企業はリスクを極力避けるべきか

突然ですが質問です。
「大企業は社会的な役割が大きいので、リスクは極力回避すべき」というのは正しいでしょうか?

特に社会人であれば、リスクをとらなければリターンを得られないことをご存じなので、「社会的役割が大きい」という言葉に惑わされず、多くのかたに「正しくない」と答えていただけるように思います(あくまで自分の経験からですが)。

ところが、「リスクにはリターンを得るためにとるリスクと、事業に付随して生じるリスクの2種類がある」と説明したうえで、

「大企業は社会的な役割が大きいので、リターンの源泉となるリスクだけを抱え、事業に付随して生じるリスクは極力回避すべきである」というのは正しいでしょうか?

こう質問すると、結構な割合で「正しい」と答えるかたが出てくるようです。
「社会的な役割が大きい」という文言に引きずられるためか、損失しか発生しないリスクはできるだけ避けたほうがいいと考えてしまうようです。

リスクコントロールによってリスクを軽減するにしても、保険などのリスクファイナンスよってリスクを移転するにしても、対応にはコストがかかります。企業はリスクを避けるためにコストをいくらでもかけることができるかといえば、決してそのようなことはありません。
事業に付随して生じるリスクについても、その効用がコストを上回らなければ企業価値を損ねてしまうので、極力回避するというのは正しくありません。

こう書くと、当り前じゃないかと言われそうです。ただ、学生だけでなく、事業会社のかたと話をするとゼロトレランス、つまり、損失発生を一切許容しないという思想を強く感じることがあるのですね。これだと「リスクは極力回避すべき」となってしまいがちです。結果的にはコスト見合いで対応策がとられているにもかかわらず。

経営陣が「不祥事は絶対に起こしてはならない」「サービス提供を一瞬なりとも中断してはならない」という考えのもとで事業を行うのは理解できます。しかし、現実には不祥事やサービス中断の可能性をゼロにすることはできませんし、コストをかけるにしても限度がありますので、ゼロトレランスという考えはむしろ経営を思考停止に陥らせてしまいかねません。

それよりも、経営としてそのリスクにどの程度対応していると考えているかを明らかにしておく(=リスクアペタイトを明確にしておく)ことが大切ではないでしょうか。経営として重要なリスクに関しては、リターンの源泉となるリスクだけでなく、損失しか発生しないリスクについても、リスクのとりかたを明確にしておくべきだと思います。

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※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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