植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2014年06月29日

流動性リスクアペタイト

 

26日に金融庁が公表した、「大規模で複雑な業務を行う
金融グループにおける流動性リスク管理に係る着眼点(案)」
をご覧になったでしょうか。
金融庁のHPへ

このなかに出てくる「流動性リスクアペタイト」という言葉に
何だかひどく違和感を感じました。

リスクアペタイトの設定とは、一般に、どのようなリスクを
どこまで取ることを許容するかを経営として定めておくことです。

だから、「流動性リスクについてもリスクアペタイトを設定しても
おかしくないだろ!」と言われればそれまでなのですが、
私の違和感はおそらく次の2つから来るのだと思います。

まず、本来は全社ベースのリスクアペタイトがあって、
これに沿って各リスクのアペタイトが設定されるのに、
この着眼点はいきなり「流動性リスクアペタイトの設定と遵守」です。

「グループ全体として統合的に設定された流動性リスクアペタイト」
とあるのですが、そもそもグループ全体のリスクアペタイトは
どこへ行ってしまったのでしょうか。

今回対象とした「大規模で複雑な業務を行う金融グループ」
には全社ベースのリスクアペタイトがあるのが当然なので、
あえて書いていないのだとしても、ちょっと乱暴ですね。


もう一つ、リスクアペタイトの設定は、単にリスクへの耐久力を
決めておこうというのではなく、財務健全性を維持しつつ、
リターンを上げ、会社価値の向上を図るために設定するものです
(少なくとも全社ベースではそうだと思います)。

もっとも、そう書いたものの、もしかしたら銀行業界では
保険業界とは違い、リターンや会社価値の向上はあまり気にせず、
専らリスク許容度を決めることがリスクアペタイトなのかもしれません。
この分野では用語の使い方が異なることが時々ありますので。

とはいえ、金融安定理事会(FSB)のペーパーを見る限りでは、
FSBも、経営戦略との結び付きを重視しているようです。

まあ、取らないリスクについて、アペタイトを設定しても構わない
(経営状況によっては、積極的にそうすべき時もありうる)ですが、
こうして流動性リスクについてだけ「リスクアペタイト」と言われても、
私には「流動性リスクを積極的に取り、リターンを上げる」経営が
想定できないので、違和感を感じるのでしょうね。


なお、HPにある流動性リスクアペタイトの事例を見ると、

「強いストレスがひと月続く場合にも耐えうる余剰流動性資産を確保」
「一定のストレスが2、3か月続いても耐えうる余剰流動性資産を維持」
「1年間耐久可能な余剰流動性資産を保有」

などがあるそうです。
これならわざわざアペタイトと呼ばなくても、リスク管理方針でよさそうですが...

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※某アイドルグループのグッズ販売に参戦(?)してきました^^


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コメント一覧

今、リスク管理を考える  (2014年06月29日 22:57:40)

> そもそもグループ全体のリスクアペタイトはどこへ行ってしまったのでしょうか。

植村さん、自分には優しいのに、人にはなかなか厳しいんですね。

こちらの点については、テーマが流動性アペタイトだとしても、おっしゃる通り、“上位や横との関係を踏まえて流動性アペタイトを設定しているか”みたいな表現が一言あれば良かったのでしょう。

> リスクアペタイトの設定は、単にリスクへの耐久力を決めておこうというのではなく、財務健全性を維持しつつ、リターンを上げ、会社価値の向上を図るために設定するものです

保険会社や金融機関がとってるリスクは、全てのリスクがリターンを上げるためにとるものではありませんよ。例えば、オペリスクもそうですよね。そういうリスクもふくめ、あらゆるリスクについてどういう姿勢で対応するかを示すのがリスクアペタイトだといってもいいんじゃないですか。適切にリターンを上げていくためにも、流動性やオペも管理していくわけですし。

ということで、後半の点は、私はそんなに違和感を感じませんでした。

補足しておくと、アペタイトの定義が自分の考えてるものと同じとか違うとかではなく、論理構成としてです。なのでもちろん、流動性アペタイトをリスク管理方針と呼んでもいいと思います。

タロ  (2014年07月08日 20:42:38)

確かに流動性リスクは
他のリスクとはやや趣が違うところがあるので
アペタイトが腹に落ちない感はあります。

ただ、銀行・投資銀行の観点でいえば
他の条件を所与とした場合
流動性ポートフォリオを厚く持てば持つほど
流動性リスクは減りますが
そのためのファンディングコストが嵩むという
トレードオフの関係にあり
消極的な意味では
アペタイトの設定は
あるんだろうと思います。
ノンバンクが
長期固定の負債でファンディングをがっちり固めるか、CPで転がすかの違いも
似た感じですかね。

オペリスクでいえば
リスクカルチャーで表現した方が
しっくりしますが
投資銀行のソリューションビジネスみたいに
規制や会計のルールを回避するビジネスをどのようにビジネス上位置づけるか、
なんてのも
ある意味、アペタイトかなぁと思います。

今、リスク管理を考える  (2014年07月09日 20:07:00)

テロ様

ご意見、ごもっともだと思います。

リターンに直結するリスクだけでなく、リターンに直結しないリスクも含め、あらゆるリスクを適切に管理することによって、健全性を維持しつつ、リターンをあげることが可能なわけですので。

そのためには、あらゆるリスクに対して一貫性のあるリスクアペタイトが必要だと思います。そして金融機関にとって流動性リスクは重要性が高いので、監督当局がこれだけを取り出した流動性リスクアペタイトという概念を持ち出してくるのは極めて自然なことだと思います。

リターンに直結しないという理由だけで、アペタイトに入れないというのは、理論的な意味でも説得力に欠けますし、実務的な観点からの意義も見出し難いように思われます。

タロ  (2014年07月11日 12:40:30)

ファイナンス的な枠組みだけで考えると、信用リスクや市場リスク、保険引き受けリスクなどのリスクテークがリターンの源泉ですが、ファームワイドに広げて考えると、”フランチャイズ(営業基盤)”もリターンの源泉ですよね。

フランチャイズを築いたり、強化する、或いは、フランチャイズが毀損してしまうリスクを考えると、オペリスクがカバーする領域の重要性が浮き彫りになります。日常的にはリスクというより、コストの色彩が強いですが、ある局面では深刻なリスクになります。リスクとコスト、リターンとのバランスを図るという意味では、オペリスクにも、リスクアペタイト的な発想がやはり必要なんだろうと思います。

流動性リスクについては、ファイナンス的側面だけで考えるとやや違和感があるとしても、ファームワイドでフランチャイズの観点も含めて考えると、違った見え方になるかもしれません。流動性が逼迫した状況では、フランチャイズバリューにもネガティブな影響を与えてしまいます。一方、過度に保守的になるとコストが嵩んでしまいますので、このバランスを図る必要があるというところは、オペリスクに近いのかなぁと思います。

今、リスク管理を考える  (2014年07月11日 16:28:15)

タロさま

お名前を間違えてしまい失礼いたしました。

はい、フランチャイズバリューを考えると、オペリスクも、健全性を確保しつつ、リターン追求という観点から理解することができるようになります。

オペリスクは、保険の引受によってやむなく引受けるリスクであることから、なるべくそれを減らしたい、そのためにはコスト合理的でなければいけない、という説明が良くなされます。

しかし、フランチャイズバリューを考えると、やむなく引受けることとなったオペリスクについても、リターン目的の他のリスクと同じように考えることができるようになるます。すなわち、オペリスク管理として、フランチャイズバリューを保護するために費用を投下することは、実はフランチャイズバリューのリスクを減らすことにより、リターンを意図したものとして理解することができるようになります。

フランチャイズバリューを考えると、企業のほとんどの活動をリターン獲得として理解することができるようになるます。

リスクアペタイトを考えるには、そもそもリターンとは何か、そういうところを肌感覚に基づいて、きちんと理解することが、まず大事なんだと思います。リターンが何なのかを理解せずに、表面的にERMとかアペタイトとか議論したくはないものです。

今、リスク管理を考える  (2014年07月11日 16:51:29)

流動性リスクについてもコメントしておきます。

タロ様は、財務的困窮費用について言及されていましたが、もう少し分解すると、財務的困窮費用のほか、監督当局から求められる流動性を維持するための費用の最小化、流動性リスクについて適切に管理していることを示すことによるフランチャイズへの影響、という面も考えられると思います。

こちらもおっしゃる通り、フランチャイズを考えることが重要だと思います。

生命保険会社にとって、一番重要なのは、フランチャイズだと思いますし、経営の関心もそこにあるように思います。営業政策、商品開発、チャネル開発、業務提携、これらはすべてフランチャイズのリターンを企図したものです。

フランチャイズは、定量的な把握が困難ですが、とはいえ、フランチャイズの重要性を考えれば、リスクアペタイトにおいても、フランチャイズを考えなければならないと思います。そうすると、オペや流動性をリスクアペタイトに含めるのはいかがかという主張は、少々滑稽なもののように思えてきます。

今、リスク管理を考える  (2014年07月12日 14:12:20)

もうひとつ、視点の提供という意味では、モデルリスクについてもアペタイトを考えるかという論点もありますね。

モデルを使って意思決定するためには、モデルガバナンスを構築する必要があるわけですが、モデルリスクをゼロにすることはできません。ですので、意思決定においてモデルをどれだけ、どのように使うのか等を踏まえ、モデルリスクアペタイトを設定し、そのアペタイトに従うために求められる水準のモデルガバナンスを整備することになります。

モデルリスクは、リターン獲得のためにとるわけではありませんので、狭い意味でのリターン獲得のためのメインのリスクとはもちろん違いますし、フランチャイズを考慮したリターン獲得を目的とするオペや流動性とも違います。

なのでモデルリスクについては、用語を使い分け、アペタイトと言わないとする整理もあるように思います。もちろん、アペタイトにはあらゆるリスクを含めるものとして含める整理もあると思いますが。この辺りは、リスク管理の概念体系をどうするかであり、どっちでなければならない、ということはないと思いますが。

ちなみに、FRBはモデルリスクのトレランスという用語を使ってましたね。

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