東日本大震災発生から1年

 

あれから1年といっても、過去を振り返るというよりは、
まだまだ現在進行形という感じがします。

さて、1周年ということで、日本保険学会関東部会は10日、
特別シンポジウム「東日本大震災と保険」を開催しました。

第1部は「実務家からの報告」ということで、日本損害保険協会、
生命保険協会、JA共済連からのスピーチ。
第2部は4人の保険研究者からの報告。
最後に登壇者全員によるパネルディスカッションという構成でした。

パネルディスカッションの時間が短かったのは残念ですが、
それでも研究者と業界のやり取りは、私自身がいろいろと考える
きっかけとなり、ありがたかったです。

例えば、早稲田大学の大塚英明先生は次のように主張します。
・政府は地震保険ではなく、被災者生活再建支援制度の枠組みで
 関与すべき(=政府は地震保険からは手を引く)
・JA共済ができることを損保はなぜできないのか

これに対し、損保協会の栗山泰史さんは反論します。
・日本の地震リスクの出再先は政府以外にない
・損保の責任額は大きく、かつ、共済のような閉じた世界ではない 

他にも「支払いトリガー」や「セットとして別売り」への疑問など、
栗山さん、お疲れさまでした、といったところでしょうか^^

死亡や失業などヒトのリスクに対しては各種の公的保障があります。
しかし、住まいについては被災者生活再建支援制度(最大300万円)
くらいしかありません。
そこで、この制度を住宅再建支援に広げるという議論はありそうです。
ただ、それがどの程度現実的な話なのか、私にはよくわかりません。

他方、現在の地震保険制度は政府が関与しているとはいえ、
加入者の保険料ですべてを賄う仕組みとなっています。
長い期間で考えれば、政府は引受リスクを負っているのではなく、
タイミングリスクを受けていると考えるべきなのでしょう。

栗山さんの肩を持つというわけではありませんが、
「(民間の枠組みで)JA共済ができるのだから、損保もできるはず」
というのは、現状の国際再保険市場をみるとなかなか厳しそうです。

家計地震のリスクを再保険市場に出していない現状でさえも、
日本の自然災害リスクに対する再保険カバーの安定的な確保は
損保にとって死活問題になっています。

言い換えれば、日本の損保は国際再保険市場への依存度が
非常に高いという事業構造になっているのです。

また、今回の地震保険支払金額は1.2兆円に上ったとはいえ、
都市部が少なかったため、この金額で済みました。
首都直下型では3兆円、関東地震では5.5兆円となるそうです。

他方、JA共済が今回8400億円もの支払いとなったのは、
もちろん建物更生共済で地震リスクを引き受けているからですが、
顧客基盤が都市部ではないという面も大きそうです。

日本の損保が自然災害リスクの引受能力をさらに高める余地は、
私にはあると思います。自社のリスク許容度を踏まえたうえで、
ビジネスとしてどのリスクをどの程度選好するのかという話です。

しかし、被災者支援を安定的に提供できるほどのキャパシティーを
政府ではなく、国際再保険市場に求めるというのは、
あまり現実的な話ではないように思えます。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※横浜の伊勢山皇大神宮です(1月)。
 皆さん何をお祈りしたのでしょうね。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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