植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2012年09月29日

変額年金市場の盛衰

 

日本保険学会「保険学雑誌」の最新号(第618号)に
日本の変額年金について興味深い論文が掲載されています。
武蔵大学の大塚忠義さんによるものです。

もしかしたら「元マニュライフ生命執行役員の大塚さん」
という紹介のほうがいいかもしれませんね。
マニュライフ生命は変額年金の有力プレーヤーでしたので。


日本の変額年金市場は、大塚さんの言葉をお借りすると
2010年には「ほぼ消滅した」のに対し、
本家の米国では依然として高水準の販売が続いています。
どうしてこれほど違うのでしょうか。

大塚さんは論文のなかで、日本の変額年金市場について、

・販売者に専用商品を提供するビジネスモデル
・元本保証付変額年金の開発

という2つの要因によって拡大し、そして縮小したと述べています。

米国では、銀行は販売者の範囲を超えないのに対し、
日本でハートフォード生命が立ち上げたビジネスモデルは
「販売者が製造者の一員として商品開発に参画する」
というもので、販売者の権限が大きいモデルでした。

しかも、日本の変額年金は、最低年金総額保証などにより
リスクのない商品として市場に普及していきます。

米国では最低保証が特約方式となっているそうで、
変額年金はオプション料を支払えばリスクを回避できる
ハイリスク・ハイリターン商品という位置づけです。

これに対し、日本の変額年金は、オプションを組み込むことで
リスクを排除した商品となりました。

外部環境が悪化し、最低保証の提供が難しくなっても、
米国のような特約方式であれば、最低保証の費用を
高くすることで販売を続けることが可能です。

しかし、保証コストを商品に組み込んでいる日本の場合
(しかも、保証とコストの関係が明確に示されていません)、
販売の主導権を販売者が握っていることもあり、
保険会社はリスク軽減や販売コントロールが難しく、
商品の提供を停止し、市場から退出するしかないという見解です。


大塚さんは、保険会社が市場からの退出を迫られたのは、
経営判断の誤りというより、リスクに対する認識が不十分だったため、
正しい判断ができず対処が遅れたことが原因と考えているようです。

論文を拝見した限りでは、
「正しい判断ができず対処が遅れた」というよりは、
「ビジネスモデルに内在するリスクの認識が不十分だった」
ということのように感じました。

私は生保破綻の研究のなかで、破綻リスクを高めた内的要因として
①ビジネスモデル、②経営者、③経営組織に関するものを挙げました。
変額年金の事例では、各社の経営内部を調べたわけではないので
②と③はわかりませんが、少なくとも①に関する要因はありそうですね。


なお、保険学雑誌は学会メンバー以外でも購買できますが、
HPにアップされるのは2年後とのことです。ご参考まで。
日本保険学会HPへ


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真は前回に続き、奈良井宿です。


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2012年09月22日

生命保険実態調査

 

生命保険文化センターが3年ごとに調査している
「生命保険に関する全国実態調査」が公表されています
(速報版です)。

「日本の生命保険の加入率は9割」などと言われますが、
出所はこの調査です。
今回調査でも全生保(簡保、JA共済、全労済などを含む)の
世帯加入率は90.5%と前回調査(90.3%)と同水準でした。

もちろん加入率だけではなく、

・世帯主の死亡保険金額の減少に歯止めがかからない
・直近加入契約の加入目的トップは「医療費や入院費のため」
・加入チャネルで「インターネット」「銀行」の増加傾向が続く
・解約返戻金の使途については、「解約返戻金はなかった」
 という回答が急増

といった様々な興味深い調査結果が出ています。
詳しくは公表資料をご覧下さい。
生命保険文化センターのHPへ

私が注目したのは、調査結果もさることながら、
回収サンプルの属性の変化です。
世帯主の平均年齢が毎回上昇し、世帯主が65歳以上の割合は、
平成12年の19.9%から平成24年には33.3%に上がっています。
世帯年収も毎回減少しているのですね。

ちなみに、調査方法は留置調査(訪問留置、訪問回収法)で、
層化二段無作為抽出法により(社)新情報センターという
専門機関が調査を行っているそうです。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真は夏に訪ねた中山道・奈良井宿です。




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2012年09月15日

ブランド・アンバサダー

 

NHKラジオ「実践ビジネス英語」をご存じでしょうか。
講師の杉田敏先生がPR会社の社長ということもあり、
扱うテーマは興味深いものばかりです。

9月最初のテーマは「ブランド・アンバサダーの活動」でした。
「アンバサダー」は英語で「大使」という意味です。
ブランド・アンバサダーは企業の代表者(大使)として、
企業ブランドの認知度を高め、ファンを育てる役割を果たします。

例えば、ミズノのブランド・アンバサダーには
多くのプロ野球選手が就任しています。
スポーツ選手がブランド・アンバサダーというのは
日本でも結構多いようです。


「ビジネス英語」では大学生がブランド・アンバサダーとなり、
新入生のサポートをしたり、歓迎会を主催したりする事例を
紹介していました。

企業は、広いネットワークを持ち、周囲から人気のある学生を
アンバサダーとして採用します。
採用されたアンバサダーは友人への売り込みなどはせず、
口コミなど自然な形でブランドの浸透を図るのだそうです。

採用された学生には、1学期に給与や特典、製品などの形で
数百ドルから数千ドル支払われるという話も出ていました。

「ビジネス英語」によると、米国では一万人近い大学生が
ブランド・アンバサダーを務めるのだとか。

ただ、単に大学のイベントでスポンサーが付くというのではなく、
ある種の誘導が行われるわけですよね。
マーケティング戦略と言われればそれまでですが、
ちょっと抵抗を感じます。日本でも行われているのでしょうか。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真は米カリフォルニア大学バークレー校です。


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2012年09月08日

事業会社のリスク管理

 

最近、事業会社のリスク管理に関するケーススタディの本を
いくつか読みました。

・上田和勇「事例で学ぶリスクマネジメント入門」
・植村修一「リスク、不確実性、そして想定外」

いずれも興味深く読んだのですが、保険会社と比べると、
事業会社のリスクマネジメントは、どうしても損失の最小化や
復元力の向上といった話が中心になりやすいのですね。

似たような2つの事例で考えてみましょう。

例えば、あるお金持ちが盗難に備えて保険に入った場合、
保険会社はお金持ちに代わり、盗難リスクを引き受けるので、
保険会社のリスクは盗難が想定以上に発生するかどうかです。

これに対し、お金持ちが盗難に備えてガードマンを雇った場合、
ガードマンを派遣した会社は盗難リスクを引き受けたのではなく、
お金持ちの盗難リスクを減らすためのサービス提供を行っています。

したがって、この会社の経営リスクは盗難リスクではなく、
派遣料金が採算割れとなっていないかどうか、すなわち、
ビジネスリスクを抱えているということになります。

こうして比べてみると、事業会社では「ビジネスリスク」という
管理が難しいリスクがリターンの源泉となっているため、
事業会社のリスク管理は管理がしやすい損失の最小化や
復元力の向上が中心テーマとなりやすいように思います。

もっと言えば、経営陣にリスク管理への関心を持たせることが
保険会社よりも大変なのでしょうね。

他方、保険会社の場合には、上記の例でも明らかなように、
リスクを引き受けることでリターンを得るビジネスです。
リスク管理は経営そのものだと理解しやすいはずですよね。


ちなみに、このような公表がありましたので、ご参考まで↓
金融庁HPへ


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※右の写真は銀座線の浅草駅です。
 戦前の開業当時の建物なのだそうです。


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2012年09月02日

地震保険加入率

 

1週間前のことですが、家計向け地震保険の加入率が
初めて5割を超えたというニュースが載っていました。

発表元の損害保険料率算出機構のHPをみると、
正確には加入率ではなく、付帯率です。

地震保険は火災保険とセットでないと加入できません。
2011年度中に新規に契約された火災保険のうち、
地震保険を付帯した割合(付帯率)が
全国平均で53.7%になったそうです。

付帯率の高い県を見ると、次のようになっています。

 宮城県  81.1%(+12.4ポイント)
 高知県  79.5%(+ 3.6ポイント)
 愛知県  68.3%(+ 3.7ポイント)
 宮崎県  68.3%(+ 4.3ポイント)
 鹿児島県 67.5%(+ 3.8ポイント)
 岐阜県  66.9%(+ 4.9ポイント)
 徳島県  66.5%(+ 4.5ポイント)

ちなみに、東日本大震災で大きな被害を受けた県では
付帯率が大幅に上昇しました。

 岩手県  56.7%(+12.1ポイント)
 福島県  58.1%(+18.0ポイント)
 茨城県  52.5%(+10.9ポイント)


他方、算出機構では地震保険の世帯加入率も公表しています。
公表資料によると、年度末の地震保険契約件数を
年度末の住民基本台帳に基づく世帯数で除した数値で、
2011年度末の全国平均は26.0%です。

世帯加入率の高い県は、次のようになっています。

 宮城県  43.5%(+9.9ポイント)
 愛知県  37.1%(+1.8ポイント)
 東京都  33.2%(+2.7ポイント)
 神奈川県 31.3%(+2.4ポイント)
 岐阜県  30.0%(+2.2ポイント)

付帯率が上位の高知県の世帯加入率は22.4%、
宮崎県は20.9%、鹿児島県は22.1%、徳島県は24.3%と
いずれも全国平均を下回っています。

両者を合わせてみると、付帯率が高い県のなかには、
宮城県や愛知県のように加入率も高い県と、
高知県や宮崎県、鹿児島県のように加入率が低い県が
あるのですね。

なお、これらのデータにはJA共済(建物更生共済)や全労済は
含まれていませんので、ご留意のほど。


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