08. ディスクロージャー

保険負債の透明性が低すぎる

インシュアランス生保版(2023年7月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。今回もしっかり「主張」させていただきました。
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損害保険と比べた生命保険の特徴として、契約期間が長いという点が挙げられる。生命保険会社が提供している医療保険も終身が主流となっているようである。これらの保険を提供する生命保険会社は、いわば遠い将来の約束を果たすために存在している。
このように書くと、生命保険に関わる皆さんは「いまさら何を言っているの?」と首を傾げるかもしれない。では、この5、6月に公表された決算関連資料から、皆さんは生命保険会社が抱えている保険負債の長さを把握できるだろうか。答えはノーである。

もし「そもそも被保険者がいつ亡くなるかわからないのだから、保険会社がいつ約束を果たすのかなんて事前にわかりようがない」とお考えであれば、保険の仕組みを勉強しなおすことをお勧めしたい。死亡率や発生率が概ねわかっているからこそ保険会社は保険料を決め、保障を提供できている。言い換えると、保険会社は保有する契約について、将来のどの時点でどの程度の支払いが発生するのか概ねわかっていて、それに合わせて資産運用を行っている。資産運用と保険引受は車の両輪ではなく、まず保険引受があって、それを全うするために資産運用がある。

資産と負債をどの程度対応させるかは各社の経営判断による。ただし例外を除き、各社は販売時に将来支払う保険金額が決まっている円建ての商品を主力としてきたため、その結果として何十年も先まで円の固定金利(予定利率)を保証している。ちょっと考えただけでも大変なビジネスだとわかるが、問題はその大変さを外部から知る手掛かりがほとんどないことにある。

実は1社だけ、この情報を直接外部に示している会社がある。第一生命ホールディングスは2年前から投資家向けの説明資料のなかで、第一生命の資産・保険負債のキャッシュフロー構造という図表を公表し、今後5年ごとの保険収支見込みなどを示している(最新版は5月29日公表資料の26ページに掲載)。
この図表を見ると、第一生命では現時点で50年先までの保険金支払いを見込んでいて、30年までのところは円金利資産で対応し、そこから先は金利変動のリスクをほぼそのまま抱えていることがわかる。過去に獲得した高利率の契約は今後20年くらいまでのところにあって、円金利資産をあてて金利リスクを小さくしたうえで、負債の高利率を賄うための別の方法を模索しているとみられる。こうした情報開示があって、初めて市場との建設的な対話が成り立つのだと思う。

遠い将来の約束を果たすのがどの程度大変で、それに対して経営がどう対応しているのかという情報は契約者にとっても重要である。こうした情報開示なしに「自己資本を積み上げました」「金利リスクを削減しました」と言っても説得力はない。第一生命に続く保険会社はいつ現れるのだろうか。
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※つかの間の晴天でした。このところ雨ばかりです。

 

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大手生保の米CRE関連投資

最初にご案内です。アドバイザーを務めているRINGの会がオープンセミナーを7月15日(土)に横浜で開催します。
今回は対面開催なのですが、650人限定となっています(コロナ前は1500人規模でした)。おそらくそう遠くないうちに定員に達してしまいそうなので、保険会社目線ではない保険流通の世界を知りたい方は、すぐに申し込んだほうがよさそうですよ。
申し込みはこちらです。

さて、主要生保の2022年度決算が出そろいました。
ヘッジコストの上昇や米国の銀行破綻など、米FRBの金融引き締めと金利上昇によって、低金利時代のひずみが出てきている感があります。日本の生命保険会社はどう対応しているのでしょうか。

大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の決算資料によると、ヘッジ付き外債の残高を減らしたという点では共通している模様です(ただし明治安田生命は1-3月に限れば増加?)。
第一生命は年度を通じて残高を大幅に縮小。住友生命は特に下期に残高を大きく減らした模様です。

他方、米国の相次ぐ銀行破綻を受けて、米国のCRE(商業用不動産)のリスクに注目が集まっています。
FRBは5月8日に公表した報告書のなかで、CREローンについて触れ、生命保険会社の資産のうちCREローンを含む流動性の低い資産の割合が増えていると指摘しました。

日本の大手生保は近年、海外クレジット投資を進めるとコメントしていた(報道ベース)ほか、4社のうち3社は米国に中堅規模の生保子会社を持っているので、CRE市場の今後とその影響が気になるところです。
ところが、これまでのところ、そもそも各社のCRE関連エクスポージャーの現状を知る手掛かりを示しているのは第一生命だけでした。第一生命HDはIR資料のなかで第一生命の外貨建債券と米国子会社の運用資産の内訳をそれぞれ示し、さらに米国子会社については第一四半期決算の開示後に詳細を説明するとしています。

保険会社の「重要なリスク」に関心があるのは上場会社の株主だけではありません。相互会社の社員(契約者)も、意識がそこに向かわないだけで、本来は必要な情報です。どうしてこんなことになっているのでしょうか。

※写真は等々力渓谷(東京)です。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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生保の情報開示充実は喫緊の課題

インシュアランス生保版(2022年4月号第4集)に執筆したコラムです(見出しはブログのオリジナル)。このブログの読者には目新しい内容ではありませんが、経営情報の利用者として繰り返し声をあげていきます。
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最近、生命保険会社のディスクロージャーの現状について改めて確認する機会があった。経済価値ベースのソルベンシー規制(新たな情報開示を含む)の導入まで、まだ数年を要することを踏まえると、契約者保護の観点から緊急性の高い最低限の情報として次の3点の早期開示を強く求めたい。

資産内容の開示不足

まず、資産内容の開示として、「10年超の公社債の内訳」「信用格付別の資産」「外国証券・その他の証券の内訳」を示す必要がある。
生保にとって金利リスクの管理は極めて重要だが、「有価証券残存期間別残高」の開示が「10年超」でひとくくりとなっていて、外部からは管理状況がほとんどわからない。
また、昨年11月の本欄で「生保の資産運用方針」を取り上げた際にも多少触れたが、生保がメディア向けに資産運用方針を説明し、「海外クレジット投資に注力」「オルタナティブ投資を強化」などと報じられても、開示情報が乏しく、実際の行動がどうだったのかを確認できない事態が続いている。

外貨建負債の情報がない

2つめは、外貨建負債の残高開示である。外貨建ての保険の販売状況も開示情報からはよくわからないのだが、円建てよりも予定利率が高い外貨建保険を提供している会社は少なくないとみられる。ところが、各社のバランスシートに保険負債としてどの程度外貨建ての負債が積み上がっているかを示す情報はほとんどないに等しい。
おそらく外貨建負債の為替リスクは外貨建資産を持つことでヘッジしているはずなので、現在入手できる情報だけでは、外貨建資産が増えたからといっても、それが資産運用戦略の一環なのか、あるいは外貨建負債が増えたからなのかを判断できない。
漢字生保の場合、外貨建資産は一般勘定資産の3割程度を占め、重箱の隅をつつくような話ではない。

個人向け配当のタイムリーな開示を

3つめは、個人向け有配当商品の契約者配当総額である。各社は決算発表時に「配当準備金繰入額」を示しているものの、このなかには団体保険や団体年金保険の配当原資も含まれている。
団体保険は基本的に1年間の保障を提供するもので、その配当は保険料の事後精算という性格が強い。団体年金保険は運用商品であり、その配当は保証利率を上回る運用成果を還元するものである。いずれも個人向け保険の配当とは性格が異なるため、これらを合わせて「配当性向」「配当還元割合」などとして示しても、個人保険や個人年金保険の契約者にとって有益な情報ではない。
多くの会社が年度決算の結果、個人向け保険としてどの程度の配当を実施したのかを知る手掛かりを出していないのは異常である。

以上の3点は最近浮上した課題ではなく、筆者は何年も前から開示を求めてきたものである(上場会社はいずれも自発的に情報を開示するようになった)。非上場会社には自発的な開示を期待できないというのであれば、あとは制度開示に期待するしかなさそうだ。
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※キャンパスの緑が濃くなりました。ツツジもきれいです。

 

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自動車保険の損害率

日経新聞の人気コラム「大機小機」。17日の「なんでも開示に落とし穴」は、情報開示側に立ったコメントのようで、

「膨大で詳細な開示を読みこなせる投資家がどれほどいるか」
「とくに一般投資家は古代宗教の経典かと見まがう分厚い開示資料などパスするのが普通」
「なんでも開示すればよいという思いが『寄らしむべし、知らしむべからず』の結果を招いていないか」

との記述がありました。情報過多が結果として情報を伝えていない結果になっているという主張と解釈しましたが、利用者としてはどうもピンときません。経営情報の利用者は何でも開示してほしいのではなく、必要な経営情報を知りたいだけです。私の実感からすると、むしろ記述の量を増やしているのは情報開示側の都合ではないかと思ってしまいます。

さて、19日に公表された大手損保の4-9月期決算のうち、自動車保険のE/I損害率(損害調査費を含む)を確認したところ、前年よりは上昇したとはいえ、コロナ前の水準に比べるとかなり低い水準となっていました。

東京海上日動 61.0 ⇒ 51.8 ⇒ 54.7%
MSI    58.3 ⇒ 52.4 ⇒ 54.8%
ADI    57.8 ⇒ 50.4 ⇒ 52.5%
SOMPO  60.8 ⇒ 52.8 ⇒ 54.2%

おそらくコロナ前に比べると事故件数が少ないのと、過去の料率引き上げ効果がまだ残っているということでしょうか。現状を踏まえ、各社とも当初の通期見込みから2ポイントほど下方修正したようです。
事故が起きないのは損保各社の短期的な収支にとってはいいことです。ただ、総じて回復が続く海外経済とは違い、日本経済の深刻な停滞を示しているのかもしれず、手放しでは喜べません。

※関門トンネル専用の機関車です。門司港にて。

 

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新聞は保険会社の経営情報をどう伝えているか

今週のInswatch Vol.1110(2021.11.8)に掲載されたものです。
日本保険学会の全国大会ではこのような報告をしました。
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日本保険学会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました(私は福岡から参加)。全国大会は年1回開かれていて、研究者による報告と2つのパネルディスカッション、特別講演や招待報告が主な内容となっています。
今回のパネルディスカッションは「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」「地震リスクに対する企業保険制度の課題」と、いずれも地震リスクに関するものでした。

報道内容の固定化

私は24日の午前中に「保険会社の情報開示とメディアの役割」を報告しました。過去20年間における新聞(日経、朝日、読売)による生損保の決算報道を調査したところ、2000年代前半には各紙が多様な報道を展開していたのに対し、その後は報道内容が固定化していることがわかりました。とりわけ生保決算では、主要会社の「保険料等収入」と「基礎利益」を報じておしまいというパターンが続いています(損保決算は3メガ損保グループの「正味収入保険料」「連結当期純利益」を報じることが多い)。
事業会社と違い、保険会社の経営内容はいわば商品・サービスの一部となっています。もし保険会社の経営が傾けば、将来の 保障(補償)が危うくなりますし、有配当契約の場合には、業績が順調であれば配当還元を期待できます。1年契約が主流の損害保険でも、経営内容は契約更改時の保険料率に影響を与えます。
しかし、経営情報を必要とする消費者(現在および将来の保険契約者)にとって、新聞が掲載するこれらの指標は有益な情報なのでしょうか。いずれも経営の健全性を示すものではありませんし、生保の基礎利益には資産運用収益の一部しか反映されず、損保の当期純利益は異常危険準備金の繰入・戻入に大きく左右されます。

ニュースバリューと新聞社固有の事情が影響

こうした決算報道の固定化の背景を探るため、メディア論の先行研究にあたったほか、主要生損保グループ(相互会社生保5社、上場生保グループ3社、3メガ損保グループ)の広報部門と、メディア関係者(保険担当経験がある記者)へのインタビュー調査を行いました。
そこで見えてきたのが、メディアによるニュースバリューの判断と、報道機関固有の事情です。
新聞は原則としてニュースバリューがあると自身が判断したものを報じます。ですから、近年の保険会社決算にはニュースバリューが小さい、すなわち読者の関心がないと判断していると言えます。読者の関心とは必ずしも読者にとって重要かどうかではなく、注目を集めるかどうかのようです(やや乱暴に表現しています)。
報道機関固有の事情としては、記者に専門性を求めず、頻繁な人事異動を行うことや、新聞社を取り巻く厳しい経営環境のもとで紙面や担当者が減っていること、社会部や政治部の記者とは違い、経済記者は受け身でも最低限の業務ができてしまうことなどが挙げられます。

新聞の苦境が浮き彫りに

特に後者は出口の見えない深刻な状況です。新聞発行部数は年々大きく減っていて、デジタル版へのシフトもあまり進んでいません(日経を除く)。コスト削減のために一般紙では記者が様々な業種を兼務するようになり、なかには保険会社の決算記者会見に参加しない(物理的にできない)ところも出てきているそうです。
このまま事態が進むとどういうことになるか。ネットの経済ニュースの多くも元をたどれば新聞記者によるものだったりしますので、新聞社が既存のビジネスモデルにこだわり続けるのであれば、網羅的かつ信頼できる経済ニュースは絶滅してしまうかもしれません。
今回の研究はあくまで保険会社の決算報道に限ったものではありますが、図らずも新聞の苦境が浮き彫りになりました。
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※NHK福岡に行きました(ATM利用のため)

 

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生保の資産運用方針

10月下旬に主要生保(国内系)の資産運用方針に関する報道がありました
(半年ごとの恒例行事となっているようです)。
元データの公表がないので、ロイターとBloombergの記事を確認すると、下期の大手5社の資産運用方針として例えば次の記述がありました。

<日本>
・海外の社債などクレジット資産を中心に投資する計画(ロイター記事より引用)

<第一>
・円建て債券やオルタナティブ資産の残高を積み増す方針(Bloomberg記事より引用)

<住友>
・為替リスクをヘッジしないオープン外債を数千億円規模で積み増すほか、外部委託での海外クレジット投資にも力を入れる方針(ロイター記事より引用)

<明治安田>
・円建て債券や為替リスクをヘッジして投資する海外のクレジット物の残高を積み増す計画(Bloomberg記事より引用)

<かんぽ>
・国内株式やオルタナティブ資産を積み増す計画(ロイター記事より引用)

総じて「海外クレジットもの」「オルタナティブ資産(ヘッジファンドやプライベートエクイティなど)」を増やす動きが見てとれます。
10月27日の日経電子版でも、生保9社が米欧中心に社債を6200億円程度積み増すと報じていました。

どうして決算発表前のこの時期に、しかも報道機関(の一部)だけに資産運用方針を説明するのか、という疑問はさておき、半年たって、生保各社が「海外クレジットもの」「オルタナティブ資産」を増やしたかどうか確認したくても、多くの場合、確認できないということを、資産運用方針を報じたメディアは知っているのでしょうか。

「海外クレジットもの」の中心は外国社債だと思います。ところが、決算発表資料やディスクロージャー誌には「外国公社債」という開示しかなく、各社がこのところ力を入れているとされるクレジットものに関する手掛かりはほとんどありません
(第一生命は投資家向け決算説明資料のなかで、外貨建て債券に占める社債の割合や信用格付別の割合を示しています)。

「オルタナティブ資産」についても極めて情報が限られています。外国籍のものが多いでしょうから、「外国株式等」という項目に含まれていることはわかっても、それ以上の手掛かりがありません
(上記5社ではありませんが、T&Dは内訳を継続して開示しています)。

業界共通の開示様式が久しく見直されていないうえ、特に相互会社形態の生保には、自らの資産構成の変化に応じて情報開示を見直そうという意識に乏しいのではないでしょうか。

※久しぶりの新横浜散策でした。

 

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保険学会の全国大会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました。
オンライン開催なので、懇親会等での非公式な意見交換ができないのは残念なのですが、大会に参加しやすいというメリットはありますね。私も福岡にいながらにして報告を行うことができました。

情報開示とメディア

私は3月の九州部会に続き、全国大会でも保険会社の経営情報の伝達について報告しました。
過去20年間の決算報道を調査したところ、平時における報道内容が固定化していることを「発見」したので、その理由を探るため、主要保険会社の広報部門(およびメディア関係者)へのインタビューを行いました。その結果、報道固定化には「メディア自身によるニュースバリューの判断」「報道機関固有の事情」が影響していることが見えてきました。
報告の詳細は今後どこかでご覧いただけるかと思います。

地震リスク

今回の大会では土曜日のシンポジウム、日曜日の共通論題がいずれも地震リスクに関するものでした(金融庁の栗田監督局長による特別講演でも自然災害リスク関連の話がありました)。
シンポジウム「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」は個人の地震リスクと家計向け地震保険についての発表とディスカッション、共通論題「地震リスクに対する企業保険制度の課題」は企業の地震リスクとその対応状況についての発表とディスカッションという内容で、特に後者は知る人ぞ知るという内容だったかもしれません。

共通論題を聞いたうえでの私見ですが、企業の地震リスク対応が進んでいない根底には、日本企業に資本コストを意識した経営が浸透していないことや、そもそも大企業と言えども実質的に事業部門の集合体で、コーポレート部門の機能が弱いという問題があるのだと理解しました(共通論題ではそこまで突っ込んだ議論にはなりませんでしたが)。

なお、シンポジウムではお二人の先生が、地震保険の危険準備金取り崩しをもって「破綻の危機」「財政に懸念」とおっしゃっていて、この点はよくわかりませんでした。
民間準備金が取り崩されてから、官民負担スキーム修正(民間負担分を下げる)までのタイムラグの問題があるとはいえ、地震保険は超長期の収支均衡を意識したプライシングがなされ、政府が再保険というかたちでバックアップするしくみです。もし民間準備金が枯渇し、新たな準備金の蓄積まで政府負担が大半を占めるスキームになったとしても、それをもって「破綻」とみなすのは私には抵抗があります。この保険の存続可能性を問題視するのであれば、論点はリスクに応じたプライシングがなされているか、ではないでしょうか。

※ハロウィンまであと1週間ですね。

 

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ディスクロージャー誌の公表(活用編)

今週のInswatch Vol.1102(2021.9.13)に掲載されたものです。生命保険協会のサイトは何とかしていただきたいですね。ご参考まで。
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前回(8月9日号)に続いてディスクロージャー誌に関する話です。
私は以前から、生保決算報道の定番となっている「保険料等収入」という指標は、事業会社の売上高にあたるものではないし、生保の経営情報を必要とする消費者(現在および将来の契約者)に伝えるべき情報として適当ではないと主張してきました。今回はその理由を、公表されたディスクロージャー誌を使って説明してみましょう。

保険料収入の多くは既契約によるもの

一部の会社を除いて、保険料収入の多くを占めているのは次年度以降保険料、つまり、当年度よりも前に獲得した契約から得られた保険料です。
論より証拠。ディスクロージャー誌に掲載されている日本生命と第一生命の数字を見てみましょう
(2020年度の個人保険・個人年金保険の合計。単体ベース)。

<日本生命> 
初年度保険料   0.5兆円
次年度以降保険料 2.5兆円
合計       3.0兆円

<第一生命> 
初年度保険料   0.1兆円
次年度以降保険料 1.4兆円
合計       1.5兆円

こうした数値は決算発表時点では入手できません。保険料収入は当年度に保険料として入ってきたお金というだけなので、業績や販売力を示すものではないことがよくわかります。各社のその年度の業績を知りたいのであれば、保険料収入ではなく、新契約年換算保険料のほうがより適切だと言えます。

預かり資産の受け入れは売上高なのか

こちらの数字もご覧ください。20年度における大手4社(日本、第一、住友、明治安田)合計の保険料収入の内訳です。この数字も各社のディスクロージャー誌で入手しました。カッコ内は19年度との差額です。

保険料収入  11.1兆円(▲0.6兆円)
 個人分野   7.9兆円(▲0.4兆円)
 うち一時払  0.8兆円(▲0.4兆円)
 団体年金   2.2兆円(▲0.2兆円)

ディスクロージャー誌で確認すれば、20年度に保険料収入が減少したのは個人分野(個人保険、個人年金)の一時払保険料が減ったことと、団体年金保険の保険料が減ったことだと説明できます。
一時払の生命保険は貯蓄性の極めて強い商品ですし、団体年金は企業年金向けの資産運用商品です。したがって、20年度に保険料収入が減ったのはコロナ禍で販売が制約されたからというよりは、低金利などの影響で受け入れた額(≒貯蓄保険料)が減ったためだとわかります。
銀行の決算発表で、預金の残高を示すことはあっても、当年度の預金受け入れ額を示し、前年度と比べて増えた、減ったと一喜一憂するようなことはありません。同じように生保の決算でも、保険料収入は貯蓄保険料の増減で数値が大きく変わってしまうので、顧客基盤の大きさの手掛かりにも、成長性を表すことにもなりません。預かり資産の規模が重要というのであれば、総資産を見るべきです。

誰が保険料収入にこだわっているのか

調査したところ、全国紙では15年以上もの間、生保決算の主要指標として「保険料等収入」を掲載しています。これだけ続くということは、大手をはじめとした生保業界がこの状況を許容しているのでしょう。実のところ、金融庁も半期ごとに公表している決算概要のなかで「保険料等収入」を掲載し、動向を説明しています。

もしかしたら、会計(損益計算書)の一項目だから数値が信頼できる、比較可能性があると皆さん考えているのでしょうか。
しかし、いくら「数値が信頼できる」「比較可能性がある」といっても、その数値が表している内容に意味がなければ指標として不適切です。ディスクロージャー誌を活用することで「保険料等収入」がどのような指標なのかご理解いただけたと思います(ちなみに「等」は再保険収入です)。会計上の「保険料等収入」を重要指標としてそのまま使い続けるのは、そろそろ終わりにしたほうがいいのではないでしょうか。

なお、ディスクロージャー誌(名称は「○○生命の現状」「アニュアルレポート」「統合報告書」など)は各社のサイトのほか、生命保険協会のサイトにも一括掲載されています。後者は大変便利なのですが、執筆にあたり確認したところ、なぜか肝心のデータ編が掲載されていない会社もあるようなので、その際には個社サイトへのアクセスが必要です。
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※佐賀県小城市は「羊羹王国」なのだそうです。

 

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ディスクロージャー誌の公表

今週のInswatch Vol.1097(2021.8.9)では保険会社のディスクロージャー誌について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
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前回は1回目のワクチン接種(モデルナ)での副反応についてお伝えしましたが、2回目ではちょうど24時間後に微熱が出て、それが9時間くらい続きました。熱があっても体調は良好で、食欲もあります。接種した左腕の筋肉痛のほか、なぜか腰の右側が痛くて、これらはまだ数日続きそうです。副反応は個人差が大きいですね。ご参考まで。

生損保がディスクロージャー誌を公表

早いもので、今年も保険会社のディスクロージャー誌が出揃う時期となりました(会社によっては「統合報告書」となっています)。さっそく、いくつかの会社のディスクロ誌をざっと確認したところ、近年のコーポレートガバナンス改革の一環として上場会社が情報開示の拡充を求められていることなどを踏まえ、前半の「本編」の記述を大幅に見直した会社があるようです(例えば明治安田生命など)。
ただし、後半の「データ編」の記述には大きな変化はなさそうです。こちらは新たなソルベンシー規制の導入(2025年の予定)とともに掲載内容の充実が図られることを期待することにします。

なぜ経営情報が必要なのか

そもそも保険会社の経営情報が市場関係者だけでなく、保険の利用者にもなぜ必要とされているのか、改めて考えてみましょう。
事業会社の場合、その会社の商品やサービスの利用者だからといって、それを提供する会社の経営内容を知る必要はあまりありません。会社の経営内容が悪化すると、商品やサービスの内容や品質が悪化する可能性もありますが、あくまでも間接的な影響です。ですから、事業会社の経営情報を必要としているのは専ら株主などの市場関係者となります。
これに対し、保険会社の場合、会社の経営内容はいわば商品・サービスの一部となっています。もし、保険会社の経営が傾けば、将来の保障(補償)が危うくなり、破綻した場合には利用者が損失を被ります。さらに、有配当契約であれば、利用者は保険会社の経営内容に応じた配当を期待できます。ですから保険会社の経営情報を必要としているのは市場関係者だけでなく、利用者(現在および将来の保険契約者)にも必要なのです。
だからこそ、保険業法第111条で経営情報の公衆縦覧が規定され、毎年ディスクロージャー誌が公表されています。

経営情報はどう伝わるか

とはいえ、平時に保険会社の経営内容に関心を寄せる利用者は少ないのではないでしょうか。保険の利用者は保障(補償)を得るために保険会社と契約しているので、株主などの市場関係者と違い、保険会社の経営情報を自ら得ようという動機に乏しく、平時であれば、おそらく保険会社の信用リスクを負っているという意識もありません。この20年間、個人分野の配当が低く抑えられてきたこともあり、配当を期待して生命保険に加入した人もごくわずかでしょう。
メディアによる情報伝達も20年前に比べるとかなり減っていて、かつ、画一的なものとなっています。保険会社の決算発表を継続して報道している全国紙の記事を確認したところ、近年の生保決算は「保険料等収入」と「基礎利益」、損保決算は「正味収入保険料」と「当期純利益」を報じるパターンが圧倒的に多く、情報源として不十分な状態が続いています。

ディスクロージャー誌の分量は多く、読みこなすのは大変です。しかも、経営データとして十分な内容かといえば、特に生保については外部環境や経営実態等の変化に開示項目が追いついていないと感じます。
とはいえ、保険の利用者にとって有用な情報が掲載されているのは間違いありません。例えば「業績ハイライト(主要な経営指標を掲載)」「直近5事業年度における主要業務の状況」をフォローすれば、その会社の大まかな経営内容がつかめますし、会社によってはESR(経済価値ベースの健全性を示す指標)や「重要リスク」などの情報も公表しています。保険販売に関わるかたは、平時からこれらの情報に接しておくべきではないでしょうか。
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※写真は福岡・篠栗町にある山王寺です。

 

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