貯蓄と保険のちがい

inswatch Vol.1006(2019.11.11)に寄稿した記事をご紹介します。
本文中にある「終身年金パズル」とは、長生きリスクには貯蓄よりも終身年金のほうが有利にもかかわらず、民間が提供する終身年金があまり普及しないという現象のことです。
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長生きリスクへの備え

例えば90歳を超えて長生きした際の経済的な負担に対しては、貯蓄(資産形成)と終身年金(社会保険を含む)が代表的な手段となっています。
貯蓄の場合、自分が何歳まで生きるかわからないので、多め多めにお金を用意しておく必要があり、結果として多額の貯金を残して亡くなることになりがちです。
これに対し、保険の仕組みを使えば、長生きリスクに対して合理的に備えることができます。もちろん、平均寿命が将来的にどうなるかはわかりませんが、個々人ではなく集団として備えるので、これまで培ってきた保険の技術で対応することが可能です。

貯蓄ではなく保険

しかし、終身年金やトンチン年金など、長生きリスクに備えた保険を貯蓄としてとらえる発想が根強いようです。これだと、支払う保険料と受け取る給付の金額を比べ、損だ得だという話になってしまいます。
日本生命が2016年に「ニッセイ長寿生存保険」を発売した際も、「平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る」という批判がありました。
こちらもご参照(過去のブログです)

長生きリスクに保険で備えようという発想であれば、このような考え方は誤りです。保険ですから、例えば90歳以降の保障を受け取るために、いわば掛け捨ての保険料を支払うというように考えるべきです。
一般的な生命保険(死亡保障)のことを考えていただければ、よりわかりやすいかもしれません。例えば40歳で20年間の定期保険に入った場合、60歳までの間に加入者が死亡したら、遺族に保険金が支払われます。加入者は60歳までの20年間の死亡リスクに対する備えとして保険に入ったのであって、60歳になって「これまで保険料を支払ってきたのに何も受け取れなかった」と保険会社に文句をいうのは筋違いだとわかります。
長生きリスクに保険で備えようとした場合もこれと同じことです。貯蓄として保険商品を提供するのであればともかく、保障を提供するのであれば、「返戻率が高い」といった話法からは卒業したほうがいいと思います。

民間保険会社の役割に期待

先ほど「長生きリスクへの備えとしては、貯蓄と終身年金が代表的な手段」と書きましたが、実のところ、民間の保険会社はこの分野で必ずしも大きな役割を発揮していないように見えます。というのも、終身年金の主な担い手は社会保険(国民年金、厚生年金など)であって、保険会社が提供する終身年金は主力商品とはなっていないためです。

平均寿命が延びるなかで、民間として長生きリスクを引き受けるのが難しいのは確かですが、他方で終身保険を提供しているので、両者でセルフヘッジ(終身の長生きリスクと死亡リスクが打ち消し合う)効果がえられるはずです。今の金利水準では魅力ある商品の提供が難しいということもあるとは思いますが、主力商品となっていないのは、保険会社のリスク管理上の制約というよりは、むしろ終身年金が顧客にあまり選ばれてこなかったというべきでしょうか
(「終身年金パズル」と言われています)。

しかし、貯蓄と社会保険だけでは老後を豊かに過ごせるかどうか不安が高まっているなかで、より長生きのリスクだけに焦点を絞った商品を民間の保険会社が積極的に提供していくべきではないでしょうか。
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※写真は慶大矢上キャンパスです。9日にJARIPの年次大会がありました。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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