植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2017年11月16日

顧客本位の業務運営を生かす

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うっかりしていて、8月のインシュアランス生保版に書いたコラムのご紹介を忘れていました。遅まきながらご覧ください。

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「顧客本位の業務運営」を生かす

NHK総合テレビ・クローズアップ現代+の保険特集「保険値上げで家計直撃!賢い見直し術とは」(6月28日)にゲスト出演した時のこと。
番組前の打合せで、「(保険ショップなどに対する)規制が入ったとはいえ、代理店はあくまで保険会社を代理する存在であることは押さえておきたい」というコメントをしたところ、キャスターから「それでは消費者はどこで保険の相談をしたらいいのでしょうか」と聞かれ、答えに窮した。

保険ショップをはじめ、保険会社の営業職員や代理店、銀行や郵便局の窓口など、保険について無料で相談できるところは多い。言うまでもないが、相談が無料なのは保険販売による手数料や報酬で事業が成り立っているからである。
番組のVTRでは消費者が独立系ファイナンシャルプランナー(FP)に保険の見直しを相談していた。しかし、現状は相談業務だけでFPが成り立つ環境とは言い難く、保険販売などの手数料ビジネスに依存していないFPは極めて少ないと聞く。

長い目で見れば、「適切なアドバイスをするにはコストがかかる」「情報はタダではない」という常識を消費者に浸透させる必要があるとはいえ、今の状況がすぐに変わるとは思えない。
そこで次善の策として浮上するのは、顧客本位の業務運営を掲げ、「専属」「乗合」などの自らの立ち位置や、「どのような考えのもとで保険を勧めるか」といった方針を明らかに示した販売会社への相談である。消費者の信頼を得るには、可能なかぎり具体的で納得感のある運営方針が求められる。

販売会社からすると、昨年の改正保険業法施行に続き、金融庁が打ち出した「顧客本位の業務運営に関する原則」への対応も求められ、ウンザリしているところかもしれない。
しかし、保険の相談をしたいという消費者のニーズがあり、かつ、(保険会社からの手数料に依存していないという意味で)中立的な相談窓口が少ないのであれば、消費者に顧客本位の業務運営を訴えることができる販売会社には、むしろ顧客の信頼を勝ち得るチャンスと捉えることができよう。専属チャネルでも、相談の過程で消費者にネット等を通じて他社と比べてもらえばいい。

もちろん、金融事業者等に顧客本位の業務運営を求めることで消費者利益を高めるには、販売会社をはじめとする金融事業者等の努力だけでは不十分であり、同時に消費者の金融・保険へのリテラシー向上が前提となる。行政はそのことを十分理解してほしい。

私は番組で、消費者は「自分を知ること」「社会保障を知ること」「保険の得意分野を知ること」が重要という趣旨のことを述べた。
自分を知るとは、保険であれば、自分がどのようなリスクに備えたいと考えているかを把握することであり、これは販売会社がサポートできる内容でもある。
「顧客本位の業務運営」を規制対応ではなく、ビジネスチャンスとして取り組んでみてはいかがだろうか。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※都心でもだいぶ木々が色づいてきました。

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2017年11月12日

生保の超長期債需要

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人口減少で生命保険の購入層が減り、生保の超長期債需要が低下する可能性について財務省が言及したという記事(7日の日経)を見て、一体どんな議論が行われているのかと思い、「国の債務管理の在り方に関する懇談会」の資料や議事要旨を確認してみました。

議事要旨によると、財務省(理財局)は「生保の超長期債需要が減る」という表現は使っていませんが、次のような分析から、超長期債の需給構造が変化する可能性があるとしています。

「生命保険会社の年換算保険料収入は順調に伸びている。一方、保険金等を控除した収支は7~8兆円程度で推移。また、昨年の金融レポートにおいて、金融庁は、今後の人口構成の変化により、保険加入の中核層である30~40歳代が減り、保険料のボリュームが縮小したり、終身保険から医療・介護保障へのニーズの変化をもたらす可能性があるという分析をしており、今後生保の負債サイドが質・量両面で変化する可能性も示唆。」

要は、保険加入の中核層が減っていき、保障内容も変わるから、中長期的な超長期債需要が減っていくだろうという分析結果なのですが、本当にそうなのでしょうか。

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図表は懇談会の資料1(21ページ)です。2007年度以降、生保が超長期債を積極的に購入してきたことがわかります。その背景としては、金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向けて舵を切ったことや、保険会社で経済価値ベースのリスク管理を導入する動きが進んだことが挙げられます。

こうした資産長期化により、生保はすでに負債の金利リスクを十分抑制できたのかといえば、必ずしもそうではありません。新契約の有無にかかわらず、生保が金利変動の影響を依然として受けやすいことは、金融庁によるフィールドテストの結果からも明らかです。
つまり、日銀が国債をガンガン購入し、金利水準が著しく低下したという異常事態により、近年の購入ペースは鈍化していますが、既契約だけを考えても、生保が超長期債を購入する余地は依然としてそこそこ大きいと考えるのが自然でしょう。

新契約についても検討してみましょう。死亡保障から生存保障(医療、介護、年金など)へのシフトは今に始まった話ではなく、国内系生保の主力商品はかなり前から定期の保障性商品です(=超長期債のニーズは小さい)。他方、第三分野マーケットの主力商品は終身医療保険なので、それなりに金利リスクがあると考えられます。

この10年間は終身保険が売れました。これは「保険加入の中核層」向けではなく、主に銀行で貯蓄性商品として販売したものなので、高齢層が中心です。
今の金利水準では魅力的な円金利の貯蓄性商品を提供するのは難しいものの、それこそ人口構成を考えると、貯蓄性商品へのニーズはしばらく強いでしょうから、ある程度金利がある世界となれば、再び超長期の貯蓄性商品が売れるでしょう。

議事要旨からは、財務省が「今後は人口構成の変化により、生保負債は縮小に向かい、かつ、短期化する」と考えていることがうかがえます。
しかし、以上のように、既契約からも新契約からも、「生保負債が縮小に向かい、かつ、短期化するので、超長期債ニーズが減る」というのはかなり先の話であり、国債発行計画の検討材料にするのであれば、時間軸があまりに違い過ぎると言えそうです。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※東京駅のこの駅弁屋さんでは、全国の駅弁を取り扱っていて、楽しいです。

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2017年11月08日

教養としての社会保障

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インシュアランス生保版(11月号第2週)に寄稿したものです。
「主張」というコラムを交代で書いています。
発行元の保険研究所は統計号で有名なところですね。

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「教養としての社会保障」を読む

 衆院選は小選挙区で当選を重ねた与党の圧勝となったが、今回は(今回も?)選択に困る有権者が多かったのではなかろうか。

 NHKが選挙前に行った世論調査では、投票先を選ぶ際に最も重視する政策課題として「社会保障」を挙げた人が29%と最も多かった。共同通信による調査でも、投票で最も重視する点として回答者の約3割が「年金や少子化対策など社会保障」を挙げた。ここから先は私の解釈だが、有権者が政策課題として重視する社会保障とは、「年金をもっと増やしてほしい」「負担をこれ以上増やさないでほしい」といった刹那的要求だけではなく、「少子高齢化が進むなかで、今の社会保障制度はもつのだろうか」という将来に対する不安への回答を求めていると考えられる。

 しかし、自民党は今回、消費増税は実施するものの使途を見直し、社会保障の持続可能性という意味では後退する政策を打ち出した。対する野党は、代替財源を明確に示さずに増税凍結を打ち出し、むしろ社会保障の持続可能性を危うくしかねない政策ばかり。有権者はいったい誰に投票したらよかったのか。
 そんなことを思いながら、改めて「教養としての社会保障」(香取照幸著)を読んだ。

 本書は社会保障の仕事に長年携わってきた元厚生労働省幹部によるもので、「社会保障の全体像、社会保障と経済や政治との関わりを『市民目線』で解き明かし、社会保障をある種の『一般教養』として理解していただこう」(本書より引用)という本である。
 社会保障というと、負担と給付ばかりが語られがちだが、本書では産業としての社会保障にも言及し、「社会保障はGDPの5分の1を占める巨大市場」「社会保障は『単なる負担』ではなく、経済成長のエンジンたりうる」と論じており、目から鱗の思いがする。

 もちろん、社会保障をどう持続可能なものとするかは本書の中心テーマとなっている。「今や小手先やその場しのぎの改善改革では追いつかない、社会保障全体の組み立てを見直さないといけないというところまで事態は進んでいるように思えます」というのが制度設計の専門家としての著者の認識であり、労働力人口が減るのに高齢者は増え続ける今後20年から30年の期間を乗り切れるかどうかが一番の課題としている。

 「今後、社会保障費の負担増は避けて通れません。(中略)公平性を担保し信頼を得るには、負担も給付もできるだけ見えやすく分かりやすい簡素な仕組みに再構築しなければなりません」
 「医療、福祉、介護などの部門では効率化が求められます。(中略)効率を高めるためには、規制緩和や競争政策は有効です」
 「高齢者の経済活動を貯蓄から消費へと誘導するためには、社会の安心基盤を構築し、将来の不安を少なくして安心して暮らせる社会をつくることが王道です」

 一見して政治の役割は大きいとわかるが、果たして現政権は応えてくれるのだろうか。
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※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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2017年11月03日

金融庁の金融レポート

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まずは書籍のご案内から。
私の所属するキャピタスのメンバー3人(森本、松平、植村)で、「経済価値ベースの保険ERMの本質」(金融財政事情研究会)という書籍を出しました。
単に3人で分担して執筆するというのではなく、執筆の過程で改めてメンバーどうしで議論するなど、時間をかけて仕上げました。この分野に関心のあるかたは、ぜひご覧ください。

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さて、先週25日に金融庁が平成28事務年度の金融レポートを公表しましたので、こちらを取り上げましょう。

金融レポートは、金融庁による日本の金融市場・金融機関の現状分析や問題提起、そして、毎年公表する「金融行政方針」の進捗状況や実績等の評価を取りまとめたものです。
平成28事務年度っていつまでだっけ?という突っ込みはさておき、日銀の金融システムレポートとともに、日本の金融システムの現状を知るうえで有益ですし、何より金融庁の関心事項がよくわかります。

ただし、保険会社に関しては、あまり書かれていないというのが率直な印象でした。

このレポートの対となっている「平成28事務年度 金融行政方針」(以下「方針」とする)の記述と合わせて見てみましょう。
保険会社や保険募集人における顧客本位の取組みについては、

「商品販売時における顧客への適切な情報提供には課題が認められた【事例を提示】」「(一般代理店に対するインセンティブ報酬について)役務やサービスに照らした対価性に乏しく、『質』に問題があると考えられるものが認められ、また、金額水準(『量』)の高額化も進んでいる【事例を提示】」

など、実態把握の一端が示されています。こちらに関しては、「なるほど」「さすが」という感じです。

他方で、方針では「顧客利益につながる持続可能な収益構造や事業戦略の構築が求められている」と問題提起したうえで、「ビジネスモデルが、顧客のニーズに応えつつ持続可能なものとなっているか、実態把握を行う」としていました。

ところがレポートを見ると、

「将来的に国内生命保険市場の縮小が予想される中で、こうした収入保険料の量的拡大といったビジネスモデルは、全体としては中長期的には成立しない可能性がある」

と分析しているものの、その根拠が「今後も生産年齢人口が減り、保険料収入も減ると予想されるから」というだけでは、「環境変化が保険ビジネスへ与える影響について分析を更に進める」(方針から引用)にしてはあまりにマクロ的な分析すぎますし、

「生命保険会社においては、このような市場全体の動向に加え、IT技術の進展等による競争環境の大きな変化の可能性といった経営環境の変化にタイムリーに対応し、持続可能性のあるビジネスモデルの構築を進めていくことが課題となっている」

というまとめだけでは、金融庁がこの1年間、何をして、どのような実態を把握したのか全くわかりません
(生保の海外M&Aのフォローアップを行ったことは書かれていますが...)。

実は昨年のレポートでも、持続可能なビジネスモデルをテーマにモニタリングを実施(大手生損保を中心に総合的なヒアリングを実施したそうです)した結果、「環境変化に対応していくための共通の課題があることが窺われた」としたうえで、

「当面は、低金利環境の長期化等を見据え、各社の収益構造や事業戦略が、健全性の観点から長期にわたって持続可能なものとなっているか、実態把握を行っていく」
「国民経済の発展のための保険業のあり方や、今後予想される経済環境の中で、保険会社はどのような付加価値を生み出すことができるか等、より長期的な時間軸の中で幅広く検証をしていく」

などの宿題を自らに課しているのですが、1年後のレポートでは、他業態に比べても実態把握に関する記述やデータが極端に少ないのはどうしてなのでしょうか。

方針では、「自らが保険負債の質の改善を視野に入れつつ、リスク管理と一体となった資産運用の最適化」「環境変化に対応するリスク管理を伴った健全なリスクテイク」といった観点から保険会社と対話を行うとも示していました。

しかしこちらも、生保の有価証券構成比の推移を示した図表を掲載し、

「生命保険会社においては、自らの投資行動に応じた運用態勢の整備が引き続き課題となっており、このような活動を通じその資産運用能力の向上が期待される」
「自らの保険負債の質の改善にも留意しつつ、商品政策と一体となった適切なリスク管理の下、資産運用の高度化に取り組んでいくことが重要である」

と記述しているだけなので、やはり具体的な内容がほとんど紹介されていません
(というか、方針の記述とほとんど同じに見えます)。

昨事務年度はFSAP(IMFによる金融セクターの評価)があり、レポートの後ろのほう(118ページ)で「今後、これらの提言を国内金融行政の改善に活用していく」としているのですから、例えばFSAPを踏まえた記述があったらよかったのかもしれません。

ちなみに、保険行政に対するFSAPでの主な指摘事項として一番上に書いてあるのは、「金融庁は経済価値ベースのソルベンシー規制をできるだけ早く実行段階に進めるべき」というものでした。時間軸は「Near Term = 1 to 3 years」です。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※彦根でブラックスワンに会えました(ひこにゃんにも!)。

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