植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2017年01月28日

オバマケアの見直し

 

トランプ米大統領が就任して最初に署名した
大統領令は、オバマ前大統領が国民皆保険を
目指して実行した医療保険改革法(オバマケア)
の修正に関するものでした。

オバマケア撤廃を訴えて当選したのですから
見直しに着手するのは自然な流れだとはいえ、
代わりにどうしたいのか明らかではないですし、
就任後の動向を見ていても、やはり大変な人が
大統領になってしまったのだと思い知らされます。

ただ、そのオバマケアですが、無保険者の数は
確かに減ったものの、導入後わずか数年で
運営が不安定になっていたことを知りました。
ニッセイ基礎研究所のサイトへ

この松岡博司さんのレポートによると、
保障を提供する民間の保険会社に危険選択を
禁止したため、収益性が悪化し、最大手をはじめ
この事業からの撤退が相次いでいるそうです。
州によっては参加する保険会社が1社になって
しまったところもあるとか。

オバマケアは、国が罰則や補助金によって、
全ての国民(既往症のある人を含む)に対し
医療保険の加入を促すものです。
事業の担い手は民間の保険会社となります。

しかし、日本の自賠責保険のようなノーロス・
ノープロフィットの制度ではなく、危険選択も
できないとなると、民間ベースでの事業運営は
なかなか大変です。

実際、2014年の制度導入後、健康状態の悪い
低所得の加入者が増えてしまい、保険会社の
経営を直撃しているそうです。

そもそもの医療費が日本に比べて非常に高く、
保険料の水準も安くはないのでしょうから、
補助があるとはいえ、低所得者向けの保険料を
引き上げるにも限界があると思います
(それでも料率引き上げが続いているとか)。
提供するサービスの下限も定められているので、
民間会社としては、あとは撤退となるのでしょう。

レポートではそこまで触れていませんが、
これでは、トランプ大統領が登場しなくても、
制度が持たなかったのかもしれません。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※ソウルの北村という、古い町並みが残るエリアです。
 右の「壁」はドラマのロケ地なのでしょうか?


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2017年01月22日

韓国学会でのスピーチ

 

韓国リスクマネジメント学会の国際セミナーで
日本の生保破綻とその後の対応等について
スピーチをしてきました。

今どうしてこのテーマなのか不思議でしたが、
現地で話を聞いてみると、前々回ご紹介した
ムーディーズのレポートで書かれているよりも、
韓国の保険業界がはるかに深刻な状況にある
とわかり、妙に納得しました。

日本の生保で経営の重荷となっている契約は
20年以上前に獲得したものが中心です。
加えて、主力商品が保障性商品中心となって
かなりの時間がたっています。

他方、韓国では比較的最近まで金利水準が
高かったため、今から見れば予定利率の高い
超長期の貯蓄性商品を近年まで売っていました。
予定利率が3%超の契約が全体の約7割を占め、
かつ、全体の2/3が残存20年超とのことでした
(通訳が正しければ)。

ちなみに、韓国の10年国債利回り(今は約2%)は、
2010年頃まで5%程度で推移していました。

韓国では2000年代半ばから金利連動型商品
(=金利変動リスクを顧客が負う)が普及しており、
最近では新契約の約8割、保有契約の半分強が
金利連動型となっているそうです。
ただし、金利連動型商品には最低保証があり、
2000年代には3%以上の保証利率だったとか。

もう一つ日本と違うのは、韓国では国際会計基準
(IFRS)をすでに強制適用していることです。

保険契約に関するIFRSが完成し、これをもとに
ソルベンシー規制を行うと、業界全体で数兆円の
資本不足に陥るという報道もあるそうです
(行政当局からのリーク情報と言われています)。

確かに上記のような負債構成を考えた際、
経済価値ベースの評価をすると、非常に厳しい
経営実態が見えるのかもしれません。

「会計・規制への対応という話と、経営者として
 現状を見てどう対応するかという話は別物」

質問への回答として、こんな話もしたのですが、
個社の対応とは別に、保険行政としての対応が
求められる状況のようにも感じました。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※左の写真は朴大統領の退陣を求める人たち、
 右は大統領を支持する人たちです。




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| post at 17:29:46 | コメント(0)  | カテゴリー : 10. 出張報告 |

2017年01月14日

バーゼルIIIの最終化を延期

 

銀行規制の話ですが、新年早々に発表があり、
関係者の皆さんを驚かせました。
金融庁のサイトへ

金融危機後にバーゼル銀行監督委員会が
進めてきた規制改革(バーゼルIII)の最終化が
年内に間に合わず、1月上旬に予定されていた
中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ
(=ここで規制案を承認)の開催が延期されました。

報道によると、意見調整がまとまらなかったのは、
自己資本比率の計測に内部モデル手法を採用する
銀行に対し、最低限保有すべき自己資本の水準を
どう設定するか(=資本フロア)という話のようです。

現行のバーゼルIIでも資本フロアは存在しますが、
バーゼル委員会は、内部モデルによるリスク計測は
銀行間でバラつきが大きすぎると考えているため、
資本フロアの見直しを検討してきました
(例えば、内部モデルを使わない「標準的手法」で
 計測したリスクの90%を最低基準とする案など)。

これも報道ベースですが、調整がまとまらないのは、
「内部モデルなんかとんでもない」とする米国当局
(=米国の規制と平仄を合わせようということ?)と、
これまで規制における内部モデルの活用を進め、
かつ、経営内容が必ずしも良好ではない大手銀行を
抱える欧州当局が対立しているためのようです。

確かにモデルはあくまでモデルなので、常に改良が
不可欠となります。これを規制として活用するには、
当局による承認というプロセスが必要ですし、
金融機関どうしの比較も難しくなります。

ただ、バーゼルIIやEUソルベンシーIIで内部モデルを
積極的に採用してきたのは、内部モデルのほうが
その金融機関の抱えるリスクを適切に反映するうえ、
金融機関自身による経営管理手法とも合致する、
あるいは、高度化を促す効果があるからです。

また、実質的に標準的手法だけになってしまうと、
「規制で求められる水準さえ確保すればいい」
という経営マインドになりかねません。

いまさらこのような話をしても仕方がないのですが、
保険の国際規制に関わってくる話でもありますし、
今後の動向に注目しましょう。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※今年も香川の雑煮を食べることができました。
 白味噌にあん入り餅です!

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2017年01月09日

韓国生保の経営破綻

 

今月下旬にソウルでスピーチをする予定があり、
当日のレジュメを作成するなかで、韓国生保の
破綻事例を改めて確認しました。

日本で中堅生保の経営破綻が相次いだのと
ほぼ同じ時期(1997年~2000年代初頭)に、
韓国でも中小生保を中心に14社が実質破綻に
追い込まれています。
当時の韓国生保は全部で33社だったので、
なんと4割の会社が破綻したことになります。

もちろん、保険会社の破綻事例といっても、
国が違えばいろいろと異なる点はあります。

例えば、日本で破綻した生保会社の多くは
歴史の長い中堅規模の「漢字生保」でしたが、
韓国で破綻したのは、主に1980年代後半の
市場開放で新たに誕生した「新設会社」でした
(ただし、1999年に破綻した大韓生命は大手)。

破綻処理スキームも日韓で異なりました。
日本では銀行預金が全額保護される一方、
生保の破綻処理は基本的に契約者負担でした
(破綻会社の契約者と保護機構の資金)。

これに対し、韓国では深刻な金融危機のなか、
公的資金を活用した契約移転や売却などにより、
銀行預金者も生保契約者も全額保護されました。

とはいえ、かつて韓国の破綻生保の経営を
調べたところ、特色のない経営戦略であったり、
規模拡大を優先し、高コスト構造からの脱却を
怠っていたりと、破綻した「新設会社」が様々な
経営問題を抱えていたことがわかりました。

つまり、韓国のケースでも、経営陣の判断や
行動が破綻に強く影響したと考えられます。

近年の低金利環境(韓国でも低金利なのです)
のなかで、韓国の生保がどのような経営戦略を
とっているのかも興味深いテーマです。

昨年4月のムーディーズのレポートによると、
資産・負債のミスマッチが比較的小さいものの、
やはり金利低下の影響を受けているようですし、
販売面では商品構成に変化が見られるとのこと。


政治的の世界では、どうもしばらくは関係修復が
難しそうな情勢に見えますが、民間レベルでは、
双方にとって参考になる話がたくさんありそうですし、
引き続き交流を進めていきたいと思います。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※築地の波除神社にも参拝してきました。
 この輪(茅の輪と言います)を三度くぐると
 穢れ(けがれ)をはらったことになるそうです。


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| post at 10:58:04 | コメント(0)  | カテゴリー : 01. 保険経営全般 |

2017年01月02日

保険会社の社会的役割

 

あけましておめでとうございます。
本年も引き続きよろしくお願いいたします。

2016年を振り返ると、保険会社にとって、
その経営のあり方が問われた年でした
(それは現在も続いています)。

昨年は熊本のように、大地震の発生確率が
必ずしも高いと考えられていなかった地域で
大きな地震が発生しました。
また、北海道に台風が上陸し、大きな被害を
与えるというのも、従来にはなかった話です。

日本の保険会社の社会的役割を踏まえれば、
少なくとも業界全体としては、自然災害リスクを
引き受けないという選択肢は考えにくいでしょう。
自然災害による被害を目の当たりにすれば、
むしろ補償ニーズも高まっていることと思います。

ただ、リスクの把握が難しくなっているとしたら、
従来の延長線上で引き受けるのが経営として
健全な姿ではないはずです。
会社が傾いてしまっては、そもそもリスクを
引き受けることなどできなくなってしまいます。

保険会社もその点は理解しているので、
リスクと自らの経営体力を慎重に見極めつつ、
社会的役割を果たそうとしているように見えます。


昨年は金利についても、日本銀行のまさかの
マイナス金利政策による影響で、利回り曲線が
極端に平坦化してしまいました。

その結果、ソルベンシーマージン比率が引き続き
高水準となる一方、これまで生保の経営実態を
より正しく反映するとされてきたEVやESRなどの
指標が大きく減少/低下する事態となりました。

見かけ上の「逆ざや」は消えていても、
過去に販売した高利率契約の責任準備金は
決して少なくありません。
金利低下により高利率契約の負担は一層重く
なってしまいました。

このような状況下で、長期の保障に対する
ニーズに経営としてどこまで応えるべきなのか。

先の自然災害リスクと同じように考えれば、
従来の延長線上での経営が健全な姿では
ないはずです。

しかし、今の低金利を一時的な異常事態として、
時計の針を止めるような話ばかり聞こえるのは
どうしてなのでしょうか。

保険会社の社会的役割はリスクテイクですし、
リスクテイクは収益の源泉でもあります。

ですから、過去に経験のない環境下において
やるべきことは、これまで活用しようとしてきた
経済価値ベースの経営管理を「変動が激しい」
「極端すぎる」として遠ざけることではなく、
この環境でリスクテイクがどこまで可能なのかを
見極めることこそが重要なのだと思います。


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