植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2014年11月30日

保険料収入は売上高か?

 

主要生保の2014年4-9月期決算が出そろいました。
今回は保険料等収入で第一生命(連結ベース)が
日本生命を上回ったことに注目が集まっています。

ただ、生保の保険料収入を売上高とみなし、
競争を煽るような報道は、百害あって一利なしだと
私は考えています。

以前のブログで、「売上高」は非常に曖昧な概念であり、
保険料収入は生保の経営陣が最重要と考える指標ではない
と書きました。
保険会社の売上高

今回は別の切り口で見てみましょう。

保険料収入は、初年度保険料と次年度以降の保険料に
大別できます(ディスクロージャー誌に開示あり)。
次年度以降の保険料とは、保険料が月払いや年払いの
保有契約、つまり過去にとった契約から発生する保険料です。

第一生命の保険料等収入(単体)は約2.9兆円でした。
このうち、初年度保険料は0.6兆円で、あとは次年度以降の
保険料収入となっています(データは2013年度です)。

日本生命でも、2013年度の保険料等収入4.8兆円のうち、
3.7兆円が次年度以降の保険料です。

売上高というと、当期の営業活動によるイメージですが、
この保険料収入は売上高のイメージに合うでしょうか?


ディスクロ誌には、支払方法別の保険料明細も載っています
(個人保険、個人年金保険)。

第一生命の場合、2013年度の個人保険・個人年金保険の
保険料収入は約1.9兆円。このうち一時払は0.4兆円でした。

他方、本体で銀行窓販向けの一時払商品を提供している
明治安田生命の場合、個人分野の保険料収入2.4兆円のうち、
一時払いが1.2兆円を占めています。

2011年度はもっとすごくて、同分野の収入4.1兆円のうち、
一時払いが2.9兆円でした。
このように、保険料収入は一時払商品の販売により
大きく左右されてしまいます。

生保が一時払商品しか扱っていないのであればともかく、
主力は分割払いなので、やはりこれを売上高と呼ぶのは
無理がありそうです。

売上高のイメージにうまく合う指標が見当たらない
(あえて言えば新契約年換算保険料でしょうか?)
のも確かですが、報道が保険料収入に偏ってしまうと、
収益やリスクを軽視し、収入規模を追いかける会社が
出てきてしまうのではないかと、心配になります。


別件ですが、今週の週刊金融財政事情に、5月に紹介した
「世界の経営学者はいま何を考えているのか」
の書評が掲載されました。機会がありましたらご高覧下さい。



※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は南房総・館山の海岸です。遠くに富士山が見えました。

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2014年11月22日

3メガ損保が業績上方修正

 

19日に大手損保グループの中間決算発表があり、
3グループとも業績予想を上方修正しています。

<東京海上>
・グループ修正利益を2910億円⇒3220億円へ
・上方修正(+310億円)の内訳
  国内損保+ 20億円 *円安によるマイナス効果あり
  国内生保+140億円 *合併の影響あり
  海外保険+150億円 *円安効果は+60億円

<MS&AD>
・グループコア利益を1000億円⇒1200億円
・上方修正(+200億円)の内訳
  国内損保+150億円 *運用収支の改善が大きい
  国内生保+ 10億円 *EV増加額は+220億円
  海外保険+ 30億円

<損保ジャパン日本興亜(SJNK)>
・修正利益を1460億円⇒1569億円
・上方修正(+109億円)の内訳
  国内損保+132億円 *保険収支の改善など
  国内生保▲ 40億円 *金利低下の影響?
  海外保険+ 12億円

同じ上方修正でも、東京海上は海外保険の上振れ、
MS&ADとSJNKは国内損保が大半を占めるなど、
中身は結構違うものですね。


そもそも構成比が大きく異なる点も示しておきましょう
(国内損保+国内生保+海外保険≒合計)。

 東京海上:1080+890+1200 ≒ 3220億円
 MS&AD : 760+ 140+ 250 ≒ 1200億円
 SJNK  : 609+ 800+ 142 ≒ 1569億円

ただし、お示ししている数値は会計損益ではないので、
グループにより計算方法が異なります。

例えば、国内生保は東京海上がTEV、MS&ADが会計損益、
損保ジャパン日本興亜がMCEVをベースとしています。
MS&ADのEV増加額は650億円の予想ですので、
会計損益よりもかなり大きくなっています。

こうして見ると、各社とも国内損保が回復してきたとはいえ、
国内生保や海外保険によるグループ利益への貢献が
引き続き大きいことがわかりますね。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は汐留のクリスマス・イルミネーションです。
 早くも先週から始まりました。


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2014年11月15日

ある種の保険をかける

 

日銀の追加緩和に驚いていたら、今度は衆院解散とか。
今回のバズーカ砲は消費税の再引き上げをサポートする
のだと思っていましたが、どうも違うみたいです。

仮に解散・総選挙となった場合、消費税を予定通り
引き上げるべきと主張する政党はあるのでしょうか。

しかも、出口どころか、さらなる日銀バズーカ砲の可能性も
高まったように思います。
保険会社にとっても、悩ましい日々が続きそうです。


ところで、日銀のホームページで、追加緩和を決めた
10月末の金融政策決定会合で反対した佐藤健裕委員の
講演(ロンドンでの講演の邦訳)を見つけたので紹介します。
日銀HPへ

「マクロプルーデンス政策と日本銀行の取り組み」なので、
主にマクロプルーデンス政策について述べたものですが、
今回の追加緩和についても簡単に触れられています。

 「私自身はこの決定に反対票を投じたことから、
 この政策変更について話すには微妙な立場にある」

としたうえで、

 「短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、
 これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延する
 リスクがある」

 「日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、
 好転している期待形成のモメンタムを維持するため、
 ある種の保険をかける意味で、ここで『量的・質的金融緩和』を
 拡大することが適当と判断した」

という政策変更の説明がありました。「ある種の保険」ですか...

ちなみに黒田総裁は、「デフレという慢性疾患を完全に克服する
ためには、薬は最後までしっかりと飲み切る必要があるのです」
と病気の治療にたとえた説明もしています
(11/5のきさらぎ会における講演より引用)。

保険にしても薬にしても、わかったようなわからないような。
無視できないリスクがあるから保険に入るのでしょうし、
いくら薬を飲んでも、安静にして体力をつけなければ、
なかなか治らないと思います。


佐藤さんの講演に戻ると、それではなぜ反対したのか、
そこまでは書いてありませんが、次のような記述がありました。

 「私としては、消費者物価指数が前年比2%に達すれば、
 この政策はその使命を果たしたことになると単純に考えている
 わけではない」

 「日本銀行が目指す『物価の安定』とは、本来、全般的な経済状況
 が実体経済・資産市場ともに良好に推移するなかで、賃金の改善
 とともにバランスよく物価が上がっていく姿である筈」

 「人々の中長期的な予想物価上昇率のリアルタイムでの計測手法
 に決め手がない以上、政策の継続の必要性については、
 毎回の金融政策決定会合で政策委員会が改めて『判断』」して
 いくべきものと考えている」

予想や期待に働きかける政策というのは、実施の判断基準にしても、
政策効果の測定にしても、極めてアートの色彩が強いということが
うかがえますね。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は11月限定の「築地丼 特別弁当」。
 築地市場の老舗の食材を使った楽しい弁当でした。

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2014年11月08日

健康寿命

 

日本アクチュアリー会の年次大会に参加しました。

連日のMCでヘロヘロだった昨年の大会とは違い、
今年はアドバイザーを務めるERM委員会の企画
(そうだったのか!ORSA)をほんの少しサポートしただけで、
あとは純粋に参加者として楽しむことができると思いきや、
かつての部下が登場すると、なぜかこちらが緊張しました^^

「そうだったのか!ORSA」の会場は立ち見が出るほどで、
ORSAへの関心の強さがうかがえました。
司会とスピーカーを務めた皆さん、お疲れさまでした。

「ORSA報告書は当局にとって有益だが、標準化、画一化を
 図ろうという意図はなく、あくまで各社各様の取り組み」

という主旨のコメントを当事者から聞くことができたのは
大きな収穫だったと思います。


年次大会は他にも論文発表やパネルディスカッションなど
盛りだくさんでして、知見を深めることができます。

そのなかで、タイトルに挙げた「健康寿命」に関する発表は、
私には新鮮でした。

発表内容をここで紹介することはできませんが、
厚生労働省は健康寿命を「日常生活に制限のない期間」
と定義し、数値を公表しているのですね。

国民生活基礎調査(3年ごとに実施)と生命表をもとに、
健康寿命を算出するのだそうで、直近データ(2013年)を
先月公表しています。

これによると、2013年の健康寿命は次の通りです。

 男性 71.19年(平均寿命より 9.02年短い)
 女性 74.21年(平均寿命より12.40年短い)

平均寿命と健康寿命の差が10年前後というのは、
長いのか短いのか。しかも、女性の不健康期間が
男性よりも長いのはどうしてなのでしょうか。

厚労省は健康寿命を2001年データから公表しています。
男女とも年々伸びているとはいえ、平均寿命の伸びに
やや追いついていない結果となっています。

 平均寿命の変化 男性+2.14年、女性+1.68年
 健康寿命の変化 男性+1.79年、女性+1.56年
 (いずれも2001年から2013年の変化)

これも解釈がなかなか難しいです。
平均寿命が延びる要因と、健康寿命が延びる要因は、
必ずしも同じではないはずですよね。

健康寿命の場合、延命可能な医療技術の進歩よりも、
若いうちからの生活習慣などが影響してくるのでは
ないでしょうか。まだわからないことが多いようですが。

ということで、今回は「健康寿命という指標がある」という
ご紹介でした。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真は神楽坂です。先週、お祭りをやっていました。

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2014年11月02日

共済の研究会でスピーチ

 

黒田日銀の追加緩和には驚きました。
長期国債の保有残高を約30兆円追加し、
買入れの平均残存期間を最大3年程度延長するとか。
ETFとJ-REITの買入れも3倍増だそうです。

しかし、期待に働きかけるこの政策。
効きが悪くなったら、またバズーカ砲となるはず。
どうも不安が先に立ってしまいます。


ところで、先月京都である共済の研究会に出席し、
スピーチをする機会がありました。
参加者の多くは共済事業に日々関わる皆さんです。

私の役目は保険業界をめぐる最近の動向について
解説することでした。

現在進んでいる保険募集ルールの再構築や
金融庁の金融モニタリング基本方針に見られる
顧客と金融機関の好循環を目指す取り組みなどは、
共済事業にも決して無縁ではないでしょう。

同時に、研究会に参加して、共済事業への
プレッシャーの強まりも感じました。

技術面では共済も保険も同じです。
統計データから料率を決め、責任準備金を積み、
保障を全うするには、リスク管理が極めて重要です。
一部の共済団体では、統合的リスク管理(ERM)の
高度化を進めていると聞きます。

県民共済などが提供する「一律掛金・一律保障」は、
リスクの異なる若年層と壮年層が同じ掛金なので、
共済の相互扶助を体現しているように見えます。

ただ、考えてみれば、保険会社も団体保険で
同じような保障を提供しています。


それでは両者の違いがどこにあるかといえば、
組織のあり方なのだと思います。

保険会社は保障を提供するために加入者を集め、
安定した保障を提供できるようにするのであって、
加入者はあくまでサービスの利用者です。

他方、共済を提供する協同組合は、組合員のために
存在する組織です。組合員のためにサービスを提供し、
組合は組合員の自治で運営されます。

大規模化した共済の加入者に自治意識があるのか、
といった疑問はありますし、例えばJA共済であれば、
構成員が「専業農家」「土地持ち非農家」「准組合員」、
全労済であれば「労組組合員」「こくみん共済の加入者」
など、属性の大きく異なる組合員を抱えています。

それでも共済が保険とは違うと説明するには、
「加入者」ではなく「組合員」という意識を持ってもらう
取り組みを継続的に行っていくしかないでしょう。

もっとも、共済事業者の監督は保険行政(金融庁)に
一本化したほうがいいのではないかと思っています。
そうすれば、「監督が緩い」といった批判はなくなりますね。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真は宇治の平等院です。
 思わず10円玉を取り出し、見比べてしまいました。

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