保険料調整行為の調査報告書

週末に登壇を控えていることもあって、どうしても損保問題関連のニュースに目が向いてしまいます。
6月11日に損保ジャパンが公表した「保険料調整行為に関する社外調査委員会による調査報告書」を一読しました。日経だけではなく、こちら(NHKニュース)やこちら(日刊自動車新聞)など、多くのメディアが取り上げていますね。
本調査の目的は独禁法違反をはじめとした不適切行為の事実と直接原因を解明・究明するとともに、「広範囲かつ相当期間にわたって行われてきた根本原因を、組織風土、ガバナンス、業界慣行等多角的な観点から分析した上、再発防止策を提言すること」だそうです(1ページ)。
経営陣による証拠破棄事案とか、金融庁報告で独禁法違反数を極力少なく見せようとしたとか、結構ひどいことを発見し、そのまま書いてあります。

ただし、関係者には申しわけありませんが、私にはどこかモヤモヤ感(?)が残る報告書でした。

報告書では、「全国規模で多くの従業員がさほど抵抗感なく不適切行為に及んでいた」(18ページ)としたうえで、原因として、長年にわたって培ってきた組織風土や、規制時代からの業界慣行などを挙げ、証拠をもって指摘しています。
例えば、G45と呼ばれる営業情報交換システムには、SJのほかTN、MS、ADを含む9社が参加し、こうした情報交換が不適切行為が行われる可能性を高める役割を果たしたという考察や、営業部門重視、営業部門と法務・コンプライアンス部門の不均衡なパワーバランスを端的に示す例として、過去10年の取締役に占める営業部門出身者が76%にのぼることを指摘するなど、確かにその通りだろうと思います。

私のモヤモヤ感がどこから来るのかを考えてみると、2つのことに思い当たりました。

1つは、問題が国内企業(特に大企業)との取引で生じているにもかかわらず、保険を提供してきた保険会社の問題を深掘りする一方で、保険を購入してきた国内企業についての考察がほとんどなされてないことです(企業代理店に関する記述は多少あります)。
大企業は保険会社にだまされ続けてきた被害者なのでしょうか。長年にわたる不適切な行為がなぜ発覚しなかったのか。そこには契約者である企業側の事情もあると考えるのが自然ではないでしょうか。残念ながらそこには踏み込まなかったようです。

もう1つは、「トップライン・マーケットシェアを重視してきた経営戦略を背景に、SJは営業部門の強さによって成長を遂げてきた」(54ページ)というのはわかるものの、それではボトムライン(損益)はどうなっていたのでしょうか。損益の悪化が著しいので不適切な行為が横行するようになったのか、あるいは、そもそもボトムラインには関心がなく、トップラインの獲得のみに走っていたのか。前者と後者では話がだいぶ違うのですが、再保険を含むボトムラインに関する情報が全く示されていないので、報告書を読んでも企業向け保険事業の実態はわからないままです。
報告書はERM(戦略的リスク経営)にも触れていません。例えば保険引受リスク管理に関して、プライシングはどうやって決めることになっていて、それがどうして不適切になってしまったのでしょうか。

厳しい見方をすると、委員会が弁護士のみで構成されている場合には、どうしてもコンダクトの深掘りが中心になってしまいがちなのかもしれません。

※槇文彦さんによる建物です。福岡大学にて。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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