植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2016年05月29日

生保決算は底堅かった?

 

主要生保の2015年度決算が出そろいました。

今回の決算は、現行会計ベースの各種指標
(基礎利益やソルベンシーマージン比率など)
だけを見ていると、「底堅かった」という見方に
なるようです。

確かに基礎利益を見ると、大手生保4社合計で
約2兆円を確保(特殊要因を除くベース)しており、
前期より減ったとはいえ、▲3%にとどまりました。

しかし、基礎利益が微減だったからといって、
底堅い決算だったと言うのは、私には抵抗があります。


基礎利益 ≒ 三利源なので、危険差益、費差益、
利差損益の合計です。

このうち危険差益と費差益の大半は、過去に獲得した
保有契約から当年度分が計上されます。

ですので、すでに保有契約が大きい会社の場合には、
変額年金の最低保証対応などの特殊要因を除けば、
1年で大きく変わることはありません。

また、利差損益は予定利息と利息配当金等収入の
差額です。キャピタル損益などは含まれませんので、
こちらも保有資産を大幅に動かすようなことがなければ、
急に増えたり減ったりしません。

ですから、基礎利益は前の年から大きく動かないのが
普通であって、マイナス金利政策の影響がほとんど
出てこないのは当然なのです。

貸借対照表やソルベンシーマージン比率にも
マイナス金利政策の影響は限定的にしか出てきません。

負債の大半を占める責任準備金は契約獲得時の
予定利率で評価されています(いわば簿価評価です)し、
保有する超長期債の多くも、やはり簿価評価です。
このため、金利が下がっても動かないのですね。


他方、生保の企業価値の手掛かりとなる指標に
エンベディッド・バリュー(EV)があります。
こちらは次のようになっています
(2016年3月末。いずれもグループベース)。

 日本  非公表
 第一  4.6兆円(前期比▲22.4%)
 住友  2.5兆円(前期比▲31.4%)
 MY   3.4兆円(前期比▲38.0%)
 T&D   1.9兆円(前期比▲17.8%)
 かんぽ 2.7兆円(前期比▲22.4%)

会社により算出手法や前提条件が異なるため
単純に比べることはできませんが、各社とも
EVを大きく減らしていて、普通ではない事態が
発生していることがわかります。

減少の主な要因は金利水準の低下など、
経済前提と実績の差異によるものです。

EVをめぐっては様々な議論があるようですし、
EVだけで判断すべきと言うつもりはありません。

ただ、現行会計ベースではほとんど見えてこない
金利低下による生保経営へのインパクトを知る
手掛かりとして、EVは非常に重要だと思います。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※久しぶりにサントリーホールに行きました。
 右の写真はコンサート前の腹ごしらえ^^

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2016年05月22日

3メガ損保の決算発表から

 

20日に3メガ損保の決算発表がありました。

2014年度までのような株高、円安の恩恵はなく、
国内では自然災害の影響もそこそこありましたが、
各社とも90%台前半のコンバインドレシオを維持し
(国内損保事業)、海外事業も貢献しました。

ただし、自動車保険の台数伸び悩みは変わらず、
9月期に比べると、単価上昇も鈍っているようです。

 TMNF: 台数 +1.5%、単価 +1.8%、保険料 +3.3%
 MSI :  台数 +0.4%、単価 +2.5%、保険料 +3.0%
 ADI :  台数▲1.1%、単価 +2.7%、保険料 +1.5%
 SOMPO:台数▲0.5%、単価 +2.7%、保険料 +2.2%

 *TMNF=東京海上日動、MSI=三井住友海上
  ADI=あいおいニッセイ同和
  SONPO=損保ジャパン日本興亜


火災保険では、10年超の長期契約の販売停止を受け、
昨年9月までの駆け込みの影響が通期でも見られます。

もちろん、下期だけを見れば減収となっています。
特に駆け込みの影響が大きかったMSIとADIの減収が
目立つようです。

なお、いくつかのメディアで、「長期火災が利益を押し上げ」
という趣旨の記事を見かけましたが、これは間違いです。

確かに長期火災の収入保険料は大きいのですが、
未経過部分(付加保険料を含む)を責任準備金として
繰り入れる必要があります。他方で代理店手数料は
保険料に比例して支払われるため、当期の会計利益は
むしろマイナスとなってしまうのです
(異常危険準備金の繰入負担もありますね)。


金利低下の影響についても見てみましょう。
損保事業は金利低下の影響を受けにくそうですが、
メガ損保はいずれも生保を中核事業の一つとしており、
金利低下が無視できない状況となっているようです。

例えば、東京海上Gの事業別利益を見ると、
2015年度の国内生保事業は▲1881億円でした。
あんしん生命のMCEVが金利低下の影響を受け、
大きく減ったことが主因です。

また、SOMPOでは内部管理用のリスク量の内訳を
公表しており、ひまわり生命のMCEVと併せて見ると、
国内生保事業の健全性が急低下したことがわかります
(MCEV/リスク量の数値を推計)。

いずれも会計利益にはほとんど表れないとはいえ、
金利低下がメガ損保にとってマイナスに効いていることが
うかがえます。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※エストニアの列車はオレンジ色の最新型でした(写真左)。
 右の高速船に乗ると、フィンランドから2時間弱で到着です。

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2016年05月14日

長寿生存保険

 

2016年3月期の生保決算が発表されつつあります。
マイナス金利政策による超長期金利の低下を受けて、
各社ともEVが減っているようです。


さて、今回は決算ではなく、日本生命が4月に発売した
「ニッセイ長寿生存保険」を批判する記事について。

記事の言う、「生命保険業界内で物議を醸している」
という話はともかく、このような誤った理解が広がるのは
不幸なので、取り上げることにしました。

記事のタイトルは、「日本生命、ボロ儲けか…平均寿命で
死ぬと契約者が約5百万円損する保険販売」。

記事のエッセンスは次のようなものです。

・平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は
 保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る。

・5年保証期間以降に亡くなると、死亡保険金などの
 支払いは一切行われず、ギャンブル的要素が強い。

・契約者が自らの寿命を賭けて一か八かの勝負をする
 ような保険であり、胴元となる日生がボロ儲けを狙って
 いると疑われてもおかしくない。


この記事を書いたライターのかたには、長寿への備え、
イコール貯蓄という思い込みがあるようです。
ですから、払い込んだ保険料を平均寿命になっても
回収できないのはとんでもない、となるのでしょう。

しかし、日本生命がニュースリリースで説明するように、
この保険のコンセプトは「長生きしたら支払う」というもの。
貯蓄で備えようという商品ではないのですね。
長寿生存保険のリリース(PDF)


一般的な生命保険(死亡保障)では、万一死亡した際、
遺族に保険金が支払われます。

加入者は死亡リスクへの備えとして保険に入るので、
もし契約期間内に死亡せず、保険金を受け取れなくても、
「保険料を支払ったのに保険金を受け取れないのは
おかしい」とはならないわけです(終身保険を除く)。

これに対し、この保険は万一、想定外に長生きした場合
年金が支払われるもので、長生きリスクへの備えです。

加入者は、例えば90歳を超えて長生きした場合の備え
として保険に入るのであって、遺族保障は目的外です。
長生きしなければ受け取れない(5年保証部分を除く)のは、
この保険の目的を考えると当然なのです。

ですから、年金の受取総額と保険料の支払い総額を
比べるという発想がそもそも違うのですね。


もちろん、長生きリスクに対し、貯蓄で備える方法も
あります(というか普通に行われています)。

しかし、自分が何歳まで生きるかわからないので、
多め多めにお金を貯めておく必要があり、結果として
多額の貯金を残して亡くなることになってしまいます。

そう考えると、貯蓄ではなく、いわば掛け捨ての保険で
想定外に長生きするリスクに備えようという発想は、
きわめて合理的ではないでしょうか。

よりシンプルな商品を考えれば、例えば90歳を超えたら
保険金を受け取れるような、掛け捨ての保険なのでしょう。


もっとも、記事にあるように、「長生きしなければ保険金が
一切受け取れないのは、自らの寿命を賭けたギャンブル」
という見方は根強いのかもしれません。

「私は長生きする自信がないから入らない」という声も
聞こえてきそうです。

ただ、同じことを死亡保障で考えてみると、
「私は〇歳までは死にそうにないから入らない」
と言っていることになります。

自動車保険だと、「私は事故を起こさないから入らない」
ということになりますね。

保険とはそういうものです。

リスクが無視できるほど小さい(あるいは自力で対応可能)
と思えば、わざわざ保険に入る必要はありませんし、
リスクが無視できないと思うのであれば入ったほうがいい、
そのような判断になるのではないでしょうか。

老後破産という話もしばしば耳にするなか、貯蓄以外に
長生きリスクに備える商品があるのは歓迎すべきことだと
私は思います。

この商品を批判するのであれば、何らかの根拠の元で、
「長生きリスクを過大に見積もった料率になっている」
というのならわかりますが、払い込んだ保険料の総額と
受け取る年金総額を比べて「元が取れない」という
批判をするのは的外れでしょうね。


ちなみに、この保険で5年保証期間を設けているのは、
何ももらえないという不満を少しでも解消するためでしょう
(そうでないと当局が認可しなかったのかもしれません)。

長寿リスク対応だけであれば、例えば80歳くらいまでは
給付が何もなくてもいいのかもしれませんが、
そこまで長寿リスク対応に徹した商品ではありません。

なお、解約返戻金が低い期間を設けることで、
年金財源を少しでも大きくしようとしているのも注目です。


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※左の写真はエストニアの国会議事堂、右は中央銀行です。

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2016年05月07日

エストニア再訪

 

連休を利用し、バルト三国のエストニアを訪れました。

エストニアはフィンランドのすぐ南にあります。
ヘルシンキから高速船でわずか1時間半ほどで
エストニアの首都タリンに到着しました。

タイトルに「再訪」とあるように、私は独立回復直後の
1992年秋にエストニアを訪問しています。

当時のエストニアは旧ソ連から独立を回復したものの、
物がない、お金(外貨)がない、ガスもないという状況。
ひどいインフレで、確か空港で2万円ほど両替したら、
札束を二つも渡されました。

その後エストニアは民主化と市場経済化を着実に進め、
特にITとバイオに集中することで、経済を立て直します。
2004年には目標だったEU加盟を実現させました。
さらに、2011年には通貨としてユーロを導入しています。


短期間の旅行者でも、この24年間でエストニアが
大きく変化したことがわかりました。

前回は札束を抱えての旅でしたが、今回はカードがメイン。
もちろんキャッシュも使えますが、クレジットカードは
どの店でも、少額でも簡単に使えました
(ただし、残念ながらJCBはあまり普及していないようです)。

また、交通機関などはネット決済のほうが有利でした。
IT立国化を進めているだけあって、どこでもネットが使えます。
ITインフラが生活の一部となっているようです
(エストニアではオンライン選挙も実現しています)。


 
左の写真は24年前のスーパーマーケット。
同じような場所に今はショッピングセンターがありました
(首都タリンではなく、大学町タルトゥです)。

 
(タルトゥの中心街。同じ場所です)

 
(同じくタルトゥ。行列のできる本屋だったところが、託児施設になっていました)

治安は格段によくなったように感じます。
当時は町を歩くと、ヒマそうにした人たちが大勢いて、
雰囲気はいまひとつでした。

暗くなったら外を歩かないほうがいいとも言われました
(11月だったので4時には暗くなってしまうのですが...)。

今回は夜10時でも女性が一人で普通に歩いていました。
日本とあまり変わらないレベルではないでしょうか。
治安だけでなく、食事も格段においしくなりました。


他方で、あまり変わっていないこともあります。

当時、建物の老朽化は進んでいましたが、
ゴミが少なかったという印象があります。
今回も同じことを感じました。

旧市街の町並みの美しさも変わりません。
タリンでは中世の建物が今も現役です。

ガイドックによると、国民性は「陽気とは言えない」
とのことですが、親切な人たちだと感じます。

目的の建物を探してウロウロしていると、
「何かお探しですか」と声を掛けられました
(何回もありました)。

今回タルトゥ大学で、前回会った先生のお弟子さんと
会えたのも、たまたま案内してくれた方のおかげでした。


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