逆ざやと株式保有

 

10月28日のブログで日銀「金融システムレポート」の
生保に関するコラムについて、次のようにコメントしました。

 筆者の意図がどうであれ、このコラムの読者が、
 「生保の金利(上昇)リスクは銀行よりも大変」
 といった誤った印象を持たないことを祈ります。
 業態別の金利リスク量

しかし、案の定、今回の生保決算報道のなかで、こんな記事が。

 生保各社の9月中間決算では株式の運用リスクが鮮明に
 なった半面、歴史的な低金利が続く国債の含み益が
 財務基盤の健全性維持に貢献した。

 ただ衆院選後に発足する新政権の政策で、財政赤字に対する
 市場の懸念が高まれば国債価格が下落(金利上昇)し、
 一転して含み損が膨らむ危うさも抱え込んでいる。

 (中略)

 日銀の試算によると、国債の金利が1%上昇した場合に
 発生する評価損は、国内銀行・信用金庫の計5.3兆円に対し、
 生保は8兆円で、国債の保有リスクは国内金融機関の中で最大。
 金利が上昇に転じれば財務状態は急激に悪化する可能性がある。
 (SankeiBiz 11/28)

金利低下で逆ざやが拡大し、生保経営を苦しめているという見方が
一般的ななかで、この記事はむしろ金利は下がったほうがいい、
金利が上昇に転じれば財務状態が急激に悪化する可能性がある、
日銀もそのような試算をしている...

少し考えれば変だということがわかりそうなものですが...

その「逆ざや」ですが、一部で
「株式から公社債へのシフトが逆ざやを拡大させている」
という論調を耳にしました。

おそらく、日本生命と明治安田生命が「順ざや」なので、
そのように考えたのでしょう。

公表される「逆ざや」は、利息配当金収入を中心とする基礎利回りと
平均予定利率から計算しますので、確かに株式配当金が減れば、
逆ざやが拡大する要因となります。

でも、利息配当金収入に占める株式配当金のウエートは
大手4社で最も大きい日本生命で11%、明治安田生命が10%
(2011年度)と、そもそもあまり大きくありません

それではなぜ両社が「順ざや」なのでしょうか。
中間期のデータはないので、2011年度のデータを見てみましょう。

    基礎利回り 平均予定利率
 日本  2.69%    2.61% 
 第一  2.38%    2.73%
 住友  2.51%    2.89%
 明安  2.33%    2.25%

日本生命が順ざやなのは、4社のなかで基礎利回りが高く、
平均予定利率もやや低めであること。
明治安田生命は平均予定利率が低いことが主因です。

日本生命の基礎利回りが高いのは、外貨建資産のウエートが
高いことが効いているようです。ヘッジポジションも大きいのですが、
ヘッジコストは基礎利回りに反映されません。
あと、公社債に占める国債のウエートが第一と明治安田よりも
日本、住友は低いので、この影響もあるのかもしれません。

明治安田生命の平均予定利率が低いのは、
一つは団体年金一般勘定のウエートが大きいことがあります。
ただ、その分を考慮しても他社より40~50bpほど低いようです。
追加責任準備金の集中的な積み立てによる効果のほか、
そもそもの負債構造が違うのかもしれません。

参考までに、公表されたEEVをみると(日本生命は非公表)、
明治安田生命の保有契約価値が小さいので疑問に思ったところ、
第一と住友のリスクフリーレートが国債利回りなのに対し、
明治安田は金利スワップレートを使っているためとわかりました。

ということで、少なくとも「株式が多いから順ざや」といった
単純な話ではないということですね。

※写真は横浜市資源循環局(=ごみ処理を担当)のマスコット
 左が「イーオ」、右が「ふや星人ゴミーヨ」だそうです。
 ほかにも「へら星人ミーオ」「ふや星人ゴミーナ」がいました。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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