植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2016年02月20日

決算短信の見直し案

 

「非財務情報の開示」についての議論を聞くために
金融審議会ディスクロージャーWGに出席したところ、
情報開示が後退しかねない話をしていて驚きました。

このWGでは、持続的な企業価値の向上に向けて
企業と投資者の建設的な対話を促すという観点から、
開示情報の提供のあり方を有識者が議論しています。
金融審議会WGのサイトへ

議論のなかで、3つの開示書類、すなわち「決算短信」
「事業報告・計算書類」「有価証券報告書」について、
開示内容をそれぞれの目的に応じて整理しました。

決算短信の目的は「投資者の投資判断に重要な情報を
迅速かつ公平に提供する」となります。

そこで決算短信について次の提言案が示されました。

①情報についての速報性が要求され、公表前の監査は
 不要であることを明確にする。

②速報性がそれほど求められない項目(例えば、経営方針)
 については、有価証券報告書で記載することとする。

③記載を要請する事項をサマリー情報、経営成績等の概況、
 連結財務諸表及び主な注記に限定し、その他は企業が任意に
 記載できることとするなど、義務・要請事項を可能な限り減らす。


同時に示された東証の静委員による見直し案は次の通りです。
資料(静委員)

上記に沿った内容ですが、4ページが見やすいでしょう。
サマリー情報(=短信の表紙の部分)を「義務」から「要請」
としたうえで、

・財務諸表と主な注記の開示を要請していたものを、
 投資判断を誤らせる恐れがない場合には開示不要

・「継続企業の前提に関する重要事象等」も開示不要

などが示されています。


これらの整理・合理化によって、「より自由な開示を促す」
「空いた時間を投資者との対話にあてる」というのが
このWGの提言なのでしょうか。

そもそも現在の決算短信で開示義務があるのは
サマリー情報のうち、いくつかの指標だけ(監査も不要)。
あとは取引所の「要請」に基づいて記載しているもので、
有価証券報告書のような記載義務はありません。

「義務」と「要請」の違いは、WGの1回目で静委員から
説明があり、議事録では「要請」はあくまで任意と読めます。


それでも上場会社が充実した決算短信を出すのは
東証のガイドラインがあり、半ば義務として従っている
からなのか。私はそれだけではないと思います。

多くの投資家やアナリストは決算発表時に出てくる
決算短信を最も重要な情報源として捉えています。

有価証券報告書が公表されるのはだいぶ先なので、
まずは決算短信をもとに対話がなされるはずです。
だからこそ、上場会社も充実した決算短信を作成し、
公表しているのでしょう。

また、大企業では当日または数日後に決算説明会を
開いており、ここでは決算短信を予め分析したうえで
質疑応答がなされています。

投資家と企業との建設的な対話を促すという観点が
議論の出発点であるはずなのに、現在行われている
対話の重要なツールを後退させるような話になるのは、
いったいどうしてなのでしょうか。

しかも、見直し案は速報性の促進とバーターではなく、
投資家やアナリストにとって一方的に状況が悪化する
という内容です
(これ以上早くしてほしいという声は少なそうですが...)。

ご参考までにWGメンバーの名簿も挙げておきましょう。
投資者の声を代表する委員が少ないような気がします。
WGメンバー名簿


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※銀座には意外なところに路地がありますね。
 写真は銀座8丁目です。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

コメント一覧

今、リスク管理を考える  (2016年02月24日 09:10:55)

決算短信がアナリストにとって最も重要であることは、委員のほぼ全員が認識していることは、第2回の議事録からも明確だと思います。ただ、決算短信を巡る問題認識は、本来もとめられている速報性が失われて同日報告になっている、アナリストが決算短信の予測に偏重している等、様々なものが挙げられています。ブログは限られた紙面だからという言葉に甘えることなく、限られた紙面でも、このような流れを踏まえ、ポイントを押さえたコメントを発信しないと、単に現状実務を変えたくないだけの守旧派として見られるだけではないでしょうか。あるいは、ブログ読者に自分だけが世界唯一の正義であるとの偶像崇拝の対象となるような印象を与えたいのでしょうか。その辺の意図するもころは良く分かりませんが、いずれにしても、もっと有意義なコメントが望ましいでしょう。

ERMに悩める子羊  (2016年02月25日 09:10:50)

植村様、いつもブログ、拝見するのを楽しみにしており、いろいろと勉強させていただいております。また、今、リスク管理を考える様の辛口のコメントも考えさせられることも多く、読ませて頂いております。

私のような日々、ERM体制を考えているものからしますと、植村様が一線の機能を果たしているとすれば、今のリスク管理を考える様は二線の機能を果たしているように思えます(そして、三線はその他多数の読者でしょう)。

つまりは、一線は、二線の批判的コメントに真摯に応えることをもって説明責任を果たして、もってその正当性を訴えることができるということです。そういう意味で、植村様の反論があると、私としてはなお面白く楽しめるように思います。

いわゆる良くないERM体制では、一線は二線の批判をうざったがるというのがありますが、一線は二線の批判を、自らの説明責任を果たすために歓迎するものだと思いますので。

植村  (2016年02月25日 19:03:15)

ご意見(ご要望?)ありがとうございます。
ただ、実名で情報発信を主眼に続けているブログにおいて、匿名のかたのコメントに恒常的にご対応するのは、率直に言ってつらいものがあります。あくまで私のペースで続けさせていただければと存じますので、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

今、リスク管理を考える  (2016年02月25日 20:33:37)

私の方はセカンドラインとしての役割を果たせるように努めたいと思います。保険会社でも、セカンドラインというのは他部署から相手にされないのが普通ですから、ファーストラインがアカウンタビリティーを果たさないということについては、ほとんど気にしてません。

今、リスク管理を考える  (2016年02月25日 21:17:02)

どこのブログもハンドルネームで議論が行われるのは珍しくない中、匿名のみを根拠にするのは、こちらもよく保険会社のERMでありがちな論点のすり替えのように思えますね。ERMにお詳しいと、こういう活用も自由自在にできるということですかね。

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