2026年 2月 の投稿一覧

保有債券の会計基準見直し

日経電子版「会計士協会、生保の保有債券の会計ルール見直し案 一部減損不要に」やBloomberg「生保保有債券の会計処理を見直しへ、一部減損不要に-会計士協会」が報じたように、日本公認会計士協会は2月17日に公開草案を公表し、「満期保有目的の債券」区分に加え、「責任準備金対応債券」区分の債券についても予想信用損失モデルを適用する、すなわち、信用損失のみに焦点を当てた損失計上とする会計基準を導入する方針を打ち出しました。

2022年に入ってから長期金利の上昇基調が続き、当時は1%を下回っていた30年国債利回りが、2025年12月末には3.35%、この2月には3.58%まで上がりました。金利が上昇すれば債券価格は下落しますので、多額の超長期債を保有する生命保険会社では時価が取得原価を大幅に下回り、いわゆる含み損が拡大しています。従来の会計基準では、満期まで保有し続けるのではないのなら、責任準備金対応債券であっても減損ルールの適用となり、時価が取得原価を50%超下回った場合には損失を計上しなければなりません。新たな方針が適用となれば、信用リスクの大きい債券でなければ金利上昇に伴う減損リスクを気にしなくて済むようになります。

債券市場では生保が超長期債を買いやすくなると好感しているようですが、他方でESRの「大量解約リスク」の問題もあり、各社が金利リスクをどうコントロールしていくかは何とも言えません。

ただ、この3月末の決算から資産も負債も時価評価する新たなソルベンシー規制が入り、「実質純資産」規制もようやく廃止となり、他方で大手損保グループが相次いでIFRSを任意適用する(IFRSには責任準備金対応債券のような区分はなく、保険負債も原則として時価評価)といった状況のなかで、国内の保険会計では相変わらず資産サイドだけを見て、「時価評価する/しない」とか「減損する/しない」とかいう話に終始しているのは、なんだかなあという感じはします。
金融庁は「2025年 保険モニタリングレポート」のなかで、「経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえ、監督会計のあり方について、関係者を含めた検討を実施する」(37ページ)と述べています。米国とは違い、日本の保険会計(財務会計)は監督会計と同じものなので、むしろそちらの検討を加速したほうがいいのではないでしょうか。

※写真は柳川(福岡県)のさげもん(ひな祭りの飾り)です。

 

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最近の読書から

今回ご紹介する2冊の書籍は、いずれも知人が執筆メンバーとなっているものです。
ごく簡単ではありますが、読後感をコメントします。

対話でわかる リスク管理超入門

日本の金融リスク管理にかかわる人にはおなじみのTRMA(東京リスクマネジャー懇談会)の若手メンバーによる、金融機関のリスク管理に関する入門書です。リスク管理の最前線で実務を担っているメンバーによる執筆というのが類書にない特徴で、上司と若手担当者との対話を軸に、リスク管理の考え方を楽しく学べる書籍となっています。
もう1つの特徴は、銀行と保険会社(特に生命保険会社)のリスク管理を同じ土俵におき、違いを比べるような記述がたくさんみられるところです。例えば「銀行と生命保険会社のALMに対する考え方の違い」というコラムを読むと、違いを知ることで、自然に金利リスクの根源を理解できるようになっていて、これはすごいと思いました。

3月10日に六本木で関連イベントがあるようですね。

図説 損害保険流通ビジネス

保険ビジネスのエキスパートを標榜するトムソンネットが「図説シリーズ」の最新刊として刊行したものです。
このタイミングでこのタイトルなので、当然ながら近年の不祥事について正面から取り上げています。ただ、不祥事そのものの記述よりも、第3章の「わが国における損害保険流通ビジネスの誕生とその歩み」や、第6章の「企業保険市場の課題と今後の方向」などを読むことによって、不祥事に至った本質的なところがより理解できると思います。
保険仲立人(保険ブローカー)に関する記述も充実しています。私には「日本でブローカーが活用されていない13の理由」というコラムや「企業契約者はリスクマネジメントに目覚めるか」「日本と欧米 企業保険引受けの違い」などが興味深かったです。

※北海道に行ってきました。

 

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第三者委員会を絶対視してはいけない

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1316(2026.2.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。下記にある「日本経済新聞でもコメントした」とはこちらの記事「プルデンシャル詐取、識者「ガバナンス検証を」「危機感みえず」(会員限定記事)」のことです。10日の記者会見にも注目しましょう。
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原因の究明は十分なのか

営業社員による大規模な金銭不祥事が発覚したプルデンシャル生命保険の記者会見(1月23日開催)では、参加者から第三者委員会による調査実施の有無を確認する質問がありました(会社は第三者組織による被害者補償を進めるが、さらなる原因究明の調査はしない旨を回答)。
近年、不祥事が起きた会社では、社外の第三者からなる調査委員会を設置して事実関係を調べ、調査報告書を公表するという事例が多くみられます。こうした調査報告書には有益な情報も多く、私もしばしば活用しています。プルデンシャル生命の場合、日本経済新聞でもコメントしたように、会社が公表した資料や記者会見の内容(ネットで傍聴しました)だけでは、金銭不祥事を起こした100名超もの営業社員がなぜ不祥事に走ってしまったのか、原因の究明が十分とは思えませんでした。問題の根幹は不適切な人材にあるのでしょうか?

ただし、第三者委員会による調査を行えばいいのかといえば、必ずしもそうとは言えません。というのも、これまで私が確認した第三者委員会等の調査報告書を見ると、残念ながら当たり外れが大きいという現実があります。
以下、原因究明が不十分な事例を2つ挙げておきましょう。

東芝の調査報告書

2015年に発覚した東芝の不祥事に関して、当事者の一人で財務担当副社長を務めた久保誠氏が『東芝 転落の深層』という書籍を出しました。
少し長くなりますが、本書の「あとがき」から引用します。

「最大の問題点は東芝側が、横暴な社長たちの圧政のもとで、社内の会計処理が乱れたのはひとえに『経理財務部門のガバナンスの問題』として、すべての責任を経理財務部門に負わせようとしたことである」

「この結果、裁判の出発点となった2015年7月の第三者委員会報告書は、WEC関係の原子力部門やパソコン事業部門が行った歪んだ会計処理について、その実行責任者をほとんど免責し、その全てを経理財務部門の責任とする記述を行った」
※WEC=ウェスチングハウス社

当時私もこの報告書を読んで、会計処理の判断に関する掘り下げた分析がなく、「なぜトップは工事損失引当金計上を認めなかったのか」「なぜトップは利益かさ上げの解消に難色を示したのか」「なぜトップの圧力が組織的な不正という結果になるのか」といったところはモヤモヤしたままだ、と個人ブログに書きました。
しかし、それは当然のことでした。なぜならば、この報告書には「本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われたものである」(19ページ)とあり、東芝からの委嘱事項も4つの会計処理に限られていました。ですから、本書で久保氏が「事実を掘り下げたり、原因を見極めようとの姿勢は全くなかった」と述べているとおり、問題の根幹を探るような報告書とはなりえなかったのでしょう。

SOMPOの調査報告書

本書にも出てきますが、「第三者委員会報告書格付け委員会」という組織があって、第三者委員会等による調査報告書を格付け評価し、公表しています(評価は上からA、B、C、Dの4段階およびF(不合格))。東芝の調査報告書に対する8名の評価は、AとBがなく、Cが4名、Dが1名、Fが3名という厳しいものでした。

格付け委員会がさらに厳しい評価を行ったのが、ビッグモーター事件を調査したSOMPOホールディングス社外調査委員会による報告書です(中間報告書を含む)。8名の評価はDが4名、Fが4名でした。
格付け委員会による議論のポイントを見ると、持株会社におけるグループガバナンスを調査の目的としたにもかかわらず、重要な事実関係がほとんど解明されていない点をすべての委員が問題視したとのことです。保険業界に詳しい委員からは、「第三者委員会メンバーの専門性に欠けており、それが損保業界特有の事情を踏まえない、深度の浅い原因分析につながった」という指摘もありました。

本件の場合、この調査報告書の公表をもって一件落着とはなりませんでした。しかし、第三者委員会やその調査報告書は原因究明や再発防止のためではなく、問題の幕引きのために使われてしまうこともありうると覚えておいたほうがいいでしょう。
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※福岡城址でも梅が咲いていました。

 

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生保の公社債含み損

1つの政党を除き、どの政党も公約に消費減税(検討を含む)を掲げるとは…
消費税を廃止するというのは、例えば年収300万円(同額を消費)の家計に30万円弱を配るというだけでなく、年収1000万円(うち500万円を消費)の家計にも50万円弱を配るという政策ですし、食料品の消費税をなくすというのは、年収300万円(食料品への消費が100万円)の家計だけではなく、年収1000万円(同100万円)の家計にも約8万円を配布するという政策ですよね。物価高対策として悪手としか思えません。
とはいえ皆さん、選挙には行きましょう。究極の消去法だとしても、意思表示は必要です。

さて、1月23日のBloombergに「金融庁が大手生保の債券含み損など調査、金利上昇受けて-関係者」というニュースが出ていました。31日の日経にも「金利急騰に苦慮の金融庁、生保に矛先 ダボス帰りの片山財務相発端に(会員限定記事)」というのがありました。
いずれの記事も、金融庁が1月中旬から生保(まずは大手4社)の保有する国債などの含み損益やその対応方針について調査を行っているという内容でした。

金利が上昇すれば保有する債券の価格は下がります。例えば、2019年発行で利率0.4%の30年国債の価格は直近で50円近くまで下がっていますし、利率0.5%の40年国債の価格は40円近くまで下がっています。今月半ばに発表される生保の2025年4-12月期決算では、9月末よりも各社の含み損が拡大していることでしょう。
ただし、生保が長期債を保有しているのは、同じく長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジするためなので、資産サイドの保有債券だけに注目しても意味はありません。ましてや、この3月末から経済価値ベースの評価による貸借対照表と、それに基づく数値基準(規制ESR)による規制を始めるのですから、政府は監視強化ではなく、むしろ会計上の評価に神経質となっている保険会社を安心させるべきでしょう(解約動向はよく確認する必要があると思いますが)。

Bloombergの記事で気になったのは、「金利上昇により過去に購入した保有国債の含み損は膨らんでおり、財務の健全性を示す指標の悪化につながりかねないとの警戒感はすでに生保側からも出ている」というところです。
ここで言う「財務の健全性を示す指標」とは何を指すのでしょうか。規制ESRのことだとしたら、保有国債の含み損は関係ありません。保険負債も小さくなっているはずなので、純資産はむしろ膨らんでいるはず。
負債の金利リスクをフルヘッジしていないにもかかわらず、金利上昇でESRが下がるのは、大量解約リスクという、いわば流動性リスクを数値化してしまったことによる影響でしょう。

日経記事にも「低金利時代に国債を買い増したことが含み損の拡大につながり『規制対応が裏目に出ている』(生保幹部)面もあり、場当たり的な監視強化に戸惑いもある」とあります。場当たり的と言わせないよう、金融庁は対話と情報発信をがんばってほしいですね。

※梅の季節になりました。横浜・大倉山の梅林にて。

 

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