植村信保のブログ

保険アナリスト植村信保のブログ

2011年11月26日

生保の中間決算から

 

前回の損保に続き、生保の中間決算についてのコメントです。

欧州のPIIGS向け投融資の動向に注目が集まり、
決算そのものの報道が少なかったように思います。

データを見ると、基礎利益の不思議な動きが気になりました。

「5社減益、三井は赤字」(25日の日経)とありますが、
変額年金の最低保証リスク対応を除けば、多くは増益です。

決算資料とBloombergの記事などからざっと計算してみると、
大手4社合計で約570億円の増益となっています。
このうち逆ざや額の縮小が約370億円とのことなので、
残りの約200億円は保険関係の差益が増えたことになります。

保有契約の減少が続いているのに差益が増えるとは、
これまでとトレンドが変わったのでしょうか?

ヒントはこの記事です↓
毎日新聞のHPへ
読売新聞のHPへ

つまり、東日本大震災の支払見込額が5月時点から減ったため、
「戻り益」が発生したのですね。具体的には、

 日本 426億円 → 335億円
 第一 305億円 → 163億円
 住友 273億円 → 170億円
 MY  295億円 → 174億円

ということで、この差額(4社計で457億円)が
基礎利益の押し上げ要因になったというわけです
(ただし、全額が押し上げ要因となるのかどうかは不明)。


問題は通常の公表資料だけではこれらのデータがとれない
ということです。

東日本大震災の支払見込額や公表逆ざや額は
「決算記者会見資料」に載っています。
しかし、この資料をHPで公表しているのは、どういうわけか、
第一生命やT&Dホールディングスなど上場会社だけで、
第一を除く大手3社などはHPを探しても見当たりません。
第一生命の決算記者会見資料

今回はたまたま読売新聞が「25日わかった」という報道
(正確には「25日に気がついた」だと思うのですが^^)
をしたので、データを入手できました。

しかし、決算記事では各社の支払見込額の報道はなく、
毎日や産経の記事を見て特殊要因の存在を知っても、
あるいは、T&Dの決算をみて「戻り益」に気づいても、
読売の記事が出るまでは確認のしようがありませんでした。

他社も記者会見資料をHPに掲載できないものでしょうか。

ちなみに大手損保は以前から決算記者会見資料を
HPで公表しています
(もっとも、すべて上場持株会社の子会社ですね)。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。


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2011年11月23日

3メガ損保の中間決算

 

マレーシア出張中に大手損保の決算発表がありました
(18日)。
ポイントは自然災害による影響だと思うのですが、
「V字回復シナリオは見事に崩れた」(日経)とか言われても
今ひとつピンときません。

データを拾ってみましょう。

まず、各社の損害率が大きく上昇しているのが目に付きます。
損害率を高めた主な要因は東日本大震災です。
支払保険金が拡大し、損害率が急騰しました。

しかし、家計向け地震保険では保険金支払いが危険準備金の
取り崩しと相殺され、収支への影響はありません。
企業向け支払い(支払見込額は3メガ計で約2000億円)も、
すでに昨年度決算で支払備金として計上されていました。

したがって、この損害率上昇は見かけだけの話であって、
収支への影響はほとんどありません。


今上半期の決算に影響を与えた自然災害は、
主に台風によるものです。自然災害関連の支払見込額は
3メガ損保合計で1414億円に上りました(正味ベース)。
大半は未払いなので損害率にはあまり影響しませんでしたが、
支払備金の繰入として決算上の負担になります。

さらに通期ではタイの洪水に伴う支払見込額2600億円
(グループ正味ベース)が加わります。

通期で約4000億円の支払見込額をどう見るか。
決して小さくはないものの、過去に比べて突出してはいません。
例えば台風損害が集中した2004年度の支払見込額は
当時の大手5グループ合計で5246億円でした(正味ベース)。
今回はそこまで大きくありません。

会社価値へのインパクトという点では、昨年度決算と同様に、
株式など有価証券の下落のほうが大きかったと言えます。
参考までに、この半年間で3メガ損保の有価証券含み益は
7385億円も縮小してしまいました(単体合算ベース)。


自然災害を除いた保険収支が低迷しているなかで
多額の保険金支払いが発生し、株安や円高にも見舞われ、
損保にとって厳しい経営環境となったことは確かです。

とはいえ、純資産や異常危険準備金の規模(約6.3兆円)、
あるいはソルベンシー・マージン総額(約7.8兆円)を踏まえると、
この程度の支払いで経営が揺らぐようなことは、
まず考えられないでしょう。


※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

※写真(左)はマレーシアの中央銀行(バンク・ネガラ)です。
 保険監督もバンク・ネガラが担っています。


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2011年11月19日

マレーシアの国際性

 

2010年のマレーシア保険市場の規模は約118億ドルで、
日本のわずか2%にすぎません(スイス再保険「シグマ」より)。
生命保険の普及率も4割程度と聞きます。

そのマレーシアにMII(Malaysia Insurance Institute)という
非営利組織があり、ここの活動が国際的で驚きました。

MIIは保険会社や代理店等のトレーニングを担う組織で、
いわば日本の生保協会と損保協会から教育・研修・研究機能を
取りだして集約したところのようです。
マレーシアの保険当局とも連携して活動を行っているとのこと。
セールス関連だけではなく、各種コンファレンスの開催や
リスクマネジメント資格などにも力を入れている模様です。

本来、MIIはマレーシアの保険産業のための組織だと思うのですが、
それだけではなく、国際的なプレゼンス向上にも注力しています。
なかでもアジア・アフリカの新興国へのサポートに力を入れており、
各国から研修生を受け入れてもいます。

もちろん、熱意がなければできない活動ではあるものの、
考えてみればマレーシアには様々な条件が整っているのですね。

例えばマレーシアは旧英領だったこともあり、英語が普通に通じます。
高等教育も英語で行うのが一般的だそうです。
つまり、欧米に留学するよりもずっと安く、英語で高等教育を
受けることができるというわけです。

イスラム教が国教なので、イスラム圏の人々には安心です。
とりわけ食事の問題は簡単に解決できます。
さりとて中華系やインド系も多く、他宗教に寛容な雰囲気を感じます。

そして何より治安がよく、かつ、清潔です。
近年になってインフラ整備が進んだからかもしれませんが、
「快適さ」という点で日本に通じるものがあります。

今回の出張で、同じ東南アジアだからといって一くくりにしては
いけないと痛感しました。


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2011年11月16日

クアラルンプール

 

出張でマレーシアの首都クアラルンプールにいます。
赤道直下ということで覚悟してやってきたところ、
意外に暑くないです。

まだ車で動きまわっただけですが、近代的な町ですね。
写真左のペトロナスタワーをはじめ、高層ビルが立ち並び、
あちこちに右の写真のようなショッピングセンターがあります。
緑が多いのもクアラルンプールの特徴でしょうか。


国民の半分を占めるマレー人の多くはイスラム教徒なので、
女性の多くはトゥドゥンというスカーフのようなもので髪を隠し、
長袖・長いスカートで肌を見せないスタイルが目につきます。

ただ、これが結構おしゃれなんですね。
イスラムのイメージとは違い、非常にカラフルですし、
皆さんファッションを楽しんでる感じがします。
できれば写真で紹介したいのですが、機会があるかどうか...



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2011年11月12日

巨人軍のコンプライアンス

 

プロ野球・読売巨人軍の清武英利球団代表が行った
記者会見「巨人軍のコンプライアンス上の重要な件」は、
球団幹部の内紛を公にしたものでした。

「大王製紙やオリンパスのように、企業の権力者が会社の
 内部統制やコンプライアンスを破ることはあってはならない」
 (清武代表の会見より)

とオリンパスが出てきたのは興味深かったですが、
事情はあるにせよ、わざわざ日本シリーズの前日に、
プロ野球ファンに名門球団の内紛を見せつけるとは
お粗末なかぎりですね。

この球団は震災後にも開幕を強行しようとしていましたし、
けさ(12日)の新聞の扱いを見ても、この球団とその親会社の
風通しがよくないことが伺えます。

それはともかく、息子が面白い話をしていました。

「巨人軍のコンプライアンス上の重要な件」だったので、
「コンプライアンス?何それ?」ということで、
ネットで「コンプライアンス」を検索する人が殺到したそうです
(私も息子に聞かれたので説明しました)。

「コンプライアンス」という言葉が一気に広まったかもしれませんね。


※写真は横浜のウォーターフロントです。
 そういえば「(球団名に)モバゲーはダメ」というコメントもありました。

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2011年11月10日

ア会の年次大会

 

日本アクチュアリー会の年次大会がありました(8&9日)。

プログラムを見ると、「ERM」や「経済価値ベース」に関する
テーマが例年以上に多かったように思います。
ただ、今年は直前に想定外の仕事が入ってしまったため、
実のところほとんど顔を出すことができず、残念でした。

唯一きちんと聞けたのが、最後の時間帯に行われた
「ECを計算すればERMとして充分か?」でして、
これが非常に興味深い講演でした。

講演者の住谷貢さんはアクサ生命のCFOです。
実際にERMを行っている立場からのスピーチということもあり、
説明が具体的、かつ、説得力がありましたね。

話を伺うと、保険会社のリスク管理には保険数理よりも
むしろファイナンスの知識が必要なように思えました。
リスク管理のツールとしてデリバティブの知識は必須とのことです。

「リスク・ポリシー」の話も納得でした。
「取るリスクと取らないリスクを選別」を突き進めると、
結局のところ「コアビジネスは何か」という話になります。
ERMが経営そのものであることがよくわかりますね。


※写真のトンネルは東横線の横浜と反町の間にあったもの。
 右の写真はかつて反町駅があった場所です。
 



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2011年11月06日

保険をめぐる二つの世界

 

昨日(5日)明治大学で、日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
研究発表大会がありました。

保険や年金に関する様々な研究発表がありましたが、
最も刺激的だったのは、一橋大学・米山高生教授の
特別講演ではなかったでしょうか。

タイトルとなっている「保険をめぐる二つの世界」とは、
「伝統的な保険論」と「リスクマネジメント&保険」です。

「伝統的な保険論」は供給者の視点に立っており、
収支相等の原則からはじまる保険論です。
予定調和的な世界を前提にしており、
価格は保険数理による決定論的な世界で決まります。

これに対し、「リスクマネジメント&保険」は需要側から
マーケット(=自由競争)を前提に考えるものです。
予定調和ではなく不確実な世界であり、
価格は確率論的な世界で決まります。

そして、
「伝統的な保険論では解決できない問題や苦手とするテーマも
 需要側からマーケットを前提に考えると解決できる」

「今後の保険教育は伝統的な保険論(保険数理を含む)に加え
 リスクマネジメント&保険、金融工学、コーポレートファイナンス
 の4領域が主軸になる」

というのが先生の結論だったようです。

保険数理の専門家がリスクの専門家になれるかどうか。
アクチュアリー会でも話していただいたらいいかもしれませんね。


※写真は第三京浜の高架橋なのですが、格付けに見えてしまいます^^


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2011年11月03日

ギリシャ危機と逆イールド

 

ギリシャ政府の国民投票実施表明には驚きました。
国民の痛みを伴う財政再建案を進めるには、
もはやこのようなプロセスしかないと判断したのでしょうか。

財政危機が顕在化すると国債価格が下落し、金利が上がります。
日銀が10月18日に発表した金融システムレポートを見ると、
欧州周縁国における国債利回りの対ドイツ国債スプレッドは
2010年以降大きく広がっているのがわかります(P6の図表)。

もっとも、私の目を引いたのは、隣に掲載されていた
「国債の長短スプレッド」という図表のほうでした。
欧州周縁国の2年国債と10年国債のスプレッドを見たものです。

これによると、ギリシャやアイルランド、ポルトガルなど、
財政健全化を巡って市場が強い懸念を示している国では、
短期金利が長期金利を上回る傾向が続いています。

Bloombergニュースからデータを拾ってみると、
ギリシャ2年債利回りは96.70%、10年債は25.47%、
30年債は17.21%で、確かに逆イールド状態です(2日)。

通常ですと、累積デフォルト確率は時間がたつほど大きくなる、
つまり、「年末までの約束だったら返ってきそうだけど、
10年後だったら返ってこない可能性が高まるよなあ」と考え、
信用スプレッドは長期のほうが大きくなるのが一般的です。

しかし、事態がここまで進むと話は別なのですね。
市場は年限に関わらずギリシャ国債の約7割カットを
すでに織り込んでいる(2日時点)ため、このような利回りに
なっているということなのでしょうか。

ここまで考えると、保有債券を長期債から短期債にシフトしても
金利リスクは小さくなるかもしれませんが、ソブリンリスクへの
対策にはなっていないのかもしれません。
いかがでしょうか?


※神戸で2年ごとに開かれる美術展なので「神戸ビエンナーレ」
 横浜でも3年ぶりに「横浜トリエンナーレ」が開かれているようです。


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