2022年 6月 の投稿一覧

活版印刷の発明と海上保険

この週末(25日)は日本保険学会九州部会の例会があり、福岡大学での対面&オンライン(zoom)開催でした。こちらから当日のプログラムやレジュメをご覧いただくことができます(確か期間限定だったと思います)。

2人の報告者のうち、最初に登壇した神戸大学の若土先生の報告「活版印刷技術が及ぼした中世海上保険証券への影響」は、『海事交通研究』第70集に掲載されたこちらの論文(PDF)のアップデートだったようです。中世イタリアをはじめ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなど、これだけの古文書(主に保険証券)を発掘するにはかなりの労力がかかったのではないでしょうか。

『海事交通研究』の論文を拝見したところ、15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術が、それまで全て手書きだった海上保険証券の定型部分に導入されていったことを、文献だけではなく、若土先生自らが収集した史料をもとに検証したものでした。

グーテンベルクの活版印刷技術は火薬、羅針盤とともに「中世の3大発明」の1つと言われ、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。この技術を使えば写本よりも早く、安く、大量に読み物を作ることができるので、情報が広く一般に普及するようになります。確かにこれは革命的です。
ただ、海上保険の保険証券を早く、安く、大量に印刷する必要はなさそうなので、両者がどう結びつくのかが疑問でした。これに対し、本論文では16世紀末のアムステルダムで保険証券の定型部分に活版印刷が利用されたことについて、2つの理由を挙げています。

「登記の手間の削減や保険手続きの簡素化や迅速化といった時代のニーズに対応できるよう、恐らく証券書面の統一化を図るため証券上の定型的な部分に活版印刷技術を導入していったのではないかと筆者は考えている」

「取引市場のエリアが拡大し(中略)有力商人たちは企業化しネットワーク網が広がり、契約した重要な補償内容を現地・本部のいずれでも確認できる需要が強まり、証券の定型部分を活版印刷によって記載する動きに繋がったのではないかとみている」

いずれもまだ仮説のようですが、興味深いですね。僭越ながら研究が進み、活版印刷技術と保険の関係がより明らかになることを期待しています。

※アジサイにもいろいろな種類があるのですね。

 

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保険代理店と保険会社

週末(18日)のRINGの会オープンセミナーでは、無事インタビュアーを務めることができました。
Inswatchによると、セミナーの参加者は約1000人(うちオンライン視聴者が約500人)に達したようです。ハイブリッド開催で、かつ、RING主催の懇親会もありませんでしたが、それにもかかわらず500人もの来場者が集まったのですね。大学のハイブリッド授業とは大違いです(笑)

今回のセミナーのテーマは「NEXT MOVE ~新たな時代に次の一手を~」でした。ただ、個人的には、今回の特徴として挙がっていた「(保険代理店が)保険会社と共に考える事」について、より考えさせられるセミナーでした。

登壇した第1部の参考として、事前に保険代理店および損害保険会社の営業担当社員に、「(withコロナで)日々の業務での不安や、不便に感じていること」を聞いていただいたところ、両者の回答に際立った違いがありました。代理店からは、withコロナでも「保険会社との関係」を不安視する回答がほとんどなかった一方で、保険会社社員からの回答で最も多かったのは「(同僚や代理店との)コミュニケーション」という回答だったのです。
第2部でも登壇者のお一人が代理店と保険会社のすれ違いを端的に表すアンケート結果を示しており、withコロナで両者が別の方向を向いていることが改めて見えてしまったのかもしれません。

第3部ではRINGメンバーの代理店経営者が登壇し、代理店の視点から保険会社と共に発展していくための提言もありました。保険会社からの参加者がどの程度いたのかがやや不安ではありますが、代理店からの片思いに終わらず、両者のすれ違いが少しでも解消されることを期待したいです。

 

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地下鉄サリン事件とリスクマネジメント

RINGの会オープンセミナーはいよいよ今週末です。withコロナにも慣れ、何となく業務は回っているものの、インプット不足に陥ってはいませんか、保険会社の皆さん。
アンケートによると、保険会社(営業担当社員)と代理店の意識ギャップがはっきり表れていますよ。

さて、今週のInswatch Vol.1140(2022.6.13)に寄稿した記事をこちらでもご紹介します。
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聖路加国際病院の奮闘

大学の授業(ゼミ)で、地下鉄サリン事件で多くの命を救った聖路加国際病院のドキュメンタリー番組を観ました(NHKのプロジェクトXです)。
あれからもう27年にもなります。当然ながら学生たちが生まれる前の出来事ですし、もしかしたら本誌の読者にも事件をご存じないかたがいるかもしれませんね。

1995年3月20日、朝の通勤ラッシュで混み合う東京の地下鉄車内に猛毒の化学兵器・サリンが撒かれ、乗客・地下鉄職員13人がサリン中毒で亡くなるという前代未聞のテロ事件が発生しました。私も危うく巻き込まれそうになりました。
事件発生後、聖路加国際病院の救急センターには600人以上が来院し、心肺停止の患者も次々に運ばれてきました。地域の拠点病院であっても、一度に600人以上もの患者が押し寄せることはありません。しかし、日野原院長(当時)は患者を全員受け入れるとスタッフに伝え、スタッフはトリアージで患者を症状ごとに分け、場所を確保するため、病院の礼拝堂も病室に転用しました。

他方、原因が特定できないなかで、重症患者の容体は悪化していきます。副作用のある解毒剤「PAM」を使うべきかどうかを悩む現場のリーダー。そこに、前年に松本市で起きたサリン事件で治療を行った医師からの情報が入り、解毒剤の投与を決断。結果的に多くの患者の命が助かりました。

リスクマネジメントが機能するには

番組を観た後、学生たちに「なぜ聖路加国際病院では多くの患者を受け入れることができて、犠牲者を最小限に抑えることができたのか」を挙げてもらいました。

<学生からの回答例>
・院長が災害時に役に立つような病院を建てていた
・礼拝堂を病室として使えるように設計していた
・院長がいち早く「患者を全員受け入れる」「外来は休む」と決断した
・医師たちが他の病院で起きた経験を研究していた
・他の病院との情報ネットワークがあった
・救急センター以外のスタッフも救命治療を学ぶなど緊急体制があった
・スタッフ一人一人が自ら率先して行動した
・スタッフどうしが助け合う雰囲気があった

これらを見ると、リスクマネジメント(あるいは危機管理)がうまく機能するのに不可欠な3つのことが浮かび上がってきます。「リーダーの決断」「事前の体制整備(ハード&ソフト)」「リスクカルチャー」です。
リーダーに決断力があり、スタッフの意識が高くても、事前の体制整備がなければスタッフができることは限られます。あるいは、組織にリスクカルチャーが根付いていなければ、リーダーが決断し、ハード面が整っていても、対応はうまくいかないでしょう。

このような話をしたのですが、果たして学生たちに響いたでしょうか。
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※宮崎産マンゴー(小さいもの)がなんと198円でした。

 

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「大半の国 中立姿勢保つ」

日経新聞をご覧になっているかたは、木曜日(6/9)の朝刊に掲載された「ウクライナ危機を聞く」というインタビュー記事(有料会員限定)をお読みになったでしょうか。私は毎朝電子版をチェックしているにもかかわらずスルーしてしまい、FB知人の投稿で知りました。

話し手のチャン・ヘンチー氏はシンガポールの政治学者です(外交官と言ったほうが正しいかもしれません)。記事の一部を引用すると…

「ロシアのウクライナ侵攻に対する国連総会の非難決議には141カ国が賛成した。国連決議に賛成した国の中でロシアへの制裁に踏み切ったのは、欧米やその同盟国を除くと、わずかだ。アジアや中南米、アフリカの大半の国は制裁に同調していない」

「世界の大半の国は米国・欧州、中国・ロシアのいずれの陣営にも完全にくみしない『第3の空間』に属することを望んでいる。自国の国益を第一に考え、ある問題では米国の立場に賛同し、別の問題では中ロに近い立場を取ることを矛盾だと考えない」

世界の現実はこうなのですね。

2月下旬以降、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが連日流れています。私の日常的なニュースソースはNHKと日経、その他ネットで得られるものが中心なのですが、私たちは何となく「ロシアは世界から孤立していて、一部の大国(中国やインド)だけが中立的な姿勢をとっている」といった世界観を無意識のうちに作り上げているのではないでしょうか。
しかし、残念ながら現実はそうではないと、このインタビュー記事は教えてくれます。

※写真は3月に新装オープンした日本銀行福岡支店です。天神にあります。

 

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生保の新契約動向

5月8日のブログでご案内したRINGの会オープンセミナーが2週間後に迫ってきました。リアル参加かオンライン視聴かで迷っているかたも多いのではないかと思います。リアル参加はおそらく上限があるでしょうから、そろそろ申し込んだほうがいいかもしれません。
<申し込みはこちらへ>

さて、今回は生命保険会社の新契約動向を、少し長いスパンで見てみましょう。いずれも新契約年換算保険料(ANP)です。
まずは大手生保4社の動向から。

上のグラフが個人保険の15年推移、下のグラフが個人保険に占める第三分野(医療保障・生前給付保障等)の割合です。
日本生命と他の3社でやや傾向が違うようです。他の3社の回復が遅れているように見えるのと、経営者向け保険や第三分野の取り組み方針の違いがありそうです。日本生命は他社よりも死亡保障を重視した戦略をとっているとみられます。

次は「ソニー」「プルデンシャル」「メットライフ」「アフラック」「アクサ」です。
なかなか興味深いグラフとなっています。なかでもアフラックの動向が気になります。

最後は損保系生保3社です。
足元は緩やかな回復といったところですが、15年間で見ると、あんしん生命と他の2社でグラフの形がかなり異なっています。

これらをもとに各社の販売戦略を確認すれば、もう少しいろいろなことが見えてくるのではないかと思います。

※あじさいの季節になりましたね。

 

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