13. 保険マスコミ時評

「質疑ゼロ」の生保総代会

14日の保険毎日新聞に「生損保決算を読み解く」というインタビュー記事が掲載されました。今回が生命保険会社だったようなので、おそらく明日にでも損害保険会社に関するコメントが出るのではないかと思います。

さて、7日の日経記事「『質疑ゼロ』の生保総代会 配当に透けるガバナンス不全(有料会員限定)」をご覧になったでしょうか。相互会社各社が7月上旬に総代会を開催したタイミングをとらえ、「金融庁が株主のいない相互会社形態をとる生命保険会社のガバナンスに厳しい目を向けている」と報じました。記者さんがんばっていますね。

この記事が引用した契約者配当に関する記述や図表は、金融庁が6月末に公表した「2023年 保険モニタリングレポート」本文の27~29ページのものです。
記事では日本生命や住友生命の総代会で総代から(事前質問はあったものの)当日の質問・意見がなかったことを問題視しているようですが、金融庁はレポートで「総代会等における質疑応答が少ないこと自体が問題ではない」としています。
ただし、次のようにも述べています。

「健全性向上のための経営努力の成果として、相互会社において内部留保が積み上がっていく中で、配当政策に関する分かりやすい丁寧な説明とともに、保険契約者等のステークホルダーとの間で活発な対話が行われることは、相互会社のガバナンス向上の観点からも望ましい」

「相互会社における保険契約者への契約者配当に関する情報提供のあり方や、資本の維持と契約者配当のバランスを取ることを通じたガバナンス向上の重要性について、相互会社と建設的な対話を行っていく」

つまり、相互会社では配当政策について、経営陣が保険契約者等のステークホルダーに対して十分な情報提供を行っておらず、ステークホルダーとの活発な対話も行われていないのは、ガバナンスの面で問題であると指摘しているように読めます。

このところ保険会社のガバナンスに関する研究を進めていることもあって、上場株式会社と相互会社を比べてみたところ、内部留保の増減トレンドは明らかに違っていて、相互会社は総じて右肩上がりです。他方で上場株式会社(第一生命HD、T&D HD)の株主還元(現金配当と自己株式取得)が増加トレンドなのに対し、相互会社による契約者還元は横ばいから微減となっています。
しかも、日経記事や金融庁レポートが掲載した配当準備金繰入額の多くは団体保険と団体年金の配当所要額で、個人向けは全体の1/4程度というイメージで、こちらも増加トレンドではなさそうです。もっとも、総代会の議案書などを探しても、配当割り当て方法の詳細な説明はあっても、個人向けにいくら割り当てるかという配当総額の情報は見当たりません。団体保険・団体年金の配当は実質的に裁量の余地がないので、個人向けでどの程度配当するのかという情報は極めて重要だと思うのですが。

保険会社にとって資本がどれだけ必要なのかという議論は、現在抱えているリスクに対してどの程度まで備えておくか、つまり、どの程度の損失まで見込んでおくかという議論に終始しがちです。しかし本来は、リスクをどこでどの程度とるべきかという議論が先にあって、その次にそのリスクに対してどの程度備えるかという議論があるはずです。

こうした議論がステークホルダーとできているかどうか。金融庁がそこまで指摘しているかどうかはともかく、ガバナンスが効いた状態とは、経営陣が決めたリスクのとり方や内部留保・社外還元のあり方について、透明性と説明責任が果たされている状態だと思います。それにはこれらを議論できるだけの情報が提供され、かつ、議論ができる「監督者」が存在して初めて成り立つのではないでしょうか。
この「監督者」の役割を現在の総代に求めるのはなかなか難しそうですが、少なくとも社外取締役には担っていただきたいものです。あるいは、新たな工夫を考えてもいいのかもしれません。

資本の有効活用は近年、上場株式会社が株主等から強く求められるようになっていることです。相互会社でも同じではないかと思います。

※15日のRINGの会オープンセミナーは大盛況だったようですね。
 RING会員の皆さん、お疲れさまでした。

 

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保険料等収入は売上高ではない

このブログでは何度も指摘していますが、生命保険会社の保険料等収入は売上高ではありません。しかし、今回も主要紙は、保険料等収入を生保の売上高として生保決算を報じました。

日経「生保の売上高指標の一つである保険料等収入は主要16社で約37兆6000億円と2割近く増えた」

朝日「外貨建て商品の売れ行きが好調で、扱いの多い第一生命は売上高にあたる保険料等収入で日本生命を抜き、8年ぶりに首位に立った」

読売「生命保険大手4社の2023年3月期連結決算が24日出そろい、売上高にあたる保険料等収入で、第一生命保険が日本生命保険を上回った」

毎日「米国など海外金利の上昇に伴い、外貨建て保険の販売が増えたことから、売上高に当たる保険料等収入は4グループとも増収だった」

(いずれも5月25日の朝刊より引用)

保険料等収入を売上高として決算結果を語るのがなぜダメなのか。

例えば、第一生命(単体)の前期の保険料等収入は約2.2兆円、第一フロンティア生命も約2.2兆円でした。
しかし、第一生命は保険料を月々受け取る契約が大半なので、おそらく2.2兆円のうち2兆円は前期に販売したものではなく、それ以前に獲得した契約からの保険料収入です。
他方、第一フロンティア生命は保険料を契約時に一括して受け取る商品を主に提供する会社なので、2.2兆円はほぼ前期に販売した契約からの保険料収入です。
両者を合計した数値に「売上高」としての意味があるでしょうか。

別の例を示しましょう。
例えば前期に保険金額1000万円の終身保険を一時払いで販売した場合、一時払い保険料が950万円だとしたら、前期の保険料収入は950万円です。
同じく前期の3月に保険金額1000万円の終身保険を月払いで販売した場合、毎月の保険料が15,000円だとしたら、前期の保険料等収入は15,000円です。
つまり、全く同じ保障の生命保険を販売しているのに、一括払いだと保険料収入は950万円、3月に販売した月払いだと15,000円ということになります。これらを合計して何が語れるというのでしょうか。

参考までに私が2022年に保険学雑誌に投稿した論文「保険会社の情報開示とメディアの役割」が公表されましたので、こちらもご覧ください。保険料等収入に関しては148ページ以降で触れています。

保険料等収入に注目するのであれば、前期は保険料等収入を伸ばした会社(おそらく一時払いによる)では、解約返戻金も増えている傾向があるので、その背景を報じてほしいです。おそらく外貨建ての保険に関する動きだと思うのですが、公表資料からははっきりしたことがわからないので、メディアの出番ではないかと思います。

※写真は鹿児島の仙厳園(磯庭園)です

 

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生保の2022年度4-6月期業績

新聞報道はどうして生保の保険料収入へのこだわりが強いのでしょうか。4-6月期決算を報じた記事「第一生命、保険料収入で日本生命抜く(有料記事)」では、主要会社の保険料等収入のランキングを載せています。毎度のことながら、この数字で何かを語ることの無意味さを示しておきましょう。

・保険料等収入は単にその期に受け取った保険料ということで「売上高」ではない
 (平準払い商品では過去に獲得した契約の保険料が多い)
・貯蓄性の強い商品の影響を強く受ける(特に一時払い商品と団体年金)

この4-6月期は外貨建て保険の販売が増えたのは確かですが、同時に解約返戻金が急増しているのにも注目です。一時払いの外貨建て保険の主要チャネルは金融機関なので、円安・海外金利上昇を受けて「解約による利益確定」「新たな契約の加入」が同じところで行われた可能性があります。「販売が増えた」だけではなく、そこにも触れてほしかったです。

給付金支払いの動向も確認してみました。先日確認した損保系生保(あんしん、MSA、ひまわり)の主力チャネルは代理店です。営業職員チャネルを主力としている生保でも給付金の支払いがかなり増えていて、今のところチャネルによる差は明らかではありません(8/16追記:保有ANP対比でみると営業職員チャネルの「支払率」が高いように見えますね)。少なくとも、昨年度1年間の支払いを大きく上回る入院給付金の支払いが4-6月期だけで生じていることが確認できました。

※くろちゃんの本名は「あそ くろえもん」なのですね。特急あそぼーい!の車内にて。

 

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生保の規制対応が一巡

最初にセミナーのご案内です。
今年も損保総研の特別講座で講師を務めることになりました。
保険会社経営の今後を探る ~最近の環境変化を踏まえて~」という演題で、6月28日(火)の18:00開催となっています(申込締切は21日)。zoomによるライブ配信なので、お茶の水の損保総研に行かなくても参加可能です。ご関心のあるかたはぜひご参加ください。

さて、主要生保の2021年度決算が出そろい、5月27日の日経には決算のまとめ記事のほか、「超長期債 買い手消える日(有料会員限定)」という記事が出ていました(ポジションというコラムです)。

「資本規制への対応で買ってきた生命保険会社の対応が一巡した(後略)」

「(市場参加者のコメント)『買い増しは昨年度までに一巡した。需給面で生保の超長期債への買い圧力は今後弱まる』と話す」

このようなことが書いてあったので、文字通りポジショントークとは思いつつ、まずは「一巡した」と言えるほど買い増しが進んだのか、決算発表で残存期間別の公社債残高を公表している主要生保10社の数字を確認してみました。
この1年間で10年超の公社債を増やした会社は7社ありましたが、前年度よりも増加が目立ったのは第一と大同くらいでした。住友や朝日のように、10年超の公社債を数期連続して減らしている会社もありました。

次に、規制対応が必要なのかどうかです。
各社が任意で公表しているESR(第一、明治安田、T&D、富国、ソニー)や金融庁フィールドテストなどから判断すると、そもそも新規制になると資本不足状態という主要生保はおそらくなさそうです。ただ、金利リスクの占める割合が大きく、金利変動によりESRが大きく動いてしまうので、金利リスクを減らしたいと考えている会社が超長期債の購入などを行っています(金利が下がると分子の資本が減るうえ、分母のリスク量も増えてしまう会社が一般的なようです)。

このあたりの判断は会社によって異なっていますし、2016年のマイナス金利政策の導入以降、生保業界の超長期債購入ペースは明らかに鈍化しました(金利リスクを減らしたいと考えていても、超長期金利があまりに低い水準になって実行を躊躇した)。これが全体として買い増しに転じたのは2020年度からなので、わずか2年間で金利リスクを減らしたいと考えている会社が目標を達成したとは考えにくいです。

なお、金利リスクの手掛かりとなるEVの金利感応度は、円金利だけではなく海外金利も同時に変動するので、要注意です。円金利の上昇はEVにプラス(超長期の負債を抱えているため)、海外金利の上昇はマイナス(保有資産の価格が下がるため)なので、これだけ外国公社債の残高が増えると相殺される度合いが大きくなり、感応度分析の役割を果たさなくなりつつあります。
実際、2021年度決算では海外金利の上昇によって外国公社債の価格が下がり、円金利の上昇によるプラス効果を打ち消すという事態が生じました。
会社の経営状況を外部ステークホルダーに伝えるには、いくつかの会社が今回の決算発表で行ったように、円金利と海外金利に分けた感応度を開示すべきだと思います。

※写真はドーム球場近くのビーチです。

 

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水災料率の細分化

3月31日に金融庁が火災保険水災料率に関する有識者懇談会の報告書を公表しました。
保険料率を決めるのは金融庁ではなく保険会社(参考純率は損害保険料率算出機構)なので、本報告書は「損保料率機構及び損害保険会社による適切な検討を促すため」に「様々な分野の有識者から聴取した意見を取りまとめたもの」という建て付けになっていて、メンバーの皆さんには申しわけありませんが、何とも不思議な報告書となっています。

すでに料率細分化を行う前提であれば、主要な論点は、高リスク契約者の保険料は高くなるので、どうやって高リスクであることを理解してもらうか(&どこまで保険購入可能性に配慮するか)。そして、水災補償を外す傾向が強い低リスク契約者に対しては、ある程度リスクに応じた料率になるなかで、どうやって補償のメリットを感じてもらうか。この2点に尽きるのはないかと思いますし、具体的な案(通常は複数)をもとに議論しないと一般論から先に進めません。
ただ、資料や議事録を見るかぎり、有識者懇談会では具体的な案について検討した形跡はなく、報告書にも「どの程度の料率較差が望ましい」といった具体的な指針は示されていません。

他方で、3月11日の日経電子版(有料)は「2024年度から導入する個人向けも1.5倍程度の差がつく見通し」と報じました。日経が勝手に数字を作ったとは考えにくく、おそらく業界のリーク情報なのでしょう。読売も3月8日に「損害保険業界は2024年度から新たな区分に基づく保険料を導入する方向で調整」と報道しているので、業界ではすでに準備が進んでいるとうかがえます。

気になるのは懇談会での議論です。業界からの情報提供がなかった(したがって何も議論していない)というのであれば、私がメンバーだったら納得いきませんし、もし懇談会で業界案について議論したのであれば、資料を公表し、報告書に反映すべきです。どうもすっきりしないですね。

ちなみに同じ日経記事に、「保険はリスクの異なる契約者が大量に加入することで保険金を支払う確率が均一化する『大数の法則』が根幹になる」とあります。こんな大数の法則の定義は聞いたことがありませんし、ここで問題となるのは大数の法則ではなく、保険の相互扶助性をどう考えるかです。授業のネタとして取り上げようかな。

※花筏や桜吹雪を楽しみました。

 

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人口減少と生保経営

先週の週刊金融財政事情(2022.3.22)は「激動の生保業界」という名の特集で、インタビュー記事2本(住友生命・高田社長、金融庁・池田保険課長)と、経済価値ベースのソルベンシー規制に関する論考(あずさ監査法人の高橋隆司さん)、営業職員チャネルのデジタル化と新規制対応(編集部)、そして金融庁による外貨建て保険の共通KPIの解説という構成でした。
(先ほどようやく読みました ^^;)。

インタビュー記事のなかでは、いずれも人口減少と生保経営が取り上げられていたのですが、へそ曲がりな私にはどこかしっくりきませんでした。

人口減少によるマーケット縮小への対策として、住友生命の高田社長は「人口減少の局面においてもマーケットの広がりは一定期間見込めるだろう」としたうえで、「保険ビジネスと親和性がある新規事業や海外の保険事業など、将来的な収益源を補う収益事業の展開についても検討している」「(長期的な経営戦略について)当社としては国内事業を盤石にし、相互にシナジーを生み出せる企業や国があれば、出資を検討していくスタンスだ」と述べています。
株式会社の経営者であれば、こうしたコメントに違和感はありません。ただし、住友生命は相互会社です。会社価値の拡大を強く求めるであろう株主は存在しません。海外事業などでリスクを取って成長を追求するような経営戦略をとるのであれば、さまざまな考え方があるなかで、なぜこうしたスタンスをとるのかを語っていただきたかったですし、新たな収益事業の果実を既契約者にどう還元するかについても話してほしいです。

他方、金融庁の池田課長は、「とりわけ人口減少への対応に注目している」と述べ、「人口減少問題を経営レベルで真剣に議論している生命保険会社は少ない印象だ」「(中略)従来の中期経営計画のタイムスパンを超えた、もっと長期のメガトレンドを踏まえて、『いまからどんな手を打っていくべきか』を真剣に議論してほしい」と語っています。
確かに生命保険会社の経営者であれば、長期のメガトレンドを踏まえて自分たちが長期的にどうありたいかを考えるべきだと思います。しかし、それはあくまで経営の話であって、契約者の保護や、(保険業法にはありませんが)金融システムの安定という観点からも重要というのであれば、その説明が必要だと思います。

生命保険は公的年金のような賦課方式ではなく、責任準備金をきちんと積み立てていれば、新契約が細っても経営が揺らぐことはありません。金融庁では大数の法則が効きにくくなるほどの人口減少を想定しているのでしょうか。
仮に人口がイタリア並みの6千万人になれば、今のプレーヤーが全て生き残っているとは考えにくい(だからこそ経営者としては長期戦略が重要)ですが、金融庁にとって重要なのは保険会社ではなく契約者なので、会社の数が減っても、契約者が不利益を被らなければ問題ないはずです。
もしかしたら、金融庁は契約者への還元重視に監督の軸足を変えたのでしょうか。産業としての生命保険業が縮小すると、契約者への還元も期待できなくなるので、それなら理解できなくもありません。

せっかくのインタビューなのですから、金融庁として「とりわけ人口減少への対応に注目している」と言うのであれば、単に人口が減るから経営を真剣に考えろというのではなく、どうして金融庁がそのような問題意識を持つに至ったのか、なぜ金融庁と保険会社の温度差があるのかを語っていただきたかったです。

※福岡の桜はほぼ満開です。

 

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東洋経済の保険特集号

この週末(10月30日)、RIS(全国学生保険学ゼミナール)の中間報告にあたる「九州ブロックリスクマネジメントゼミ報告会」があり、九州にある3大学の学生(8グループ)が研究成果を報告しました。
中間段階ではありますが、研究の方向性が見えているグループもあれば、まだ着地点が見えないグループもあり、あと1か月でどこまでたどり着けるかですね。参加した学生にとって今回の報告会がいい刺激になればいいのですが。

「生保・損保特集」

先週発売の臨時増刊『生保・損保特集』を読みました。今年の特集は「保険会社のSDGs」ということで、大手生損保がSDGsにこのように向き合っていますというレポートと、保険会社のトップインタビュー(22社のうち10社は2ページ、12社は1ページ)が中心です。私のような業界人ではない一般読者には正直あまり面白くないのですが、トップが出ると雑誌が売れるのかもしれません。

それでも今回は読んで面白い記事があるほうだったと思います(個人の感想です)。

・「金融サービス仲介業」期待と不安の船出
・乱立する「就業不能保険」 難解な商品を徹底解剖
・自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化

いずれも外部の専門家によるもので、旬のテーマを取り扱っています。
私にとって読んで面白い記事とは、旬のテーマだから、読んで新しい知識が得られるからではありません。そのテーマに関する筆者の考察が示されていて、いわば筆者と対話ができるような記事です。「A社は○○を新設し、××を行った」「B社は○○を設定し、××に取り組んでいる」という紹介だけでは対話のしようがありません。

例えば「乱立する『就業不能保険』」では、開発ラッシュ状態にある就業不能保険の全体像を詳細に示した労作で、働けないリスクへの関心が高まっていることが伝わってくる一方、これだけバリエーションが多いと消費者は選びようがないという状態に陥っていることがよくわかりました。筆者の森田さんは「これほどまでに商品を複雑化することが、はたして『顧客本位』と言えるのだろうか」と疑問を呈していて、確かに何らかの環境整備が必要ではないかと思えます。

「自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化」では、自動運転が普及すると自動車保険市場が縮小するという通説に反し、筆者の八幡さん(東京海上日動)は、マーケットの縮小は緩やかなものとなるだろうし、新たな移動サービスに関する補償や自動運転に伴う新たなリスクへの対応など、これまでになかった役割もあると主張しています。新たな役割がビジネスとしてどの程度有望なのかによるとはいえ、保険会社が自動運転をはじめとした移動サービスに積極的に関わろうとしているのは確かで、将来に向けた経営の意思を感じます。

売れなければ特集号を出し続けることができないという事情を理解したうえで、来年以降も読んで面白い記事が多く掲載されることを期待したいです。

※大宰府を守る水城の跡にコスモス畑がありました。

 

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大手損保の4-6月期決算

7日の日経新聞に「損保大手、災害多発に備え」「危険準備金8%増」とあったので、決算データを確認してみました
(ちなみに危険準備金と異常危険準備金は別物なので、「異常」を省略したらダメですね)。
異常気象への備えということなので火災保険の異常危険準備金を確認したところ、繰入・取崩をネットした積増額は以下のとおりでした。

 東京海上日動 35億円( 75億円)
 三井住友海上 44億円(▲81億円)
 あいおいND ▲1億円(▲48億円)
 損保ジャパン 36億円( 88億円)
 
 *( )は前年同期の積増額

各社が総じて異常危険準備金を繰り入れたのは確かです。ただ、数字の大きさからみて、異常気象への備えを急いでいるという感じではなさそうですね。記者さんがどうしてここに注目したのか、ちょっとよくわかりませんでした。
そもそもリスクに備えた支払余力という観点からすると、何も異常危険準備金ではなくてもかまいません。各社が公表するESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)には多少の余裕がありそうなので(推測を含む)、積み増しを急ぐ理由はないのかもしれません。

国内損保事業で言えば、注目は火災保険の収入保険料が伸びていることでしょうか。
元受正味保険料の前年同期比はご覧のとおりです。

 東京海上日動 +10.0%(+5.4%)
 三井住友海上 +5.6%(+4.6%)
 あいおいND +6.7%(+5.9%)
 損保ジャパン +8.8%(+3.1%)

 *( )は2020年4-6月期の伸び率

料率引き上げ効果が大きいのか、あるいは、コロナ禍でも契約を伸ばしているのか、今ある情報だけでは何とも言えないので、引き続きよく観察したいと思います。特にコマーシャル分野がどうなっているのか知りたいところです。

注目の(?)自動車保険の損害率は以下のとおりでした。昨年度の異常値から戻るのは予想どおりとはいえ、一昨年度に比べるとかなりの低水準です。料率引き上げ効果のほか、コロナの影響が続いているのかもしれません。

 東京海上日動 56.5% ⇒ 46.2% ⇒ 52.3%
 MSAD合算 54.8% ⇒ 47.1% ⇒ 50.7%
 損保ジャパン 63.1% ⇒ 48.1% ⇒ 53.9%

 *2019年度⇒2020年度⇒2021年度
 *E/Iベース

※長崎はトラムが走る町です。もうすぐ新幹線も走ります。

 

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大手生保の決算報道

生保の決算も概ね出そろいましたね。
まだまだ数字を確認できていないのですが、決算報道があまりにさびしかったので、少しだけコメントします。

以前にも書いたとおり、大手メディアはここ数年、生保決算として「保険料収入」「基礎利益」を伝えてきました。今回も見事に踏襲されていて、次のような見出しが並んでいます(本文は有料が多いです)。

大手生保4社の決算 対面営業の自粛などで減収【NHK】
生保大手、7社が減収 コロナで営業自粛響く 3月期決算【朝日(有料版)】
生保大手4社 減収 3月期 対面営業自粛で【読売(有料版)】
大手生保、8社が減収=上期の営業活動自粛響く【時事】
生保、デジタル移行遅れ 対面営業の限界 鮮明【日経(有料版)】

いずれも「コロナで営業活動が制限された」「(基礎利益を報じたメディアは)保有契約があるので基礎利益は大きく減らないが、減益」と、総じてパッとしない内容だったと伝えています(日経は保険料収入ではなく新契約年換算保険料で業績を語り、資産運用面の好調さにも触れています)。

しかし、EVなど企業価値の手掛かりとなる指標を公表している会社の数値を見ると、ものすごく増えています。

 第一生命HDのEEV +13,492億円
 住友生命のEEV   + 9,050億円
 明治安田生命    +13,200億円
 (グループサープラスを開示)
 かんぽ生命のEEV + 7,019億円

そうした手掛かりのない日本生命にしても、連結決算の包括利益は2019年度の▲6,305億円から、2020年度は2.8兆円と、まさにV字回復です。
昨年度は株価が大きく上がり、超長期金利も上昇(豪ドルも対円で大きく上昇)、死亡率や発生率は改善と、大手生保の主なリスクテイクがほぼすべてプラスに働きました。

ソフトバンクグループの決算は「好決算」と伝えるのに、同じように企業価値を高めた大手生保の決算をパッとしないトーンで報じるのはおかしいと、多くのかたに気づいてほしいです。

ソフトバンクG 最終利益4兆9879億円 東証上場の日本企業で最高【NHK】

※赤いアジサイもきれいですね。

 

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生保決算報道の分析

13日に福岡大学で開催された日本保険学会・九州部会で、久しぶりにリアルな場での研究報告を行いました
(正確にはリアルとオンラインのハイブリッド開催でした。伊藤先生をはじめ役員の皆さま、お疲れさまでした)。

私の報告は「マスメディア(新聞)は生命保険会社の決算をどう報じてきたか」です。
(レジュメは次の情報がアップされるまでこちらからアクセスできます)。

ソルベンシー規制の第3の柱、すなわち情報開示による市場規律は、主に株主やアナリストなどの市場関係者を念頭に置いたものだと考えられますが、消費者(契約者)も本質的には保険会社の経営情報を必要としており、市場規律の担い手と言えるでしょう。そして、保険会社の経営情報が消費者にどのように伝わるかを考えた際、メディアによる伝達を無視することはできません。

そこで、2001年から2020年の20年間の新聞(日経、朝日、読売)による生保決算報道を調べてみたところ、継続的に報道がなされているとはいえ、メディアにはメディアが考える「ニュースバリュー」があり、それは必ずしも消費者のニーズに合致しているとは限らないことが見えてきました。
特に近年の画一的な報道には、メディア独自のニュースバリューのほか、日本特有の「記者クラブ制度」「(短期間での)ローテーション人事」も報道内容に影響している可能性がありそうだとわかりました。
このまま2025年に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、もしかしたらメディアは相変わらず保険料等収入と会計利益を報じるだけで、経営内容を正しく伝えようとはしないおそれもあると、あらためて認識した次第です。

保険会社のディスクロージャーについての研究はいくつか見かけますが、保険会社のディスクロージャーを伝えるメディアについての研究は見当たりませんでしたので、皆さんに興味深くご覧いただけるのではないかと思います。
もっとも、今回の研究報告は途中経過に近いものなので、さらに調査分析を進める予定です。関係者の皆さまには引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

※写真は古賀市筵内(むしろうち)地区の菜の花です。

 

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