【永沢委員】」
委員からは公助の限界を示すべきという声が出ていたことがわかります。
報告書のメッセージは「長寿化に応じて資産寿命を延ばすことが重要」なので、高齢世帯の収支が厳しいことをもって金融庁を責めるのは筋違いです。
でも、図らずも年金制度に社会の関心が向かうことになったのは、悪い話ではないかもしれません。今年は5年に1度の財政検証もあることですし。
※地下鉄博物館に行きました。