自由化後の自動車保険

直近の「損害保険研究」(第79巻第4号)に「損害保険自由化20年目の検証」という、自由化後の自動車保険の推移に関する論文があり、興味深く拝読しました。筆者は元損害保険料率算出機構職員の大島道雄さんです。

自由化で保険料は下がらなかった

本稿で大島さんは、各種統計資料データから自由化後の自動車保険の推移を調査した結果、期待された事業費率の低下や保険料単価の低廉化は認められず、両者はむしろ上昇傾向にあることを指摘しています。

大島さんによる主な考察結果は次のとおりです。

<事業費率>
・自動車保険の事業費率は算定会料率時に比べ一時的であっても低下することはなく、2005年以降は逆に上昇している(損害調査費率の上昇が主因)。
・損保事業全体の事業費率の低下は、もっぱら保険会社の人件費削減によって賄われ、代理店手数料費率の低下には及んでいない。

<損害率>
・自動車保険の特約部分はどの年次においても極めて高い損害率を示し、全体の損害率の悪化を招いている。

<保険料単価>
・自由化以降、保険料単価を切り下げる競争が展開されたが、下押し効果は全体で見れば数%と推定される。
・他方、特約が多数販売され、自由化による保険料低減額以上の収入が得られている。
・年齢構成や車齢の伸びなど、自由化とは関係なく参考純率を押し下げる要因も長期にわたり認められる。

とりわけ、「インシュアランス統計号(=特約を含む保険料・保険金)」と「損害保険料率算出機構統計集(=参考純率に対応する保険料・保険金)」の差に着目することで、特約部分の単価や収支を分析しているのが素晴らしいと思います。

ダイレクト自動車保険の普及ペースが緩やかだったこともあり、単純な料率競争による収支悪化よりも、むしろ特約競争による収支悪化を招いたというのは、私の認識とも同じです。
しかし、特約競争による収支悪化も、本来必要な保険料をとれていなかったという意味では実質的に料率競争と同じですし、(大型再編もあって)人件費や物件費を引き下げたからこそ、この程度の料率引き上げで済んでいる可能性もあるので、保険料単価が自由化直後と同じ水準に戻ってしまっても、自由化の効果が全くなかったということではないかもしれません。

ただし、ここ数年にかぎれば、事故あり等級の導入によって、かつての自動車保険とは違い、実質的に少額損害をカバーしない保険に変わっています。自由化後の市場で担保範囲の半強制的な縮減が起きたことをどう捉えるか、という議論はありそうです。

企業代理店の存在

ところで、本稿では日本の損害保険販売網についても分析し、「根幹をなす大規模乗合代理店をはじめとする大規模代理店の存在が、代理店手数料費率の低下の阻害要因となったと考えられる」としています。数では全体の1/4弱にすぎない乗合代理店が、扱い保険料で70%を占めていることから、主に企業代理店(いわゆる機関代理店)であるとしているのですが、ここはちょっと違和感を感じました。

例えば、販売チャネル別営業成績を開示している損保ジャパン日本興亜(決算データ集を参照)では、企業代理店の収入保険料は全体の19%、自動車保険だけだと13%にすぎず、他方で専業プロが29%、自動車保険だけでは39%を占めています。市場全体でも「根幹をなす」と言うほど機関代理店の存在は大きくないかもしれません。

自動車保険では企業代理店よりもディーラー代理店が気になるところですが、何かを語れるほど公表データがないのが残念です。

※写真は井の頭公園です。池の水を戻しているところでした。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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