インシュアランス生保版(2022年8月号第3集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナル)。
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医療保険の支払いが急増
保険を学ぶ大学生に対し、「民間の医療保険は医療費を保障するものではないんだよ」という話をすると、怪訝な顔をされることが多い。
読者の皆さんには釈迦に説法だと思うが、医療費を保障するのは公的医療保険であって、保険会社が提供する医療保険は、病気の際の支出全般を保障(補償)する保険である。支払事由は被保険者の入院や手術などとなってはいるものの、給付金の使い道は自由なので、医療費の自己負担分に充ててもいいし、療養中に減ったパート代の補填にもなれば、体力回復のために美味しい食事をとるのにだって使える。裏を返せば、死亡保険や火災保険、自動車保険に比べると、加入者は民間医療保険で自らのどのようなリスクを保障(補償)してもらいたいのか、必ずしも明確ではないように思う。
こんなことを書いたのは、新型コロナウイルス感染症の流行第6波以降、保険会社による入院給付金の支払いが急速に増えていることがある。報道によると、生命保険協会加盟会社の入院給付金(コロナ関連)はこの4、5月だけで昨年度の水準に達した。全体で見ても、この2カ月間に支払った給付金は前年同期に比べて22%も多い。とはいえ、この給付金が基本的に医療費に充てられることはない。なぜなら、新型コロナは国の指定感染症であり、治療に係る医療費は公費負担となっているからである。
何を補償しているのか
コロナ感染に伴う民間医療保険の入院給付金支払いでは、感染者数の急増のほか、保険会社にとって2つの想定外の事態が生じている。1つは、支払った入院給付金の9割超が自宅療養などの「みなし入院」患者向けとなっていること。もう1つは、濃厚接触者など感染リスクの高い人が率先して保険に加入するといった、大規模な逆選択やモラルリスクが生じた可能性である。
コロナ感染者の治療費に自己負担はなく、感染者の多くが軽症であることを踏まえると、なかには「保険に入っていたおかげで生活が助かった」という人もいるだろうが、給付金を受け取った人の大半は「お金を受け取れてラッキー」という感覚ではなかろうか。
コロナ感染という「苦痛」に対する補償に対し、目くじらを立てるのはおかしいという意見もあるだろう。ただ、保険本来の機能はリスクの移転であり、人々は保険を利用すれば、安心して社会活動を営むことができるというもの。現在の民間医療保険によるコロナ感染者への給付金支払いは、こうした保険本来の機能から外れてしまっているように見える。
想定を超えた支払いは、保険会社の保険引受リスク管理の甘さから生じたと言ってしまえばそれまでである。だが、そもそもの問題は、民間医療保険のカバーするリスクがあいまいなまま、保険業界にとって高収益の見込める主力商品として、競って販売してしまったことにあるのではないか。
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※写真は中津城(大分県)です。